俺、もしかして凄い人に拾われたのかな?






にーちゃんと俺 8







「ほぇえ………スゲェ……。」

躑躅ヶ崎館から家出して又しても拾われた俺、14歳。
ただいまアホ面全開で目の前の建物を見上げています。


「What's up(どうした)?」


俺があまりにもアホ面晒して固まってたからだろう。
政にーちゃんが不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。
う…ッ!こうして改めて見るとやっぱり政にーちゃんもメチャメチャ男前だよ!
男の俺から見てこんなにカッコイイんだから、きっと凄ぇモテるんだろーな。
う、羨ましくなんかないんだからな…ッ!
いやいやいや!今はそんな事どーでも良くて!!


「…………ねぇ政にーちゃん?」
「A~n?何だ?」

「政にーちゃんて、もしかして凄く偉い人??」


だって!だってね!!この建物、これって普通の家じゃないよね?!
これってどうみてもお城だよね?!
躑躅ヶ崎館も物凄く大きくて立派だったけど、ここは館とか屋敷っていうよりお城って言葉が当てはまる。
それもかなり大きいよ?!
それが政にーちゃんの家だって言うんだから驚くなって方が無理がある。


「今更何言ってんだ?」
「だって俺、政にーちゃんの事何も知らないし!ってゆーか、俺政にーちゃんの名前とかちゃんとに教えてもらってないじゃん!!政にーちゃんって何者?!」


確かにこじゅ(にぃ)をはじめ、強面のおにーさん達を部下にしてる所からして、ある程度偉い人なんだろうな――とは思ってたけど。
だからっていきなり城が出てくるとは思わないじゃん?
何かこれは俺の想像のレベルを遥かにオーバーする勢いなんですが?!
だってさ普通、知り合ったおにーさんが凄く偉い人だなんて思わないじゃんか?!
何つーの?ゲーセンで知り合って仲良くなった気さくなおにーさんが、実は凄く偉い政治家だった…みたいな?
それ位衝撃的なんだよ!
例えがおかしいとか言うな!俺だってそう思うけど、俺的にはコレが精一杯なんだよ!
とにかく、俺の想像を超える世界が馬を下りた俺の目の前に広がっていた。

「そういやそうだったな。」
「何だ?政宗様の名を呼んでいただろう?知らなかった訳じゃあるまい?」
「それは…ッ!こじゅ兄がずっと『政宗様』って呼んでたからそーゆー名前なんだって思っただけで…!」

ホント今更だけど…俺、政にーちゃんが何処の何て人なのか知らないんだよね。
あれ?もしかして俺、知らない人にのこのこ着いてきちゃった…みたいな?
これって『知らない人に声を掛けられても着いて行っちゃいけません!』っていうガキの頃に口酸っぱく言われる事にメチャメチャ反してね?
ええええっ?!俺ってマジ小学生以下?!
こんな事佐助(にぃ)に知れたらめっちゃ怒られるぅぅぅぅ~~!!


「I'm sorry(すまねぇな)。すっかり知ってるもんだと思ってたんでな。」
「すると、は政宗様が誰か知らずに助けたってのか?」

「…………………うん。」


だって、政にーちゃんがやられちゃうって思ったら、身体が勝手に動いただけだし。
政にーちゃんが偉い人だから助けようって思ったんじゃない。
俺の事を助けようとしてくれたから、そんな人がやられるのは見たくないって思ったから。
だから俺は俺に出来る事をしなくちゃって思って。
そう答えたら、何故かこじゅ兄と政にーちゃんが驚いたように顔を見合わせた。


「What a surprise(驚いたぜ)!俺が誰かも知らずにあの剣戟の中に飛び込んできたってのか?」

「だって!あのままじゃ政にーちゃん後ろ狙ってた忍にやられちゃうって思って…。」


そりゃ政にーちゃんが凄く強いってのは見てて分かったけどさ。
でもあの時政にーちゃん、後ろの忍に気付いてなかったみたいだったし。
もしあのまま俺が何もしないで政にーちゃんがやられちゃってたら、俺凄く後悔したと思うんだ。
きっと何も出来なかった自分を許せなかったと思う。
だから俺は今でもあの時政にーちゃんを助けようと思った事は後悔してないし、少しでも役に立てたんなら良かったって思うんだ。
そりゃ、こじゅ兄に助けられてたんじゃ世話無いとは思うけどさ。

「おいおい…俺はてっきり俺の事に気付いたから無理にでも割って入ってきたのかと思ってたぜ。」
「………俺、政にーちゃんが偉い人だから助けようと思った訳じゃないんだ。だから本当に政にーちゃんが偉い人だったなんて知らなくて………もし失礼な事してたらごめんなさい。」
…………。」


俺だってこの世界に来て少しはこの世界の事学んできたからさ。
俺が居た所と違ってここには身分ってのがあって、お館様や幸にーちゃんなんかは偉い人ってのになるんだって知った。
で、同じような偉い人が国ごとに沢山居るんだって事も。
だから俺、政にーちゃんが偉い人ならきちんと謝らないといけないと思うんだ。
幸にーちゃんやお館様は俺の事を自分の弟や子供みたいに大事にしてくれるけど、他の偉い人はそういうのを凄く嫌がる人もいるらしいから。


「何てこった……。」
「こじゅ兄??」


参ったというように片手で頭を抱えるこじゅ兄。
あれ?やっぱり偉い人だったって知らなかったの、ヤバかったのかな?
でも何かそういった感じじゃない気がする。
どちらかといえば凄く困ったって感じ??

「確かに確認しなかったからな。って事ぁ俺達が誰なのか分からず着いて来たって事か?」
「う、うん……。」

「………………………如何致しましょう政宗様。」


な、何か凄くマズイ方に話が進んでるカンジ?
やっぱ知らない人に着いてきちゃったせいなのかな?
うううううぅぅぅ……………どうしよう………。
こんな時、佐助兄が居てくれたら………。


「Hum……連れてきちまったもんは仕方ねぇだろ。とりあえず向こうには暫く預かるって連絡しとけ。」
「はっ!急ぎ書状をしたためまする。」

「あ、あの…ッ!」
「ん?どうした??」
「書状って……俺の事を連絡するって事?」
「そうだが?」
「え?連絡するって……どこに?俺、何処から来たとか全然言ってないのに……。」


何か凄く嫌な予感がした。
俺、自分が躑躅ヶ崎館から家出してきたって一言も言ってないのに。
でも何となく政にーちゃんとこじゅ兄は俺が何処から来たのか知ってるみたいだった。
だってそうじゃなけりゃいきなり俺の事を連絡するなんて言う筈ない。
それに、2人とも何か凄く偉そうな人達みたいだし。
そんな人達が俺を預かってるって連絡するって言ってるんだよ?!
もしかして、こじゅ兄や政にーちゃんは佐助兄や幸にーちゃん、お館様達と戦ってる国の偉い人だったりして…!
そんで、俺を人質に皆を降参させようとしてたりとか…ッ?!
もしそうだったらどうしよう~~~~~~~~!!!!!


「あ、あああああッ!あの――ッ!!」
「An?さっきからどうした?」
「もしかして………その……俺が何処から来たのか知ってる……の?」
「ああ。甲斐の虎のおっさんの所からだろ?」
「―――っ?!な、何で?!」
「『』って名の子供が真田幸村に拾われて、そいつを甲斐の虎が後見してるらしいって情報は黒脛巾から入ってきてたからな。名前を聞いた時にもしやと思ってたんだが…。」
「お前、政宗様をお助けした時に荷物を放り出していただろう?その時黒脛巾がおまえの荷物を回収していてな。悪いとは思ったが中身を検めさせてもらった。その中に真田の家紋のついた懐刀があるのを確認してな。お前が真田ん所の『』だと確信したって訳だ。」
「だからが俺を助けたのも俺達に着いて来たのも、真田幸村から俺の事を聞いていて俺が誰だか分かった上でだと思ってたんだがな。やれやれ…とんだ思い込みだぜ。」



…………………………………嘘ぉ……。
俺、いつの間にそんな有名人になってたの~~~~?!?!?!?
ってゆーか、このままいくと俺の予想ビンゴって事になりかねないんじゃ?!
こうなったら何とかして佐助兄や幸にーちゃん達に迷惑が掛からないようにしないと!
俺は震えそうになる手を胸元でギュッと握りしめて口を開いた。


「お、俺…っ!」

「安心しな。そんな顔しなくても何処の奴か分かった所ですぐに放り出したりはしねぇ。が落ち着くまではここに居て構わねぇって言っただろうが。まあ帰りてぇならすぐにでも黒脛巾にでも送らせるがな。」
「え?帰っていいの………俺、人質じゃないの??」
「は?!何言ってんだ?」
「だって政にーちゃん達、幸にーちゃんやお館様と戦ってる国の偉い人なんじゃないの??」
「幸にーちゃん??」
「多分真田幸村の事だろ。……確かに前はやりあった仲だがな。今は甲斐とは同盟を結んでいる……少なくとも今は敵じゃねぇ。共通の敵が居る今はな。」
「敵じゃ…………ないの??」
「何だ?帰り辛くてあんな顔してたんじゃねぇのか?」

そう言って苦笑する政にーちゃん。
その笑顔に俺はホッと胸を撫で下ろした。
だってどっちも俺を助けてくれた大切な人達だし、そんな人達が戦うなんて事出来ればあってほしくない。


「良かった~~~~!俺、政にーちゃん達も幸にーちゃん達も大事なにーちゃんだからケンカなんかしてほしくないって思ってたんだ。」
「………やれやれ喧嘩……か。天下取りもにしてみればただの喧嘩でしかないのでしょうな。」
「Ha!違いねぇ。まぁ前田の風来坊に言わせりゃ命懸けの死合いもただの喧嘩らしいからな。」

「ふぇ?政にーちゃん??」
「何でもねぇ。気にすんな。――で、どうするんだ結局?帰りてぇならさっきも言ったように黒脛巾にでも送り届けさせる。帰り辛ぇんなら連絡だけしとくから気持ちが決まるまでここに居りゃあいい。の好きな様にしな。」

「俺は………。」


そこまで言われて俺は言葉に詰まった。
そうだ。政にーちゃん達が佐助兄や幸にーちゃんの敵で、俺が人質として利用されるんじゃないかと思ってたから逃げるなり何なりしてそれを回避しなくちゃって思ってたけど、俺……よくよく考えたら躑躅ヶ崎館に帰れるような状況じゃなかったんだった。
そうだよ……もし俺を人質にとったとしても、勝手に館を飛び出した俺なんかの事助けようと思う訳ないんだった。
勝手な行動して迷惑かけるようなどこの馬の骨とも知れないガキの事なんか……助ける訳ない。
俺バカだ…………家出してきたんだから、今更のこのこ帰れる訳なかったのに………。


「どうした?」

「…………………………………俺……。」


こじゅ兄が唇をかんで俯いた俺の頭を優しく撫でてくれる。
手の感触も大きさも撫で方も全然違うのに、何故かその優しくて大きな手は誰よりも佐助兄の暖かさに似ていて。
大きな手がくしゃくしゃと俺の髪をかきまぜていくその度に、佐助兄の顔が頭をよぎっていく。
困ったように笑ったり。
俺の言葉に驚いたように目を見開いたり。
俺を心配して怒ってくれたり。
泣き虫な俺の事を優しく抱きしめてくれたり。
佐助兄はいつだって誰よりも俺を本当の弟みたいに扱ってくれた。
俺を見た目だけで差別しないで、いつでも俺を普通のガキとして受け止めてくれていた。
なのに俺は勝手に怒って勝手に館を飛び出して。
そんな奴を佐助兄が許してくれるわけない。
呆れられるなら、見放されるくらいなら、いっそ―――
俺、佐助兄達に冷たい視線を向けられるくらいなら帰らない方が……………いい。
大好きだから、嫌われたくないよぉ……。

?」
「……………俺……ここにいても……いい?」
「いいんだな?帰らなくても?」
「……………………………………。」
「だが、書状を送ればすぐに迎えが来るとは思うが…?」
「Ha!真田幸村自ら乗り込んで来てくれりゃ言う事ねぇな。」
「政宗様!今は同盟中でございます。真田との手合せは程々になされませ…。」
「あーあー分かった分かった。」
「………………あの……ね……?」
「An?どうした?」
「俺がここに居る事………どうしても言わなきゃ…………ダメ??」

そりゃ政にーちゃんやこじゅ兄にだって事情があるってのは分かるけど。
もし……もし誰かが本当に迎えに来てくれたら――。
その時俺を見る目が氷みたいだったら……。
俺、やっぱり怖くて会えないよ。

「……………何だ?そんなに帰りたくねぇのか?」
「帰りたい……よ。会いたい……でも……………帰れない。」
「とはいえ、このままだとを連れ去ったと誤解されて同盟破棄にも繋がりかねねぇからな。如何致しますか政宗様?」
「――――alright(分かった)。なら簡単だ。、このまま俺のモノになれ。そうすりゃ問題ねぇだろ?」

「政宗様?!一体何を?!」


思いもしなかった政にーちゃんの言葉に、こじゅ兄も驚いたように目を見開いてる。
そりゃそうだよね。
いきなり俺のモノ発言されれば俺だって流石にビックリだよ!


は自分の意志で虎のおっさんの所を出てここに来た。それなら甲斐の連中がどうこう言う資格はねぇ――そうだろ?」
「ですが…ッ!」

「ただし、がこのまま伊達軍に入るってんなら……だがな。」


そう言って政にーちゃんが一つしかない目でじっと俺を見詰める。
それはとても厳しいものだったけど……でもどこか優しい感じがして。
俺はきゅっと口元を引き締める。
何ていうのかな?厳しいけど俺の事を考えてくれてるっていうか…。
本当にそれでいいのか?
きちんと考えろ――って言ってくれてるみたいで。
俺は必死に政にーちゃんの目を睨み返す。


「政にーちゃん、俺………。」

「すぐに決めろとは言わねぇ。2日だけ時間をやる。その間に伊達軍に入るのか、そのまま甲斐の人間としてここに留まるのかを選べ。伊達軍に入るなら虎のおっさんや真田幸村にゃがここに居る事は伝えねぇ。だがいずれは帰るってんなら一時的にここで預かってると書状は出す。結果すぐに迎えが来るかもしれねぇがな。――――いいな?」
「―――うん。」
「Okay(よし)!イイ顔だ。」


そうだよ。俺、いつもいつもにーちゃん達に助けられてばかりで。
躑躅ヶ崎館を飛び出してから、強くならなきゃって思ってたのに。
だから今度は自分でしっかり考えて、きちんと自分で自分の行動の責任を取らなくちゃいけないんだ。
俺、にーちゃん達みたいに強い男になりたいから!
佐助兄や幸にーちゃん、政にーちゃん、こじゅ兄、お館様。
皆みたいな強くて優しくて大きくてカッコイイ大人になりたいんだ!!



「…………んでね、政にーちゃん?一つ聞いてもいい?」
「ん?」

「結局政にーちゃんは何処の偉い人なの??」

敵じゃないって言ってくれたけど、本当に俺政にーちゃんの事何も知らないし。
ちゃんとに知っておきたいじゃん?
これから暫くお世話になるかもしれないんだから余計にさ。



「そうだったな。俺は奥州筆頭、伊達政宗。しっかり覚えとけよ?――You see?」



そう言って政にーちゃんはその男前な顔にニヤリと笑みを浮かべる。

「奥州…筆頭…………伊達……政宗??」

言われた言葉を鸚鵡返しに呟く。
だってさ、何か聞き覚えあるんだよ。
ううん!絶対聞いた事ある!!


「筆頭………奥州……政宗……。」
「どうした?政宗様の名に何かあるのか?」
「………………………………………………………………………………あ。」
??What's up(どうした)?」


「あああああああああああああああああ!!!もしかして『政宗殿』ぉぉぉ?!?!」


「な、何だ?!」


そうだよ!幸にーちゃんがよく口にしてた幸にーちゃんのライバル。
奥州の独眼竜、伊達政宗?!
それがこの政にーちゃんなの?!


「幸にーちゃんがよく言ってた!『政宗殿』は自分にとって最大にして最強、唯一の好敵手だって!!」
「ほう?真田幸村が……ねぇ?」

「うん!!!『政宗殿』は凄い御仁なんだって。若くして立派に国を治め、武将としての力量も比類ない敬服に値する御仁なんだって言ってた!!その『政宗殿』が政にーちゃんなんだね?!凄ぇぇぇ!!!」

「……………………Unbelievable(信じられねぇ)。の奴、こっ恥ずかしい事を面と向かってよく恥ずかしげもなく……。」
に掛かっては、流石の政宗様も形無しのようですな。」


なんてこじゅ兄と政にーちゃんが呟きあってたなんて知る由も無く。
俺は思いがけない偶然という名の巡り合わせに感動していたのでした。




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