平成16年(行ウ)第37号 保安林内一時作業許認可差止請求事件
原告 (選定当事者)岡田みどり
被告 愛知県知事

            準 備 書 面

                          平成16年7月1日

名古屋地方裁判所民事第9部A1係 御中

                      被告訴訟代理人
                      弁護士 後藤武夫

 (本準備書面においては、特に断らない限り、従前と同一の略称を用いる。)

第1 請求の趣旨に対する答弁
 1 原告らの請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
 との判決を求める。
第2 請求の原因に対する認否
 1 「1 工事の場所」について
(1)「1)」について
 概ね認める。
(2)「2)」について
 概ね認める。ただし、索道は訴状別紙目録(1)及び(2)の土地を通過する計画であるが、2筆のうち支柱が建てられるのは、(2)の土地のみの計画となっている。
(3)「3)」について
 7号支柱が保安林内に建設される計画であることは認めるが、その余は否認する。
 7号支柱が建設される計画の箇所を含む瀬戸市上之山町3丁目地内には、愛知県建設部砂防課作成に係る「土砂災害危険箇所マップ瀬戸市」(以下「マップ」という。乙第4号証)の凡例欄記載の「土石流危険渓流」、「急傾斜地崩壊危険箇所」が存在するが、7号支柱が建設される計画の箇所は、このうちの「土石流危険渓流」である「Sh−2−29」の流域内にあり、「急傾斜地崩壊危険箇所」ではない。
 ちなみに、上記「土石流危険渓流」、「急傾斜地崩壊危険箇所」の定義はマップの凡例欄記載のとおりである。しかして、7号支柱建設予定地付近の「土石流危険渓流」は、法令等により「指定」がなされているわけではない。
2 「2 工事の規模」について
(1)「1)」について
 7号支柱の建設には、立木の伐採、土地の形質の変更等を伴うことは認めるが、その余は否認する。 協会の行う7号支柱建設工事(以下「本件工事」という。)は、一般的に「大規模な工事」に該当するものではない。また、別件仮処分事件決定によれば、「索道は、愛知万博終了後、撤去される予定である」から、7号支柱は半永久的な構造物ではない(乙第3号証2頁)。
 本件工事については、本日現在、協会からの申請がなされていない状態であり、申請の内容は判然としないが、仮に、本件工事が、協会の発表した「2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価追跡調査(予測・評価)報告書(その2)について」(乙第5号証)のとおりのものであるとすれば、現時点において、保安林の解除を要するものと断定することはできず、本件作業許可の申請がなされた場合には、その時点で森林法に基づき審査を行い、適正に判断するものである。
(2)「2)」について
 原告らの主張は、いまだ申請のなされていない本件作業許可についての被告による判断が既になされているかのごとき主張であり、前提事実そのものを欠いており、それ自体失当である。
(3)「3)」について
 原告岡田みどり外1名から、被告に対して、「申入書」と題する書面の提出等により申し入れがあったことは認めるが、本件作業許可がなされる日については不知。その余は争う。
 本件作業許可申請がなされた場合には、被告において、森林法に基づき適正に判断するものである。
3 「3 自然災害の危険性」について
 訴状添付当事者目録によれば、原告加藤徳太郎を除くその余の原告らが、瀬戸市上之山町3丁目に在住していること、原告岡田みどり宅と「ゴンドラとの最短距離は、平面上で270メートル」であること(乙第3号証17頁)は認めるが、その余は否認する。理由は、答弁書第2、1(4)及び同2(3)記載のとおりであるので、これを引用する。
4 「4 森林法の形骸化」について
 7号支柱建設予定地の保安林が訴外愛知県の県有林であること及び「土砂流出防備保安林」であること、被告は保安林が常にその指定の目的に即して機能することを確保するように努めるべき義務を負っていること(森林法40条参照)は認め、その余は争う。
第3 被告の主張
 1 本件訴訟は、答弁書において述べたとおり、本件作業許可に係る申請自体がなされておらず、不適法な訴えであると思われるが、念のため、以下のとおり主張する。
 2 本件作業許可に係る都道府県知事の権限について
 (1)森林法は、保安林において「立竹を伐採し、立木を損傷し、家畜を放牧し、下草、落葉若しくは落枝を採取し、又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為」を行う場合は、都道府県知事の許可を得なければならない(34条2項本文)と定め、都道府県知事は、当該許可の申請があった場合には、「その申請に係る行為がその保安林の指定の目的の達成に支障を及ぼすと認められる場合を除き、これを許可しなければならない」と定めている(同条5項)。
 なお、作業許可には、条件を付することができるが(同条6項)、その条件は、「当該保安林の指定の目的を達成するために必要最小限度のものに限り、かつその許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならない」と定めている(同条7項)。
 作業許可に係る事務は、第一号法定受託事務(森林法196条の2、並びに、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号及び別表第一)とされており、第一号法定受託事務については、「各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について、都道府県が当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」とされている(地方自治法245条の9)ところ、作業許可については、農林水産大臣から上記処理基準に該当するものとして、「森林法に基づく保安林及び保安施設地区関係事務に係る処理基準について」(平成12年4月27日付け12林野治第790号、農林水産事務次官通知。乙第6号証)が示されている。
 (2)このような処理基準の解釈については、事務を処理するにあたり「よるべき基準」であるとされ、地方公共団体は、これに基づいて事務を処理することが予定されている。「処理基準」と異なる事務処理が行われた場合において、法的な義務を果たしていないという評価を受ければ違法とされることもあり得ると考えられ、また、「処理基準」の内容が法令の解釈に係る場合には、「処理基準」と異なる解釈による事務処理が法令違反と評価されることもあると考えられる(「新版逐条地方自治法<第1次改訂版>平成14年9月10日、学陽書房、980頁)。
 よって、被告としては、森林法及び上記処理基準に基づいて作業許可の適否の判断を行わなければならないものである。
                                        以 上
  

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