next up previous
: オリジナルの信号検出理論による指標 : 信号検出理論の指標をめぐって 1 : 信号検出理論の指標をめぐって 1

初めに

いわゆる心理物理的測定法の一つに,閾値(threshold)の測定がある.閾値とは なんらかの刺激を意識的に感じとれる・とれないの境界線上の刺激強度のことで あり,それを測定することによって,人間の感覚の感度を測るのである.しかし Tanner and Swets(1954)はこの方法以外に,人間の感覚の感度の測定に信号検出 理論(theory of signal detection (detectability)/signal detection (detectability) theory)をもちいる方法を提案した. 信号検出理論は,1950年代にレーダー・システムの通信工学的理論として考案さ れた(竹内ら編, 1989, 804).そもそもはノイズ(noise)に埋もれた信号(signal) の検出力を調べ,レーダーの性能評価のために作られた.そこでノイズと信号を, 無視すべき刺激と知覚すべき刺激とにそれぞれみなし,心理物理的測定法に応用 したのである. 信号検出理論と閾値の測定という手法とを比べると,信号検出理論は被験者のバ イアスと,それを取り除いた弁別力とを同時に計測できる利点がある.また, S. S. Stevensによると(cited in Gescheider, 1985, 132),ノイズが多い 状況 だと閾値という考え方が疑わしくなる2 ので,信号検出理論の方が好ましい. この理論は,感覚・知覚の実験で良く用いられるノイズの中からの刺激検出課題 の成績の評価に応用されている.さらに記憶の再認課題の成績の評価(Pollack & Norman, 1964; Pollack, Norman & Galanter, 1964; Banks, 1970; Lockhart & Murdock, 1970など)や,医療診断でも使われているという (Gescheider, 1985, 123-132). このように信号検出理論は実験心理学では基本的な測定手法の一つなので,様々 な文献で紹介されている.しかしそこでは理論的な説明が主であり,実際に成績 の評価に利用する際に重要な指標についてはあまり述べられていない.ほとんど の場合標準的な指標である$d'$の説明のみであり,$d'$と比べて利点の多いその 他の指標について触れたものは少ない.特に日本語のものはほとんどなく,あっ ても執筆された時期が古く最新の知見には触れられていない.よって本稿におい てそれら指標について説明していく. 以下でこれらの指標を,上述のように三種類に大きく分けて説明していきたい. まずは,Tanner and Swets(1954)が提案したオリジナルの信号検出理論による指 標である.これは上述のように様々な文献に言及があるが,以降の説明に必要な 最低限の知識を確認する意味もあるので,簡単に解説する.その後でROC曲線に よる指標と,ノンパラメトリックな指標とを順に説明していくことにする.

tbs-i@mtg.biglobe.ne.jp