China Connection
〜諸星警部対森松警部補〜
(第3話)
死体が検死に回され、その結果が出るのは2、3日後になる、と言うので時人たちは病
院を出た。
その後、諸星警部たちは話し合った末、結果が出るのに2、3日は掛かるのだから、と
いうことで神奈川県警と横浜署に引き続き捜査をするように依頼すると、一旦警視庁に帰
ることにした。
*
時人と諸星警部が並んで車に乗り込むと、車は走り出した。
「…それにしても…。犯人はどうしてあの場所を知っていたんでしょうか」
時人が言う。
「…? どういうことだ?」
諸星警部が聞いた。
「…いえ、その安川、と言う人から電話が掛かってきて、警部たちは会うことになったん
でしょ? そして僕は諸星警部から連絡を受けて初めてその事を知った…」
「それがどうした、ってんだ?」
「いえ、…となると、犯人は何処で警部たちとその被害者があの倉庫街で会うことを知っ
たんでしょうか?」
「…まあ、どこかで知ったんだろうな」
「だとしても、ですよ。これから犯人達につながる重要な情報を話そうとしている人間が
そう簡単に何の関係もない人物に話すとも思えませんが…」
諸星警部は時人が何を言おうとしているのかを理解した。
「…先生、もしかして先生はオレたちの中に…」
「いえ、僕の思い過ごしかもしれませんよ。確かに常盤省吾が暗躍していた頃は官憲にも
彼の協力者はいたかもしれませんが、僕が大連で彼と遭って彼が逮捕された後、警視庁の
中で彼の協力者だった人物はすべて排除されたんでしょ?」
「…ま、そうだな。あの時はかなりの人物が本庁から去っていったからな」
確かにある日突然警視庁から何十人という人間が解雇され、警視庁を去っていった時、
諸星警部は一体何が起こったのかと思ったが、後になって帰国した時人から事情を聞いた
時は妙に納得したものだった。
とはいえ、今もこうして猟奇同盟の残党が来日してきて日本で活動をしようとしている
の見ていると、猟奇同盟の息の根を停めるのにはまだまだ時間が掛かるかもしれない。
事務所の前で車が停まり、中から時人が降りてきた。
もう一台の車からは巴たちが降りてきたのが見えた。
「じゃあな、先生」
諸星警部が言う。
「はい、それじゃ」
そして車が去っていった。
そして時人が階段を登って事務所のドアを開けようとしたときだった。
「あ、御神楽時人さん…、ですね?」
一人の男が時人に近付いてきた。
「あ、そうですが」
「郵便局のものです。あなたに電報が届いてますよ」
そういうとその郵便局員は時人に電報を渡した。
「どうも済みませんでした」
そして郵便局員は去っていった。
時人は電報の文面を見る。
「…これは…!」
「先生、どうしたんですか?」
蘭丸が聞く。
「いえ、何でもありませんよ」
そういうと時人は電報を胸のポケットにしまった。
そして時人は事務所に入っていった。
*
それと同じ頃、警視庁捜査一課のある机。
諸星警部と栗山刑事が椅子を向かい合わせにして座り、今後の捜査方針について話して
いた。
他の捜査員は別の事件で捜査に出かけているのであろう、周辺には誰もいなかった。
その時、1本の電話がかかってきた。
栗山刑事が電話を取る。
「…はい、捜査一課。はい…。はい、少々お待ちください。諸星警部!」
そして栗山刑事は傍にいた諸星警部を呼んだ。
「なんだ?」
「警部にお電話です」
そして栗山刑事は諸星警部に電話を渡した。
「…もしもし、電話替わりました」
諸星警部が言う。
「…うん、うん。…なんだって? …うん、わかった。じゃあ、今夜9時に2丁目で。…
わかった。いいか、このことは誰にも言うなよ。それじゃあな」
そして電話を切る。
「…どうしたんですか、警部?」
栗山刑事が聞く。
「いや…、松さんの知り合いとか言うヤツから今電話があってな」
「松さんの?」
「ああ。そいつが何でも猟奇同盟の残党らしきヤツらの情報を掴んだって言うんだ」
「それで?」
「うん。今日の夜9時に2丁目で会うことになった」
「9時に、ですか?」
「ああ。2丁目は夜になっても人通りが多い所だからな。そこなら組織のヤツらも下手に
手が出せないだろうと思ってな」
「…どうします? 先生に話しておきましょうか?」
「いや、いいだろう。これはあくまでもオレたちの仕事だからな」
「…それにしても」
「なんだ?」
「松さんといい、殺された安川といい猟奇同盟の情報を掴んでなければこんなことにはな
らなかったかもしれませんね…」
「…かもな。でもそれだけ猟奇同盟の連中も必死なんだろうな」
「必死?」
「ああ。ああいうことになって組織の統一が取れなくなっちまったんだよ。だから連絡が
上手くいかない所があるんだし、どうしても何処からか情報が漏れちまうんだろうな。ま、
おかげでオレたちも何とか連中の活動を防ぐことができたんだけどな」
*
夜8時半近くのことだった。
諸星警部と栗山刑事が出かける準備をしている。と、
「…どちらへ行かれるんですか?」
森松警部補が諸星警部に聞いてきた。
「いや、有力な情報を持っているというものに会いに行く所なんですが…」
「そうだ、警部。森松警部補たちにも一緒についてきてもらいましょうよ」
栗山刑事が言う。
「しかしなあ…」
「よろしければお願いできますか? 私も興味ありますから」
森松警部補が言う。
「…わかりました。それじゃ、一緒に行きましょう」
諸星警部が言う。
*
銀座2丁目。
夜9時近いと言うのに銀座は相変わらず人通りが多かった。
そんな街角の一角に諸星警部たち4人がいた。
諸星警部はここを待ち合わせ場所に使っていたのだった。
「…それで警部、その人物の特徴などはわかってるんですか?」
栗山刑事が聞く。
「ああ、何でも灰色の背広に、ハンチング帽を被ってる、と言ってたからな。それに松さ
んのことを話せば知ってると思うぜ」
「ああ、そうか。松さんの知り合いでしたものね」
「…あれ、煙草を切れてる」
不意に川場警部補が言った。
「…近くに確か煙草屋がありましたよね。一寸買ってきます」
「じゃ、私も」
そう言うと森松警部補と川場警部補はその場を離れた。
それから2、3分経っただろうか。
不意に銃声のような音が聞こえた。
「…どうしたんだ?」
諸星警部があたりを見回す。
「こっちの方から聞こえてきました!」
と言って栗山刑事が指を指した。
「言ってみるぞ!」
「はい!」
そして二人は走りだした。
おそらく、2、30メートルは走っただろうか。
諸星警部たちは向こう側から誰かが自分達に向かって走ってくるのを見た。
「誰だ!」
諸星警部が叫ぶ。と、
「あ、諸星警部ですか?」
聞き覚えのある声がした。
見ると森松警部補と川場警部補の二人だった。
「…森松警部補達でしたか…」
「いや、銃声のようなものが聞こえてきたので…、一体どうしたのですか?」
「いや、煙草を買って戻ってくる途中で我々も銃声を聞いたのでね」
「一体何処から聞こえたのでしょうか?」
「確かこの辺から聞こえてきましたよ」
「よし、手分けして探そう!」
そして4人は散った。
そして2、3分ほど経った時のことだった。
「警部!」
不意に栗山刑事の声が聞こえた。
「どうした!」
諸星警部も大声で聞き返した。
「こっちに来てください!」
そして諸星警部たち3人は栗山刑事の声のした方向に向かっていった。
「どうした?」
諸星警部が栗山刑事に聞いた。
「…あれを見てください」
そして栗山刑事が指を指す。
「うっ…」
諸星警部が絶句する。
そこには一人の男が死体となって転がっていたからだった。
*
やがて諸星警部が連絡を入れ、警視庁から刑事達が現場に駆けつけ、現場検証が始まっ
た。
「…諸星警部!」
一人の警官が諸星警部の下に駆け寄ってきた。
「…なんだ?」
「御神楽先生が諸星警部に会いたいと言ってますが…」
「わかった、通せ」
「はい」
程なく御神楽時人が諸星警部の下に駆け寄ってきた。後ろには巴たちもいる。
「蘭丸君から話は聞きましたが…」
そう、諸星警部は時人にも連絡を入れておいたのだった。
「見ての通りだ」
そして時人は現場を見回す。
「…またやられましたね…」
時人が呟く。
「ああ。犯人はよほど警察のウラを掻くのが上手いようだな」
「…どういうことですか?」
時人が諸星警部に聞いた。
「あ、そうか、詳しくは話してなかったな」
そして諸星警部は時人に事件の概要について簡単に説明した。そして、何故自分達がこ
んなところにいるのかも。
「…そんなことがあったんですか…」
時人が言った。
「ああ。しかしここまで来るとな…」
「それにしても妙ですな」
森松警部補が言う。
「妙、といいますと?」
「いえ、今夜、ここで亜被害者と会うことになるのを知っているのは我々だけしかいない、
と言うのに何故犯人は我々がここで会う、ということを知ったんでしょうか?」
「まあ、それは何とも言えませんが…」
「…まさか…」
そう時人が呟いたのを諸星警部は聞き逃さなかった。
「先生、まさか、って何だよ?」
「え? …いえ、何でもありませんよ。僕の考え違いかもしれませんし」
*
そして検死解剖をするために病院へ死体を送り届けた後、一同はひとまず戻ることにし
た。
「…どう思う、先生?」
諸星警部が時人に聞いた。
しかし、時人からの返事は返ってこない。さっきから時人は何事か考え事をしているよ
うだった。
「…おい、先生!」
諸星警部が今度は強い調子で話しかけた。
それでようやく時人が気づいたか、
「あ…。な、なんですか、警部?」
「どうしたんだよ、先生? さっきから考え込んじゃってよ」
「…いえ、一寸気になることがあって」
「気になること?」
「はい…」
「その、気になること、って何だよ?」
「いえ…、僕の思い過ごしかもしれませんし…」
そういうと時人はまた黙り込んでしまった。
そして時人は事務所の前で諸星警部たちと別れると、「君達ももう帰っていいですよ」と
巴たちを帰すと蘭丸と二人で事務所の中に入っていった。
*
次の日の朝早くのことだった。
「先生」
蘭丸が時人の元に駆け寄ってきた。
「どうしたんですか、蘭丸君?」
「先生宛に電報が届いてますよ」
そして蘭丸が時人に電報を渡した。
「ありがとう、蘭丸君」
時人はそう言うと電報を受け取り、文面を確かめる。
そして何かに納得したかのように軽くうなずくと、
「蘭丸君、僕は今から警視庁に行ってきますよ」
と蘭丸に話しかける。
「こんな朝早くにですか?」
「ええ。鹿瀬君たちにはそう伝えて置いてください」
「はい」
こんな時間から警視庁に行く、と言うことはよほど重大な用なのだろう、そう感じた蘭
丸はそれ以上は聞かなかった。
*
「諸星警部、いますか?」
ドアが開いて、時人が入ってきた。
丁度目の前には諸星警部がいた。
「…先生、珍しいなあ。先生が一人で来るなんて」
「いえ、諸星警部にちょっと話したいことがありまして」
「…オレにか? 何のようだ?」
「いえ…、ちょっとその…」
諸星警部は時人が何を話そうと思ってるのかに気づいたようで、
「…わかった、一寸待ってろ」
そう言うと出かける支度をして、部屋を出て行こうとする。
「警部、何処に行くんですか?」
栗山刑事が聞くが、
「すぐに戻ってくるさ。あ、それから、森松警部補達が来たら待っててくれ、って言っと
いてくれ」
「…わかりました」
そして二人は捜査一課を出て行った。
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