金田一耕助(ジッチャン)の名にかけて…
〜激突! 金田一一VS怪盗キッド〜

第4話「金田一少年のリベンジ」
Chapter.4:Young Kindaichi's revenge



「幻の宝石『レッド・ライ』日本初公開!」

 という記事が紙面をにぎわせたのは怪盗キッドが高井デパートで「パープルティアース」
を盗み、はじめたちの前から姿を消して二週間ほど過ぎ、11月に入ったある日のことだ
った。
 記事によるとヨーロッパのさる王家から伝わり、現在市場に出れば軽く数十億は超える
だろう、と言われている門外不出の宝石「レッド・ライ」がこのたび関係者の協力を得て
日本で初公開されることが決まった、ということだった。
 しかも公開は来週日曜日の1日だけ。場所は不動山市にある「不動ビル」内にある「ギ
ャラリー天城」で公開される、ということだった。

「…来たか…」
 その記事が書かれた新聞を読んではじめは呟いた。
 おそらく、怪盗キッドは近日中にこの宝石を狙ってくるだろう。二課の中森刑事から聞
いた話では怪盗キッドは必ず予告をしてから盗みをする、と言ってるから、おそらく今回
もそうしてくるに違いない。
 そして、そのときこそ…。
「オレが勝つか、ヤツが勝つか…。勝負の始まりだぜ、怪盗キッド」
   *
 それから数日は何事もなく過ぎ去っていった。
 はじめも剣持に1日に1度は聞いてみるのだが、二課のほうからはそういった連絡は入
っていない、とのことだった。
 今回の件に関して、一応明智が提案者、ということになっているので何かあったら剣持
に連絡をして欲しい、とはじめは言っていたのだった。

 そして、いよいよ公開が迫った明後日に迫った日、すなわち金曜日のことだった。
「怪盗キッド、警視庁宛に予告状!」
 という記事が新聞をにぎわせた。
 記事内容によると、昨日警視庁捜査二課宛てに1通の手紙が届き、それには
「今度の日曜日、ギャラリー天城で展示される宝石『レッド・ライ』を戴く 怪盗キッド」
 とだけ書かれていた、ということだった。
    *
 昼休み。
 はじめは自分の席で携帯電話をいじっていた。
「はじめちゃん」
 美雪がはじめに近付く。
 それを見たはじめは慌てて制服のブレザーの胸ポケットに携帯電話を隠した。
「…何してたの? メールチェック? それともHサイトでも覗いてたの?」
「い、いや、何でもねーよ。それよりさ、美雪…」
「…わかってるわよ。怪盗キッドが警視庁宛に予告状送りつけてきたんでしょ?」
「あ、知ってたか」
「知ってたか、じゃないわよ! アレだけ新聞に出れば否が応でも目に付くわ」
「…そうだな。ま、オレも昨日オッサンからそういう連絡があったから知ってたんだけど
な」
 実は昨日の夜のうちに剣持警部からはじめ宛に電話が来ていて、その際にキッドから二
課あてに予告状が届けられた、と知らされていたのだった。科研で調べてみた所、これま
でに送りつけられた予告状と同じものだということがわかったらしい、ということも。
「…でもあれからどうしたのかしらね…? もう3週間経つのに、何の情報も入ってきて
ないんでしょ?」
「ま、ヤツがその程度で捕まるとは思えないけどな」
    *
 学校が終わり、帰り道を歩くはじめと美雪。
「…ねえ、はじめちゃん。本当に大丈夫なの」
 美雪がはじめに聞いた。
「大丈夫だよ。今まではあのヤローに散々してやられたけど、今度からはオレが逆襲する
番だ。…そういえばな美雪」
「何?」
「…明智さんがオレにチェスについてこんなこと言ってたんだよ」
「そういえば明智警視、チェスが得意だったのよね」
「ああ。で、その言った言葉ってのがな『人間がチェスを差す以上、どんなに追い詰めら
れても必ず形勢逆転の一手はある。その瞬間を見逃すな』だったんだよ」
「どういうこと?」
「ま、要は局面をよく見ろ、って言うことだろうな。…オレは今、その形勢逆転の一手を
探している所なんだ。その一手を差すことが出来りゃその瞬間に、ヤツが今まで差した手
が己の敵となって襲いかかってくるんだ」
「己の敵?」
「一見有利そうに見えて実はこの一手しか指すことが出来なくなる、ってヤツだよ。そう
すれば占めたもの。後はこっちが有利になるだけさ」
「…でも、聞いた話だけど、怪盗キッドの方だって今まで何度も厳重な警戒を突破してき
た、って言うんでしょ? はじめちゃんや警視庁の人たちが何考えてるかわからないけど、
本当に怪盗キッドを捕まえることなんて出来るのかしら?」
「心配すんな。今度こそ大丈夫だって」
 そう言うとはじめは美雪の肩に手を回した。
「…なれなれしく触らないで!」
 そう言うと美雪ははじめの手を思い切りつねった。
「…イテッ!」
「全くはじめちゃんは油断も隙もないんだから」
「…肩くらいいいじゃねーかよ」
「いつからそんな仲になったの?」
 そういうと美雪はすたすたと歩きだした。
 慌てて後に付いていくはじめ。
「それよりさ、美雪」
「わかってるわよ。日曜日不動ビルの前で、でしょ?」
「それならいいんだけどな。また後で連絡するぜ」
   *
 そして、怪盗キッドが予告した日になった。
 午後4時30分を回った頃だろうか、はじめは不動ビルの中に入っていった。
 その一角の部屋にはじめが入った。
「…お、来たか」
 剣持が出迎えた。
 どうやらそこは指揮所になっているのか、茶木警視や中森警部といった二課の面々、さ
らには明智も来ていたのだ。
「…警備のほうはどうなってるの?」
「ああ、ばっちりだぜ。今日は所轄署の方や非番の連中にも頼んでこの辺の警備をしても
らってるからな。何かあったらすぐに連絡してもらうように頼んだぜ」
「そうか」
「…ところで金田一君」
 明智がはじめに話しかけた。
「何だよ」
「二課を説得した人間として言わせてもらいますが…、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だ。よっぽどのことがない限り、ヤツは必ず来る。今までだってそうだったんだ
ろ?」
「…まあ、確かにそうですが…」
 明智はなにやら不安そうな顔である。
「…まだ心配なのか?」
「…心配、というほどではないんですけどね。一応ここに来る者はチェックしてはいます
が」
「…既に怪盗キッドが紛れ込んでるかもしれない、って言うのか?」
「可能性としてはあるでしょう。彼は変装の名人だといいますからね」
「…その可能性は無きにしも非ずだけどな。…でもまだ大丈夫だと思うぜ。ここにいる警
官達は全員警視庁から連れてきてるんだろ?」
「…一応そうですけどね。何かあったら必ず二人以上で行動するように言ってありますし、
何かあったら連絡するように言ってありますし」
「なら、まだ大丈夫だぜ」
「…ま、とにかく今は君を信じることにしましょう」
   *
 午後5時30分を少し回った頃だろうか。
「…オッサン」
 はじめが剣持に話しかけた。
「…どうした?」
「屋上行きたいんだけどいいか?」
「…じゃあ、一緒に行くぜ」
「出来れば一人で行きたいんだけど…」
「…金田一、もしかしておまえ怪盗キッドの変装か?」
「まさか。…わかったよ、じゃ一緒についてきてくれ」

 そしてビルの屋上近くに来たときだった。
「…オッサン、ここからはオレ一人でいっていいか?」
「…どうしたんだ?」
「いや、ちょっとな。…もしオレを疑うんだったらこの入り口で見張っててもいいぜ。そ
れでな、オッサン。ちょっと話があるんだけど…」
   *
 6時近くともなるとさすがにあたりは暗くなってきていた。
 不動ビルの屋上。はじめはその一角にあるベンチに腰掛けていた。と、入り口の方でな
にやら階段を昇ってくる音がした。
 はじめがその音のしたほうを見ると、美雪が剣持警部と何か話をしていた。
 剣持がなにやらはじめの方を指差して話している。
 そして、
「…待った?」
 美雪がはじめの元にやってきた。
「お、来たか」
「今そこでここにいる、って聞いたから」
「ま、座れや」
 はじめがそう言うと美雪ははじめの隣に座った。

「…ホントに怪盗キッドは来るのかしら?」
 美雪がはじめに聞いた。
「さあな。でもよ、ヤツは必ず予告日に来る、って言ってるだろ? 今日はまだ6時間以
上あるんだ。今来ようが11時59分に来ようが今日は今日だからな」
「…確かにそうよね」
「ま、でもこれだけの警戒網だ。ヤツだってそうおいそれとは忍び込めねーだろ」
「そうだといいけど…」
「ただ…」
「…どうしたの?」
「…おまえも知ってるだろ? 怪盗キッドってのは変装の名人だからさ、もう誰かに変装
して忍び込んでるんじゃないか、ってね」
「…まさか、あたしのこと疑ってるの?」
「そんなことは言ってねーだろ」
「よかった。あたしが怪盗キッドだと疑われてたらどうしようか、と思ってたわ」
「いくらなんでもヤツは男だぜ。お前みたいな女に変装できるはずがねーだろ。どんな変
装の名人だってどっかでボロが出るもんなんだからよ」
「本当?」
「本当だ、っつーの。だから心配するな」
 そう言うとはじめは美雪の肩に手を回した。
「…触らないでよ!」
 美雪は慌ててはじめの手を振り払う。
「…全くお前はガード固いな…。昨日もそうだったよな」
「…そ、そうだったわね」

 それから10分ほど過ぎた時だった。
「…そういえばなんかのど渇いたな…。美雪悪ィ、このビルの前にコンビニがあっただろ? 
これで何か飲み物買って来てくれねーか? おまえの分も買ってきていいからさ」
 そういうとはじめは千円札を取り出して美雪に渡した。
「うん、わかったわ。ちょっと待ってて」
 そういうと美雪は下へ降りていった。

 それから4、5分経っただろうか。
「……」
 はじめは携帯電話を取り出すと、メモリーを呼び出しダイヤルボタンを押した。
 数回の呼び出し音の後、
「あ、美雪? オレだけどさあ、今どこ? コンビニのすぐ近く? うん。それでさあ、
何か腹も減っちゃってさあ。ついでにパンか何か買ってきてくれよ。うん、頼むな」
 そう言うとはじめは電話を切った。
「さて、と…」
 はじめは剣持警部のいる入り口を見た。
「オッサン!」
 そして剣持を呼び出した。
   *
 それから5、6分経っただろうか。
「はい、お待たせ」
 美雪がはじめのところに戻ってきてコンビニの袋を差し出した。
「お、サンキュ」
 そしてはじめはコンビニの袋からパンの入った袋と缶コーヒーを取り出した。
「ほらよ」
 そして美雪にも缶を渡した。
「ありがと」

 はじめは美雪の顔をさっきからじっと見ていた。
「…どうしたの? あたしの顔に何か付いてる?」
「なあ、美雪」
「なに、はじめちゃん?」
「……おまえ、本当に美雪か?」
「な、なに言ってるのよはじめちゃん。まさか、あたしを疑ってるの?」
「いや、怪盗キッドは変装の名人だって聞いたからさ、ひょっとしておまえに変装してる
んじゃねえかな〜、なんて思ったりしてさ」
「何馬鹿なこといってるのよ」
「そうだよな、そんなことねえよな。…じゃあさ、美雪。おまえが本物の美雪であること
を確認する為にいくつか聞くけど、怒らないでくれよ」
「もちろんよ」
「…まず、基本中の基本。おまえの名前は?」
「七瀬美雪よ」
「星座と血液型は?」
「牡羊座のA型」
「オレたちが通っている高校と学年は?」
「私立不動高校の二年生」
「じゃ、最後に質問。オレ最近何か物忘れがひどくてさあ、恥ずかしいことに自分のケー
タイの電話番号忘れちまったんだよ。おまえ知ってるよな? さっきもおまえに電話かけ
たし」
「もちろん」
「何番だっけ?」
「090−43☆◎−36※#」
「もう一回言ってみろよ」
「090−43☆◎−36※#」
「090−43☆◎−36※#、ね…クックック…ハハハハハ」
 いきなりはじめが笑いだした。
「何がおかしいのよ?」
「…馬脚を表したな、美雪。いや、怪盗キッドさんよお!」


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