にーちゃんと俺 3







あの後、茶屋で大まかな事情説明をした俺は、そのまま佐助さんと真田さんに連れられて、真田さんのお仕えしているお館様って人が治めているっていうお城に連行される事になりました。
つっても、不審人物とか危険人物として捕まったって訳じゃない。



えー……簡単に言えば、14歳。
迷子として保護されました………………。



迷子って…ッ!いい歳して迷子って!!!!!!!
小学生ならともかく、流石に中学生になって迷子扱いされるってのは、いくらなんでも流石にさぁ…!
いやほら俺、年相応な扱いがされたいんであって、超ガキ扱いされたいわけじゃないから!
こんなん友達やクラスメイトとかに知られたら、恥ずかしさで死ねるよ!!マジで!
とはいえ、ここが何処かも、どうしたら帰れるのかも分からない身としては文句も言えない訳で。
とりあえず俺の身柄は佐助さんの上司だっていう真田さんこと、幸にーちゃんが引き受けてくれました。
んで、俺の実質の保護者は、俺を見つけた佐助(にぃ)って事になって。
俺は2人が住んでいる躑躅ヶ崎館というお屋敷で養ってもらう事になりました。

ええと、俺が2人をにーちゃん呼びする事になったのには、ちょっとしたいきさつがある。
色々あって未来からここに来てしまったらしい事を話した時、俺が自分より年下だと分かった幸にーちゃんが、すっごくイイ笑顔で『自分の事は兄だとと思って頼ってくれ』って言ってくれたんだ。
俺、兄ちゃんとか居なかったから、それが凄く嬉しくて。
『にーちゃんって呼んでもいい?』って聞いたら、あのイケメンスマイル全開で凄く嬉しそうに笑ってくれたので、遠慮なくにーちゃんと呼ばせてもらう事になりました。
んで、そしたら佐助さんも当然俺より年上な訳じゃん?
それに、実質的な俺の保護者なんだから――って事でおねだりした結果、佐助さんの事もにーちゃんとして呼ばせてもらえる事になりました!

ブラボー!ハラショー!!
すっげーじゃん!!一気に2人のにーちゃんが出来たよ俺ッ!
人間、ダメもとで言ってみるもんです!

そんなこんなで俺、の躑躅ヶ崎館での弟分生活は幕を開けたわけですが。
佐助(にぃ)と幸にーちゃんに拾われて数日後。
、ただ今この世界に来てから2度目のピンチに遭遇しております!
何がピンチかって……………………。




夜中にトイレ起きたら部屋に戻れなくなっちゃったんだよーーーーー!!




「うぇぇぇぇ~~~~~ここドコだよぉ~~~~~……。」

周りを見回してみるけど………全然見覚えのない景色になってない?コレ?!
だって俺の部屋の近くには、こんな井戸とか無かったよ?
この館内って似たような部屋が並んでたりするし、夜中だから灯りなんてどこも灯ってないから真っ暗だしで、いつの間にか来た時と違う所を曲がってしまったらしい。
トイレに起きて館内で迷子って……マジでシャレになんないよー?!


「と、とりあえず落ち着け自分!!」


たとえ草木も眠る丑三つ時…とかって言われるような時間だったとしても、館内の全員が寝てるって訳じゃないし!
少なくとも見張りや見回りなんかの夜のお仕事の人達は起きてる筈だ。
最悪部屋に戻れなかったとしても、誰かの傍に居れば真っ暗な中で一人で一晩過ごす事もないだろう。
とりあえず何処かに灯りのついてる所がないかなー?なんて、くるりと周囲を見回した時だった。


?こんな所で何やってるの?」

「―――――――――――――ッッッ!!!!!!」


ぎぃやあぁぁぁ~~~~!!!何?何ッ?!
何かが俺の肩掴んだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!


??」
「さッ…佐助(にぃ)ぃぃぃ~~~~ッ?!?!」
「うっわ!?何?!どうしたの?!」
「はうぅぅぅ~~ビックリしたよぉ~~~!」
「え?俺様ちゃんとに気配させてから近付いたんだけど??」
「気配の有る無しなんて、分かるわけないだろーっ!!!」


ビックリした!ビックリした!!!
マジで口から心臓飛び出すかと思った…ッ!!
だってこんな真っ暗な中でいきなり声掛けられて肩叩かれたら、オバケか何かだと思うじゃん!
それに、真夜中に佐助(にぃ)に声掛けられるなんて思わないだろ普通。

「あらま。驚かしちまったか。悪い悪い。」
「驚いたなんてもんじゃないよぉ……。」

だってマジで心臓止まるかと思ったんだからな。
もう、全身脂汗だっつーの。
そう思って佐助(にぃ)を睨み付けてやろうと思って振り返ってみれば。



「――っ?!佐助(にぃ)ッ?!どしたのソレっっ?!?!?」



いつもの忍装束姿の佐助(にぃ)の腕の部分が大きく切り裂かれていて。
いや、それだけじゃない。
肩とか腹とかもアチコチに切り裂かれた跡がある。
声掛けられた驚きで気付かなかったけど、よくよく意識してみれば鉄っぽい血の匂いまでしてるし。
どう見たってコレ、怪我してるって事だよね?!

「ああ、出先でちょっとね。それよりは何でこんな時間にこんな所に居るわけ?」
「お、俺?俺はその……………………迷って……。」
「は?何だって??」
「だからその…厠行って戻ろうとしたら迷った…………みたいな?」


うううううううう~~~滅茶苦茶恥ずかしい~~~~。
佐助(にぃ)、すんげぇ目ぇ見開いてるしーーー!
やっぱ言うんじゃなかったぁーーー!!!


「……………本当によく迷う子だよねぇは。いっそ才能じゃないの?」

どこか呆れたようにそう言って佐助(にぃ)が苦笑いする。
そ、そんな事言ったって好きで迷ってる訳じゃないやい!
ここが分かりにくい構造してんのが悪ぃんだよ!ちくしょー!!


「むぅ………。」
「ははは!んじゃ部屋まで送ったげるからこっち来な。」


小さく笑って佐助(にぃ)が手を差し出してくれる。
何か釈然としないけど、まさかこんな事で意地張ったって仕方ないし。
それに、差し伸ばされた佐助(にぃ)の手が何だかすごく大きく、あったかく見えて。
俺はフラフラとその手袋越しの手に己が手を乗せてしまった。
その手を佐助(にぃ)の俺より力強い手がしっかりと握ってくれる。
ああ、やっぱり佐助(にぃ)は俺みたいな図体だけデカいガキと違って大人なんだなぁ――なんて頭の隅でボンヤリと思いながら、俺は繋がれた手を引かれつつ部屋へと向かう。
少し歩くと周囲に見慣れた景色が広がって。
俺はやっとの事で部屋へと辿り着いた。
ぐはー……長かったー!


「さてと…まだ夜明けには時間があるから、もう少し寝てな。」
「うん………。」
「どした?」
「佐助(にぃ)は??これからお休み??」

「俺様?俺様はこれからちょっと出掛けないといけないからねぇ。休めるのはもう暫くお預けかな。」


だからそれまではイイコにしてるんだよ―――?そう言って佐助(にぃ)が俺の頭をポンポンと軽く叩く。
え?マジで?だって佐助(にぃ)、昨日の朝お仕事だって出掛けてったよね?
一日お仕事してきたのに、まだまだお仕事終わらなくて全然休めないの??
それに確か佐助(にぃ)、さっき見た時結構な怪我してた筈だし。
なのに治療もしないで、少しも休まないで又お仕事に行っちゃうなんて!
そんな事してたら佐助(にぃ)、無理が祟って倒れちゃうよ?!
ほら、所謂『過労死』ってのになっちゃうかもしれないじゃんか!!
そう思って慌てて佐助(にぃ)を引き留めると、驚いたように目を見開いてから、佐助(にぃ)が小さく表情を緩める。


「何?心配してくれんの???」
「当たり前じゃんか!!佐助(にぃ)、怪我してるんだよ?!」
「ああ、これ位は大した事ないって。いいからはもう休みな。」


自分の方が大変なのに、そう言って佐助(にぃ)は俺を布団に入れようとする。
それに大きく首を振って、俺は部屋の奥に置いてあった自身のディバックを取るとジッパーを開いた。

「お仕事だから休めないのは分かるけどさ、でもせめて怪我の治療位はしてってよ。」

不思議そうな表情で俺の手元を見ている佐助(にぃ)にそう言って、俺はディバックの中からポーチを取り出す。
このポーチの中には絆創膏とか頓服薬とかが入ってるんだ。
え?何でそんなのが入ってるんだって??
………………………母さんが持ってけって無理やり押し込んだんだよ……。
確かに俺図体デカいせいか、よくアチコチぶつけて怪我するし、小さい頃はあまり体が丈夫じゃなかったからよく熱出したり風邪ひいたりお腹痛くなったりなんてしてたけどさ。
だからって、修学旅行に行くのにこんなに大量の薬やら何やらの救急セットみたいなの持たせるか普通?!
でもまぁその母さんの機転が、今回は役に立ちそうだけど。


?」
「ええと……コレは風邪薬だし、これは胃薬………えっと……あった!!!」


ポーチの奥から大きめサイズの治癒促進用絆創膏と鎮痛剤を取り出す。
よくある普通の傷口保護用のガーゼが着いた絆創膏と違って、皮膚が持つ自然治癒力を活かして早く綺麗に傷を治すってのがこの治癒促進用絆創膏の特徴で、俺は結構気に入ってる。
だって女の子じゃなくたって目に見える所の傷は残らない方がいいに決まってるし、早く治るに越した事はないじゃん?
詳しい原理はよく分かんないけど、傷口から出てくる傷を治す為に必要な成分が含まれた滲出液ってのが傷を早く治してくれるらしくて、普通の絆創膏を貼った時みたいに乾燥させて治すより痛くないし早くて傷痕も残りにくいんだってさ。
だからこの絆創膏にはガーゼとかはついてない代わりに、滲出液を吸ってゲル状になる素材が内側についてる。
こーゆーのって、モイストヒーリングってゆーんだって。
それにコレ、水もシャットアウトしてくれるらしいから、俺も風呂の時とか凄く助かってるんだよねー。

そんなこんなで必要な物をポーチから取り出した俺は、佐助(にぃ)に戦装束を脱ぐように言って、急いでさっき目にした井戸へと走った。
もちろん水を汲みにね。
いや、流石に今回は緊張して意識しながら走ったから迷子にはならなかったよ!

桶にたっぷりの水を汲んで戻ったら、出た時のままの佐助(にぃ)が困ったような顔でこっちを見ていて。
俺は眉を寄せて佐助(にぃ)に近付くと、ポンチョみたいな佐助(にぃ)の忍装束に手を伸ばす。


「早く早く!お仕事行かないといけないんでしょ?」
「治療なら後でするから……。」

「ダメだよ!絶対佐助(にぃ)このままにするもん。」


そう言って佐助(にぃ)の怪我した左腕に触れると、途端に一瞬だけ佐助(にぃ)の眉間に微かな皺が寄った。
ほらやっぱり!痛いに決まってるよ。
だってコレだけハッキリ血の匂いするし、切られた周囲の布は血を吸って色が変わってるんだから。
俺がじっと目の前の佐助(にぃ)を睨み付けると、お手上げといったように溜息をついて佐助(にぃ)が肩から力を抜いた。



「はいはい分かったよ。降参しますって。」



苦笑しながら装束を脱ぎ始める佐助(にぃ)
晒された上半身には切り傷やら打撲の跡やらが無数に散らばっている。
俺は急いで水で傷口を洗うと、小さな傷には普通サイズの絆創膏を、そして一番大きな傷になっている左腕の傷には大きめサイズの絆創膏を数枚並べて貼って、色が変わりつつある打撲跡に湿布を貼ると医療用紙テープで周囲を留めた。
本当なら医者に診てもらってきちんと治療してもらうのが一番なんだけど、そんな時間は無いみたいだし。
せめてコレが少しでも佐助(にぃ)の怪我を良くしてくれればいいんだけど。

「はい、これでいいよ。」
「ありがと。」
「後はコレ飲んどくといいよ。痛み止め。」

少し前に捻挫した時もらった頓服薬。
俺用に処方されたやつだから本当は他の人にあげちゃいけないんだろうけど、今回は緊急事態だからね。
だってさ、思い込みかもしれないけど、市販の頭痛薬とかの鎮痛剤より処方箋の方が効きがいいような気がしない?


「痛み止め?」

「うん。俺が捻挫した時に出してもらった薬なんだ。痛みが強かったら飲みなさいって言われたから、飲めば少しは痛いのが楽になると思うよ。あ、そうだ!お仕事の最中痛くなった時用にもう一個渡しとくね。」


ポーチの中からもう一つ錠剤を取り出して佐助(にぃ)の手にそれを乗せる。
その掌の上の二つを、不思議そうに見詰める佐助(にぃ)

「これ………どうすりゃいいの?」
「あ、そっか。んとね、ここを押すと中の薬が出てくるから。中の錠剤だけを水かお湯で飲むんだよ。」

そうだよ。この時代にこういった一つ一つ包まれた状態の錠剤薬なんて無かった筈だし。
錠剤みたいなのがあっても、入れ物に入った丸薬みたいなの位だろうしね。
一通り説明して、俺は脱ぎ捨てられていた佐助(にぃ)の服を手に取る。
本当は着替え位していければいいのにって思うけど、こればっかりはお仕事なんだから仕方ない。


「はい佐助(にぃ)、コレ。」
「ん。ありがとね。おかげで又頑張って来れるよ。」
「でも無理しないでね?無理すると又傷開いちゃうからさ。」
「はは…気を付けるよ。」


俺の言葉にちょっと遠い目をしながら苦笑いする佐助(にぃ)
やっぱり大変なお仕事なんだなー忍って。
早くお仕事終わって早く帰って来れるといいんだけど。



「じゃ、俺様そろそろ行くよ。も真田の旦那の言う事ちゃんとに聞いてイイコにしてるんだよ?帰りにお土産買ってくるから。」

「うん………。」
??」

「お土産はいいからさ、怪我とかしないで早く帰ってきて……佐助(にぃ)。」



そしたら俺、佐助(にぃ)の為にお団子作るからさ。
んで、幸にーちゃんと一緒にお茶しよう?
佐助(にぃ)が作るみたいに上手くは出来ないと思うけど、俺頑張って作るから。
そう言うと、佐助(にぃ)は目が零れ落ちるんじゃないかって位に目を見開いてから、ふわりと笑うと嬉しそうな顔で俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。



「了解。の作る団子が待ってるなら、俺様大急ぎで任務終わらせてくるからね。」

「うん。待ってるよ佐助(にぃ)……。」


本当は――本当は怪我が良くなるまでは傍に居てほしいけど。
行かないでって…そう言いたいけど。
でもそれは俺の我が儘だから。
俺の我が儘で佐助(にぃ)を困らせたくないから、そんな事言えない。
いや、きっと言っちゃいけないんだ。

だから俺はこの言葉で佐助(にぃ)を送り出す。



「いってらっしゃい………佐助(にぃ)。気を付けてね。」



俺、佐助(にぃ)の言ったようにちゃんとに幸にーちゃんの言う事聞いて待ってるから。
だから佐助(にぃ)もくれぐれも気を付けて。
お仕事大変だろうけど、無理はしないで。
そんで、早くお仕事終えて無事に帰ってきてね。



「……………行ってきます。」



小さく笑った佐助(にぃ)の、手袋越しでない少しゴツゴツした手がそっと俺の頬を撫でた次の瞬間、目の前には真っ暗な部屋が広がっていた。




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