LEGEND OF WIND 〜CONAN IN HAWAII〜

〈FILE・3 ハワイ島・キラウエア火山殺人事件〉


 ハワイ島というのはハワイ諸島の八つある島のなかで一番面積の広い島(何しろ他の7
島を足した広さよりもまだ面積が広い島である)で最近日本人の間で人気が出てきた島で
ある。ちなみにコーヒー豆の種類にハワイ・コナというのがあるが、あれはこのハワイ島
が原産地なのだ。
 ホノルルから飛行機で約四十分。すっかり乗り慣れた旅客機からコナンたちはヒロ空港
に降り立った。
 何でも蘭が園子から「マウイもいいけどハワイ島も捨てがたい」という話を聞いたらし
く蘭が希望してハワイ島一日観光、と相成ったわけである。
    *
 車は真っすぐな道を走っていった。
 ここで彼らはレンタカーを借りて、ヒロ空港からキラウエア火山を目指して走っていた
のだ。蘭が園子から「ハワイ島はレンタカーで走った方がいい」とアドバイスを受けてい
たのだ。そこで旅行会社に頼み、往復の飛行機のチケットとレンタカーの手配のみした。
そして、小五郎はわざわざこれの為に国際運転免許証を取得したのだった。思ったより簡
単に取得出来たのが儲け物だったが。

「…なになに、今は時速45マイルか。ってーことは1マイルが約1.6キロだから…6×
5が30の、6×4が24で、えーっと…」
「時速72キロよ、お父さん。…それに、ちゃんとそのスピードメーター、マイルと一緒
にキロ表示も出てるでしょ?」
 助手席の蘭が言う。
「え? あ、そうだったか?」
 小五郎はさっきから速度計と睨めっこしていたのだった。
 ただでさえ慣れない左ハンドルの車の上、アメリカは一キロや一メートル、という言い
方より、一マイルや一フィート(約三十センチ)という言い方が一般的だから、いちいち
変換するのも大変なのである。普段以上に神経はすり減るはずである。

 やっと駐車場にたどりついた。
「ぷはーっ、疲れたーっ」
 そういうと小五郎は自動販売機で買ったコーラを一気に飲み干す。
「…で、今どの辺りなの?」
「…そうだな…」
 と、小五郎はガイドブックを広げた。
「…コレによると、空港から火山までは約45キロで50分くらいかかる、って言うな…。
オレ達がレンタカーショップ出たのが10時頃で、今が10時半だから…、あと2〜30
分くらいで火口に到着するな。で、蘭。お前どう行くつもりなんだ?」
「ん? 園子から聞いておいたわ。とりあえず火口を見たら、その後にチェーン・オブ・
クレーターロードと言うところを回れば大体のところを見られる、って言ってたわ。その
後、ヒロに戻って帰りの飛行機まで散策するつもりなの」
「ただ借りてるのが夕方6時までだぞ」
「大丈夫、十分間に合うわよ」
 そして車は再び動き出した。

 それから30分ほどして車は無事火口近くに到着した。
 日本にも桜島や三原山といった火山が有名だが(富士山も実は火山である)、ハワイのキラウエア火山といったら知れないものがいないであろう、世界的に有名な火山である。
 標高は1247メートル、と富士山の3分の1ほどの高さだが、今現在でもその活動が活発な火山であり、特に1990年におきた噴火はその溶岩が麓のカラパナと言う村をあっという間に包み込んでしまい、村はあっという間になくなってしまったほどだったのだ。
 コナンたちが火口からおりて、見物をしたチェーン・オブ・クレーターロードも途中で行き止まりとなっていた。
 しばらくそこを見物して、最初に来たビジター・センターに戻ろう、と車を引き返して戻っている途中だった。
「…お父さん、あれ!」
 蘭が道端を指差した。
「どうしたんだ?」
「誰か倒れてるわ!」
 見ると一人の人間が倒れていた。急いで車を降りる3人。
 見ると、一人の金髪の女性が倒れていた。
「…だめだ、もう死んでいる。…蘭、オレはビジター・センターに行って知らせてくる! 
お前たち二人はここにいてくれ!」
「わかったわ!」
 そして小五郎の車が走り去っていく。
(…ん? なんだ?)
 コナンは被害者が右手に何か持っているのに気が付いた。
 よく見ると石を握っており地面に何かを書いていた。
 コナンは近付いて地面を見た。

「B&O」

 地面にはそう書かれてあった。
「…B&O? ダイイング・メッセージか?」
   *
 程なくビジター・センターから連絡を受けたのか、警察がやってきて現場検証を始めた。
 日本語がわかる警官から小五郎が聞いたところによると、被害者はホノルル大学に通う
女子大生ということがわかった。
 それから間もなく、この女子大生とともに3人の日本人留学生がキラウエア火山を見物
に来ていることがわかった。
 彼らは今ビジター・センターにいる、と言う。小五郎が彼らに話が聞きたい、と言うと
快感は快く応じて、呼びに行った。
「…ねえ、おじさん。これ見てよ」
 コナンが地面を指差した。
「…なんだ、こりゃ。…『B&O』だと? うーん…やっぱりこれはダイイング・メッセ
ージと考えるのが妥当だろうなあ…」
「…何を示してるんだろう?」
 蘭が聞いた。
「…まあ、普通こういったダイイング・メッセージは手の込んだものは書けないからなあ
…。犯人のイニシャルとかなんかだろう」
「…ということは犯人はBと言うイニシャルとOというイニシャルの二人組、ってことに
なるわね…」
(…普通に考えりゃ蘭の言うとおりなんだけど…なんか引っかかるんだよな…)
 コナンは思った。
    *
 程なく、3人の若者が小五郎の元にやってきた。
 小五郎はまず、自分が東京から来た観光客であり探偵だ、と身分を明かした後、
「…君たちがその留学生か?」
 と、3人の男に聞いた。
「…はい」
「彼女の事は知ってるんだな?」
「はい。彼女と一緒にここに来たものですから」
「…殺された彼女とはどういう関係なんだ?」
「同じクラスの人間ですよ」
「…ところで、君たち名まえは何ていうんだ?」
「名前、ですか?」
「ああ、これを見ろ」
 小五郎は地面に書かれている「B&O」の文字を指差した。
「彼女は地面にこんなのを残している」
「これがどうかしたんですか?」
「オレはこれを彼女が残したダイイング・メッセージだと思ってるんだ」
「…そういえば彼女、日本語話せませんでしたからねえ…」
 1人がつぶやいた。
「…で、普通ダイイング・メッセージと言うのは、犯人の特徴や名前を残しているもんな
んだが…。もしこれがイニシャルを残したものだとすれば、犯人は被害者の顔見知りのも
のということが考えられる」
「…探偵さん、まさか我々の中に犯人がいる、とでも言うんですか?」
「そうとは言ってない。しかし念のためだ。…君たちの名前を教えてもらおうか」
 と左にいた男が、
「…僕は馬場弘隆といいます。去年の秋からホノルル大学に留学してます。で、コイツが
…」
「…板東裕一です。僕と弘隆と同じ頃にきました」
「…僕は武南満です。ここに来てそろそろ一年になります」
「何!」
 小五郎が素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたの、お父さん」
「ババ、バンドウ、ブナン…って、お前ら全員イニシャルはBか!」
「…ええ、そうですよ」
 それを聞いたコナンも驚いてしまった。
(…全員イニシャルがB、ということは…。あのダイイング・メッセージの意味はなんな
んだよ…)
 コナンはもう一度地面に目を落とした。
(…B&Oなんて書いてあったら普通犯人はイニシャルがBのヤツとOのヤツだって誰だ
って思うはずだろ? それとも、この3人の中に犯人はいない、と言う事なのか?)
 コナンは地面に描かれている「B&O」の文字をもう一度見る。
 その時だった。
(…待てよ? アレがもし、こういう意味を持っていたとしたら…)
「…ねえおじさん」
「なんだ?」
「この被害者のお姉さん、変だよねえ」
「何が変なんだ?」
「おじさん、このダイイング・メッセージは犯人の名前のイニシャルだ、って言ったよね?」
「それがどうしたんだ?」
「…ってことはさ、このお姉さん殺した犯人、って顔見知り、ってことだよね」
「まあ、そうだろうな」
「でもさあ、BとかOのイニシャルの人って一杯いるじゃない。それに、名前知っていた
ら何処の誰だかわからないようなイニシャルだけ、なんて書かないよね? …このお姉さ
ん、本当に犯人が二人組だってこと教えたかったのかなあ?」
「どういうことなんだ?」
「もしボクが被害者だったら、二人組の犯人を示すのにB&Oなんて書かないで、そのま
ま二人の名前を書くよ」
「まあ、そりゃそうだが…」
 そういうと小五郎はそのイニシャルをじっと見る。
「…?」
 その時、彼の頭のなかに別の視点が浮かび上がった。
「待てよ…。B&O…BアンドO…ビーアンドオー…」
 小五郎はしばらく目を宙に泳がせ、何事かをぶつぶつとつぶやいていたが、ポンと手を
叩き、
「そうか、そういうことか!」
「…どうしたの?」
 蘭が聞いた。
「…犯人がわかったんだよ!」
「本当?」
「ああ、オレはどうやら勘違いしていたようだ。この事件の犯人は二人組じゃない。犯人
は単独犯だ。…そして、犯人はあんたら3人の中にいる!」
 小五郎が3人の留学生の目の前で言った。
「…どういうことですか?」
「このダイイング・メッセージですよ」
 小五郎が地面を指差した。
「…これがどうかしたんですか?」
「考えてみてくださいよ。被害者は地面にB&Oというダイイング・メッセージを残して
いるんです。私は最初これを見たとき、犯人はイニシャルがBとOと言う二人の人間によ
る犯行だと思ってました。でもこれは間違ってたんですよ!」
「間違っていた?」
「そうでしょう? 被害者がイニシャルを知っていた、という事は当然犯人の名前を知っ
ている、と言う事ですよ。それなのに何でこういったB&Oなんてダイイング・メッセー
ジを残したのか? しかもあんたたち3人は全員イニシャルがBだ。人物を特定できない
のは明らかでしょう。…しかしですねえ、これは見方を変えれば重要な意味を持っている
ダイイング・メッセージだったんですよ!」
(…はいはい、その通り。そこまでわかりゃ、あとはおっちゃんの貧弱な推理力でも十分
犯人が指摘できるぜ)
 コナンは思った。
「重要な意味?」
「そう、これをよく見てください」
 小五郎は地面に書かれている「&」と言う文字を指差した。
「この&という文字はANDという単語を意味する記号ですよね」
 小五郎は近くにあった石を拾うと「&」と書かれてある地面の下に「AND」と書いた。
「B&OというのはB・AND・Oということなんです。…被害者は日本語が話せない、
と言いましたよね? つまり、このB&Oというダイイング・メッセージは犯人にすぐ気
付かれると思った被害者がとっさの機転で書いたものなんですよ」
「…じゃあお父さん、犯人は?」
「ここまで言えば誰だってわかるでしょう? B・AND・O、これを続けて読むとBA
NDO、すなわちバンドウとなる。ということは犯人は板東君、あんたということになる
んですよ!」
   *
 やがてビジター・センターにやってきた警官の手によって坂東裕一が逮捕され、連れて
行かれた。
「それにしても…別れ話のもつれでこんなことになるなんて…」
 蘭がつぶやく。
「…最近の連中は羽目を外し過ぎるんだよ。…ったくこれじゃ留学に来てるのか遊びに来
てるのかわかりゃしねえ」
 小五郎が言った。
「…ところでお父さん、今何時?」
 蘭にそう言われた小五郎が時計を見る。既に午後5時近かった。
「…いけねえ! 今から急いで帰らないと帰りの飛行機に間に合わねえぞ! 車だって返
さにゃいけねえし」
「本当?」
「ほら早く乗れ! 急ぐぞ!」
 そして3人を乗せた車はビジター・センターを後にした。


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