にーちゃんと俺 5







、お館様へのお目通りのお許しが出たぞ!」


その日、珍しく遠出のお仕事の無い佐助(にぃ)に文字を教わっていた俺――は、スパーン!という大きな音を響かせて部屋に飛び込んできた幸にーちゃんの勢いに、思わず手にしていた筆を落としそうになってしまった。
うっわ!この障子戸結構重い筈なのに、まるで蝋を塗ったみたいに滑ってったよ?!オイ?!
改めて思うけど、幸にーちゃんのあの馬鹿力は、既に人外のレベルだと思う………。
ニコニコと、これ以上ない位の笑顔を向けてくる幸にーちゃんに引き攣った顔を向けながら、俺は滑って行った障子戸へチラリと視線を投げる。
そんな俺達の様子を苦笑しながら見ていた佐助兄が、ポンポンと俺の頭を叩くと幸にーちゃんに視線を向けた。


「へぇ?やっとお許しが出たんだ?」
「うむ。ここしばらく北条に不穏な動きが見られた故、お館様もご心痛であられたようだが、どうやら北条の動きも治まったようなのでな。漸くお目通りのお許しが出たのだ。」

「おやかた……さま??」


そういえば、佐助兄達に拾われた時に聞いた気がする。
幸にーちゃんがお仕えしてるのが『お館様』って人なんだって。
それ以上の事は聞いた事が無いから、そのお館様って人がどんな人なのか俺にはさっぱり分からないんだけど。

「ああ、にはきちんと話した事なかったっけ?」
「うん。幸にーちゃんがお仕えしてる人だって事しか知らない。」
「おお?!そうであったか?!お館様は、この甲斐の国を治めて居られるお方なのだ!常に我ら家臣や領民の事を思うて下さる真の名君であられる。」
「ここで一番偉いの??」
「そーゆー事。でも、とても懐の広いお方だから、きっとの事もお気に召してくれると思うよ。」


ええと………つまり、俺はここで一番偉い人にご挨拶しなくちゃいけないって事……なんだよね?
幸にーちゃんや佐助兄の話からすると、すごくいい人みたいだけど、とりあえずこの国で一番偉い人だって事だから、緊張するなって方が無理がある。
だってさ学校でいったら校長先生、都道府県でいったら知事、日本って国でいったら総理大臣って事でしょ?!
そんな偉い人にご挨拶なんて、俺絶対何かやらかしちゃうってぇぇぇぇぇぇ~~~!!



「明日の巳の刻頃にお館様へお目通りする手筈となった。それまでにきちんと身支度を整えておくのだぞ?」



兄ちゃんらしくそう言って俺の頭を撫でると、幸にーちゃんは鍛錬だと言って部屋を出て行ってしまう。
え?ウソ?!マジでッ?!決定事項なの?!
俺に拒否権は無いわけ~~?!
てゆーか、何でそんなに鼻歌混じりなんだよ幸にーちゃん~~~~~ッ!!
今にもスキップしかねない程にご機嫌状態で出ていく幸にーちゃんの後ろ姿に、その時の俺は湧き上がる不安を抑えきれぬまま佐助兄の顔を見上げる事しか出来なかった…。





















「あぅー……………………眠れない…………。」

あの後、幸にーちゃんによって過度の不安と緊張状態に放り込まれてしまった俺は、再開した佐助兄の書き取り講座で筆舌に尽くしがたい惨憺たるザマを曝け出してしまった。
完全に集中力を欠いた俺は、墨は零すわ、硯をひっくり返すわ、派手に紙はぶちまけるわ。
最後には何十枚も書き損じの紙を作った挙げ句、もうこれ以上の手習いは意味が無いと佐助兄に宥められる始末。
はうぅぅぅ……情けなさすぎるだろ?!俺ぇぇぇぇぇぇ!!!!
そんなこんなで結局、文字の書き取りの練習は断念せざるを得なくなり、代わりに明日の為の準備をする羽目になってしまったのでした……。
とは言っても、佐助兄や女中さんが着替えやら何やらを用意してくれたし、俺自身は大してすることは無かったから、何か余計に色んな事をグルグルと考えてしまって。
そんな状態だったから、いつもは楽しい筈の幸にーちゃんとの夕餉中も、俺の心は此処に非ずといった感じだった。
だって夕餉何食べたかロクに覚えてない位だもん。
そんなんで布団に入ったところで、目も意識も冴えてしまっていてはゆっくり寝るどころじゃない。
暫く布団の中でゴロゴロしていた俺は、あまりの緊張感に耐えきれなくなってとうとうガバリと布団から飛び起きた。

「少し散歩したら疲れて眠くなるかも。」

本当は夜遅くに歩き回るな!って佐助兄や幸にーちゃんに言われてはいるんだけど。
ごめん!今日だけは許して!!
だって気分が昂っちゃってどうにも落ち着けないんだよ。
もう、アドレナリンが大量分泌!って感じ。
こんなに緊張すんの、小学校の時の発表会以来だよーーー!!
寝る事を放棄した俺は、寝巻用の着物の上からフリースジャケットとダウンコートを羽織って月夜の庭に飛び出した。

暫くあてもなく歩いていると、先の方に段々と見覚えのない景色が広がり始める。
そういや前に夜中トイレに行って迷子になった時も思ったけど、ここってホント広いんだよなぁ。
ここに来てからあまりアチコチ探検とかした事無いから、こうして初めて目にする所もまだまだいっぱいあってちょっと新鮮!
今度、幸にーちゃんに頼んで館内を探検してみよっと。


「あれ?灯りがついてる……?」


暫くキョロキョロしながら見慣れない庭をペタペタと草履を引き摺りつつ歩いてたら。
目的も無く歩いていた俺の視界の先に、障子戸にユラユラと浮かび上がる影が映る。
もう夜も大分更けてるってのに、まだ起きてる人が居るなんて正直驚きだ。
だって、ここの人達って朝陽が昇ったら起きて、陽が沈んで暫くしたら寝るっていう、かなりの早寝早起き生活の人達ばかりなんだもん。
不思議に思って灯りの方に近付くと、障子の隙間から僅かに廊下に光が漏れている。
僅かばかりの興味に引き摺られて草履を脱ぎ捨てると、俺は煌々と照らされている燭台の灯りが漏れる部屋の中をそぉっと覗き込んだ。


「――――何用じゃ?」
「ひゃう――ッ?!」


覗き込んだ部屋の中から、こちらに背を向けたままの男の人が声を掛けてくる。
そのあまりのタイミングに俺は思わずビクリ――と身体を竦ませてしまった。
あわわわわわわわわ…!思わず変な声出しちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~!!!

「このような夜更けに如何致した?そのような所に居らず入るが良い。」

凄く迫力ある声の、大きな身体の男の人が、走らせていたらしい筆を置いて俺の居る廊下の方を振り返る。
穏やかだけれど力強いその声に促されて、俺はおずおずと目の前の障子を開けた。


「えと………ごめんなさい。お仕事中……だったんですよね?邪魔しちゃった…みたいでその……。」
「構わぬ。ちょうど区切りもついたところよ。」
「そう……ですか?でもやっぱり邪魔しちゃったのは確かだし。ごめんなさい。」
「…………ふむ………そなた、佐助が拾うたという童か?」
「え?あ、はい。です。」
「そうか。見慣れぬ衣を纏うておる故、そうではないかと思うたが……やはりそうであったか。」

そう言うと大きなおじさんは表情を和らげる。
あ、このおじさん凄い優しい目ぇした人だ。
パッと見は凄く大きくて迫力があるから、ちょっと怖そうな感じだけど、何か佐助兄や幸にーちゃんと同じような雰囲気を持ってる気がする。

「して、そのは夜更けにこのような所で如何致した?」
「えと………その………眠れなくて……。」
「眠れぬ…と?」
「はい。で、少し散歩してたら眠れるかなーって思って……。」
「ほう?それでこのような夜更けに出歩いておった……という訳か。」

成る程――というように頷くおじさん。
怒られるかと思ったけど、おじさんは夜更けに歩き回っていた俺の事を怒ったりはしなかった。
ふええぇ~~良かった~~~!!


「んと……おじさんはお仕事されてたんですよね?こんな遅くまで大変だなぁ……。」
「ははは…!これが儂の務めじゃ。当然の事よ。」
「ほえぇ~~~…凄いやおじさん!そんな風に言えるなんて。」
「そうか?」
「うん!だって皆が寝た後も、こうやって遅くまでお仕事してるんでしょ?それを当然の事だって言えるなんて、俺本当に凄いと思う!!」


ぎゅっと両手を握りしめて力説すると、一瞬驚いたようにおじさんの目が見開かれる。
だって本当に凄いなって思ったんだ。
おじさんの事だけじゃない。
佐助兄も夜遅くまでお仕事して、時には帰って来れない事もある。
でもそんな毎日を、忍だから当然だよ――って言って佐助兄は笑うんだ。
大変なお仕事してるのに、それを当然だって笑い飛ばして。
俺はこんなに頑張ってるんだ、こんなに凄いんだ――って一言も言わず、普通の事だ、全然特別じゃないんだって言えてしまうのは本当に凄いと思った。


は、儂を褒めてくれておるのじゃな?」

「褒めるなんて…!ただ凄いなって。俺もおじさんや佐助兄みたいになりたいなって思って…ッ!」


目の前に座っていたおじさんが、嬉しそうに目を細めて俺の頭を撫でてくれる。
歳の割に図体だけはデカい俺だけど、このおじさんの前ではそれも全然感じられない。
何だか父さんに撫でられてるような感じがして、俺はくすぐったさに小さく首を竦めた。

「そうかそうか。儂や佐助のようにか。」
「佐助兄もね、いつも遅くまで頑張って沢山お仕事してるから。」
「………は佐助が好きか?」

「うん!!!大好きだよ!あ、それに幸にーちゃんと………おじさんも!!」

初めて会ったおじさんだけど、俺を撫でてくれる手は凄くあったかくて。
佐助兄や幸にーちゃんに似たこのおじさんを俺はすぐに好きになれた。


「儂も……とな?」

「うん。父さんが生きてたらこんな風だったかなーって思って。」
の父上は鬼籍に入られておるのか?」
「『きせき』??」
「亡くなった者を記す帳面の事じゃ。の父上は亡くなられておるのであろう?」
「…………俺が3歳の時に死んじゃったって母さんが。」
「そうか……は父の温もりを知らぬのじゃな?」
「うん………。」


正直、俺には父親というのがどういったものかあまりよく分からない。
だからおじさんの大きさも暖かさも俺の勝手な想像でしかないのだ。
父親ってのはこういう感じなのかな?って。
大きくて逞しくて暖かいおじさんみたいな人は、俺の想像上の父親像にピッタリと当てはまっていたから。

の父上もさぞ心残りであったろうのぅ……。幼きわが子を残して先立たねばならぬのは、親としてこれに勝る辛さは無い筈じゃ……。」
「……………………俺が生まれた時に、父さんが良く言ってたんだって。俺が大きくなったら一緒にキャッチボールするんだって。」
「きゃっちぼおる…とな?」
「手の平くらいの小さな球を投げ合いっこするんだ。父親の夢なんだって……息子とキャッチボールするのって。」
「…………………。」
「早く大きくなれっていつも言ってたって。風呂で背中の流しあいしたり、息子の悩み相談に乗るのが俺の夢なんだ――そう言ってたんだって。」
「そうか……。」
「俺が立派に成人したら、一緒に酒を飲むんだって…………楽しそうに笑ってたって。」
を………誠に慈しんでおったのじゃな。」


おじさんの言葉に顔をあげると、優しげな瞳が静かに細められる。
静かに頭を撫でていた大きな手がそっと俺の目元に触れて、初めて俺は自分が涙を流していた事に気付いた。
あれれ?俺、何で泣いてんの?!
別に悲しくも苦しくも悔しくも無いのに、何で涙なんて零れる訳?!
慌ててぐしぐし――と目元を擦ると、おじさんが小さく苦笑する。
うわぁぁぁぁぁ………俺、こんな図体なのに、初対面のおじさんの前で泣くってどうな訳?!
いや、佐助兄に初めて会った時も、初対面の佐助兄の前で号泣しちゃったけどさぁ!


「ごめんなさい!俺…ッ!急に変な話して……!」
「構わぬ。の話が聞けて儂も嬉しいわ。」
「おじさん………。」

情けない姿を晒したのに、おじさんは少しも呆れたり嫌そうな顔をしたりはしなかった。
それどころか何度も何度も俺の髪がくしゃくしゃになるまで頭を撫でてくれて。
佐助兄や幸にーちゃんとは又違ったその感触に、俺はやっぱりこの手は父さんみたいだと思わずにはいられなかった。


「ありがとね………おじさん。俺の変な話聞いてくれて。」
「何の!儂もにようやったと褒められて、久しぶりに心が躍ったわ。」

「えへへ…………そうだ!おじさん、ずっとお仕事してて肩凝ってない??俺、よく母さんの肩揉みとかするんだ!俺、これでも結構上手いんだよ?話聞いてくれたお礼に俺、肩揉みするよ!!」


看護師をしている俺の母さんはかなりの肩こりだ。
だから普段からよく母さんの肩揉みをしている。
その母さんから太鼓判押される位には、マッサージは上手い方だと自負してるんだけど。
それに――
もし父さんが生きてたら、こうして仕事終わりの疲れた肩を解してあげられたかもしれない…なんて思ってしまって。
俺は初めて俺に父親という感覚を与えてくれたこのおじさんに、父さんに出来なかった分も込めて精一杯のマッサージをしてあげたいと思ったんだ。

俺の言葉に驚いた様子のおじさんの後ろに回り込んで、逞しい肩に手を伸ばす。
うわぁ……こうして改めてみると、やっぱり大きいよなぁ、おじさん。
それに、まるで鎧のような凄い筋肉が首や肩や背中についていて、俺はその鍛え上げられた大きな背中に感嘆の溜息を漏らしてしまった。
幸にーちゃんや佐助兄も鍛えられた引き締まった身体をしてるけど、おじさんはその比じゃない。


「如何致した?………?」


暫く呆然としていた俺を振り返りながら、おじさんが訝しげに首を傾げてくる。
それに小さく笑って、俺はおじさんの広くて逞しい背中にペトリと頬を擦り付けた。

「おじさんの背中は…………大きいね…………。」

呟くと、からからと笑う声が背中を通して伝わってくる。
その暖かな背中は、遠い昔…記憶すら曖昧な過去に背負われた事のある父さんの背中の温もりの様で。
俺はもう一度その大きな背中にぎゅっと縋り付いてしまったのだった。























あの後おじさんのマッサージを終えた俺は、それまでの緊張感がまるで嘘だったかのようにスッキリした気分で自分の部屋に戻ったんだけど。
タイミング悪く俺の様子を見に来ていた佐助兄に鉢合わせしてしまって、部屋を抜け出していた事がバレてこれでもかって程にお説教されてしまいました………。


!!こんな夜更けに何処ほっつき歩いてたの?!又どこかの忍に攫われたのかと思って、心配したんだよ俺様?!」
「うぇぇぇ~~……ごめんなさい佐助兄ぃぃぃ…………。」
「全くどれだけ俺様の寿命を擦り減らせば気が済むの?!」

騒ぎを聞きつけて様子を見に来てくれた幸にーちゃんが佐助兄を宥めてくれるまで、俺は散々に怒られ続けたわけですが。
その後は結局、俺をぎゅっと抱き込んで離さない佐助兄に半ば無理矢理に布団に放り込まれて、そのまま添い寝されるような形で俺は夢の世界へと旅立ったのでした。
いや、デカい男2人ってのは流石に厳しかったけど、佐助兄の腕の中は暖かかったから……ま、いっか。


「こうしておかないと、何処に行くか分かったもんじゃないんだから……は。」























そして次の日。
お館様にご挨拶をする為に謁見の間に向かった俺は、目の前に現れたその人物の姿に思わず言葉を失ってしまった。
えええええええええええええええーーーーーーーーッッッ?!
だってさ、まさかと思うじゃんか!!


「あ………え?…………お、おじさん……ッ?!」

「うむ。昨夜はそなたのお陰でよう眠れたわ。礼を申さねばの。」
「え?!嘘ッ?!じゃあおじさんが……!」
「そういえば昨夜は名乗りもせなんだのぅ。儂がこの甲斐を治めておる武田信玄じゃ。」


そう言って笑うおじさん――改め武田信玄さんの姿に、俺は全身からスーッと血の気が引いていく思いがした。
え?!マジで?俺、知らなかったとはいえ、この国で一番偉い人にあんな口きいた揚句、背中に縋り付いたりとか失礼この上ない事しちゃった………みたいな?
あ、あはははははははははははははは………………。
ありえない!ありえないよーーーー!!!
誰か嘘だと言ってぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~!!!!!



「ご、ごめんなさいッ!!!俺っ全然知らなくて…ッ!!」



俺、とんでもない事しちゃったよぉぉぉぉぉぉ~~~~!
もしかして俺、打ち首……とかじゃね?
いやいや!それより前にこの場で手打ちって可能性も!!
どちらにしても、国主に無礼を働いたんだから、俺の身に待つのは極刑しかないだろう。
あああああ………佐助兄の言う事聞かなかったから罰が当たったんだねきっと……。
こんな事なら佐助兄や幸にーちゃんの言う事ちゃんとに聞いて、大人しく部屋に居れば良かった。
ううう…ごめんなさい佐助兄ぃぃぃ。幸にーちゃぁん…。

「面を上げるが良い。」
「はい………。」
「ははは!そのように畏まらずとも良いわ。昨夜の様に気楽にするが良い。」

「で、でも……。俺、信玄…様がお館様だって知らなくてあんな……失礼な事してしまって………本当にすみませんでした!!」

頭を床に擦り付けんばかりにして頭を下げると、お館様がやれやれといったように笑う気配がした。
え?あれ?怒って………ないの??

「何を申しておる。昨夜も申したであろう?昨夜は久々に心が躍ったと。」
「お館様……。」
「儂はのぅ、そなたの父が叶えられなんだ願い、儂が代わり出来ればと思うておるのよ。」
「え?」

父さんの願い?お館様が代わり??
………………ごめんなさいお館様。
俺、お館様の言ってる意味がよく分かりません…。
だって、俺の父さんとお館様に一体どんな関係が…ッ?!


「そなたが何処(いずこ)からかこの地へ迷い込んだ事は佐助より聞いておる。なれば、佐助や幸村が兄代わりであるのと同様に、がここに居る間だけでも、儂がそなたの父代わりとなろうぞ。」

「――え?お館様が俺の父さん代わり??」


どうして??
そりゃあ、お館様みたいな人が父さんだったらいいだろうな――って確かにそう思ったけど。
でも俺ってばこの国の人間じゃないし、お館様にそんな風に言ってもらえるような人間じゃないよ?
俺…幸にーちゃんみたいに出来た息子にはなれないし。
あ、ヤバイ…自分で言っててヘコんできた……。



「この国の子らは、皆儂の子も同然。そしても生まれは違えど今は立派に甲斐の子じゃ。なれば、儂がそなたの父代わりをしたとておかしくはあるまい?」



それに又昨夜の様にそなたに肩を揉んでもらいたいしのう――そう言って笑ったお館様は、昨日と同じ優しい目で俺を見詰めると、あの大きくて逞しい腕を伸ばして俺の髪を何度も撫でてくれる。

14歳。
こうしてにーちゃん達に引き続き、14歳にして初めて父親をゲットするのに成功したのでした。
え?!『父上』と呼んでくれぇ?!
いやいやいや!恥ずかしいから!!『父上』なんて言葉ぁぁぁぁあぁああぁぁああぁぁ!!!!!
ふぇぇええぇえ?!どうしたらいいの佐助兄ーーーーーーー!!




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