あのサッカーボールを追え!

(後編)



 阿笠博士の家。
 コナンと阿笠博士が車を降りると、
「お帰りなさい」
 灰原が二人を出迎えた。と、その後ろで、
「おい、コナン。話、って何なんだよ」
 元太たち3人が玄関の方にいたのだった。
「…なんでアイツらがいるんだ?」
 コナンが聞く。と、
「ん? 私が呼んだのよ」
「呼んだ、って、どうしてだよ?」
「いずれ3人にも話さなきゃいけないことでしょ? それに3人とも今回の事件のことが
気になっているようだし…」
「…まあとにかく、中に入ろうじゃないか」
 阿笠博士に促され、彼らは家の中に入った。
    *
 そして阿笠博士の研究室。
「…というわけで博士に頼んだ、ってわけだよ」
 コナンは元太たち3人にこれまでの経緯を簡単に説明した。
「…しかし見た限り変わっているところはないように見えるけどなあ…」
 ボールを眺めながら元太が言う。
「…ところがだ。よく耳を澄ませよ」
 そういうとコナンは元太からボールを取ると、そのボールを振る。
「…!」
 そこにいた全員が何かに気がついたような表情をした。
 そう、かすかに何かが中に入っているような音がしたのだった。
「…何か入っているようですね」
 光彦が言う。
「本当。何が入っているのかしら?」
 歩美が言う。と、
「ああ君たち、もういいかな?」
 そう言いながら、隣の部屋からカッターを片手に阿笠博士が出てきた。
「ああ、頼むぜ、博士」
 コナンは阿笠博士にボールを手渡す。
 そして、博士はしばらくボールを眺めていたが、
「ほら、見て見たまえ」
 そう言うと、ある一点を指で差した。
「…これは?」
「ああ。一度ボールの中を開いて、もう一度接着した跡があるわい。どうやらコナン君の
考えがあたっていたようじゃな」
 そういいながら阿笠博士はボールを机の上に置く。
「…いいか、行くぞ」
 博士は誰にともなく言うと、カッターで、接着した跡に沿ってボールに切込みを入れる。
 そして、ボールの中を開くと紙に包まれた包みが出てきた。
 阿笠博士は袋から中身を取り出す。
 中に入っていたのはなにやら白い粉が入った袋だった。
「…これは…」
 コナンが言うと阿笠博士が、
「…詳しく調べんとわからんが、おそらく覚せい剤か何かじゃろう」
「…やっぱりな。ボールを蹴ったときに何かが入っているような音がしたからまさか、と
思ったんだが」
「ちょっと待てよ、何でそんなものが…」
 元太が言うとコナンは、
「おそらく、密輸か何かをするためにこのボールを使ったんだ」
「密輸?」
「ああ。こういう風にボールなんかに細工して普通のスポーツ用品に見せかけて運んだん
だろう。ところが何らかの形でこの一個のボールだけが残ってしまったんだ」
「…でもなんで学校に?」
 歩美が聞いた。
「たぶん、朝の門を開けに来た先生が見つけて前の日に誰かが片付けないまま帰ってしま
ったんだ、と思ったんだろうな。それでボールは学校の中に持ち込まれた、ってところだ
ろうな。でもこのボールを密輸に使おうと考えていたヤツだったら見分けだってつくだろ
うな」
「それが、学校を覗いていた人だった、というわけですか」
 光彦が言う。
「ああ、おそらくそうだろうな」
 と、阿笠博士が、
「…しかし、もしその考えが正しいとしたら、犯人たちはなんとしてでもそのボールを取
り返そうとするじゃろ?」
「まあな。オレがそいつらだとしたらなんとしてでも取り返そうとするさ」
「…だとしたらどうするんじゃ? 下手したら君たちも危ないぞ」
「心配するな。オレに考えがある」
「考えじゃと?」
「ああ」
 そしてコナンは自分の考えていた作戦を話した。
「…おい、コナン。本当にそのやり方で大丈夫なのか?」
 元太が聞く。
「ああ。だからお前たちにも協力を頼むんだよ」
「協力だって?」
「ああ。オレたちで力を合わせればきっとうまく行くって。やってくれるな」
 その言葉に元太、光彦、歩美の3人が頷く。
「…それじゃ博士は警察に行ってこのことを話してくれないか?」
「それは構わんが…。くれぐれも気をつけるんじゃぞ」
「わかってる、って」
    *
 そして翌日の放課後。
 コナンたち5人は帝丹小学校の中にいた。

「…それじゃ博士、後は頼むぜ」
 コナンがDBバッジに向かって言う。
「ああ、わかった」
「…よし、みんな、後は言ったとおりにやれよ」
「OK」
 そしてコナンたちは散った。

「よーし、コナン行くぞ!」
「OK!」
 そして元太がサッカーボールを蹴る。
「光彦!」
 そう叫ぶとコナンは光彦に向かってボールを蹴った。
 そう、例の「リターンマッチ」を控えていることもあり、彼ら3人はサッカーの練習を
兼ねて、グラウンドで例の男たちが自分たちの様子を見に来ないか調べていたのだ。
 そして歩美と灰原の二人が学校の周りをさりげなく、と言った形で調べていた。

 そのときだった。
 コナンが胸ポケットにしまっているDBバッジから音が聞こえると、
「どうやら来たようよ」
 灰原の声が聞こえた。
「わかった」
 それだけ言うとコナンは光彦に向かってボールを蹴る。
「いいかおまえら、言われたとおりにやれよ」
「わかった」
 そして光彦が何を思ったか道路に向かってボールを蹴った。
 当然のことながらボールは道路に出る。
「…おい!」
 サングラスの男が帽子の男に声をかける。
「どうした?」
「あれを見てみろ!」
 そう言うとサングラスの男は道路に転がっているボールを指差す。
「あれは…」
「おそらくそうだ。やっぱり学校の中にあったんだ!」

 光彦は車を来ていないかを確認するため、そして辺りに怪しい人影がいないかを見るた
めにあたりを見回した。
「あ…」
 光彦は物陰に二人の男が立っているのを見つけた。
 光彦はさりげなく道路に転がったボールを拾うと、
「…どうやらいたようですよ」
 DBバッジに向かって言う。
「よし、わかった。じゃ、後は頼むぞ」
「了解」
 そして光彦は校門の中に入ると、
「行きますよ、元太君!」
 そう叫び元太に向かってボールを蹴った。
「おう!」
 そして元太は光彦に向かってボールを蹴り返すが、ボールは明後日の方向に飛んでいき、
体育倉庫の中に入ってしまった。
「何やってんですか、元太くーん!」
 光彦が叫ぶ。
「わりい、わりい」
 そう言いながら元太は体育倉庫の中に入った。
 と、元太は何故か、今体育倉庫の中に転がっていったボールではなく、別のボール仁手
を伸ばした。
 よく見ると、今まで彼らが使っていたボールとまったく同じボールだった。
 そして元太は体育倉庫を出ると、体育倉庫の物陰に隠れていた歩美と灰原に小声で、
「じゃ、後は頼むぞ」
「うん」
 そして元太が体育倉庫を離れるのを確認すると灰原が、
「吉田さん、行くわよ」
 そして二人が体育倉庫の中に入っていった。
 体育倉庫に入って程なく、
「あ、これだ」
 歩美が床に転がっていたボールを拾う。灰原がそれを見る。
「どうやらそうらしいわね。じゃ、江戸川君に渡すわよ」
 そして二人は体育倉庫を出て行った。

「それじゃ行くぞ!」
 そして元太はもう一度ボールを蹴る。
 と、そのボールはまた道路のほうに向かって飛んでいってしまった。
 そして、ボールが男たちの前に転がる。
「…おい!」
 サングラスの男が帽子の男に言う。
「もしかしたら…」
 そして帽子の男がボールを拾う。
「…なんだよ、これは。よく違うボールじゃねえか」
「じゃあ、あのボールはどこにあるんだ?」
 と、そのときだった。
「…ねえ、おじさん」
 二人の元に一人の少年――コナンが近づいてきた。
「なんだてめえは?」
 帽子をかぶった男が叫んだ。
「ねえ、おじさんたち、そのボールがどうかしたの?」
「どうかした、って…。どうもしねえよ」
「どうもしない、ってことはないんじゃないの?」
「いいから、てめえには関係ねえことだよ。ほら、ボールは返すからあっち行け!」
 そして帽子の男がコナンにボールを投げ返そうとしたときだった。
「…ねえ、おじさん。もしかして、おじさんたちの欲しいボール、ってこれじゃないの?」
 そう言うとコナンは右手に持っていたボールを男たちに見せる。
「それは…」
「おい、一体そのボールをどうしたんだ?」
「どうした、って…。学校の中にあったから使っていただけだよ。それなのに最近おじさ
んたちによく似た人たちが学校の周りをうろついていた、って聞いたから、一体なんだろ
うな、って思ってたんだけど…。おじさんたちこのボールがどうかしたの?」
「そんなことはどうでもいいだろ!」
「どうでもよくないよ。もしかしてこのボールに何か大切な秘密があるんじゃない?」
 コナンがそう言うと男たちは黙り込んでしまった。
「あれ? もしかしたらボクの言っていること、当たったのかな?」
「…このガキゃあ…。やい、そのボールをこっちへ寄越せ!」
「…そんなに欲しけりゃやるよ!」
 そう言うとコナンはボールを地面に落とした。
 と同時にキック力増強シューズのパワーを最大限に入れる。
「行っけえ!」
 そう叫ぶとコナンはサッカーボールを蹴飛ばした。
 コナンが蹴ったボールは狙い違わずサングラスの男の顔面を捉え、サングラスの男がひ
っくり返る。
「この野郎!」
 帽子をかぶった男がコナンに襲い掛かってきた。
 しかしコナンはサングラスの男がひっくり返っている側に近寄ると、その場に転がって
いたサッカーボールを再び蹴飛ばす。
 今度は男の腹にボールがぶち当たり、帽子をかぶった男がひっくり返った。
「…ったく。手間取らせやがって」
 コナンがそうつぶやいたときだった。
「みんな、大丈夫じゃったか?」
 そう言いながら阿笠博士が近づいてきた。
 その後ろから他の4人もついてきた。
「ああ、別になんともないぜ」
「そうか、それはよかった」
「博士、警察のほうは?」
「ああ、それか。さっきワシのほうから連絡はしておいたから、まもなくやってくるじゃ
ろ」
 阿笠博士のその言葉に応えるように程なくパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
    *
 その後警察の取調べで、男たちは米花町を中心に覚せい剤や麻薬を密売している組織の
一員で、以前からスポーツ用品の中に覚せい剤や麻薬を仕込んで取引をしていた、という
ことがわかった。
 もちろん今回の一件は氷山の一角であり、今回の事件が即組織の摘発につながる、とい
ったことはないが、米花町周辺での覚せい剤や麻薬の取締りを強化するきっかけとなった
事は言うまでもない。


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