: ROC曲線による指標
: 信号検出理論の指標をめぐって 1
: 初めに
最初にTanner and Swets(1954)が提案した,オリジナルの信号検出理論を説明する.
まず幾つかの仮定が必要である.物理的な刺激は被験者の内部で,その強度に対
応した一次元の心理量に変換されるとする.そしてノイズだけの試行と,ノイズ
と刺激の両方を呈示される試行では,後者の方が物理エネルギー量が高い分,得
られる心理量の平均値も大きいとする.また同等の刺激であっても,被験者の内
部で常に同じ心理量を与えられずに誤差があり,全体としてはその誤差は正規分
布をとるとみなす(正規性の仮定).そしてノイズのみの正規分布も,ノイズ+
刺激の正規分布も,同じ分散を持つものと仮定する(等分散性の仮定).
これらの仮定を図にあらわすと図1のようになる.図1
の横軸は一次元の心理量であり,ノイズ+刺激の正規分布の方が心理量が大きい
分,右によっている.一方縦軸は頻度である.それぞれの正規分布の平均値が,
物理量に対応した心理量であるので,その値を得る頻度がもっとも多く,平均値
から離れるにしたがって頻度は減少していく.
さらに被験者は,刺激の強度がある一定以上の場合は刺激があると反応し,それ
以下の場合は刺激がないと反応するとする.その一定の基準(criterion)が,図
1に示す点線である.
すると,刺激+ノイズの正規分布のうち,点線よりも右側の部分の面積は,刺激
+ノイズの試行で刺激ありと答えた正答(ヒット(hit)と呼ばれる)の比率と等
しくなり,一方ノイズのみの正規分布のうち点線よりも右側の部分の面積が,ノ
イズのみの試行で刺激ありと答える誤答(フォールスアラーム(false alarm),
またはフォールスポジティブ(false positive)と呼ばれる)の比率である.ちな
みに刺激+ノイズの試行で刺激なしと答える間違いはミス(miss)と呼び,ノイズ
のみの試行で刺激なしと答える正答はコレクトリジェクション(correct
rejection)と呼ぶ.
これらの比率は実験によって測定され,それらから,この基準とそれぞれの正規
分布の平均値との間隔,ひいてはこの2つの正規分布の平均値間の間隔を算出す
ることができる.これは物理量に対応した心理量の間隔であり,すなわち被験者
のその刺激についての弁別力の指標である.これはであらわされる.基準か
らノイズ分布の平均までの距離を,同じく刺激+ノイズ分布の平均まで
の距離をとすると以下の式(1)のようにあらわされる.
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(1) |
さらにこの方法で,被験者の反応の偏りであるバイアス(bias)も調べられる.バ
イアスを調べるのは,その一定の基準値がどこにあるかであらわす.もし被験者
の反応が,刺激ありとなしのどちらにも偏っていないならば,基準はノイズのみ
の分布とノイズ+刺激の分布の2つの正規分布のちょうど真ん中,それらの交点
にくる.しかしどちらかを多く答えるように偏っていると,この基準値はそちら
の分布の方に偏った位置にあることになる.その偏り具合は,その基準値におけ
るそれぞれの正規分布の値の比によってあらわされる.先程の図1
に則して説明するなら,それぞれの正規分布と基準値の点線との交点の,それぞ
れの高さの比である.これはと呼ばれ,式(2)のようにあ
らわされる.
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(2) |
ここで
は平均0,分散1の正規分布である.
このには,の値によって取り得る値が変わってくるという欠点がある.
例えば,=0.0の時はは常に1であるが,ならば0.0から約10.0までの値を取る.そしてとなると,は最大約100の値を取り得る(Banks, 1970, 86).このため,被験者の感度が異なれば,それぞれのバイアスをあらわすの値が同じでも比較はできない.
これを改善するため,Banks(1970, 86)はその代替となる測度を提案している.これはノイズ分布の平均から,被験者の反応の基準までの距離,つまりの値である.これならば被験者の感度の影響を除くことができる.
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