【There is nothing permanent except change.】 <13> 乾の携帯が着信音を轟かせる。 「やあ・・・」 既に着信によって誰からか分かっている相手に対し、乾は声のトーンを少し落とした。 −ふむ…その声色ではやはり無理だったか− 初っ端から耳に痛い言葉を電話で寄こす相手など、声を聞かなくても思い当たるのは柳ともう一人だけだ。そして、この口調からして相手は一人に必然と限られる。 「余計な世話だ」 乾のその言葉に柳が電話の向こうで一瞬だけ息を呑む音が伝わってくる。してやったりと思えるものの、乾もそれを表に現すことはしない。 −ほう、貞治にしては上出来ではないか− 一瞬だけ、そこで乾の言葉が詰まったのを柳は聞き逃さなかった。 「もう少し待って欲しいそうだ」 そう言う乾の言葉はどこかに力も覇気もなく。 「やっぱりさ、海堂が俺を受け入れてくれる訳が無かったんだ。・・・俺、可愛い女の子になりたかったな。海堂が好きになりそうな、可愛い女の子にさ」 お前が女子になるなどという奇天烈なことを言うから想像してしまったではないか、と文句を付け加えることを忘れずに柳は乾に告げる。そんなところは昔から変わらないな、と思いつつ乾は柳の存在を有難く感じていた。 「心配、かけたようだな」 乾の中で、先日一緒に喫茶店にいた時の柳と海堂の姿が思い起こされた。 「あ、あれは冗談だったのだろう?」 乾が反論しなくなった事に気がついて、柳は電話の向こうの乾を簡単に想像出来た。向こうの乾に気づかれないように笑みをもたらす。 −まあ、そうならぬ事を祈っているよ。では− 乾が電話をきると、少しだけその場で動かなかった。 それだけが、乾に出来る全てだった。 04/06/01up |