あのサッカーボールを追え!

(エピローグ)



 事件から1週間が過ぎた。
 例のスポーツ用品に覚せい剤を仕込んで密売しようとしていた組織の事件も事件が発覚
した頃は話題になっていたものの、1週間もすると次第に話題にも上らなくなった。
 コナンたちの活躍によって時間が解決はしたものの、阿笠博士やコナンが「このことは
自分たちだけの秘密だ」と固く口止めをした。もちろん元太たちからは不満の声が上がっ
たのだが、「あまり騒がれたりすると後々になって大変だから」とコナンや灰原が上手く言
いくるめたこともあってか、彼らの活躍が世に知れることもなかった。
    *
 そして米花町や帝丹小学校にも平穏な日が戻ってある日の放課後のこと。

 1年B組の教室。
「よーし、今日こそは勝とうぜ!」
 元太が叫ぶとオーッと声が返ってきた。
 そう、先日のB組とC組のサッカーのリターンマッチの日がやってきたのだ。
(ハハハ、勝てるといいけどな…)
 その様子をコナンが冷めた目つきで見ていた。
 例の事件があったとはいえ、一応放課後や昼休みに練習は重ねてきたのだが、コナンが
満足行く仕上がり、とは行かずあちらこちらに不安を残したままだったのだ。
 もちろんコナンだって相手が小学1年生ということもあって決して無理はさせていなか
ったのではあるが…。
 そんなコナンの不安を知ってか知らずか、
「よし、みんな行くぞ!」
「おう!」
 元太の声にB組の男子児童全員が応える。
 そしてB組の児童はグラウンドに出て行った。
    *
 グラウンドにはすでにC組の児童が待機していた。
「いいか、今日こそは絶対勝ってやるぞ!」
 元太がある児童に向かって言うとその児童が、
「へーんだ。返り討ちにしてやらあ!」
 元太に向かって言い返した。

「よーし、みんな。特訓の成果を見せてやろうぜ!」
 元太が叫ぶ。
「おう!」
 B組の児童はそれに応えると、それぞれの守備位置に散っていった。

「大丈夫ですかね、コナン君」
 自分の守備位置に向かう途中に光彦がコナンに話しかけてきた。
「これだけテンションが高けりゃ、案外どうにかなるんじゃないのか?」
「まあ、そりゃそうですけれど…。ボク自身は元太君が一番心配なんですよね」
「大丈夫だよ。元太だってあれだけ特訓したんだ。前のようにボールが来たら逃げたりは
しないさ」
「そうですね。コナン君が徹底的にPKで練習させましたからね。大丈夫だといいんです
が」
 そういうと光彦はちょうどコナンの後ろに立った。
 そして主審役の男子児童がホイッスルを吹き、試合が始まった。
     *
 グラウンドにはいつの間にやら結構な数の児童が集まっていた。
 周りでは必死に声援を送っている女子児童の声も聞こえる。
 試合のほうは、と言うとやはり、と言うかなんと言うか序盤から激しい点の取り合いろ
なり、前半を終えた時点で3対3とサッカーをやっているのか野球をやっているのかわか
らないような試合展開となっていった。
 しかし、B組の児童たちも以前と比べると練習の成果が出たか、ミスをする回数が減っ
てきているようだった。

 そして後半が始まった。
    *
 後半に入ってC組が2点、B組みが1点を入れ、得点は5対4となった。

 コナンはさすがに余裕があるのかプレイの最中も時々校舎の時計を見て、残り時間がど
のくらいかを計算していた。
(…あと3分か)
 しかしその3分の間に何が起こるのかわからないのもまたサッカーである。
 と、そんなことを考えていると、相手が放ったパスが自陣(つまりB組)のほうにいた
C組の児童に渡り、その児童がドリブルでボールをゴール前に運んでいく。
「みんな、ゴールに戻れ!」
 コナンが叫ぶが、すでにボールはゴールキーパーである元太の前に来ていた。
(…まずい! ここで点を入れられたら大変だ!)
 ロスタイムがどれくらい残っているかわからないが1点差ならとにかく、ここで2点差
をつけられると、後々同点に追いつくのさえ厳しくなってくる。
 C組の児童がゴールポストに向かってシュートを放った。
 コナンはフォローに回ろうと、ゴールに向かって駆け出したそのときだった。
 次の瞬間、バシッと言う音が響き、元太がしっかりと飛んできたボールを正面で受け止
めていた。
 思わずその場から歓声が上がる。
「やりましたね!」
 光彦が叫ぶ。
「ああ、特訓の成果が出たようだな」
 コナンが言う。
「よーし、行くぞ!」
 元太はそう叫ぶとボールを投げた。
「みんな、行くぞ!」
 コナンの声にB組の児童が敵陣に向かって走り出した。
    *
 そして元太から渡されたボールはうまい具合にパスが通っていった。
 そしてコナンに向かってボールが渡される。
 コナンはそれを受け取るとワンクッション置き、ドリブルでゴール前にボールを運ぶ。
(よーし、ゴール前、フリーだ!)
 そしてコナンはシュートを打つ。
 コナンが蹴ったボールはキーパーの脇をかすめ、ゴールポストに突き刺さった。
「ゴール!」
 主審を勤めた上級生の声がする。
「やった! これで同点だぜ!」
 元太の声がする。
「よーし、この調子でもう1点行くぞ!」
「…大丈夫ですか、コナン君? 残り時間もわずかですよ」
 光彦が聞く。
「大丈夫だって。サッカーってのは30秒あれば得点できるんだよ」
 そしてプレイが再開した。
    *
「コナン君!」
 光彦が叫ぶとコナンに向かってボールを蹴る。
 そしてコナンにパスが回ってきた。
 コナンは例によって厳しいチェックを交わすとゴール前にボールを運んでいく。
(…よーし、ゴール前ガラ空きだ。行くぜ!)
 そしてコナンがゴールポストに向かってボールを蹴った。

(おわり)


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