ゴンドラ支柱建設差止本訴 原告上之山3丁目の皆さんの5/20付書面

  平成15年(ワ)第5148号 索道7号支柱及びその前後の支柱建設差止請求事件
                              平成16年5月20日
 名古屋地方裁判所 3部合議係 御中
                     原告 岡田みどり  外14名
                     被告 財団法人二千五年日本国際博覧会協会

準備書面の補充(1)

 平成16年3月25日に提出した「準備書面」の補充を行う。
 
 本件について以下3点の確認をする。
1. 本申立は 当上之山3丁目総意の万博会場間ゴンドラ計画(以下ゴンドラ計画 若しくは万博ゴンドラ)白紙撤回運動より派生したものであり 原告 外14名はその代表である。よって本申立は原告たちの利益のみ(生命及び財産)を追求したものではなく 当町住民全員の利益を擁護するものである。(甲2)

2. 次に 当町は万博事業によってすでに数々の住環境負荷をかけられており(無通告断水、(甲10)道路交通渋滞、トラックの増加、国道155線上の事故の増加、海上地区よりの砂埃等)開催中はさらにその加重は増すもの(普段せいぜい1500人居住地域に15000人押し寄せる事によるストレス、交通規制のため帰宅もままならない状況など)と予想される。それに「追い打ち」をかけるのが このゴンドラ計画である。「すでに重すぎる荷物を背負わされたロバをつぶすには藁しべ一本でたりる。」当町には重すぎる「複合負荷」である。

3. 又 かつて当町は非人間的な 屈辱を感じるような道路建設に苦しめられた。(甲8)(現在 1部都市計画取り下げ)ゴンドラルートは その苦しい記憶を呼び覚ますものである。又、かつての万博はその跡地利用として「新住計画」がすでに決定していた。となると このゴンドラの跡地利用としてあの恐ろしい「道路建設」が再び復活するのではと当町は警戒している。
以上を前提として以下の主張を述べる。

 ゴンドラ建設の違法性

 プライバシーの侵害(1)
 さて 万博ゴンドラは1時間1800人 双方向3600人 1日約30000人を時速約21.6キロという普段の日本の交通手段としては かなりゆっくりな速度で当町を回り込むようなルートと 当町を見渡すような高さで進む。(甲11)

 万博会場は 非日常空間であり 万博ゴンドラも その総ガラス張りというデザインにより 観客をして「速さより景観を楽しむ」、「効率よりは輸送に娯楽性をもたせる。」「わくわくした夢の演出」(万博のパンフレットより)という劇場的効果を期待させるものである。万博ゴンドラの乗客は ゆったりと景観を楽しむを第1の目的として搭乗する。協会は当町へのプライバシー対策として万博ゴンドラの搬器に「視界遮断フィルム」及び「瞬間調光フィルム」を装着し 当町に近づけば支柱の検出装置から指令を出して窓を不透明にし 当町より離れれば透明に戻すという「プライバシー保護区」(第7支柱から第10支柱まで?)を設定し当町住民のプライバシーに対し努力義務を果たしたとしている。(甲12)(よって 当町付近に搬器がさしかかるとスモークがかかり 行程の3分の1ほどの 630メートルは「景観を楽しむ」目的は達せられず 客の落胆と欲求不満は予想されることになる。)しかし ルート上もっとも高い第7支柱(当町より230メートルほど南西)は当町の標高より60メートルほど高い。(甲13)そして始発から第7支柱までは当町へのプライバシーの配慮はない。プライバシー保護区に入る前に当町は搭乗客の視界におさまっていることとなる。これではプライバシー対策としては万全ではない。

 又 スモークがとぎれたとたん乗客は「何を隠すため曇らせたのか。」と好奇心を刺激され鬱積した欲求不満もあって むしろ熱心に当町を観察(望遠レンズ付きのビデオは観光の必需品になっている。)するであろう。時は初春から夏、当町住宅は窓を開け放し無防備になっている。

 「家」とは人間の最低限度必要な「砦」である。そして その中での「私生活上の情報を他人にみだりに公開されない権利」プライバシー権は憲法13条の幸福追求権に基づく権利として(明文化されていないが)認められている。自宅という堅牢な「砦」があり その中での「プライバシーが守られたくつろぎ」が約束されてこそ 人間は健康な日常生活を営める。公では「公序良俗」に反するかもしれない表現も「家」のなかではある程度 許されるべきである。しかし その「砦」の中を 万博ゴンドラに乗った不特定多数の見知らぬ人々が6ヶ月もの間 垣間見る可能性があるということは当町住人の日常生活を萎縮させ精神的苦痛を与える。

 プライバシーの侵害(2)
 又、プライバシー権は「安心」「安全」に暮らせる権利でもある。
今国会で審議中の大規模なテロを想定しての「有事関連法案」の件はもちろん 今年3月26日の小泉首相の会見の中での「どの地域でもテロは起きる可能性はある。」との言葉は 日本でもテロがあり得ると国自体が認め警告したということであろう。(甲14)特別の対策チームを作り空港、港湾の警備は強化されつつある。(甲15)国際オリンピック委員会もテロなどの影響でアテネ五輪が開催できなくなった場合に備え最大185億円受け取れる損害保険契約を結んだ。(早速 事件が起きた。)(甲16)
 オリンピックや万博のようなその国の威信をかけた「世界規模の催し」で行動を起こす事はテロリストにとって「きわめて効果のあるデモンストレーション」となる。万博ゴンドラは警備の目の届かない「会場外」を通過する。地上のシャトルバスと違い人間の体は空中にある。時速21.6キロの搬器はテロリストにとって とらえるのに難しい獲物ではない。「事件」がおこったらゴンドラ内の乗客はもちろん ゴンドラ建設により、はからずも「万博会場内の町」となった当町も「とばっちり」を受ける。自分の「巣」の中で常に不安を感じなければいけない生活は「最低限度の生活を営む権利」を侵害する。
 又 それよりは スケールが小さいとはいえ窃盗などの犯罪発生も怖れるべきである。「こういうイベントがある地域は今までと比べて1000倍犯罪が増える。」(元万博推進官の言葉)事実 当町を含む山口連区一帯が「犯罪重点地域」に指定されるほど増加してきた。(甲17)当町も毎年のように数回の空き巣があり 中には下手をしたら「殺人」に発展したかもしれないと思われるケースも2件あった。軽自動車を丸ごと盗まれた当町民もみえる。過去のデータは今後の事態悪化を確かに予想させる。

 本ゴンドラ計画では 前述したように当町を回り込むようなルート設定で やはり当町を見渡すような高さで 時速21.6キロという「何かを観察(偵察)する」にはちょうど良い速さで進む。(甲11)「開放的な季節」も手伝い ゴンドラ乗客は 全開した窓を通してその家の間取りを 洗濯物からその家の家族構成を などの生活様式の情報も容易に得られる。たとえ 「良くない下心」をもって望遠レンズで熱心に当町を覗いているゴンドラ乗客がいても「ゴンドラ」という「景観を楽しむを第1とする乗り物の乗客」である以上 その行為は誰の「疑念」も喚起し得ない。十分な「下見」をゴンドラが可能にする。「十分な下見」を経た犯罪の成功率は高い。

よって本ゴンドラ計画は当町内犯罪増加のきっかけになる可能性は十分にある。
 本ゴンドラ計画は当町住民の生命及び財産に脅威を与え、人格権を侵害するものである。

 交通事故増加等による生存権及び平穏生活権侵害
 又 景観上の問題で このゴンドラ計画が当町の自動車交通事故増加のきっかけになる可能性をも秘めている。

 現在国道155号線の瀬戸付近での一日の通行量は「12時間で9600台、24時間で13500台」(国土交通省 中部地方整備局 名古屋国道事務所より)
 近年 上之山町でも、事故が相次ぎ(平成15年9月27日バイク死亡事故(甲18)
             たとえば    11月8日 トラック正面衝突事故
                     11月15日 普通車市場につっこむ
                     11月29日 自動車同士の事故  )
 上之山町に入ると、その信号の少なさ、視野の広さに加え、坂を下る開放感が運転手に心のゆるみを与えついスピードオーバーしてしまう。(現に当町の出入り口は 頻繁に警察のスピード違反取り締まり所になる。)その「地形上のハンディ」に加え「普段は存在しない国道上を動き来する万博のゴンドラ」が景観上での運転手の集中力の妨害をおこさせる。事故の増加は当然、懸念される。「たった6ヶ月」であっても事故は一瞬である。ゴンドラは当町住民の生存権を侵害する。

 加えて当町にとって出入り口はたった一つである。このような50メートル以上の取り付け道路が一つしかない住宅開発は現在の瀬戸市では防災上等の理由から許可が出ない。(瀬戸市 開発課)当町の取り付け道路は約75メートルで 現在の基準では不許可である。他地域の例では 建築基準法に基づいてさだめられた「神戸市の 団地認定基準」でも「1団地の区域の接道」では原則として 主要な通路から2方向以上の避難が確保できるように道路に接し・・・とある。たしかに ここを遮断されたら当町は住宅地としての生命を失う。そのたった一つの出入り口のほぼ真上をゴンドラルートは通っている。(甲19)当町から自動車で国道155号線に出る場合、右折することは自動車量の増加で 現在ですら困難になってきた。ゴンドラが実際に稼働すれば上記の理由でさらに事故はおこりやすくなり当町住民が犠牲になる危険性は高まる。事故が発生すれば当然 当町の一つしかない出入り口は使用不可能となり 原告たちを含めた当町住民の日常生活にも不自由をきたさせ 「最低限度の生活を営む権利」を侵害する。

 土砂災害等の危険性の増大による生存権等の侵害
 当町は「土砂災害危険個所マップ」(平成15年3月愛知県砂防課発行)にて「土石流危険渓流」及び「急傾斜地崩壊危険個所」に取り囲まれた町であるということはすでに述べた。今年中に予定されている「基礎調査」の結果次第で 法の縛りが生じる「土砂災害特別警戒区域」に「昇格」もあり得るということである。ゴンドラ第7支柱がこの「土石流危険渓流」の中に建設されることについては争いはない。この山は災害指定のない部分でも土砂崩れがおこっている。本来崩れやすい山なのである。第7支柱建設が土砂災害の火だねとなる。当町住民としては「触って欲しくない」「何がおこるかわからないから」が本音である。
 土砂災害は勢いのある「水」を伴っておこる。しかし 第7支柱の計画図によると土砂流出対策としては「蛇かご」「しがら柵」などというもので土砂災害の水流はもちろん 日常的な土砂流出に伴う水流に対してもなんの策も講じていない。協会はゴンドラ建設のため0.1ヘクタールほど伐採するとしている。当然保水力は今までより低下する。この地の土質は「貧栄養」であり木々は育ちにくい。(甲20)「シデコブシ」が育っているのがその証拠とのこと。確かに(甲-5)の土砂崩れは4年ほど前であるが 未だにほとんどが裸地のままである。
 第7支柱の下流に「池」があり その際に当町住民宅がある。この池の水はかつて下流の「八割池」に流れていたが 現在「八割池」は埋め立てられているため 「こちらの池」の水の行き場がなく 今でも 小規模ながら水害はおこっている。この地は「土砂流出防備保安林」でもある。「土砂の流出」は水の流れも介在しておこる。水に対しての処置のない当工事は当町住人の財産に不利益を与える。そのような姿を見なければならないのは同じ町民として忍びなく 精神的苦痛を感じる。(甲21)

 森林法違反
 「保安林」を解除せず 軽微な作業を前提とした森林法第34条第2項での「一時作業許可」でこのような大工事を行うのは違法である。「一時作業許可」で行なう事ができるのは「森林施行に関する、測量 実施調査のための立木竹の伐採」や「落葉などの 採取」等保安林の育成のための作業 若しくは真に『軽微』な作業に限られている。もし このような大工事が「一時作業許可」で許されるなら「保安林」解除なしに 大工事が簡単な審査で許可される悪しき前例となってしまう。その上2年ごとの更新ができるので恒久施設建設も可能であると「善商」のようなたぐいの保安林違反使用者に告げるようなものである。これは違法である。又 保安林内に建築物を設置するときは「その高さがその周囲の森林の樹冠を構成する立木の期待平均樹高未満であるものに限る」となっている。瀬戸市の木はせいぜい12メートル しかし第7支柱は30メートルである。これも違法である。(甲22)

 ヘリコプターの騒音等による健康な生活への侵害
 このゴンドラ工事が「大工事」であるのは資材運搬のためヘリコプターを使う事でも明らかである。ヘリコプター騒音81デシベルは空港周辺の航空機騒音の基準であり 当町のような普段静かな住宅地住民にとって「受認限度」をこえる。環境基本法に基づく騒音の基準は当町では55デシベルである。(甲23)振動もあると思われる。ヘリコプターの風圧は「かつら」も飛ぶほどのものである。当町にはお体の不自由な方もみえる。夜勤の方もみえる。「たった10日間」というが何を持って当町に受認せよというのか?騒音一つとってもこの工事自体が違法であり人権侵害である。

 絶滅危惧種消滅による環境侵害
 当町の森の中にはオオタカやギフチョウ、そしてカザグルマ、トウカイコモウセンゴケ シラタマホシクサのような「希少種」「絶滅危惧種」の動植物が数多く生息している。(甲24)とくに「オオタカ」については かつて「万博の海上の森での開催」を放棄させた原因になったほどの重要性がある。しかし 協会はゴンドラルートの間近に複数の営巣を知りながらゴンドラ計画を進めてゆく。「営巣期を避けて工事をするので影響は低減される」とのことだが 来年の営巣期はゴンドラは観客輸送の真っ最中であり 森でのオオタカのテリトリーはゴンドラのワイヤーで分断される。(甲25)
 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の第34条では「土地の所有者又は占有者は、その土地の利用に当たっては 国内希少野生動植物種の保存に留意しなければならない。」とある。前述したようなオオタカへの対応には整合性はない。ゴンドラの金属音 振動はオオタカにはなじみのないものであり 搬器への「バードストライク」はオオタカを死に至らしめる。オオタカのような「かつては珍しくなかった鳥」が「絶滅危惧種」になり消滅を余儀なくされる自然環境は当町住民にとっても やはり脅威である。「健康で文化的な最低限度の生活」はオオタカのテリトリーを守ることのできる生活でもある。

 本ゴンドラ建設について協会から十分な説明 及び要望書(特に第4回目住民説明会開催の要望書)などへの誠意ある回答を 得た認識は残念ながらない。(甲26)
(当町は代案を提案する用意があった。)(甲27)

 まとめ
このように原告たちを始め当上之山3丁目住民全員の人格権を侵害するゴンドラ建設 差止を強く求める。


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