平成16年9月3日
 平成15年(ワ)第5148号
             索道7号支柱及びその前後の支柱建設差止事件

                                 原告 岡田みどり 外14名
                                 被告 財団法人2005年日本国際博覧会協会

 名古屋地方裁判所 3部合議係 御中

                                        岡田みどり

                    準備書面

第1 本ゴンドラ計画について「騒音」および「サウンドスケープ」の面から次のように主張する。

1.本ゴンドラ計画のための「環境影響評価調査(予測、評価)報告書(その2)」(以後評価書)の騒音の章ではその対象を「運転時のゴンドラからの騒音」「国道155号線道路交通よりの騒音」「ゴンドラ第7支柱建設用資材運搬用ヘリコプターからの騒音」を主とする。そしてそれぞれを「単独評価」し「影響は低減される」と結論づけている。(しかし国道155号線の騒音は評価書の中ですらすでに環境基準値は上回っている。が特に解決策をとるでもないので現在はさらに大型の工事車両がこの数値を上げているはずである。(甲38))
 
 しかし、真に問題なのは人間は同時に鳴っている何種類かの「音」をやはり同時に聞いているという事実である。単独評価である「評価書の観点」からは基準を達成したと言い募れても 総合評価である「より現実的な観点=サウンドスケープ」からは人格権の侵害を問える音環境になっている今回のケースである。

2.サウンドスケープとは近年提唱された「音環境」研究の一つで「騒音」をも含めその場の音環境を「音を聞く側」から風景のように全体像でとらえ総合評価する研究フィールドである。

 たとえば平成16年8月25日午後2時の当町の「音環境」をサウンドスケープの観点から俯瞰すると 国道155号線からの75デシベルの騒音(すでに環境基準値を超過)(甲38)プラス ゴンドラ支柱資材および機材搬入のための工事用ヘリコプター(以後ヘリコプター)の83デシベル プラス その上空を飛行する別のヘリコプターの?デシベル プラス瀬戸会場工事騒音?デシベルが一斉に鳴り響いていた。
 それぞれ単独ではとりあえず基準を達成していると評価書にはあるがサウンドスケープの観点からは同時進行の「複合騒音」があったと考えられこの時間中当町は83デシベル以上の音環境になったといえる。そもそも当町は住宅地であり環境基本法で定める昼間の基準値は55デシベル以下であるべきであり(甲23)ヘリコプター騒音のみでも問題であるが 瀬戸会場の工事騒音、国道の交通騒音などをも考慮すれば更に問題である。

3.又 83デシベルという当町でのヘリコプター騒音は同心円上に表記された「予測結果」(乙15号証の68ページ)に基づくものと思うが 音というものは本来は音源を中心とした空気の「波紋」(音波)もしくは振動であり地形によりエコーしたり乱反射したりと人間の耳への到達度は変化する。

 当町地形図(乙12号証)でこの町が高低差のある地形になっていることは一目瞭然であるが このことにより「評価書の予測結果」は「音源側」からの騒音予測であり 受け取る「当町住民側」の人格権を考慮した予測結果ではない。実際に評価書には「ホバリングは1分から5分」と(乙15号証65ページ)あったが現実には1時間ほどの工事時間中ほぼ絶え間なく戦場のような轟音が当町上空を覆った。「小さい子どもが『コワイ』と叫んだ」「とてもうるさいのだが眠らなければならないので暑いけれど仕方なく窓を閉めて寝た。」「勉強できない」等の声を直後に聞いた。

 また視覚上も常識ではあり得ない近さの場所にヘリコプターを見せつけられ恐怖感を感じた。(甲39)多くの点で建設の段階からすでにゴンドラ建設は当町住民の人格権を侵害しつつある。

4.又 評価書ではこのような一般居住区域に直近でヘリコプターを飛行できる根拠として「航空機騒音に係わる環境基準(T類型)を達成しているため」としたが(甲40)の記述ではこれを適合させる場所は「飛行場」と分類される場所であり当町のような一般居住区域ではないことは明らかである。

5.又 その数値であるが「周辺の住宅地等での最大騒音レベルは81デシベル以下で WECPNLは67以下であるので基準値は達成」としたが当町でのWECPNLの基準値の最低ラインが70であるので楽観できる問題のない数値とはいえない。さらに(甲41)で明らかなようにこの耳慣れないWECPNLという単位はデシベルにその数値を変換するとその計算方法により数値が変わるというものであり(甲41の2ページ目)の試算2 と試算2 共に当町でのヘリコプター騒音81デシベルはWECPNLに「変換」すると78位となっており(甲41)での「地域の類型T」の70はもとより「U」の75すら達成できていない。

6.よってこのような一般居住区域にヘリコプターでの工事を行う万博ゴンドラ計画は建設の段階から当町住民の人格権を侵害するものであり違法である事を強く主張する。
 被告代理人は7月12日付け準備書面で環境に配慮した環境に優しい工事方法を模索した結果本工事に際しヘリコプター利用工事を選んだとしたが 周辺住民である当町にとっての住環境には前述したように決して優しくない。かつて当町を苦しめ多くの犠牲を差し出させた「計画道路」の時と同じ非人間的な思想(甲8、9)を本ゴンドラ計画でも建設段階から感じる。そもそも当該地で保安林解除せずに一時作業許可で本工事を行うには 変更面積の制約上(甲22)ヘリコプター利用工事方法位しかない。「環境に配慮」は理由の第一ではないと思われる。真に環境配慮を第一とする計画なら保安林の中に支柱を立てることへの環境負荷を考え本計画を中止したはずである。当初 被告は本ゴンドラ建設のためだけの工事用道路を特別に作ろうと計画していた。(甲34−2−D)「環境に配慮」が理由の第一ではない根拠の一つでありこの工事が大工事の範疇に分類できるという原告の主張の根拠でもある。

7.又、稼動中のゴンドラの騒音が48デシベルほどであるので問題ないという点についても これは「単独評価」であり「音」が空気中に「音波」をつくるものである性質と考えると8秒に1台ゴンドラキャビンが絶えず「音波」を出す事は丁度 水面に小さな波を繰り返し作ってゆくと波同士が交わり作用しあって ついには思いも寄らぬ大きな波紋に発展するのと同じ現象につながり「単独評価」とは違う現実はでてくる。この騒音に万博開催中は瀬戸会場よりの騒音がプラスされる。「催事の評価書」によると催事時の騒音は相当なものであり 当町は6ヶ月間は騒音に苦しめられる。「単独評価」である「評価書」の評価は現実的ではなく当町住民の人格権を尊重しているとはいえない。

 又 騒音のみならず1日5000回通過するゴンドラの「絶えず連続する音」が精神に与えるストレスについては評価書での評価覧はないが無視はできない。人間は生活のエネルギーを補充し回復するためには睡眠を、精神の落ち着きを取り戻すためには静寂が 必要である。人間は精神的な新陳代謝をおこなうために当然のように 自らの生活の中に静けさを確保している。このような里山の中に「終の棲家」を求める町民性を持つ当町住民ならなおさら最低限必要なものである。本ゴンドラ計画はその最低限のものである治安不安のないプライバシーの守られた静けさの時間を原告ら当町住民より奪う。

 このように原告ら当町住民の人格権を長期にわたり侵害するゴンドラ計画は中止すべきである。

第2 本ゴンドラ計画について被告の当町住民への周知徹底説明努力義務の面から次のように主張する。

 本ゴンドラ建設工事のためヘリコプター使用に付き瀬戸市長 愛知県知事など各責任者が「周辺住民に周知徹底を行うように」という助言(甲42)を被告にあたえているが 住宅近くを低空でヘリコプターが飛ぶ本工事の危険性を鑑みると被告が当町住民に示した周知徹底方法はきわめて努力不足というしかない。

 当町住民が万博協会よりゴンドラ工事全般のため示した周知徹底方法は 8月17日火曜日午後7時より9時(実際は15分延長)という休日ではない日の夜に 当町より2キロメートルほど離れた瀬戸市田中町の会館でのわずか4分(午後8時50分より8時54分まで)(この日の主な内容は万博開催中の交通規制)(甲43)の説明 そして特に挨拶もなく当町入り口に突然建てられた掲示板での掲示(甲44)、回覧するようにという1枚の書面というものである。1番直近である当町には別の日に来て説明会をと要望し書面(甲45)も提出したが聞き入れられない。又初フライトの8月25日になっても飛行開始時間の告知もないので当方よりファックスで問い合わせやっと(甲46)の返事をもらった。

 一般住居間近にヘリコプターが飛行する危険性は最近沖縄でおこった事故で明らかである。(甲47)第7支柱建設予定地より当町までわずか約230メートルであり住民が被ると予想されるヘリコプターの騒音、低周波などをも考えればこの周知徹底方法は努力義務を果たしたとはいえない。

 当町は平成14年よりゴンドラ計画に対し説明会の要望書などを万博協会に多く提出してきたが満足な回答を得られないできた。(甲48)ゴンドラ死亡事故に関する書面(甲26)に至っては回答自体送られなかった。

 このように周辺住民に対してのゴンドラ計画についての万博協会の説明義務は全く足らないのは明白である。よって住民周知徹底のないまま着工した万博ゴンドラ工事は 運転中は当町住民へのプライバシー侵害や交通事故増大等の平穏生活権及び生存権を侵害し 撤去後は長期の保安林機能低下を予想されることから土砂災害危惧をもたらすと主張してきたが 建設段階からも上記のように当町住民の人格権を侵害するものであり強く差し止めを求める。

 
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