1. 到着


 関空から12時間かけてフランクフルトへ飛び、そそくさと国内線に乗り換えて40分ほど、ドイツ南部バイエルン地方ミュンヘン空港に着いた。上空から見た野山の緑とオレンジ色の屋根との調和の、なんて美しいことだろう。自然との共存、保護が、市民の意識と法律で徹底されているというが、どうやら本当のようだ。
 空港では辻君が待ちかまえてくれており、さっそく地下の電車の駅へ。エスカレーターでは右へ寄り、左側をあけておかなくてはならない。急ぐ人はそこを歩くのだ。まん中に立っていたりすると、後ろから「どけ!」と言われることもあるらしい。ただ、地方によってはあまり守らないところもあるようだが、ミュンヘンではきっちりと右に寄っていた。
 駅には改札がない。切符の自動販売機には地図があり、その駅を中心に円がいくつか大きくなってゆき、半径の大きさによって料金が決まる。日本のように細かく料金があるわけでなく、4〜5つのボタンしかなく、大ざっぱな感じがした。そして日本とは逆で、ボタンを押すと料金の数字が表示され、お金を入れるとその分数字が減ってゆき、0になるとめでたくキップとおつりが出てくる。が、時間制限があり、もたもたしていると数字が消え、それまで入れたお金は返ってしまう。

 これは日本人泣かせであった。先にお金を入れようとして入らず、弱っている日本人もいた。私なんぞは、あと50ペニヒというところで、どれが50ペニヒなのかもたもたし、何度も「ザザー、チャリン…」と強制返還をくらった。

 やっとのことでキップを手にし、マシンの穴につっこむと、「カチン!」とスタンプされ改札終了。円内なら電車でもバスでも自由に乗れる。駅員はひとりもいない。
 ……ふっふっふ、あなたも私と同じことを考えたでしょう。これではキップを買う必要がなく、キセル自由ではないか。「それは個人の良心にまかされる」と辻君。「俺は良心を保つ自信がない」と私。すると、たまにキップ確認係が見回っており、キセルがわかると法外な罰金を取られるらしい。しかしそれでも、どちらが得か考えるやつもいて、キセルの増加とマナーの低下に、係員の大幅増加を検討中とのことであった。「なんだ、俺のようなやつは、ドイツにも多いんだ」
 そんな話で40分。電車はミュンヘンの中心街に着いた。



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