【There is nothing permanent except change.】

<11>

乾の告白を聞いて、海堂は今までの疑問がようやく解けてすっきりしたかのような気分だった。それと同時に、乾がずっと抱えていた気持ちを知りどう返事をしようすればいいか迷っていた。
何しろ同性に告白されたのだ、今まで先輩だと思っていた相手に対して告白されたことは、海堂に軽い混乱をもたらした。けれど、その選択肢に嫌だ、とか気持ち悪いという感情は何処にも存在していなかった。

「せん・・・」

海堂が乾に声をかけようとするが、それは完全に発することは出来なかった。
乾はその言葉で我に返ったように顔を上げると、腕を緩め海堂から離れる。

「すまない、海堂。今の言葉は忘れてくれ」

乾の言葉に海堂は混乱する。
乾は、もう一度だけ海堂に詫びるくるりと踵を返して河原から歩き出そうとしていた。その後ろ姿に海堂の何処かにモヤモヤとした何かが沸き起こる。そしてそのモヤモヤは思考よりも先に態度に表された。



「ふざけんな、先輩!!」

乾の動きが止まった。しかし、乾は海堂の方を見ようとはしない。それにも関わらず海堂は更に声をあげた。


「何なんだよ、先輩も柳さんも!
 そんなに俺のこと混乱させて…俺を何だと思ってんスか!」




乾は立ち止まったまま微動だにしない。
海堂は自分の声が届いていないかのようで、もう一度声を上げたかったのに、それよりも何よりも別な感情が喉を塞いで声が出ない。声の変わりに出てくるのは嗚咽のみ。自分が女々しくなって情けないのに、更に涙まで出そうになって海堂は拳で目を拭ったあとに唇を噛み締めて耐える。

背後から思いもよらぬ声が聞こえ、乾は思わず振り返る。
拳で眼を拭い、その場に立ち尽くす海堂の姿。その姿に思考を巡らせるよりも先に体が海堂の方へと向かい始める。

目の前には海堂の姿。
いつの間にか大切な存在になっていた彼は、乾の言動に傷つき、こうして涙を寄せる。乾は己の不甲斐なさを知りながら、先程までとうって変わりその場に立ったままであった。海堂がそんな乾に気がつき、制服の袖で眼をこすると顔を上げた。

「乾先輩」
「・・・・・・」
「俺は、正直先輩が俺のこと・・・その・・・好きだって聞いたとき驚いた」

海堂はぽつりぽつりと自分の正直な気持ちを言葉に表す。駆け引きも何もない、普段から不器用な海堂は今の自分の気持ちをゆっくりと、自分の持てる言葉の範囲で意思を乾に伝えようとしていた。

「当然なことだ。俺も・・・同性に告白されて海堂が受け入れるとは考えてないさ」
「今だって頭の中は混乱してる・・・だから、だから・・・」

海堂の語る言葉には、海堂の意思が確実に込められていて。その真摯な物言いに、乾の中でまだ希望が捨て去れない。そんな自分を密やかに自嘲する。

「返事は、もう少しだけ待ってください」
「かいどう」
「俺・・・先輩のことは嫌いじゃねえし、今もそう思えねぇし・・・」



イエスかノーか、海堂なら迷わずに答えを出すと思っていた乾は、この予想外の海堂の反応に戸惑う。それは海堂が真剣に乾のことを考えてくれていると同時に、自分がまだ淡い期待を抱きそうで、この気持ちに振り回される不安もあった。答えが出され、自分の中にある感情が否定されなかったことは確かではあるが。

「わかった」



乾の納得に、海堂も何処かで安心したらしいようである。
ふと、我に返れば二人ともかなり近い距離に居て。今更ながらに意識させられる。海堂は恥ずかしくなって、既に乾から顔を逸らしていた。日も暮れ始め、そろそろ互いに自宅に戻ろうと距離を少し離す。

「ごめん・・・遅くなってしまったね。送ろうか?」
「大丈夫っす、一人で帰ります」
「そっか、そうだよな」

そういって乾は照れくさそうに口の端を上げた。じゃあ、と海堂が先にその場から立ち去ろうとした時、乾が何かを思い出し海堂に声をかけた。


「先輩?」
「これ・・・大した物じゃないけれども」

そう言って、乾が鞄の中から取り出したものは小さな包みだった。




「海堂、誕生日おめでとう」


04/06/01up

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