<海上の森通信NO.74より>

 
瀬戸愛知県館は、300ヶ所もの手直しが必要な問題建築だった。
 =愛知県への情報公開請求で判明=
  
                          加藤 徳太郎

 万博瀬戸地区愛知県館の建設工事についての情報公開請求をしていましたが、延長
された挙句、万博閉幕間近の9月中旬になってやっと公開されました。
 愛知県館の中を流れる水路については、水漏れがなかなか止まらなかったことは、
既に新聞で報道されています。
<“瀬戸愛知県館の人工滝 不覚の水漏れ 3カ月、800立方メートル以上「消えた」”
(朝日新聞2005年7月17日付)>
 瀬戸市からの水道料金の請求金額があまりに高すぎるので、なんとかもう少し安く
してくれないかと愛知県館の職員が瀬戸市へ交渉に来たそうです。
 万博後も利用されることになっている愛知県館について、どのような建築工事がさ
れているのかが、情報公開によって判ってきました。
 
【万博開催に間に合わせるための手抜き検査と乱雑な建築】

 第1点目は、完成時での設計監理会社の検査によって、300ヶ所もの手直しが指摘さ
れていることです。よくある床が少し汚れているといった程度のものではなく、「手
すりが曲がっている」「雨水排水の通水検査やり直し」「コンクリート打放し面の打
放し補修」等が全館共通の問題として指摘されています。
 各階や部屋別では、例えば1階ではロビーの「天井点検口1ヶ所不足」、廊下の「柱
塗装やり直し」「上部壁塗装やり直し」、階段の「壁、天井やり直し」等合計80ヶ所
について手直しを求めています。2階では、シアターの「壁、天井から音、光漏れ」
「車椅子席の床の鉄骨露出やり直し」等で72ヶ所の手直し、3階では25ヶ所、地下1階
部分は76ヶ所、地下2階部分では28ヶ所といった具合です。
 こうした多数の手直しを求めた設計監理会社ですが、愛知県に対しては、手直しを
どのようにさせたのか、いつ完了を確認したのかを全く明記しないまま「監理社内検
査報告書」を提出しているのです。また、県建設部公共建築課も、本当に設計書通り
に出来上がっているのかの確認もしないままの報告書を受け取り、建築物を受け取っ
ているのです。設計監理会社の検査日が平成17年1月28日、報告書提出が2月1日、工事
完了引き渡し日が2月4日です。たった4日で、300ヶ所以上の手直しが完了したとすれ
ば、当時の工事現場は大混雑し、24時間フル稼働で実現させたことになります。超短
期間で数百ヶ所の手直し工事を完了させることが出来るようなら、始めから設計書通
りの工事を行い、こんな乱雑な工事にはならないのではないでしょうか。万博開催に
何がなんでも間に合わせるためには、少々の問題点には目をつぶり、見て見ぬふりを
して、検査報告書の作成と受領になっているのではないでしょうか。こんな問題建築
物に7億8000万円もの県民の税金が支払われています。
 
【環境保護対策失敗を隠すために強行された「コナラの木」移植】

 第2点目は、愛知県館内には、樹木の設置が設計図に最初から指示されていたが、設
計書通りに樹木が見つからず、途中で計画変更されていたということです。
 「瀬戸愛知県館建設のために切り倒されることになった樹木を館内に移植している。
コナラの大木を移植し、自然環境に配慮した建築工事をしている」と万博協会、愛知
県はPRをしてきました。しかし、既に平成16年1月の設計変更協議書に「愛知県館建設
予定地内には移植に適した高木がないため周辺の里山遊歩ゾーン内から高木を移植す
ることとする」とされているように、自然保護に取り組んでいるかのように見せるた
めに、何がなんでも樹木の移植が必要とされていたということになるのです。里山遊
歩ゾーン内でのコナラの移植でなければならない必要はなかったということです。県
館内での前庭部分への樹木の設置は建設工事契約上決定されており、工事完成後には、
環境保護にいかに取り組んでいるかをPRすることに使われるはずでした。しかし、現
地では樹木が曲がっていたりして、図面で書いたような姿、形の木が見つからなかっ
たということです。万博協会、県、設計者、プロデューサー等の事業者が図上で勝手
に思い描くようにはならなかったというわけです。建設予定地の自然環境についての
調査不足を物語っていますし、彼らの環境保護がいかに一方的で言葉だけのものであ
るかを示しています。
 「建設予定地内に移植に適した高木がない」のなら、高木の移植は中止しておけば、
無理やりコナラの大木は引き抜かれ、別の場所に移動されずに済んだのです。愛工大
北側の道路用地には、「ムササビが移動するのに使うから、わざわざ残した」と万博
協会や県が説明する木があります。道路用地内に樹木が残してあるのですから、同じ
場所にあったコナラの木も引き抜いて移植などせず、同じ場所で残しておくことの方
が、負荷低減、環境保護となります。この場所は、絶滅危惧種ホトケドジョウ生息地
の上流域です。日本自然保護協会、日本野鳥の会、WWF日本委員会が、この地域の造成
が海上の森への自然破壊につながるとして批判をしていた場所でもあります。このよ
うな場所を造成し、コナラの木を移植することは両方とも必要のないことです。
 移植のための高額な費用を万博周辺工事費で、別途に負担してまで環境保護への取
り組みが演出されていると言えます。
 
瀬戸愛知県館のWEBサイト
 瀬戸愛知県館の環境における環境への取り組み
 
http://www.aichiken-kan.jp/seto_kankyou.html
 森を見つめてきた「コナラの木」を館内に移植


【無理矢理に作られた再利用計画】

 第3点目は、外壁に使用する木材は、万博終了後、下山村小学校建設に使用されるも
のが使われることになったのですが、設計書通りの工法で取り付けると木材が割れて
しまうため、取り付け工事を変更してまで使用していることです。外壁材を再利用し
ていることにしたいために、かえって無駄な工事変更をせざるを得なくなってしまっ
たと言えます。「下山村から持ち込まれた外壁材を試験的に取り付けたら、割れたり、
ねじれたりするため損傷の恐れが大きく、鉄骨等の補強、取り付け方法変更」して、
万博工事の環境配慮を示すために万博終了後に再利用させようとしたわけです。そし
てこの部分の「木工事は、下山村森林組合と県との間でリース契約にした木材料を、
建築会社である杉本組に支給することとし施工単価のみとする」として、1200万円の
減額となりました。
 施工実績や試験施工もされていないような材料を使用するということは、全く打ち
合わせのないまま、突然持ち込んだことになります。計画性のない再利用計画であり、
環境配慮をPRしたいためのものと言えます。万博終了後の再利用も、本当に可能な状
態で取り外すことが出来るのか疑問が残ります。
 
 建築工事に関する情報公開請求によっても、万博協会、県の説明にいくつかの問題
が生じてきました。環境配慮を徹底したと言うものの、「コナラの木移植」や「外壁
材再利用計画」等環境配慮を無理矢理に造り出しています。愛知県館は、自然との共
生を強制的に演出したものだったのです。
 万博終了後も瀬戸愛知県館は、一部が残り、海上の森観察者のための施設として利
用されていくとされています。市民、県民に情報が全面的に、速やかに公表、公開さ
れなければ、県による「海上の森保全」の取り組みも一方的なPRの場になりかねませ
ん。

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