平成16年(行ウ)第21号 愛知万博における索道(ゴンドラ)事業許可処分取消請求事件
原告 加藤 徳太郎(選定当事者)
被告 国土交通大臣 ほか1名

                    答  弁  書

                               平成16年4月16日

 名古屋地方裁判所民事9部B1係 御中

     被告ら指定代理人
   〒460−8513 名古屋市中区三の丸二丁目2番1号
     名古屋法務局訟務部(送達場所)
      (電話 052−952−8143)
     (FAX 052−968−2128)
           部付検事   篠原淳一 
           上席訟務官  山本英樹
           訟務官    長田克示

     〒464−8528 名古屋市中区三の丸二丁目2番1号
     中部運輸局鉄道部技術課
          課長   新津武史
          専門官  加藤弘彦
          調査係長 山田豊

第1 本案前の答弁
  1 本件訴えをいずれも却下する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 本案前の答弁の理由
  1 判断の前提となる事実関係等

 (1)事実経過の概要
   ア 2005年日本国際博覧会及びゴンドラの設置計画について
    2005年日本国際博覧会(以下「本件博覧会」という。)は,平成17年3月25日から同年9月25日までの185日間に,愛知県の東部の長久手会場と瀬戸会場の2箇所において行われる国際博覧会である(乙第1号証)。

 本件博覧会は,上記のとおり,2会場に分かれて開催されるため,本件博覧会を主宰する財団法人2005年日本国際博覧会協会(以下「博覧会協会」という。)は,会場間の輸送を効率的に,また環境面を配慮して行えるように,その輸送手段としてゴンドラ(以下,ゴンドラに関する設備をも含めて「本件ゴンドラ」という。)の導入を進めている。

イ 鉄道事業法(以下「法」という。)32条所定の索道事業の経営許可処分の申請及びこれに対する許可

(ア)博覧会協会は,本件ゴンドラの導入につき,平成15年12月9日付けで,被告中部運輸局長に対し,法32条の索道事の経営許可処分を求める旨の申請をした。

 その申請の概要は次のとおりである(乙第2号証の1,2)。

【索道の種類】:普通索道

【索道の方式】:単線自動循環式

【搬器定員】:8名

【予定する区間】:起点を愛知県愛知郡長久手町大字熊張字茨ヶ廻間乙1533−1とし,終点を愛知県瀬戸市吉野町320?1とする

【線路傾斜こう長】:2026メートル

【最大高低差】:53メートル

【毎時輸送量】:1800人

(イ)上記申請に対し,被告中部運輸局長*1は,平成15年12月25日付けで,これを許可する処分をした(以下「本件許可処分」という。乙第3号証・許可証)。

*1 法32条は,国土交通大臣が索道事業の経営許可処分をなす旨定めているところ,法64条及び鉄道事業法施行規則71条1項15号により,索道事業許可処分の処分権限は,国土交通大臣から各地方運輸局長へ委任されている。

ウ 以上の経過を経て,原告は平成16年3月31日,本件許可処分の取消しを求めて,本件訴えを御庁に提起した。

(2)索道事業に関する概括的説明

ア 索道について

 索道とは,架空した索条(ワイヤ・ロープ)に搬器(ゴンドラ等)を懸垂して旅客又は貨物を運送する施設の総体をいい,また,索道事業はこれらの施設を使用して行う事業をいう。具体的には,観光地の山などにあるロープウェイやスキー場にあるスキーリフトなどが索道事業の代表例である(乙第4号証・19ページ)。

イ 索道の種類等について

 索道の種類は,客車の形状による分類,構造による分類及びロープの取回しによる分類のそれぞれの組み合わせに応じて,種々のものが存在するが(その内容等については乙第5号証参照),以下においては,本件ゴンドラの概要を理解する上で必要と思われる限度で説明を加えることとする。

(ア)まず,客車たる搬器の形状の観点から,扉を有する閉鎖式の搬器を使用して旅客又は貨物を運送する「普通索道」と,外部に解放された座席で構成するいす式の搬器を使用して旅客を運送する「特殊索道」(乙第5号証)に大別されるが,このうち,本件ゴンドラは「普通索道」に該当する。

(イ)また,索道の構造の観点から,索条に懸垂された搬器が往復する「交走式」,索条に懸垂された搬器が,停留場間においては索条に自動的に固定され,停留場においては索条から自動的に開放されて循環する「自動循環式」,そして,索条に懸垂された搬器が索条に固定されて循環する「固定循環式」に分類される(乙第5号証)が,本件ゴンドラは「自動循環式」に該当する。

(ウ)さらに,索道におけるロープの取回しの仕方の観点から,搬器を懸垂する索条が支えい索のみで,搬器を支えるものも,引っ張るのも1本のロープ(支えい索)で行う索道である「単線」,単線のうち停留場間の支えい索を2本とした「複式単線」,そして,搬器を懸垂する索条が支索のみの「複線」といった分類がされている(乙第5号証)が,本件ゴンドラのロープの取回しの仕方は「単線」方式である。

ウ 索道施設の基本構成

 前述のとおり,索道には様々な種類があるが,その基本的な設備についてはさほどの相違はない。すなわち,索道設備はその大要を示せば,起終点の停留所,停留所間の支柱,索条(ワイヤ,ロープ),搬器*2,索条を掴む握索装置*3,支柱に設けられ索条を案内する受索装置*4等から構成され(乙第6号証・9ないし20ページ),本件ゴンドラも同様である。

*2 旅客,又は,旅客及び貨物を運送するための客車又はいすとその懸垂部等の総称をいう(乙第5号証参照)

*3 搬器を支えい索等に固定する装置をいう(乙第5号証)

*4 支柱において,支えい索等を所定の位置に保持するために設けられた受索輪とこれを支持する装置をいう(乙第5号証)

2 被告の主張1・被告適格の欠如

 原告は,本件訴えにおいて,被告国土交通大臣に対し本件許可処分の取消しを求めているところ,処分の取消しの訴えは,「処分をした行政庁」を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法〔以下「行訴法」という。〕11条1項)。しかし,原告がその取消しを求める本件許可処分は,前記のとおり,被告中部運輸局長がしたものであって,被告国土交通大臣がしたものではないから,原告の被告国土交通大臣を被告とする本件許可処分の各訴えは不適法であり却下を免れない。

3 被告の主張2・原告適格の欠如

 また,原告は,本件訴えにおいて,被告中部運輸局長に対し本件許可処分の取消しを求めているが,以下に述べるとおり,原告は,本件許可処分の取消しにつき行訴法9条所定の「法律上の利益を有する者」には当たらない。

(1)行訴法9条所定の「法律上の利益を有する者」について

 行訴法9条は取消訴訟の原告適格について規定するが,同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有すると解される。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(景表法に関する最高裁昭和53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211ページ,森林法の保安林解除に関する同昭和57年9月9日第一小法廷判決・民集36巻9号1679ページ,新潟空港の定期航空運送事業免許に関する同平成元年2月17日第二小法廷判決・民集43巻2号56ページ,高速増殖炉「もんじゅ」に係る原子炉設置許可処分に関する同平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571ページ,都市計画法に基づく開発行為に関する同平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250ページ,建築基準法の総合設計許可に関する同平成14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号46ページ及び同平成14年3月28日第一小法廷判決・民集56巻3号613ページ等)。

(2)原告の主張の要旨

 ところで,原告は,本件許可処分に係る「本件ゴンドラが上空をまたぎ通過する国道,県道を通行,利用し生活をしているものである」として,「ゴンドラが空中に宙づりされることにより常に落下の危険性が生」じるから,本件許可処分により「原告の安心,安全な生活に耐え難い支障を生じさせ,また移動の自由を妨げるおそれが大きい」と主張するところ,これは,要するに,原告は,国道,県道等を安全に利用する利益ともいうべきものを原告適格を基礎付ける法律上の利益と構成していると解される*5。

*5 本件ゴンドラ及びこれと交錯する国道,県道等の位置関係については,乙第2号証の1・8ページを参照

(3)原告適格の欠如

 しかしながら,前記(1)を前提として,本件許可処分の根拠となった法及び関係規定を通覧しても,法規が索道事業経営の許可処分を通じて,原告が主張するような利益を個別具体的な法益として保護しているとはいえないのであるから,原告につき,本件許可処分によって法律上保護された利益を必然的に侵害されるおそれを認めることはできない。

 以下,詳論する。

ア まず,法1条は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進することを目的とする旨を宣明しているところ,これによれば,法の趣旨,目的が,鉄道等の利用者の利益及び鉄道事業等の健全な発展という一般的な公益の実現にあるのでである。すなわち,同法は,かかる公益の実現のため本来的には国民の自由な活動にゆだね得る索道事業の経営につき,許可制を採用する等の所要の規制を行うこととしているものである。

イ また,法は,索道事業の経営につき許可制を採り,同事業を経営ようとする者は,索道ごとに,国土交通大臣(ここには,地方運輸局長をも含む。以下,同じである。)の許可を受けなければならず(法32条),さらに,国土交通大臣が,索道事業の許可処分を行うためには,当該申請が同法34条所定の各基準に適合するかどうかを審査しなければならないとする。

 そして,このうち,法34条1号は「工事計画が第35条の国土交通省令で定める技術上の基準に適合するものであること」を許可の要件とし,これを受けて,「索道施設に関する技術上の基準を定める省令」(昭和62年3月2日運輸省令第16号〔なお,平成14年国土交通省令第19号の改正後のもの〕。以下「技術上の基準を定める省令」という。乙第7号証)が,索道施設である索道線路,停留場,原動設備,搬器,握索設備等及び保安設備といった構造や運転につき,その基準を定めている。

 そして,技術上の基準を定める省令のうち,原告が主張する索道設備の落下等の危険との関係で関連性を有すると思われる規定を掲げると,次のとおりである。

(ア)7条(索道線路)

 索道線路は,索条,支柱,受索装置その他のこれを構成する設備にかかる荷重が脱索等の危険を生じさせるおそれのないものであり,かつ,搬器が停留場以外の箇所で停止した場合に乗った人を安全に救助することができるものでなければならない。

(イ)11条(索条)

 索条は,予想される最大荷重に耐える強度を有し,搬器の運転に耐えるものであり,かつ,索条を支持する支索用シュー,受索装置又は滑車に適合したものでなければならない。

(ウ)13条(支柱)

 支柱は,予想される最大荷重に耐える強度を有するものであり,かつ,転倒,滑り及び引き抜きのおそれのない構造でなければならない。

(エ)15条(受索装置)

 受索装置は,次の基準に適合するものでなければならない。

一 支えい索,えい索又は平衡索を所定の位置に保持する構造であること。

二,三 (略)

(オ)17条(保護設備及び防護設備)

 線路に近接する建造物等の状況,搬器の構造等を考慮し,物の落下による危険が生じるおそれのある箇所又は搬器に乗った人を保護する必要がある箇所には,適当な保護設備を設けなければならない(1項)。

 搬器との接触による危険が生じるおそれのある箇所には,人の立入りを防止するための適当な防護設備を設けなければならない(2項)。

(カ)23条(搬器)

  搬器は,次の基準に適合するものでなければならない。

 一 予想される最大荷重に耐える強度を有するものであること。

 二 燃焼するおそれのないものであること。

 三 乗った人の転落,転倒等の危険を生じさせるおそれのない構造であること。

 四 停留場以外の箇所で停止した場合に乗った人を安全に救助することができる構造であること。

ウ 上記で示した技術上の基準を定める省令の規定によれば「索道線路は,索条,支柱,受索装置その他のこれを構成する設備にかかる荷重が脱索等の危険を生じさせるおそれのないものであ」ること(7条),「索条は,予想される最大荷重に耐える強度を有し,搬器の運転に耐えるものであ」ること(11条),「支柱は,予想される最大荷重に耐える強度を有するものであり,かつ,転倒,滑り及び引き抜きのおそれのない構造で」あること(13条),搬器は「予想される最大荷重に耐える強度を有するものであること」(23条1号)等,索道設備の各設備が一定の安全性能(強度)を有することが求められているが,これは,架空された索条により旅客又は貨物の運送を行うという索道の構造的特性から,利用者の利便に加えて,利用者の安全を確保する必要があることに配慮したものである(乙第4号証・14,200ページ)*6。そして,ここにいう「利用者」とは,索道の利用者一般をいい,その性質上,その範囲を特定することは不可能であるから(この点,原子力発電施設や空港などの施設の周辺に居住する住民などとは異なる。),法が索道事業の許可処分を通じて保護しようとしているのは,利用者の安全という一般公益であって,個人の個別的法益を保護する趣旨であるとはいえない。

*6 そのため,貨物のみを運送する索道については規制の対象からは除外されている(法32条ただし書,鉄道事業法施行規則44条1号)。

エ このように,法の趣旨・目的,さらに,本件許可処分の要件について定める法34条及び同条に基づく省令の規定を通覧すると,法が索道事業経営の許可処分を通じて保護しようとしている利益は,専ら一般公益である利用者の安全であり,原告が主張するような索道事業に係る索道とこれに交錯する道路等を安全に利用する利益なるものは,個別具体的な法益として保護されているとはいえないものであり,そもそも,原告が主張するような法益は,法が保護しようとしている利用者の安全という公益が図られれば,それによって解消され得る類いのものであるから(利用者との関係で転倒・脱落等の事故を防止策が図られれば,結果的に,索道とこれに交錯する道路等の安全利用は図られることとなる。),それは,法の保護する利益との関係でいえば,単なる反射的利益にとどまるのである。したがって,原告は,本件許可処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有する者とはいえないのである。

オ なお,原告は,技術上の基準を定める省令17条を引用し,同条の規定をもって,前記のような原告主張の利益が法律上保護された利益であることの根拠とするようにも解される。しかし,同条は「物の落下による危険が生じるおそれのある箇所又は搬器に乗った人を保護する必要がある箇所には,適当な保護設備を設けなければならない」旨定めるところ,このうちの「物の落下による危険」については,同条が想定しているのは,搬器に開放できる窓が設置されているような場合で,解放された窓から搬器内の乗客が故意または過失により物を落下させる恐れがある場合等であって,索道の構造物それ自体の落下を想定したものではない(乙第6号証・252ページ)。また,搬器の乗客を保護する設備については,その目的は,前述した一般公益としての利用者の安全確保にほかならないから,原告の主張する利益が法律上保護されていることを基礎づけるものではない。

 したがって,技術上の基準を定める省令17条もまた,原告の原告適格を基礎づけることはできないのである。

(4)本件ゴンドラの近隣住民としての利益との関係

 原告の主張を前提とすると,前記のとおり,原告は,本件許可処分の取消しを求めるについての法律上の利益を有しないのであるが,原告は,その主張において「近隣住民」との表現をも用いていることから,原告が,本件ゴンドラの転倒等により,自己が居住する建物に被害が及ぶことにより,その生命・身体が害される危険性があるとの主張をしているとも考えられなくはない。しかしながら,仮に,原告がかかる主張をしているとしても,本件訴えにつき原告適格を基礎づけることはできない。すなわち,

ア まず,技術上の基準を定める省令には,前述したように,索道線路についての7条,搬器についての23条,さらに,索条,支柱,受索装置についての11条,13条及び15条などにおいて,索道施設の脱索,転倒,落下等を防止するための基準を定めているため,これらの規定が,索道利用者の安全確保のほかに,索道設備が転倒,落下等により侵害されるおそれのある当該設備周辺に居住する住民の生命,身体等といった法益を個別具体的に保護していると解すべきであるとの立論も考えられなくもない。

 しかし,前述したように,上記の各規定で索道設備の各設備につき,一定の強度を有するように定められているのは,索道の構造的特性に由来する利用者の安全性確保のためであるし,実際,索道設備の脱索,転倒,落下等といったアクシデントは,直接的には旅客利用者の安全を脅かすものに他ならないのであって,周辺住民等の安全もこの旅客利用者の安全性確保の要請の中に包摂される関係に立つものである。したがって,かかる規定において保護しようとしているのは,利用者の安全という一般公益であるとみるのが相当であって,索道設備の周辺住民の安全を一般公益に吸収解消させるにとどめずに,個別具体的に保護すべきものとする趣旨をも含んでいるとみることはできない。そして,このことは,前記*6で指摘したように,貨物のみを運送する索道については規制の対象からは除外されていることとも整合するといえる。

 なお,付言するに,技術上の基準を定める省令8条は,搬器と建造物等との間隔につき,「搬器とこれに近接する建造物等との間隔は,急停止等による搬器の動揺を考慮し,建造物等との接触により乗った人に危害を及ぼすおそれのないものとしなければなら」ず(1項)*7,また,「搬器と地表面との間隔は,前項の規定によるほか,搬器が停留場以外の箇所で停止した場合に,搬器の構造,救助の方法等を考慮し,乗った人を安全に救助することができるものとしなければならない」(2項)*8として,一見すると,搬器と近接建造物・地表との位置関係,つまり,索道の近隣に居住する者に対する配慮を示しているようにもみえる。しかし,上記文言をみれば明らかなように,搬器と近接建造物・地表との位置関係に関する定めは,搬器の動揺による建造物や地表との接触に伴って,乗客の安全が害されることを防止することを目的とするから,技術上の基準を定める省令8条をもって,索道設備の周辺住民の安全が個別具体的に保護されていることの根拠とすることはできないのである。

*7 ちなみに,技術上の基準を定める省令については,その審査基準の細部を示すものとして,索道施設の審査及び維持管理要領(乙第8号証)が定められているところ,同要領の第2.1.3「搬器と建造物等との間隔」の(2)では,本件ゴンドラのような単線の普通索道における,搬器とこれに近接する建造物等との間隔は450ミリメートル以上とされている。

*8 *7と同様に,上記索道施設の審査及び維持管理要領の第2.1.3の(3)では,本件ゴンドラのような普通索道における搬器と地表面等との最小間隔は搬器の下端から450ミリメートル以上とされている。

イ また,仮に,法が索道設備の転倒,落下等により直接の影響を受ける蓋然性のある近隣住民の生命,身体を個別具体的な法益として保護しているとみる余地があったとしても,上記結論は左右されるものではない。けだし,乙第2号証の1の8ページの図面によると,本件ゴンドラの支柱は14柱あり(同図面中の@ないしMの丸囲み数字は支柱の設置位置及び数を示している。),また,その高さは6ないし35メートル程度のものでしかないところ(同図面中の丸囲み数字から上へ延びる線の左側に記された数字が高さを示す。例えば,Gであれば19.00との記載があるが,これは19メートルであることを示す。),訴状から把握できる原告の居住地は,本件ゴンドラから約3キロメートル離れているから(乙第9号証の1のA地点),最も被害が広範に及び得る事態である本件ゴンドラの転倒を想定するとしても,これにより,原告の生命,身体が直接の影響を受ける蓋然性を認めることはできない*9。したがって,原告につき本件訴えについての原告適格を認めることはできないのである。

*9 なお,本件訴訟の選定者a,同b,同c,同d,e及び同fについても,同様のことを指摘できる。すなわち,

@選定者aの居住地は,本件ゴンドラの設置予定地である愛知県瀬戸市及び長久手町から遠く離れた豊田市であるから(乙第9号証の1のB点),仮に,本件ゴンドラが転倒した場合を想定しても,これにより,選定者aの生命,身体が直接の影響を受ける蓋然性を認めることはできない。

Aまた,選定者bの居住地も,本件ゴンドラ(西端)から約4キロメートル以上も離れているから(乙第9号証の1のC点),やはり,本件ゴンドラの転倒により,その生命,身体が直接の影響を受ける蓋然性を認めることはできない。

Bさらに,選定者c,同d,同e及び同fにの各居住地と本件ゴンドラと位置関係を示すと乙第9号証の2(D地点)及び3のとおりであるが,仮に本件ゴンドラの支柱が転倒した場合を考えたとしても,これら選定者の居住地に最も近接位置にあるとみられる支柱(乙第2号証の1・8ページの図面のG,Hの支柱がこれに当たり得る。)の高さは19,ないし,18,5メートルであるのに対し,最も本件ゴンドラに近接しているとみられる選定者eないし同fの居住地は本件ゴンドラの設置予定位置から約100メートルも離れていることからすると(乙第9号証の2及び3),やはり,本件ゴンドラの転倒等により上記各選定者らの生命・身体が害される蓋然性は認めがたい。

4 結語

 以上の次第で,原告の被告国土交通大臣に対する訴えは被告適格を欠くため不適法であり,また,被告中部運輸局長に対する訴えは原告適格を欠くため,いずれにしても不適法である。

 よって,本件訴えはいずれも却下を免れない。

                                                         以  上



◆原文の選定者個人名は各々a〜fに置き換えましたのでご了承ください。

◆また、単語等の表記は原文のままです。

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