【There is nothing permanent except change.】

<12>

海堂の誕生日に起こった出来事から数日。


校内や部活でも、乾と海堂は相変わらずテニスの事に関しては今までと変わらずに接していた。ただ、朝練に関しては海堂の方からしばらく一人でやりたいとの旨を告げた。その申し出を乾はいともあっさりと受け入れ、それでもメニューの方は組ませてもらうと、申し出てくれた。

今の海堂にとっては、そうした乾の心遣いも、そこまでしてくれる理由もあるのだろうかと迷ったが、

「俺と海堂の間の個人的事情とテニスは別だからな、深い意味はないさ」

海堂が言葉にするよ先に言われてしまえば、断る理由は何処かに仕舞われてしまう。もともと、テニスの為の乾との練習だったが、乾の作るメニューは海堂のことを本人以上に事細やかに作られているのだから海堂にとってマイナスになることはない。
乾は表面上穏やかにいつもと変わらないようだったが、海堂の側としては部活中はともかくこうして昼休みや放課後に乾と二人きりになると、あの日の乾との出来事を思い出して冷静ではいられなくなる。どうにも言葉や態度がぎこちなくなるのは自分でも十二分に分かっていたがどうにもできない。

次の日などは、朝練を調子が悪いということで休んでしまった。勿論それは乾も同様だったらしく、海堂が断るよりも先に練習の中止をメールで知らせてきたのだからやはり乾は海堂の行動を読んでいるのだろう。それでも、その日は部活を休むと言う訳にはいかず、実際乾に会うまで海堂は頭の中でどう振舞えばいいのかずっとシミュレーションしていた。
しかし、実際に乾に会ってしまえば海堂のそんな努力も水泡に帰してしまったかのように乾は変わらなかった。

「やあ、海堂」
「・・・っス」

海堂の想像と比較してもその態度は呆気ないほどで、やはり先日の告白は冗談だったのだろうと思わざるを得ない。それでもそんな乾の態度のおかげで何とか部活内でも誰にも海堂の緊張を悟られずにいた。





あの日、乾から手渡された小さな包みは靴紐とバンダナだった。

今使っているシューズに合いそうな空色の靴紐。
シンプルな柄だが、飽きのこない深いマリンブルーのバンダナ。

青をことのほか好む海堂だが、その包みを開けて海堂の好みを知り尽くしているかのような選択に驚きながらも、その影に隠されていた乾の感情を知った今となってはどちらも使うことが出来ず自室の引き出しに仕舞われていた。

河原から戻った海堂は、着替えもそこそこに和室の布団に倒れこむ。
頭の中でリフレインするのは今日の乾の台詞ばかり。



「すまない、海堂…ごめん」
「謝るな」
「でもごめん、ごめん海堂…俺、海堂のこと好きなんだ…ごめん…」



乾は海堂のことを好きだといった。
それはいったいいつからのことだったのかは海堂には分からない。けれども、乾は海堂への気持ちを隠しながら、先輩として海堂に接しようとしていたのだ。

(なんで・・・あの時・・・)

乾に抱きしめられながら、それでも海堂はその腕を振り解くことはなかった。

(おんなじ男同士なのに・・・嫌じゃなかった?)

仮にも相手は先輩で、同性で。
それでも乾のあの行為は嫌でもなく、それよりも・・・

(今、何考えた?)

自分の脳裏に過ぎった感情を掴もうとしたが、つるりとすり抜けて何処かへ向かっていく。それは海堂の望む方向なのか、それとも違う方向へと向かっていくのか。気がついた瞬間にはもう追いつくことが出来ない場所に行っているかのように。


たった一つ分かっていることはもう今まで通りではいられない、それだけだった。

04/06/01up

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