北陸本線ーいまの問題といくつかの提案
 
 この「北陸本線−いまの問題といくつかの提案」は、2003年11月29日公共交通をよくする富山の会・第3回総会で渡辺眞一世話人が行った報告の全文です。
 
 ご苦労様です、世話人の渡辺眞一です。
 レジメ「JR北陸本線−いまの問題といくつかの提案」がお手元にいっていると思いますが、それに基づいて話をすすめたいと思います。それから、「資料集」が今日のプログラムとともに配布されていると思います。資料も紹介しながら話をすすめたいと思います。
まず、私たちの公共交通をよくする富山の会ができまして3年目に入ります。「会」結成に先立って2001年6月に「北陸線・ローカル線の存続と公共交通を考えるシンポジウム」を行ないました。そのシンポジウムのサブタイトルが「人々がいつまでも住みつづけられる交通のあり方をもとめて」とあります。その後の私たちの活動の方向は、このサブタイトルのいつまでも住みつづけられるための公共交通にしていこう≠ニいうところが中心になってきていると思います。
この2年あまりの活動のなかで二つの課題といいますか、方向といいますか、そういうものが自然に生まれているのではないかと思われます。一つは、先ほども話がありましたように、北陸本線・ローカル線、バス路線、路面電車などの公共交通を、市民の生活の側から守るということ、加えて日々の暮らしに役立つ、より便利なものにしていく、これが当面の課題になっていると思います。
もう一つは、誰もがいつでも自由に移動できる、そういう権利を保障する方向、つまり「交通権」といわれるのですが、そういうものをつくっていくところへ私たちの会は踏み出しばじめているのではないかと思います。
 
この一年間の北陸本線本線をめぐる特徴
そこで、これまでの私たちの活動を、こういう二つの点を頭に置きながら、最初に申し上げたいのは、この一年間の北陸本線をめぐる動きについてです。
資料集の1ページですが、「北陸新幹線建設と並行在来線関連略年表」があります。この「年表」をみながら、この一年間の北陸本線本線をめぐる幾つかの特徴的なことをあげてみたいと思います。
1つは、今年の9月4日のところですが、JR富山駅の高架化が決まりました。連続立体交差です。在来線は2面4線、高山本線は切欠式ということが報道されています。この設計はJRがやるということです。いよいよ北陸新幹線工事が富山駅でも形をあらわすことになるわけです。「年表」全体を通してわかってきたことは、県は、北陸新幹線の今後の建設に対してどういう態度をとっているのか、九州新幹線は来年3月に開業する、それから東北の方も八戸まで開通したではないか、だから北陸新幹線建設に金をよこしなさい、早く北陸新幹線が通るようにしなさいといっているようにみえます。
 
2つ目は、北陸新幹線というのはどんな新幹線なのか、その性格が非常によく分かってきたということです。「年表」の1ページ目の昨年の11月7日ですが、北陸経済連合会と日本経団連の懇談会が金沢で行なわれています。そのときに経団連の奥田会長が北陸新幹線についてこういっています。北陸新幹線の整備は「政治の世界の話だ」と切り捨てているんですね。新聞の報道をみると北経連の人たちはずいぶんと驚いたようです。さらに、奥田会長は、社会資本の整備についてふれて「一方的なコスト計算の元に造れといっているが、現実は政治力次第だ」と、北陸新幹線の整備は政治力でやっているんではないかと。 これに、北経連側は「30年経っても全然進んでいないじゃないか」と反論をするんですが、奥田会長は「今までもそういうことをやってきたから失われた10年に陥った」と、切り替えしているんですね。ところが今年の11月の13日のところです。その後、北経連の方がずいぶんアクションを起こしたようですが、今年の北経連と日本経団連の懇談会で奥田会長は「整備新幹線を推進すべきだ」というふうにいったと新聞に載っているわけですね。奥田会長の態度は変わったと新聞に出るわけですが、よくよく記事を読んでみますと、そのあと「国会議員の先生方などが国土交通省への熱意の示し方によって決まる」といっているわけですから、結局、北陸新幹線というのは「政治新幹線」といわれてきましたけれども、そういうことがはっきりしてきたと思います。
つぎに、資料集の3ページ目の上、資料2ですが、最近読んだ本のなかで参考になるものがありましたので、そこに載せておきました。これは三菱総研の平岩さんという方が「新幹線と地域振興」という本を出しています。この方は整備新幹線に実際に携わってきた人です。その方がこういっているんですね。「新幹線というのは都市間高速交通」なんだといって、東海道新幹線のようにあそこは在来線が非常に混雑してきて、どうにもならなくなってきて、「需要推進型」として出来たのがあの頃の新幹線。しかし、その他の新幹線は「開発投資型」の新幹線だといっています。「整備新幹線は、整備計画の決定以降、常に政治の舞台でのみ論議されてきたが、事業サイドよりも政治家サイドから建設を望む声が大きいのは開発投資型といわれる所以であろう」と語っています。
2013年頃に北陸新幹線が富山まで開業するという計画ですが、実際、北陸新幹線が富山まで来た場合に、列車を検修する場所が鍋田の富操では狭すぎる。では、新幹線の車両基地は、石川県の松任へ持っていけばいいのではないか。松任へ持っていくのは構想としてあるようであります。しかしながら、先日福井県へ行ったときに安部誠治さんという関西大学の先生とお話をしていましたら、「それはどうも・・・?」というんですね。JR東日本の列車が北陸新幹線に入ってくるわけですね、そうするとJR東日本とJR西日本では列車に対する検修の仕方が違う、仕様が違うわけですね。だから松任の工場において検修をするようなことはないのではないか、こういうふうにいっておられました。そうなってきますと、とにかく富山駅までの開業というのは実際問題どうなるのか、という問題が出てくるわけです。
 
3つ目は、北陸本線は北陸新幹線開業に伴ってどうなっていくのかという問題です。これについては私たちの「会」として昨年2002年の11月に、「孫 ひ孫の時代にも暮らしに便利な北陸本線のために−提言−」を出しました。資料のなかにも入れておきましたが、北陸本線の県東部をJR経営から切り離した場合、北陸本線は赤字必至です。県内を走る第三セクター鉄道の経営は大変です。だから、経営が成り立つ見通しがつくまで第三セクターとしてJR経営から切り離すのではなくてJRでちゃんと責任を持ちなさい、ということを私たちは「提言」しています。
このことに関連してですが、富山県は昨年の9月17日、「年表」の一番上にありますが、そこに県の土木部長の発言が出ています。「各県で輸送量に格段の差があり、各県ごとに経営収支を考えることが基本だ」と述べています。同じことが今年の9月1日、これも同じく土木部長が、「各県の輸送量に格差があり、第三セクターの場合は県ごとに経営収支を考えることが基本」とし、列車そのものは「共同運行が望ましい」、こう述べたと報道されています。
これでわかってくることは、富山県は各県ごとの、つまり県境分離の第三セクター鉄道ということも考えているんですね。そこへ、今年の6月24日ですが、自民党の整備新幹線建設促進特別委員会で野沢委員長がこういっています。「沿線自治体とJRが年内にも、開業後の在来線の経営分離区間について基本的合意をしておく必要がある」と。北陸本線のどことどこを経営分離区間にするのか、そこをはっきりさせなさいということです。
ある経済週刊誌が北陸本線の第三セクター問題について特集をしました。その取材で富山にきた記者が、北陸本線がJRから経営分離になったときに、JRがどこを奪い取っていくのか、と大変気にしていました。つまり、しなの鉄道の長野〜篠ノ井間のようなことが北陸本線で起きるのではないか。それが心配な部分ですが、それは記事になっておりませんでした。もしそういうことが北陸本線で起きれば、まさに鉄道としての公共性が問われることになってくると思います。
 
4つ目になりますが、北陸本線の将来を考えた場合に、貨物の問題というのが非常に大きな問題になると思います。今年の6月12日に、金沢貨物ターミナル駅がリニューアルし発着荷役駅として開業しました。線路から直接貨物を降ろしたり載せたりすることができるようにした。そのことは資料集の3ページの3のところに、JR貨物のホームページからとったものを載せておきましたが、E&S方式になった。北陸一だということです。 資料の4、5、6ですが、北陸地域全体の貨物流動を調べてみますと、そこにデータ―を出しましたように、発量も着量も100万トン前後の貨物です。資料4の右側に全国の鉄道貨物の北陸地域の構成比を書いておきましたけれども、結構な量を北陸本線が扱っている。資料5のところで富山発、富山着も書いておきましたが、数字のうえからも県内経済にとって北陸本線を走る貨物というのは、非常に大きな位置を示しているということがわかってきます。
貨物問題を重視する理由は、この貨物量の問題に加えまして環境問題です。資料6がそうですが、自動車中心の貨物輸送から列車貨物輸送もしくは船舶輸送に変えて環境を守っていこう、CO2を削減をしようということが大きな課題になっています。
先日、福井県に行ったときわかったのですが、福井県は環境立県ということを政策として打ち出しています。CO2を3%減らすという具体的な数値目標を掲げていました。では、具体的にどう減らすのかということをみてみますと、公共交通を重視して減らしていくこと、県の計画のなかに出していました。
資料7ですが富山県のデータ―です。排気ガスなどて「20年間に平均気温が0.6度上昇する」「100年後には、県内平野部に雪が降らなくなる」、こういう結果が出たんですね。「2020年には富山湾の沿岸部には雪が降らなくなる」という結果が出ているですね。これでは、水の王国富山県で水が不足するという事態は、工業や農業に大きな影響がもたらす可能性があらわれるということです。
貨物問題を重視するもう一つの理由ですが、貨物は線路に大きな負担をかけます。資料8のところにありますが、これは先ほどの三菱総研の平岩さんという方が書いた本のなかに出てきますが、香川正俊氏の論文を引用し、しなの鉄道を例にとって「例えば千曲川橋梁をはじめとする橋梁は、しなの鉄道の6両編成の車両300トンに比べて、(貨物の場合は)1000トンの重量に耐えなければならないが、そのために鉄道の耐用年数は60年から40年に低下し、減価償却は大幅に増加する」というんです。
ちなみに、東海道新幹線の場合ですが、これについて国土交通省が耐用年数を出しています。70年という期間を定めています。ところが東海道新幹線は東北、あるいは、上越新幹線、山陽新幹線と比べてとても痛みがはげしい。ですから、70年という計算は非常に無理がある、10年ぐらい縮めて耐用年数を計算すべきだ、そのために準備をはじめなさいといっています。
北陸本線は鉄道貨物の動脈です。第三セクター鉄道となった北陸本線にとって貨物問題は、線路を維持していく上で非常に大きな負担になってくることになります。
 
 それから、「年表」から5つ目の問題ですが、先ほど岡本先生からもお話がありました富山港線問題です。3つの点をお話ししたいと思います。
 一つは、北陸本線の高架化は富山港線の路面電車化問題とは深く関わっているということです。資料集の10ページ「富山港線現地調査」のところを開いてください。白黒で印刷した関係で非常に見難くなっていますが、そこに2つの写真が並んでいます。左側は富山口駅のホームから富山駅方面を見た写真です。それから右側が富山駅の6番ホームから富山口駅方向を見た写真です。富山駅6番ホームから見た写真の左側に旧国鉄用地に大きなマンションが全部で3つ建っています。実際に現地調査を、立命館大学の土居先生と一緒に行なったとき、はっきりわかったのですが、富山駅を高架にすると富山港線の線路がどうしても邪魔になるんですね。富山地鉄線、並行在来線、そして北陸新幹線の線路の分とで、富山港線の線路の分はなくなるんですね。
 昨日、富山市の富山港線路面電車化検討委員会の「中間とりまとめ」では、富山港線を高架にすると60億というふうに出ています。高架に富山港線を載せるのに約60億円かかる。60億円かかるものを路面電車にしてしまえば45億円ですむ。乗客数の減少という問題はもちろんありますが、そういう論法なんですね。そうしますと、北陸新幹線を通す富山駅の高架化、その犠牲に富山港線がさせられたといっても言い過ぎではないようになってくる。
さらに「中間とりまとめ」をみてみますと、富山港線は第三セクター会社にするとしていますが、今後のJRの出方が注目されます。先ほど岡本先生がアンケート結果で述べられましたように、「JRの責任」という問題が大きいと思います。そのことに「中間とりまとめ」は踏み込めないでいる、というのが今の現状です。
それから先ほど吉備線の話がありましたので、ちょっと紹介をしておきますが、岡山の吉備線は岡山から総社間20.4キロ走っています。岡山から出まして東総社までの乗降人員は12600人、岡山駅の人員は12万人、総社駅の終点の乗車人員は6600人、3500人という富山港線と比べてみますと全然桁が違うんですね。ですからJR西日本は吉備線を路面電車でやったとしても切り離しはしないでしょう。そういうJR商法の中身がここからも読み取れるわけです。
 以上が、昨年11月の総会から現在まで「年表」から見えてくる特徴です。
 
今後の運動について、5つの問題提起
そこで、これからどうしていくのか、ということに話しをすすめたいと思います。
レジメでは、富山県の公共交通をめぐる諸問題について「スケッチ」というふうに書きました。ここでいいたかったことは、いくつかデータ―も出して、世帯当たりのマイカー保有台数全国第一位という富山県の現状にふれて、少子化、高齢社会のなかでこそ住民の足を確保することが大変重要になってきている、公共交通が重要になってきているということをお話ししたかったのですが、時間もありませんので、そこは飛ばしまして、今後の運動とのかかわりで5つの「問題提起」をしたいと思います。
 
第1の「問題提起」ですが、11月の23日に福井県の勝山市に酒井さん、岡本先生と3人で行ってきました。「勝山鉄道まちづくりシンポジウム」というのがありました。そこに行って発見をしたわけですが、勝山市では、市と鉄道事業者と私たちのような市民団体と学者・研究者、これらがみんな一緒のテーブルについて鉄道について議論をする。そういう場が昨年と今年と2回ありました。この後もず〜と続けていこうというのがそこで確認されたわけです。北陸本線の将来を考えた場合に、このような仕組みを富山県でもぜひつくっていくべきではないだろうか、というのが第一の提案です。
2003年11月23日、地方の鉄道問題に取り組む自治体、事業者、沿線の市民団体などが福井県勝山市に集まり「鉄道まちづくりシンポジウム」を開催し、鉄道の再生に向けた交通政策の方向について論議。「鉄道まちづくり会議」を発足させました。
 
「年表」の方に戻ります。今年の5月30日ですが富山港線の路面電車化について、これは「北日本新聞」の記事ですが、路面電車化についての市の説明、地元説明が終了した≠ニいう記事が出ています。しかし、考えてみますと終了したのではなくて始まりだった。ここから私たちの市への「質問」なども始まりましたし、私たちのカナル会館での「JR富山港線探訪と路面電車を考える集い」もありました。この「集い」は随分と大きなインパクトを与えたと思います。それから、沿線の地元からのいろいろの提案なども起きています。自治体が公共交通をよくしていくために積極的なイニシアチブを発揮する、それは当然必要なことです。しかし、住民の側がそれに関心を寄せないでいたのでは、決してうまくできるわけではありません。
資料の10のところを見ていただきたいのですが、ここにフランスのストラスブールの市民を巻き込んだ形での、住民の参加、住民の合意形成、というものがどういう形でつくられてきているのか、という図がありましたのでそこに掲載しておきました。その図でわかりますように、幾重にも住民の声をくみ上げていく仕組みをつくっているんですね。短時間ではなしに何べんも、時間をかけてやっているんですね。
私たちは「提案」のなかでも出してきましたが、大切なことは市民との合意形成だと。計画段階から工事完成後まで、すべての過程で住民が参加できる、そんな仕組みをつくっていくことこそ大事なんだということを私たちは主張してきたわけですが、そのことを様々に求めていくことが大事だろうと思います。
富山港線に関して、一つ付け加えておきます。資料集のなかに「富山港線現地調査」がありますが、土居先生の提案として、「富山港線現地調査」のときに話されたのですが、各駅をどう活用するのかという問題について、今のところ富山市は考えていないようにみえます。とにかく線路を通すことが先だ、ということです。ですから駅ごとに、この駅は路面電車になったらどうしていくのか、という住民の運動を広めて欲しいし、私たちもこういうアクションを起こしていくことが大事ではないかと思います。
 
「問題提起」の2番目ですが、私たちは今年の7月しなの鉄道を視察をしました。そのときに長野県と懇談したときに出てきたのが、上下分離方式、下部部分は県など公的機関がもって、上の電車の部分は民間が運営をする。このような上下分離方式に長野県知事が否定的だという話がありました。それは、資料の11のところに書いておきましたのであとで読んでいただきたいのですが、そのことが引っ掛かりまして、何故なのか。
長野県が持ち出した例は、イギリスのレールトラック社の破綻です。線路がひび割れおこし、線路が300もの破片になって飛び散ってしまった、そういう事故が起きました。この事故がきっかけとなって、とうとうレールトラック社は破綻に追い込まれてしまうわけです。それがどうして起きたのかということが、私たちとすれば研究課題です。
そこで資料12です。イギリスのレールトラック社の破綻の原因について研究している学者がいましたので、それを紹介をしておきました。破綻の原因をいくつかあげていますが、一つは、会社の投資、これが主に大型プロジェクトに費やされている。イギリスの西海岸に新たに鉄道を建設したのです。そこに莫大な投資をして、線路のひび割れなどのインフラの老朽化、保守など、そういうところに手がまわらなかったことに、大事故の発生の原因があるんだということです。それから2つ目に、民間になって株主への配当を重視するあまり設備投資を軽視してきた。これが破綻の大きな要因だということですね。
それから、日本の国の方の上下分離方式については、資料13のところで、2000年の運輸審議会答申を載せておきました。上下分離方式の方向というのが大変重要だということを出していますし、先ほど紹介しました福井県の勝山市での鉄道まちづまりシンポジウム、ここでの提言でも、資料14です。「鉄道のインフラ部分が公的に保証され、いわゆる『上下分離』が鉄道施設の基本となるように国および関係機関に強く要請をする」というふうに書かれております。
ですから住民運動の側からも、国の側からもそういうところに大きく動き出してきているわけです。富山県がいうように、上下分離方式については今後の検討課題ということにしないで一歩踏み出していくことが大事ではないか。
「年表」の今年の3月11日のところをみていただきたいのですが、今年の2月県議会のなかで、知事が答弁している内容です。「初期投資や減価償却が軽減される上下分離方式の採用も考えられるが、この場合は県や市町村の負担が大きい」、だから「検討課題」だというようにいっています。鉄道を将来に渡って維持していくために上下分離方式は必要ではないかと思います。あわせて、県境をつなぐ鉄道にすべきではないかと思います。
 
第3の「問題提起」ですが、北陸新幹線が開業して富山のまちはどうなるのかという問題は、いろいろといわれています。
三菱総研の平岩さんの先ほどの本でありますが資料の17、読んでいきます。「新幹線が整備されさえすれば、自ずと地域は発展していくのか? 答えは『ノー』である。新幹線は地域振興の必要条件ではあるが、十分条件にはなり得ない。沿線地域が一体となった受け皿整備、すなわち新幹線を上手に活用した適切な地域振興方策が実施されて、はじめて地域振興が図られるのである」と書いてあります。 
これをどう読むのか。私は、新幹線開業に向けて、とにかくまちを開発すればいいんだ、ということにはならないのだと思います。
私たちがしなの鉄道を視察したときに、この点も注目してみてまいりました。しなの鉄道は屋代高校前駅ですとかテクノさかき駅とか信濃国分寺駅だとか、新しく駅をつくりバリアフリーにしました。駅をつくって乗客を乗せるようにしているんですね。その駅というのが工場団地前のテクノさかき駅では、ただ単に駅をつくっただけではなしに、町のなかをぐるっと循環バスが回って駅へ行くという仕組みをつくっているんですね。つまり、しなの鉄道をみていますと、暮らしの側からまちごと振興していくということと、しなの鉄道を生かしていくということを考えていると思いました。
ところが新幹線を通すということで新たな開発を進めるという道は決してうまくいかないんだと、私は思うんですが、先ほど紹介した経済週刊誌の記者は、「八戸駅をみて御覧なさい。あそこは立派なものをつくりましたけれどもねぇ〜」と批判的なことをいっていましたが、こういうことにならないようにしていくためにも私たちは今、考えなければならないのは、まちそのものを生かして鉄道利用者、乗客を増やしていく。つまり公共交通をよくして行く、北陸本線、並行在来線を私たちの身近なものにしていくには、私たちが富山に住んでいて、どこへ行くにも便利だというまちづくり、文化や歴史をそのまま生かしていってこそ地域振興の土台ができるんだと思います。
これも土居先生と富山港線を調査したときですが、富山駅北のサンフォルテのそばに運河がありますが、あそこから船に乗って運河を下っていって、富山湾に出て、岩瀬浜から富山港線に乗って帰ってくる。そんな夢を岩瀬の地元の人たちが語っていましたけれども、例えばそういう回遊性という問題も本気になって考えていく必要があるんではないか。
いま住んでいるまち、暮らしているまちそのものを出発の基点にするんだというところを、鉄道を考える場合にも大事にしていきたいと思います。後ほど提起があると思いますが、「全駅調査」ですが、そういうところから出発したものであります。
 
 さて4番目は公共交通の財源の問題です。一つの試みをやってみました。資料の18を見てください。これは今年の富山県予算のなかで交通に関する県の予算はどれくらいあるのか、とにかく予算書から拾ってみました。抜けているものもあるかと思いますが、総額748億という金額が出ました。大変大きな金額です。その表の下に書いておきましたけれども民生費が374億、商工費が404憶。ですから交通関係に関わる予算はいかに大きいかということがわかります。
 その交通関係に使われる予算のなかで、表の右側、4つ目ぐらいのところに、林道開発というのがあります。これもずいぶん大きな金額を費やしています。
 ところで、富山県の道路状況はどうなっているのか、一枚もどって資料15のところです。これは国土交通省の調査です。道路の「満足度」について調べたものですが、15項目の調査項目があります。富山県の場合、どの項目をとってみても「満足度」は上位クラスですね。
 富山県の道路状況は一体全体どうなっているのか。資料16でみて見ますと、1998年4月1日、1平方`メートルあたりの道路延長は全国11位、それから2000年の下の表に行きますと、全国第5位なんですね。道路率というのがあります。これは県の全部の面積に対して道路の面積はどれだけかという比率ですが、98年には全国第20位、2000年の2月には全国第10位です。
 これらの指標からみれば、県民の側からしてみれば、道路というものはこれ以上、生活に関わる緊急のもの意外は急いで整備する必要がないと、いうことをあらわしているんではないでしようか。
 そこで、公共交通を豊かにする財源、それは今すぐにでもできるものとして、道路に使う財源を、県の交通予算全体をもっと見直してみれば、鉄道や公共交通に回す財源が生まれてくるのではないか、ということです。
 それから、JR西日本ですが、14年度決算についてみてみますと、これはJRガゼットですが、グループあげて経費節減に努力した結果、経常利益が過去最高になったと報道しています。JRの経営状況からしても、北陸新幹線を通すから、並行在来線は、富山港線は、切り離してもいいんだというところを、単に採算だけから考えたのではJRの公的責任というものはどうなるのかという問題もあります。
 財源問題で、もう一つみておかなければならない問題は、国の制度の問題です。時間がありませんからあまり多くふれることはできませんが、地方分権という問題があります。しかし、地方に財源を移譲していくことになっているかといえばそうはなっていないんですね。
 地方への財源の移譲という問題で、世界的にはどうなっているのかということを調べてみましたら、スウェーデンの場合に、「コスト構造調整分」という財政調整制度があるんですね。これはどういうことかといいますと、例えばある自治体で人口が減っているなど、その自治体の努力だけではいかんともしがたい問題がある。しかし、公共交通は整備しなければならないが、その費用は随分かかる。そこで、人口や年齢構成、過疎、地理的条件などコスト算定の諸要素を計数化して、どこの地域に住んでいても一定水準の生活は維持されようにする。公共交通など必要な行政項目を決めて財源をはっきりさせている。こういったような制度も私たちは求めていく必要があるのだろうと思います。
 先ほど紹介しました、勝山市での鉄道まちづくりシンポジウムでは、公共交通の財源問題でも国に働きかけていくことで要望書も作成されました。
 
さて、北陸本線が第三セクターになったことを考えた場合に、富山港線との関わりでも大きな問題があります。先ほど富山港線はJRが経営参加するのか、しないのか、そこは触れていないということをいいました。勝山に行ったとき確認できたことですが、越前鉄道の資産は総額100億円ぐらいです。ところが実際には20億円で沿線自治体が買っているんですね。80億円もどうして減ったのか。それはこうです。越前鉄道の経営陣にしてみれば廃線にすることにしていたわけで、その線路は価値がない。それが価値を生むということは線路を買う側がどれだけで買うかということですね。買った側のものがその鉄道を維持するために新たな投資をしなければならない。直さなければならない。それらでいくらにするんだという折衝を随分やったようです。理屈とすればそのとおりですね。それが100億円を20億円まで下げさせるというふうになっていったんですね。
これからの経営形態の問題を考えたとき、北陸本線でも、富山港線でも出てきますが、こういう方向も私たちとしては研究していく必要がありますし、富山港線の場合、三セクでというなら無償譲渡にしなさいということも声を上げていかなければなりませんし、北陸本線の場合も同じような立場で取り組んでいくことが大事ではないでしょうか。
「JR西日本の垣内剛社長は1月21日、JR富山港線の路面電車化に対してできる限り協力すると述べ、鉄道資産の無償譲渡を検討する考えを明にした」「(具体的な)支援の在り方としては、寄付、運営主体となる第三セクターへの出資(経営参画)などが考えられる」(1月22日付「北日本新聞」)
 
最後5つ目の「問題提起」ですが、これは昨年の総会で「提言」のなかにありますが、私たちがどこへ行くにも自由に移動することができる、そういう「交通権」を制度として本格的に検討していく段階にはいったのではないか。人と環境にやさしい公共交通を、だれもが自由に移動できる権利の問題として実現を求めていく、そういう法律をつくっていく、あるいは条例を作っていく運動に向けて、いよいよ本格的に検討に入っていく必要があるだろうと思います。
以上が私からの「問題提起」です。
 
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