控訴人 加藤 徳太郎(選定当事者)外3名
                                    被控訴人 中部運輸局長 平沼 芳昭  

         平成16年(行コ)第26号
         愛知万博における索道(ゴンドラ)事業許可処分取消請求控訴事件
 
                                                2004年10月1日
 名古屋高等裁判所民事第3部 御中

                            控訴人 選定当事者 加藤 徳太郎
                            〒489-0785愛知県瀬戸市緑町1丁目17番地
                             TEL&FAX 0561−83-4353

                   控訴準備書面(1)  

 取り消しを請求するゴンドラ事業計画によれば、本件ゴンドラは、国道、県道、東部丘陵新鉄道線上空をまたぎ通過することになる。愛知万博協会による環境影響評価書によれば、国道155線は昼間(午前6時より午後10時まで)17,000台以上、県道6号力石名古屋線(グリーンロード)は昼間(午前6時より午後10時まで)30,000台以上の大量の車輌が通行している。東部丘陵新鉄道線は愛知万博開催期間中は、1日20,000人、ゴンドラは1日15,000人が輸送利用するとしている。
 大量の通行、輸送利用が予定されているにもかかわらず、ゴンドラの落下対策や安全対策は全くとられておらず、安全及び事故予防対策のない本件事業計画は原告らの生活環境の安全を脅かすものである。
 このような建設計画については、安全対策に十分かつ慎重な検討が行われなければ事故が発生した場合の市民生活に与える被害の大きさは極めて深刻なものがあり、公共の福祉の増進に資するものと言えない。安全で安心な社会生活を営み、公共の福祉向上実現のために事業認可にあたり許認可権限者は、ゴンドラ建設の安全対策が確実なものであることを確認する当然の注意義務を負っている。
 瀬戸市上之山町3丁目住宅家屋上空を横断、通過することになれば(甲第6号証)、安全対策審査は、家屋上空でのゴンドラ搬器等の落下防止・防護対策が当然行われることになるはずである。原判決は省令には、国道、県道上空での防護策等について、ゴンドラ施設周辺住民固有の生命、身体、財産等の保護を目的とする安全対策が定められていないことをもって原告適格を否定する。法文上に規定がないことをもって、市民の安全、安心に暮らす権利を否定することは、市民の安全、安心な生活を確保し、もって公共の福祉の向上に努めることを定めた公務員の注意義務に違反するものである。被告・許認可権限者は、善良な国民の最低限の生活を擁護するよう全力で職務に専念する義務があり、重大な事故が容易に想定される本件ゴンドラ事業の認可にあたっては、道路上、線路上での防護対策がどのように実施されているかを検討し誠実に対応することは当然のことである。誠実な対応が求められており、このような説明責任を放棄することは職務専念義務違反である。
 鉄道事業法第1条は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、公共の福祉を増進することを目的とするとされている。本件ゴンドラ事業では、法、規則及び技術上の基準を定める省令において定められた索道設備の強度、構造、運行等を規制する規定が遵守されなければ、周辺住民固有の生命、身体、財産及び平穏な生活を営む権利が侵害されるおそれが明らかである。鉄道事業の健全な発達により公共の福祉の増進を目的とした法の目的に反することとなる。原判決は、省令において、搬器の落下について索道設備の強度の確保によって防止され得るとしているが、現実には御岳ロープウェイ事件のように搬器からの落下事故は発生しており、このような法文解釈は破綻していると言わざるを得ない。
 更に、新たに判明したように、万博協会は、砂防地内でのゴンドラ支柱建設工事において、申請書とは全く異なる大規模改変工事を行っている。2004年9月24日、愛知県より中止命令を受け、現在工事は中断しているところである。このような砂防地内での違法な工事により、大規模な土砂崩れ等の災害が引き起こされかねない事態となっている。いかに法文での規定があったとしても、このような事が起こされているのであり、法文解釈の破綻を示すものである。
 索道設備の倒壊、落下等により直接の影響を受ける蓋然性のある近隣住民の生命、身体の安全は個別具体的な法益として保護されるべきである。原判決は、索道設備の倒壊、落下等による影響を受ける蓋然性について個別具体的に検討することなく、単に法、規則、省令に周辺住民固有の生命、身体、財産の保護を目的とすることをうかがわせる規定がないことをもって原告適格を否定することは誠に不当である。
そもそも、索道(ゴンドラ)は、索条を握索することにより、索条につり下げられた搬器を空中移動させる輸送装置であり、空中に宙づりさせることにより常に落下の危険性が生ずることとなる。事実、昨年2003年10月15日には、長野県において本件ゴンドラ事業と同社・同型式のゴンドラによる事故が発生しているが、窓枠がはずれ、乗客が搬器から投げ出され地上に落下し、死亡するという大変痛ましい事故であったことは記憶に新しい。
このような危険性を解消し、安全性を確立するために、鉄道事業法第35条及び索道施設に関する技術上の基準を定める省令において、索道(ゴンドラ)事業に対する安全対策を義務付けているところである。
しかるに、本件ゴンドラ事業においては、搬器自体の落下及び搬器からの落下物による危険性が増大する国道155号線、県道6号力石名古屋線(グリーンロード)、東部丘陵新鉄道線上に防護ネット、防護膜、防護トンネルなどの防護施設は設置されておらず、これは、索道施設に関する技術上の基準を定める省令第17条による保護設備の設置による安全対策を怠るものといえる。住民・乗客に与える危険は計り知れない。
また、地震、強風、落雷、停電などの予期せざる不足の事態により搬器が停留場以外の場所で停止した場合、62台の搬器が宙づりとなり、乗客を安全に救助することができるものでなければならないところ、2003年9月に公表された「2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価追跡報告書(その2)」によれば、本件ゴンドラ線路下の保安林内樹林地である瀬戸市上之山町3丁目周辺地内では、樹木の伐採は計画されておらず、本件ゴンドラ事業は索道施設に関する技術上の基準を定める省令第7条及び第8条に違反する事業計画である。
本件ゴンドラ線路下は、保安林指定地であり、同省令第7条、第8条による乗客への救助対策を行うためには、保安林内開発行為申請を行うことが必要である。しかし、保安林解除申請が行われることなく、事業計画を許可することは森林法にも違反する不作為の違法行為である。
搬器が国道、県道、東部丘陵新鉄道線路上に落下すれば、ゴンドラ乗客及びここを利用する人々を巻き込む大惨事となることは確実である。また、ゴンドラが多数の利用者を運ぶ公共交通機関や大量の車輌、自家用車、バス等が通行する国道、県道、東部丘陵新鉄道線上空をまたぎ通過する事例は、全国的にも前例のないものである。乗客又利用者の安全の確保、住民の安全かつ自由な移動通行権の確保のために、被告には慎重かつ十分な審査が求められていたものである。
 このように、被告らには道路利用者及び乗客の不安を取り除き、事故の危険性を排除すべき義務が生じているが、本件ゴンドラ事業が保護設備のないまま許可されることで、住民は平穏で安全、安心した生活をすることができなくなる。
原告適格を認め、本件事業の実質的な争点を巡る主張立証を尽くすことを求める。  

求釈明
1.本件ゴンドラ事業のように、国道、県道、大量輸送機関である新交通システム等上空を索道が通過する事例は他にあるのか、また、その場合の鉄道事業法及び索道技術基準省令に定める安全保護設備は、どのように設置されているのか。
2.2003年10月に発生した長野県のゴンドラからの落下死亡事故において検討された安全対策は本事業についてどのように参考にされたのか。
3.本件ゴンドラ事業は、国道、県道及び鉄道線路上空を通過し、オオタカ営巣地が複数ある良好な自然環境の保安林指定地を横断するという日本でも特異で希有な事例だが、許可にあたり現地調査は実施したのか。                                                          以 上

 万博ゴンドラ問題に戻る  表紙に戻る