苦手意識
~小判鮫オサムの考察~







「お~い今誰か俺の事呼んだかー?」
「?!………あぅぅぅ~~~オサムちゃん~~~!!」

「え?!??!何でこんな所に?!」



放課後の練習中、聞き覚えのある声が自分を呼んだ気がして、後輩達の側へ近寄っていった俺――小判鮫オサムは、従兄弟のが半泣き状態で筧達の側から飛び出してきた事に気付いて、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
そう、俺の後ろに隠れるようにして縋り付いているこいつは俺の従兄弟の
俺の可愛い弟みたいなもんだ。


「ど、どうした?!」


いつになくへにゃへにゃになっているに、俺は思わずオロオロとしてしまう。

「助けて~~~!」

筧達の方を見て困ったように眉尻を下げる
その様子に暫し考え込んでから、俺はが半泣き状態で縋り付いてきた理由に思い至った。


そうなのだ。こいつは昔から筧や水町達のようにデカイ奴らが大の苦手なのだ。
まあ、が苦手意識を持つようになってしまった理由を聞けば、こうなってしまうのも致し方ない事だとは思うのだが。
しかしその一方で、俺は今までに絡んだ奴らの気持ちが理解出来ないでもなかった。
はずっと見下されてきた…と思っているようなのだが、実際はそうではない。
少なくとも俺が知る範囲では。

何というか………可愛いのだは。

いや、外見が可愛いとか、女みたいだとかそういうことではなく、何だか無性に構いたくなって仕方なくなるタイプなんだ。
いや勿論外見的にもは充分に可愛い部類には入るとは思うけれど。
だからきっと今までが接してきた奴らってのも、の反応が可愛くて、ついついからかい半分に構ってしまった……というのが本当の所だろう。
まさか、それがのトラウマになっているとも知らないで。



「オサムちゃん?」

この状況に困ったように苦笑すれば、訝しげにが首をかしげてくる。


「あ、ああ大丈夫だぞ~?ああ見えて、あいつらは怖くないからなー。」

「………ん。そだね。それは分かった。」


予想外のの反応に、俺は後ろを振り向いたままの状態で目を見開く。
まさか、こんな状態のからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。

「え?!何でだ?あいつらがダメでこんなんなってるんじゃない訳?!」
「ううん?違うよ。あの状態をどうにかして欲しかっただけ。だって俺じゃアレどうにも出来ないし。……それに………。」
「それに?」

「……えと……筧は………俺の事気遣ってくれた……よ?」


一度戸惑いがちに目を伏せてから、ふわり――とが笑みを浮かべる。


「…………………………………?!」


が!あのが!
デカイってだけで拒絶反応をおこしていたあのが!!
よりにもよってあの筧を、敬遠するどころか自分から受け入れているなんて!


「俺、ずっと距離置いてたから知らなかったけど……筧っていい奴だねオサムちゃん?」


へへへ……と照れくさそうに笑うの姿に俺の身体を半ば感動にも似た震えが駆け抜ける。

ずっと心配だったのだ。
可愛い弟と言っても過言でないの事が。
そのが、一歩成長した姿を見せてくれた――。
それが兄がわりの自分にとって一番の感激だった。



「成長したなぁ…っ!!」

「ちょ、ちょっとオサムちゃん何泣いてんだよー?!」



これも、ひとえに筧のおかげだろう。
と筧の間に何があったかは分からないが、筧がを変えてくれた事はほぼ間違いない。
俺はに変化をもたらしてくれたであろう筧に心底感謝しつつ、滲みつつあった涙をユニフォームの袖でゴシゴシと擦った。



「筧!!」



俺達から少し離れた所で水町と何やら騒いでいる筧に向かって声を掛ける。


「小判鮫……先輩?」

俺の声に、水町の首元をぎゅうぎゅうと締め上げていた手を離して、筧が訝しげな表情を浮かべる。
一瞬、背後のに視線を向けた筧の瞳が僅かに揺らいだのを俺は見逃さなかった。
その筧の戸惑いを含んだ表情に俺は確信を深める。
間違いない。
筧の方もどこかを気に掛けている節がある。
その筧がを支えてくれるなら、これからもは変わっていく事が出来るだろう。
過去のトラウマから完全に抜け出し、外見や個性に左右されず普通に人と付き合う事が出来るようになるかもしれない。

ゆっくりと歩いてきた筧が目の前に立った所で、俺は思わず飛びつくようにして筧の両手を取ってしまった。



「こっ、小判鮫先輩っ?!」
「オサムちゃん?!」


驚いたような筧との声が重なる。



「ありがとう筧!の事、よろしく頼むな?!」




次の瞬間、俺の前後で二人が飛び上がったのは言うまでもない。




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