週刊誌記者殺人事件
〜金田一少年VS名探偵コナン・第一の戦い〜

(第4話)


〈File・7 捜査第二段階〉
 宇都宮正隆が死んだ翌日、再び事情を聞くために竹中和人、黒須雅巳、久保仁美の3人
が再び警察署に呼ばれた。
 横溝刑事に呼ばれた小五郎は再び警察署を訪れた。

「…何でまた、3人に事情なんか聞こうと思ったんですか?」
 小五郎が聞く。
「いえ、早川さんに続いて宇都宮さんがああいうことになりましたからねえ。…いえ、聞
き込み調査自体はこれとは別に進めてますよ。ただ、早川さんの件で我々がマークしてい
た3人にもやはり話は聞いておかないといけない、と思ったものですから」

 取調室では黒須雅巳が事情聴取を受けていた。
 例によって3人は隣の部屋から覗いている。
(…おや?)
 コナンは彼の胸に何か光るものをみつけた。
 よく見るとそれはペンダントで、「S.N」とあった。
(…S.N? Masami Kurosu ならM.Kだよな…)

 次に入ってきたのは久保仁美だった。
(…おや?)
 前に見たときは彼女は眼鏡をかけていたはずだが、今日は眼鏡をかけていなかったのだ。
 後で取調官に聞いたところ、彼女は昨夜眼鏡を落としてしまい、フレームが壊れてしま
い、生憎と予備も無かったので今日は眼鏡なしで来た。物がよく見えなくてここに来るま
で大変だった、という話をしていた、ということだった。

 最後に入ってきたのは竹中和人だった。
 スポーツマンらしい体格をしている彼だったがさすがに仲間が死んだ、ということにシ
ョックを隠せなかったか、大きな体がものすごく小さく見えた。
 その様子が取調室から見てもよくわかった。

「…となると?」
 小五郎が聞く。
「はい。宇都宮さんが死亡したと思われる午後9時から11時の間は皆さんアリバイがあります」
「…となると、やはり犯人は別の人物なんでしょうか?」
   *
「メシでも食うか?」
 はじめが時計を見ると昼近かった。
 丁度近くにラーメン屋の看板が立っていた。
「…そういえばアンヌが言ってたな。ウツのヤツが殺される前にこのラーメン屋に寄った
そうだ」
「ふーん。じゃあ、ここで食っていくか」
 そして店に入る3人。

 店のテーブルに座る3人。
「何にする?」
 いつきがカウンターの上に貼ってあるメニューを見て聞いた。
「…そうだなあ…。チャーシューメンにするか」
 はじめが言う。といつきが、
「おばさん、チャーシューメン3つとギョーザ頂戴!」
 と注文を通した。

 やがて注文したものが運ばれてきた。とはじめが、
「あのさ、おばちゃん、つかぬこと聞きたいんだけど」
 いきなり口を開いた。
「何だい?」
「新聞とかで知ってると思うんだけど、死んだ宇都宮さん、ってここでラーメンとギョー
ザ食ったんだって?」
「そのことに関しては警察の人にも話したよ。サングラスかけてたから顔はよくわからな
かったけど、新聞に乗ってたあの人だったよ」
「…で、どこの席に座ってたの?」
「あの席に座って注文してたんだよ」
 そういうと店員ははじめたちが座っている隣の席を指差した。
「ふーん…」

「どうしたんだ、金田一? 席のことなんか気にして」
「いや、ちょっとな。なんだか気になって」
「気になる?」
「…いや、オレの思い違いだといいんだがな…」
   *
「で、いつきさん、これからどうするんだい?」
 はじめが食事をしながらいつきに聞いた。
「ああ。これからウツのヤツが泊まっていたホテルに行こうか、と思ってるんだ」
「ホテルに?」
「ああ。何かわかるかも知れないからな」
「ちょっと待てよ、いつきさん。ホテルの部屋なんてそう簡単に入れるもんじゃ…」
「心配するな、手は打ってあるよ」
「打ってある?」
「ああ、オレがホテルに電話して『私は宇都宮正隆の義兄で樹村という者です。弟が死ん
だと聞いたので荷物を引き取りたいのですが今から伺ってよろしいでしょうか?』と言っ
たらコロリとだまされやがってよお。警察の現場検証がこれからあるから、それが終わっ
てからならいい、ってあっさりとOK出しやがった。…ウツのヤツにゃ本当は兄弟いねえ
ってのによ」
「いつきさん、いくらなんでもそりゃ詐欺ってもんだぜ」
「カタイこと言うな。オレだっておまえの捜査に協力してやってるんだからよ」
「そりゃありがたいけど…」
   *
「…なんだよ、まだ警察来てねえのかよ」
 ホテルのフロント。いつきが聞いたところだと、警察の現場検証はまだ始まっておらず、
これからそちらに向かう、という連絡があった、ということだった。
「…どうする? 金田一」
 いつきがはじめに聞いた。
「どうする、って…待ってるしかねえだろう。でもただ待ってるのもなんだからなあ。…
そうだ! 美雪」
「何?」
「今から佐木2号に電話してくれねえか? もう一回あのビデオを見てみたいんだ。今か
らこっちに来て準備してくれるように頼んでくれねえか?」
「わかったわ」
 そういうと美雪は携帯電話を取り出した。
「それから、いつきさん。悪いけどさあ、今からホテルのフロントに言って、会議室でも
どこでもいいからテレビが使える部屋1時間くらいでいいから借りるように交渉してくれ
ねえか?」
「おいおい無理を言うな。そんなのできるわけがねろ?」
「無理を承知で言ってるんだよ。頼むよ」
「…わかった、聞いてみる」

 そしていつきがホテルに交渉して部屋を借り、美雪から連絡を受けた佐木がホテルにや
って来た。
「…準備はどのくらいかかる?」
「そうですね。すぐ終わりますよ」
「そうか。…じゃ、オレたち1階のコーヒーショップにいるから、おまえもセッティング
終わったら来いよ。とりあえずコーヒー飲んでからビデオ見ようぜ」
「わかりました」

 その頃、ホテルのフロントに一台のパトカーが止まり、中から横溝刑事と小五郎達が出
てきた。

〈File・8 金田一VSコナン〉
「…ここが宇都宮さんが宿泊していたホテルです」
 横溝刑事が小五郎たちを迎え入れる。
「…今から宇都宮さんが泊まっていたお部屋にご案内しますので。…それから、フロント
に聞いたんですが、何でも宇都宮さんのお義兄さんが後で荷物を引き取りに来られるそう
ですので」
 そして横溝刑事の先導で歩いていたときだった。
「…?」
 ある部屋の一室で一人の少年が何やらしているのをコナンは目撃した。
(…アイツ、確か金田一と一緒にいたヤツじゃねえか?)
 どうやらその少年はビデオのセッティングをしているようだ。
 コナンはその様子をじっと見ていた。
「…どうしたの、コナン君?」
 丁度エレベーターに乗ろうとしていた蘭が言った。
「ん? ボク下で待ってるよ。おじさんたちだけで行って!」
 そういうとコナンは少年のいる部屋の前まで戻った。
(…ビデオか…。もしかしたら手がかりが写っているかも知れねえな。だとしたら、アイ
ツを何とかしてここから追いださねえと…)
 …と、コナンは机の上に置いてある「佐木 R.Saki」と名前の入ったバッグが目に入っ
た。
(…そうか、この手があった!)
 コナンは蝶ネクタイ型変声機を取り出し、ダイヤルを合わせる。

「…お知らせいたします。お客様の佐木様、お客様の佐木様。フロントにお電話が入って
おります。至急フロントのほうまでお越しくださいませ」
「え、オレに電話? いったい何の用だ?」
 首をかしげながら佐木は部屋を出ていった。
(…よし、今のうちだ!)
 コナンは部屋に入ると佐木のセットしたビデオを見る。
(…大丈夫だ。つながっているな)
 コナンはビデオの再生ボタンを押す。しばらく眺めていたがやがて、
(…え?)
 巻き戻しボタンを押し、巻き戻す。
(まさか。これはどういうことだ?)
 コナンは巻き戻しボタンに指を当てる。

 それを何度繰り返しただろうか。
「…おい、何やってんだ、ボウズ」
 コナンの後で声がした。
「え…」
 コナンが振り向くとそこにはじめが立っていた。
「あ、お、おにいちゃん…」
「佐木2号のヤツがいつまで経っても来ないから迎えに来たら…。ダメだろ、人のもの勝
手にいじっちゃ。学校で習わなかったのか?」
 はじめは部屋の中に入る。
「…なんだよ、…佐木2号が撮ったビデオか」
「うん。あのおにいちゃん、ってビデオ撮るのうまいね」
「あたりめーだろ。アイツん家はそれでメシ食ってんだ。…ところで、おまえ名前なんて
言うんだ?」
「え? …コナン。江戸川コナンだよ」
「コナンか…。変わった名前つける親もいるもんだな」
(…悪かったな。どーせオレがとっさに思いついた名前だよ)
「…そういえばおまえ毛利小五郎のオッサンと一緒にいたようだけど…」
「うん。今おじさんのところに住んでるんだ」
「…ふーん。…ところで、おまえ工藤新一、って知ってるか?」
「う、うん、知ってるよ。…新一にいちゃんと友達なんだ」
 本当は工藤新一本人なんだが、それだけは例え金田一一の前でも言えたものじゃない。
「そうか…。いやな、実はオレはよくアイツと比べられてんだぜ。『不動高校の金田一か、
帝丹高校の工藤か』ってな」
「ふーん。そういえばお兄ちゃんのおじいさん、って探偵だったんでしょ? おじさんが
言ってたよ」
「ジッチャンのことか? ああ、オレのジッチャンは金田一耕助、ってんだ。もっともお
前に言ったってわからねえだろうな」
(…おいおい、オレだって金田一耕助くらい知ってるぞ。コイツ、オレが小学生の体だか
らって何も知らねえと思ってるな…)
 知らないも何も金田一耕助、と言ったら日本を代表する名探偵の一人である。その金田
一耕助の孫、という高校生探偵の存在を知った時、彼はどれだけ驚いただろうか?
「…で、どんなおじいさんだったの?」
「そうだなあ…、オレにとっては遊びの先生だったな。ジッチャンからはいろんなこと教
わったからね。手品とか、コマまわしとか…ガキの頃はそんなに思わなかったけど、いま
思うといいジッチャンだったよ」
 あれほどの推理力は祖父と遊んでいた頃に身についたものなのかもしれない。

 …と、その時だった。
「ん?」
 はじめがモニターを凝視し始めた。
「…どうしたの?」
 そんなコナンの言葉も聞こえないのかはじめはじっとモニターを見つめていた。
「…もしかしたら…」
 そう呟くとはじめは不意に立ち上がると、部屋を出て行った。
「…ちょっと、お兄ちゃん! …おい、待て、金田一!」
 コナンは思わず「金田一」と叫んでしまったが、それすら聞こえなかったようだ。
(…まさか、金田一のヤツもアレに気づいたのか…?)
   *
 不意に横溝刑事の持っている携帯電話の着信音が鳴った。
「あ、私だ。…うん、うん。そうか、ありがとう。今から行く」
 そういうと横溝刑事は電話を切った。
「毛利さん、ちょっとよろしいでしょうか?」
 小五郎のもとに横溝刑事がやってきた。
「…どうしたんですか?」
「いえ気になることがわかりまして。今から署に戻りますんで」
 そして下のロビーの椅子に座っていたコナンとともに彼らは警察署に向かった。
   *
 「宇都宮正隆の義兄の樹村」に成りすましたいつきのおかげではじめたち4人は宇都宮
正隆の部屋に侵入することができた。

 部屋の中は昨日のままだった。現場は別のところだった、と言うことからか、荷物など
もそのままだった。
 一応荷物を引き取る、ということで部屋の中に入ったので調べる時間といったらわずか
しかないだろう。
 4人は宇都宮正隆の部屋の中を調べ始めた。

「…ん?」
 はじめは洗面台の上にあるケース状のような物を発見した。
「何だこれは?」
 そういうとはじめは手にとってケースを開いた。
「…これは…コンタクトレンズじゃねえか」
 そう、それはコンタクトレンズが入ったケースだったのだ。
「あれ? ウツのヤツ、コンタクトレンズなんかしてたんかよ」
「あれ? いつきさんも知らなかったのか?」
「…いや、なんか最近ものが見づらくなった、って話は聞いてたんだが…。アイツいつも
サングラスしてたからなあ。眼鏡かけるよりもこっちのほうがよかったのかな」
「…待てよ」
 はじめが黙り込んでしまった。
「…はじめちゃん、どうしたの?」
 美雪が心配そうに聞く。
「…だとすると、アレはどういうことなんだ…?」
 美雪の言葉も耳に入らないのか、はじめは腕を組んでじっと考え込んでしまった。
「…そうだとしても、確証は無いよな。…それに最初の事件だって説明できないし。…あ
〜、あとちょっとなんだよなあ…」
 はじめが頭を掻いた。
「アレさえわかれば、最初の事件もわかりそうな気がするんだけどなあ。…? 待てよ」
 はじめが目を宙に浮かばせてじっと考えている。
「…あの時感じた違和感はひょっとしてアレか…?」

「…どうだ、金田一」
 不意にいつきが話しかけてきた。
「あ、大体わかったよ、ありがとう」
「そうか。じゃ、引き上げるか。…あ、それと」
「なんだい?」
「忘れ物はするなよ」
「忘れ物?」
「…忘れたか? オレ達はウツの荷物を引き取りに来た親族なんだぞ」
「…そうだったな」
  *
 警察署の応接室。
 横溝刑事と小五郎たちがソファに座っていた。部下の刑事が麦茶を持って来る。
「冷たいうちに飲んでくださいよ」
「…それで気になること、と言うのは?」
「それがですね。死んだ宇都宮さんのことなんですが…」
「彼がどうかしましたか?」
「先日殺害された早川さんと宇都宮さんが杉浦さとみの事件について追っていたのは昨日
お話ししたと思いますが…。実はあの後にその件に関して警視庁の目暮警部に問い合わせ
てみたんですよ」
「ほお…」
「いや、目暮警部も管轄外、と言うことでよくご存じなかったようなんですが、一課内の
刑事に聞いたとかで大体の事情がわかったんですが…」

「…そんなことがあったんですか?」
 横溝刑事から話を聞いた小五郎は驚きを隠せなかった。
(…やっぱりな。だとしたら、犯人はやっぱりあの人か…)
 コナンは結論に達しようとしていた。
   *
「どうしたの、はじめちゃん?」
 美雪が聞く。どこからか戻って来たきりはじめはずっと黙ったままだったのだ。
「…もうちょっとなんだよなあ…。もう少しで謎が解けるんだが…」
 その時だった。
「金田一様、金田一様!」
 ホテルのフロントがはじめを呼びかけた。
「金田一はオレですけど。…何か用ですか?」
 はじめが手を上げて聞いた。
「…東京の剣持様という方からお電話が…」
 その言葉を聞いたはじめはフロントに向かっていた。
「もしもし。オッサン? …うん、うん。そうか、わかった。すぐに送ってくれよ。どう
もな」
 そして電話を切ると、
「すみません。今こちらにオレ宛にFAXが来ると思うんですが…」
 その言葉どおり、はじめの元にFAXが届いたのはそれからまもなくのことだった。
 はじめはそれを受け取るとじっと眺める。
「…やっぱりな。思ったとおりだ…」
 はじめはFAXを握り締める。

「――謎は、すべて解けた」


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