ゴジラ・バラゴン・ダガーラ 怪獣大決戦
・第3話
<第5章 2003年8月・東京&会津若松>
下関市を荒らしまわったダガーラは再び瀬戸内海に姿を消した。
有事に備えて、瀬戸内海周辺の自衛隊には偵察するように命令が下り、瀬戸内海周辺の
動きが急にあわただしくなった。
一方、東京のほうも小笠原に出現した謎の物体について偵察が続けられていたが、小笠
原諸島周辺の物体は夜になっても動くわけでもなく、膠着状態が続いていた。
そんな膠着状態が破られたのは翌日のことだった。
「…小笠原の物体、島へ向かってます!」
その日の朝早くに、東京の自衛隊司令部に入電が入ってきたのだ。
「了解。直ちに追尾せよ!」
程なく自衛隊の偵察機が追尾を始めた。
追尾を始めてどのくらい経っただろうか。
「本部本部、応答願います!」
興奮してるのか、かなり上ずった声が飛び込んできた。
「どうした!」
「ゴジラです! ゴジラが出現しました!」
「なんだと?」
「今、映像を送ります!」
程なく偵察機が写したカメラの映像が司令部に届いた。
水面に上半身を浮かべて太平洋を進撃する50メートル以上はある巨大生物…。
間違いない、ゴジラであった。
「至急総理と長官を呼び出せ! ゴジラが出現したと伝えろ! それから百里基地にもス
クランブルのスタンバイを要請しろ!」
「了解!」
自衛隊司令部はにわかに慌しくなった。
やがて正式に自衛隊に出動命令が下り、百里基地から数機の戦闘機が発信した。
戦闘機は程なく海上に到達、ゴジラが目視できるところまでやってきた。
海上では海上自衛隊の駆逐艦が迎撃準備をしている。
「目標確認、攻撃準備完了!」
「攻撃開始!」
そして空と海から自衛隊が攻撃を加える。
しかし、である。不思議なことにこれだけの攻撃を加えられたら激しく怒り、放射能熱
線を浴びせるゴジラが自衛隊など眼中に無いのか一切の攻撃を加えようとしないのだ。
それでも尚、攻撃を加える自衛隊。しかしゴジラは目立った反撃をするでもなく、進撃
を続ける。
自衛隊の攻撃は確かに当たってはいるのだが効いているそぶりも見せないのはゴジラの
ゴジラたる所以なのかもしれないが。
…と、ゴジラは突然海中に姿を消してしまった。
「ゴジラ、海中に逃れます!」
「追跡を続けろ!」
自衛隊は空と海からゴジラの追跡を続けた。
それから1時間もしないうちに再びゴジラは海面に浮上した。
「ゴジラ、海面に浮上しました!」
「…なにやら島に向かっているようです」
「島だと?」
「…はい。小さな無人島なんですが…」
「…一体ヤツは、何が目的なんだ?」
その時だった。
「司令! 巡視艇から連絡です。なにやらゴジラ以外にもう一体の巨大生物がゴジラめが
けて海中を進んでいるそうです」
「なんだと?」
「映像入ります!」
程なく巡視艇が撮影した映像が司令部のモニターに写った。
「これは…」
絶句する司令官。
その生物は背鰭しか見せていなかったのだが、その形からして、昨日下関市を襲ったダ
ガーラであることは容易についた。
「すぐに報告だ! ダガーラも出現したとな!」
「ダガーラが出現?」
会津若松市。冬彦と千秋はテレビで放送されているニュースをじっと見ていた。
「…ついにダガーラまでが…」
「ああ。しかし…」
「どうしたの?」
「ダガーラがゴジラに向かっているようなんだよ」
「向かっているって?」
「…いや、オレの思い違いかもしれないけど…。もしかしてゴジラとダガーラは戦おうと
してるんじゃないか?」
ダガーラが島に上陸してきた。浜辺ではゴジラがダガーラを睨み付けている。
そのまま2匹の視察戦は数分の間続いた。
と、不意に2匹が組み合った。
ガツーン!
骨と骨がぶつかり合う鈍い音があたりに響いた。
ゴジラがダガーラの首筋に手刀を叩き込む。
負けじとダガーラもゴジラに頭突きを加える。
一度離れた2匹が再び組み合う。
ゴジラがダガーラを投げ飛ばす。しかしダガーラは巧みに体勢を立て直すとゴジラに組
み付いた。
ゴジラが再びダガーラを投げ飛ばす。
ダガーラが地面に落下した、と思いきや、ダガーラは背中についた翼を広げると空へと
舞い上がった。
そして低空で滑空すると、ゴジラに向かって体当たりをする。
思わずひっくり返るゴジラ。
ダガーラは再び大空へと舞い上がると今度はさっきよりも急角度でゴジラに飛んで行き、
ゴジラに向かって突っ込んでいった。
しかしゴジラも今度は同じ手は食わなかった。
起き上がったゴジラはダガーラの頭部を巧みに受け止めると、ダガーラの平衡感覚を失
わせようと思ったか頭部を抱えたまま大きく半回転すると、ダガーラを投げ飛ばした。
ダガーラは地面に叩き付けられる。
ゴジラは2、3歩ダガーラに向かって歩を進める。
と、ダガーラは起き上がると、ゴジラに向かって突進して行き、ゴジラの肩口に噛み付
いた。
思わず悲鳴を上げるゴジラ。何とか振りほどこうと大きく体を揺らし、2発、3発とダ
ガーラの頭部に拳を叩き込む。
ダガーラには確実にダメージを与えているはずなのだが、ダガーラもゴジラから離れよ
うとしない。
そうこうしている内に2匹は崖の上に来てしまった。
ゴジラが崖っぷちに足を乗せる。と、あたりの岩が崖崩れを起こした。
そのまま2匹は海中に落下していった。
…数分後。
「ゴジラ、ダガーラ。両方とも海中に消えました」
巡洋艦から連絡が入った。
<第6章・2003年8月・会津若松&猪苗代、東京>
ゴジラとダガーラが海中に消えた日の午後のこと。
会津若松市にある図書館の一室。
冬彦と千秋がその一室に閉じこもってなにやら本を読み漁っていた。
…と、不意に
「あった!」
冬彦が声を上げた。
「…どうしたの、冬彦?」
「…あったんだよ、明治維新以前に婆羅護吽らしき怪獣が現れた伝説が!」
冬彦が本を差し出す。千秋が聞いたことも無いような著者名と出版社の本で「会津・い
にしえの伝説」と言うタイトルの本だった。奥付を見ると「ゴジラ事件」よりも古い昭和
25年発行となっていた。
「…聞いたことの無いような本ね」
「ま、今で言う自費出版みたいなもんだったんだな。…見ろよ。何故会津に婆羅護吽様が
祀られることになったのか書かれているぜ」
*
それはこのような内容の本だった。
猪苗代湖には古くから婆羅護吽を祀った神社の存在が知られているが、それが建立され
たのはこのような伝説が残っている。
遠い遠い昔のこと、何処からから赤き獣と翼を背負った獣が現れ、争いを始めた。二匹
の怪獣の争いは果てしなく続き、お互いが深い傷を負ったまま赤き獣は東へ、翼の獣は西
へと分かれていった。赤き獣はある村にたどり着くとそこで大暴れをし、人々を恐怖に陥
れた。村人達は苦労して赤き獣を大きな湖へと導くと、そこに神社を建て、赤き獣を髪と
して奉った、と言う。その神社が猪苗代湖にある婆羅護吽を奉った神社だ、と言われてい
る。
*
既に太陽は南中高度を過ぎていたが、盆地の会津若松は相変わらずの暑さだった。
猪苗代湖の近く。冬彦と千秋が神社へと向かっていた。
「…じゃあ、婆羅護吽様、って言うのは…」
「ああ、最初は人々にとって恐怖の対象だったんだ。…その恐怖の対象を祟りが起きない
ように神として崇め奉る…。昔から日本人がよくやることだ」
「じゃあ、会津の守護神、ってのは…」
「…本当かどうかはわからねえが…。少なくとも最初の頃は、バラゴンは恐怖の対象でし
かなかったんだ。その祟りを恐れ、神として奉ったことでやがてバラゴンは会津の守護神、
として語られることになったんだろうな。そして、幕末に薩長連合軍を蹴散らしたことで
バラゴンは会津の守護神、ということが決定的となった…。あくまでもオレの推測だけど
な」
「…となると、その翼を背負った獣、と言うのは…」
「恐らくダガーラだ。ダガーラの方は瀬戸内の方に流れていって、そこで人々が神として
祀ったんだろうな」
「…でも、だとしたらゴジラは何のために現れたの?」
「…わからねえ。少なくとも婆羅護吽の伝説にゴジラはでてこねえからな…」
そのときだった、不意にぐらりと地面が揺れた。
「…地震か?」
「…地震にしてはおかしいわよ」
確かに地震にしてはゆれ方が少し変だった。
神社の前につくとパトカーや多くの車が止まっていて、すでに大勢の野次馬が集まって
いた。
「…何だ?」
疑問に思った冬彦が近寄ろうとすると「立入禁止」の幕が張られてあった。
「立入禁止?」
「昨日からこの神社の裏山で崖崩れが起きてるんだ。今は立ち入り禁止だ!」
警察官が言った。
「…崖崩れ?」
彼らが会津に来てからは晴天続きだし、とても崖崩れが起きるような要素はひとつもな
いはずなのだが。
…その時、警察のパトカーがなにやら発信音を立てた。
一人の警官が近づいて交信をする。
「はい、…はい。何ですって? …わかりました。至急警戒態勢を敷きます!」
そしてその警官が上司らしき人物に近づく。
「…只今、小名浜沖に怪獣が出現したそうです!」
「何?」
「はい。現在のところ進路は不明ですが、すでにいわき市と北茨城市の一部の住民に避難
勧告が発令されたそうです。すでに自衛隊には出動命令が下された、とのことです。こち
らに向かう可能性もあるので警戒態勢を敷け、ということです」
「よし、わかった」
*
自衛隊司令部。
「司令! ゴジラ、東京湾に出現しました!」
「何! 海自の戦力を至急集結させろ! ゴジラの東京上陸は何としても阻止するん
だ!」
「…しかし今からだと、ゴジラの東京上陸はほぼ確実と思われます!」
「う…」
思わず絶句する司令官。
「…進路に当たる地域の住民に避難命令を出せ!」
「了解!」
やがてゴジラは東京に上陸した。
…しかし、ゴジラは不思議なことに東京に上陸したから、といってこれといった破壊活動
をするわけでもなく(もちろんそれなりの被害はあったが)、関東平野を北へと進んで行き、
やがて栃木県の山中に姿を消していった。
*
小名浜沖に出現した怪獣がダガーラだと判明するのには大して時間はかからなかった。
陸・海・空の自衛隊の攻撃も致命傷とはならずに小名浜に上陸したダガーラは進路を西
へと向けていた。
「…皆さん、ダガーラがこちらに向かっている、という情報が入っています。すでに郡山
市と会津若松市の住民に避難命令が出されました! 皆さんも警察の指示に従って避難し
てください!」
不意にまた地面が揺れた。
「何だ?」
不意に何やら獣の鳴く声が響くと、地面が割れ、木が倒れる音がした。
そして地面の中から何かが飛び出してきた。
「な、何だ、ありゃあ!」
そう、彼らの目の前には30メートルはあろうか、という赤い姿の怪獣が聳え立ってい
たのだ。
怪獣はもう一声鳴くとゆっくりと地面を進んでいく。
慌てふためいて蜘蛛の子を蹴散らすように逃げ始める野次馬たち。
「冬彦、あれって…」
「…間違いない。バラゴンだ!」
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