金田一耕助の名にかけて…
〜激突! 金田一一VS怪盗キッド〜
第2話「邂逅・探偵と怪盗」
Chapter.2:Come across,Detective and The Phantom Thief
3日後、怪盗キッドが予告した日。
駅前にある高井デパートの最上階にはじめと美雪の二人はいた。
その日は開催中の「世界の秘宝石展」の最終日であり、二人は会場の様子を見に来てい
たのだ。
その宝石は一番目立つ所に展示してあった。
「…これがその、『パープルティアース』か…」
「綺麗…」
美雪が呟く。その宝石は確かに美雪でなくとも見ている人の心をひきつける何かを持っ
ているようだ。
「…これが今回の目玉なんですよ」
いきなり二人の背後で声がした。
何か、と思った二人が振り返るとそこには一人の中年の男が立っていた。
「…あんたは?」
はじめが聞く。
「…私、不動博物館の館長で青柳と申すものです。…金田一さんと七瀬さん、ですよね」
「そうですけど、何か?」
「警視庁の茶木警視からお話は伺っております。こちらへどうぞ」
そしてはじめと美雪は青柳の招きで部屋の奥へと言った。
不意にはじめの肩が一人の男の肩と触れ合った。
「あ、ごめん」
「いや、こっちこそ」
はじめは気づいていなかった。
その展示会に入った男がパープルティアースを見つめる目つきが鋭くなっていたことを。
*
はじめたちが奥の部屋に招かれるとそこには二課の中森警部がいた。
「お待ちしてましたよ、金田一くん」
「あ、中森警部」
「いや、君に来て欲しいと言ったのは私でして。今回は君にも知って欲しいことがありま
して」
「知って欲しいこと?」
「はい。…その前にご紹介しましょう。そちらの方は不動博物館館長でいらっしゃる青柳
孝一郎さんです」
「今そこで挨拶したぜ」
「あ、そうですか。…なんでも今回の宝石展で数々の宝石をご提供いただいたそうで、今
回の事件に関しても我々にご協力をいただいてます」
「いやあ、まさか私共の宝石が狙われるとは…。もしヤツに盗まれたとなると我々の信用
にもかかわることですので…。何とか未然に防いで欲しいんですよ」
「…で、オレに何のようなんだい?」
「あ、実は金田一くんにも知っていただきたいことがありまして」
「…というわけなんですよ」
中森警部は「あまり詳しいことは教えることは出来ないが」と前置きをした上で、今回
の事件に関しての警備の内容についてはじめに教えた。
「…ふーん。それにしても4人も警備員をつけるなんてね」
「これは青柳館長のたってのお願いなんですよ。勿論我々も警備員室で張っていますし、
一課の明智警視も今夜こちらにこられるそうですし」
「明智さんが?」
「はい。明智警視本人からの申し出があって…。今夜は明智警視と剣持警部にもここに来
てもらうことになりました」
「…ったく。明智さんも何考えてんだか…」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないんだ。…ただよ、オッサンに調べてもらったけど、その、怪盗キッ
ドってのは何重もの警備を突破して宝石を盗んだんだろ? 本当に安心できるのかね?」
「勿論各階には警備員を配置しますし、出入りする人間は厳しくチェックします。エレベ
ーターも停めますから、ヤツはよほどのことがない限り中には入ってこれないはずですよ」
「ふーん…」
そしてはじめと美雪の二人は一旦高井デパートを出た。と、
「…美雪、おまえはもう帰ってろ」
「…どうして?」
「いや、おまえが邪魔だ、と言うわけじゃねーんだが…。おまえがいるとちょっと面倒だ
からな」
美雪ははじめが言おうとしていることを悟った。
「…はじめちゃん、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ、心配するな」
「わかったわ。何かあったら連絡頂戴ね」
「勿論」
そして美雪は帰っていった。
*
そうこうしている内に高井デパートは閉店時間を迎えた。
ちょうどその頃、今回の警備の指揮を取る、と言う茶木警視が到着し高井デパートに入
っていった。
はじめはその様子を近くにある喫茶店から眺めていた。
先ほど剣持警部から「これから明智警視とともにそちらへ向かう」との連絡があり、は
じめが待ち合わせ場所にその喫茶店を指定したのだ。
「…美雪にだけは連絡しとくか…」
そう思ったはじめは携帯電話を取り出すとメモリーを呼び出し美雪の携帯電話の番号を
出そうとしていた時、喫茶店に見慣れた姿の男が入ってきた。剣持警部である。
はじめはそれを見ると携帯電話をしまった。連絡は後でいいだろう、と判断したのであ
る。
「…よお、金田一」
「待ってたぜ、オッサン。…それより明智さんは?」
「警視なら茶木警視の所にいったぜ。…それよりお前、まだメシ食ってねえんだろ?」
「…まあな」
「弁当買っといてやったぞ。まあ、こっち来いや」
そしてはじめと剣持警部の招きで車の中に呼ばれた。
「…ふーん。そんなこと中森警部と話したのか」
はじめから話を聞いた剣持警部は呟いた。
「…今回の件に関しては明智警視も興味を持ってるらしくてな。オレたちは担当が違うっ
てのにわざわざ無理を言って捜査陣に加えてもらったらしいんだ。勿論実際の指揮は茶木
警視が執って、明智警視は立会いみたいな形なんだけどな」
「…でもよオッサン。オッサンも聞いたと思うんだけど、その怪盗キッドって盗みの手口
にマジック使う、ってんだろ? これだけ厳重な警戒してもヤツは何らかの隙を突いて盗
み出すんじゃねえのか?」
「まあ、オレも茶木警視や中森警部から話を聞いただけだから何とも言えねえが、ヤツは
変装の名人でもあるらしいからな」
「変装の名人?」
「ああ。だから身内だからと言って安心も出来ねえらしいんだ」
「ふーん…。それじゃ今オレが話してるのはオッサンはオッサンでも怪盗キッドが変装し
てるオッサンだったりして」
「バカ言え。オレはヤツがどんな姿をしてるのかすら知らねーんだ。逆に言うと見たこと
もねえヤツにどうやって変装するんだよ」
「冗談だよ」
…と、剣持警部は車の中にある時計を見た。
「…もうこんな時間か。金田一、行くぞ」
「何処へ?」
「警備員室だ。そこに明智警視がいるそうだからな」
警備員室に入ると既にそこには明智警視と何人かの警察官、そして今回の宝石展の宝石
を提供した、と言うことからか青柳が詰めていた。
室内のモニターには各階の様子が映し出されていた。
本来なら室内の電気もすべて消灯しているはずなのだが、この日は怪盗キッドが来る、
と言うこともあってか室内の電気はすべて点けられていた。
そしてその中には警備に当たっている警官以外誰もいない。
普段のデパートと言うのは買物客でにぎわっているものだが、こうして買物客が一人も
いないデパートと言うのもある意味異様な感じがする。
「…ヤツは来るんでしょうか?」
明智警視が呟いた。
「…きっと来ますよ。これまでヤツは必ず予告した日に来てますからね」
茶木警視が言う。
時々警備室には警備に当たっている警官から無線連絡が入ってくるが、今の所これと言
って不審な人物は見かけていない、と言うことだった。
しばらくはじめたちはその様子を見ていた。と、
「…オッサン。屋上へ行っていいか?」
はじめが剣持警部に言った。
「屋上へ?」
「…いや、一寸確かめたいことがあってな」
「…よし、じゃオレも行く」
「…でもな…」
「おまえ一人じゃ何が起こるかわからねえからな」
「…わかったよ」
「明智警視、屋上へ行ってきます」
剣持警部が隣にいる明智警視に言う。
「屋上へ?」
「いえ、金田一のヤツが屋上へ行きたい、と言うもんで」
「…わかりました、気をつけて。それから剣持君」
「はい?」
「エレベーターは現在最上階で停まっていて利用できませんよ。階段を使ってくださいね。
それと、念のために無線機を持っていってください」
「…わかりました」
そして剣持警部は明智警視から無線機を受け取った。
*
高井デパート屋上。
「…はあ、階段を上るのがこんなに大変だとは思わなかったぜ」
二人はようやく屋上にたどり着いた。
屋上はゲームコーナーや小さいながら子供向けの乗り物などが置いてあり、今はいずれ
の電気も切れていた。
しかし、いつもと違う所は――勿論怪盗キッドの予告した日、と言うこともあるのだろ
うが――その屋上もライトが煌々と照らされている所だった。
そしてその屋上にも何人かの警察官が張っていた。
「…しかしほんとにすごい警備だな…」
はじめがつぶやく。
その後ろでは剣持警部が無線機を取り出して、おそらく明智警視にであろう、屋上に到
着したことを報告していた。
近くにあったベンチに腰掛けるはじめと剣持警部。
「…ところで金田一」
剣持がはじめに問いかけた。
「…なんだよ、オッサン?」
「…下で聞こうか、とも思ったんだが…。何で屋上なんかに来たんだ?」
「…いや、まさか堂々と正面玄関から出入りする泥棒はいねーだろ? だとしたらヤツが
…怪盗キッドがこのデパートに潜入する、となったら屋上か地下だ。でも地下から潜入す
るとしたら、どうしても地上に入らなきゃならねーだろ? デパートの周りを不審な人物
がうろうろしていたら警官じゃなくてもおかしいと思うだろ」
「…だからおまえは屋上が怪しい、と思ったわけか」
「…そういうことだよ。…でもな」
「…どうした?」
「…なんか不安なんだよなあ…。確かに警備は完全だと思うんだが、なんなんだろうな、
この不安は…。もしかしたら怪盗キッドはもうこのデパートの中にいるかもしれねーんだ
よな」
「…何を言い出すんだ、おまえは?」
「いや、可能性の問題だよ。…そうだろう? 怪盗紳士だってあらかじめ変装して潜入し
てるだろ? それと同じだよ。オッサンさっき言っただろ? 『ヤツは変装の名人だ』っ
て」
「…ああ、確かに言ったな」
「だからヤツはもうこの中にいるんじゃないか、そんな気がしただけだよ」
そのときだった。
不意に剣持警部の持っていた無線機が音を立てた。
「はい、剣持。…なに? わかった、すぐ行く」
「どうした、オッサン?」
「…怪盗キッドが地下1階に現れたそうだ」
「何だって?」
「おまえ達、すぐ地下1階へ行け!」
剣持警部が近くにいた警官たちに命令する。
「わかりました!」
警官たちは下へと向かった。
「ほら金田一、行くぞ!」
そう言うと剣持警部も出口に向かって2、3歩歩き出した。と、
「一寸待てオッサン!」
はじめが叫んだ。
「…どうした?」
「下へ行くな! ここにいてくれ!」
「…どういうことだ?」
「おそらくこれは怪盗キッドが仕掛けた罠だ! ヤツはそっちに警官たちの注意を引いて
別の所から逃げ出そうとしてるんだ! それに…」
「おい金田一!」
突然剣持警部がはじめの言葉をさえぎった。
「…どうしたんだ?」
「後ろを見てみろ!」
そう言われて後ろを振り向くはじめ。
二人の目の前に一人の人物がいた。
白いタキシードにマント、そして白いシルクハットをかぶったモノクル(片眼鏡)の人
物…。
「…まさか…おまえ…」
この男が怪盗キッドか?
はじめはそう直感した。
※ 邂逅(かいこう)…めぐりあうこと。
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