にーちゃんと俺 16
「ほう?コレは又……思いもせなんだ組み合わせよ。」
急に仕事を放り出して陣幕を出て行ってしまった三成兄を追い掛けて、元居た吉にーちゃんの陣幕へ足を踏み入れた瞬間、意外そうなニュアンスを含ませた吉にーちゃんの声が聞こえてきた。
俺は三成兄の後ろに居るから、吉にーちゃんの表情は見えないけど、何か驚いてるみたいな感じはする。
慌てて三成兄の陰から出て吉にーちゃんの方へ視線を向けると、少しだけ目を細めた吉にーちゃんがこっちを見ていた。
「吉にーちゃん!ただいま!!」
「、やはりぬしは変わった童よ。まさか三成を連れてくるとは思わなんだ。」
吉にーちゃんの傍に行くと、何だか凄く楽しそうに笑って俺の頭をポンポンと叩く吉にーちゃん。
あー…うん、俺もまさか三成兄が吉にーちゃんの所に来るとは思わなかったよ。
それも、やってたお仕事を途中で止めてまで来るなんて。
でも三成兄は俺の言う事聞いて休憩する為に吉にーちゃんの所に来たみたい。
俺は何だか嬉しくなってひょいっと首を竦めてみせた。
「へへへへ…。」
「刑部、貴様の気遣いだとは言った。それ故私も休む事にした。」
「三成兄、お茶も飲んでくれたし、みかんも酒まんじゅうも食べてくれたんだよ!ね?三成兄?」
「ああ。」
「マコトか?ヒヒッ…僥倖、ギョウコウ。、ぬしに任せた甲斐があったわ。」
そう言って吉にーちゃんは、もう一度俺の頭を撫でてくれる。
吉にーちゃん、俺が頭撫でられるの好きなんだって知ってるみたい。
「ホント?!マジで俺、吉にーちゃんの役に立てた?」
「充分すぎる程よ。ぬしには褒美をやらねばな。」
「ウソ?!ご褒美くれるの?!」
思いもしなかった一言に、俺は思わず飛び上がってしまった。
だって褒めてくれるだけじゃなくて、ご褒美までくれるなんて思ってなかったんだ。
いやホント頑張って三成兄を説得した甲斐があったって感じだよね!
よっしゃ!これで俺、完全にミッションコンプリート!だ!
「そうよなァ…何が欲しいか言うてみよ。」
吉にーちゃんにそう言われて、俺は何がいいか考える。
前に吉にーちゃんがくれたお饅頭美味しかったし、それもいいなぁ。
そういえばお世話係の兵士さんが、今はリンゴも美味しい時期だって言ってた。
あ、それよりも三成兄が好きな物をお願いしたら、吉にーちゃんと三成兄と3人で食べられるかな?
そしたら吉にーちゃんも又喜んでくれるかもしれないし。
んー………何か俺、さっきから食べ物の事ばかりかも。
べ、別に食い意地はってる訳じゃないんだからな!
食べ物以外って考えて、俺はハタ――と我に返った。
ダメじゃん俺!
食べ物より何よりも、もっともっと必要な物あったじゃんか!!
だからこそ俺は自分の足で他国であるここまで来たんだから。
「えと……………。」
「?」
「………………いや、やっぱいいや………。」
確かに俺、欲しい物はあるんだけど…。
でもそれを今、吉にーちゃんや三成兄におねだりするのは違うような気がしたんだ。
ふるふると頭を振ると、2人が不思議そうな顔で俺を見下ろす。
「如何致した?何ぞ所望の物があるのであろ?」
「うん………あるけど…………いいや。」
「…貴様、刑部の厚意を無下にするつもりか?!」
「そ、そういう訳じゃなくて…。」
「ならば偽らずさっさと本心を言うがいい。刑部は貴様の為に言っているのだ。」
「三成の言う通りよ。早に言いやれ。」
「三成兄……吉にーちゃん………。」
2人に見詰められて、俺は眉尻を下げる。
でも…本当に俺、お願いしてもいいのかな?
俺、ホント大した事してないんだよ?
ただ三成兄を休憩させて、お茶を飲ませて、みかんと酒まんじゅう食べさせただけなのに、たったそれだけの事でおねだりするって…そんなワガママ言ってもいいもんなのかな?
だって俺が今一番欲しいって思ってるのは、もしかしたら物凄く高いかもしれない『薬』だから。
勿論そう思ったから一応、前に家出した時みたいにカードゲームのカードを売ってお金にはしてきたけど…。
用意したお金だけで足りるかどうかは全然分からないし。
俺、薬の値段とか相場とかそういうの一切知らないから。
だからそんなのが欲しいってお願いしたらビックリされちゃうかもしれないし、それに………いくらにーちゃん達でも2人は甲斐の人じゃないんだし…。
どうしたらいいか分からなくてグルグルしてると、何かを見定めようとするかのようにスッと目を細めた吉にーちゃんが俺の耳元をくすぐるようにして撫でてくれる。
「ヒヒッ……何を考えておるか知らぬが、ぬし程度が思い悩んだとて何になる?ほれ、言うてみよ。」
「…………うん………あのね、俺………薬が欲しいんだ……。」
「薬だと?一体何の薬だ?」
「……よく分かんない。」
「何の薬なのか分からんのでは、話にならん。」
「でも…俺が助けてもらった村に、よく効く薬があるって聞いて……それで俺……。」
そう…その為に俺は甲斐を出て、この近くの村へ薬を買いに来たんだ。
結局、村を占領してた落ち武者達に捕まっちゃって、薬を作ってるって人の所へは行けなかったんだけど。
そんな時に、俺をここに連れてきてくれた明るくてカッコイイおにーさんが俺を助けてくれたんだ。
「、ぬしはその為に、先頃の村におったという訳か?」
「うん……。」
「何やら事情がありそうよな。どれ、話してみやれ。」
「あのね……幸にーちゃんが具合悪くてずっと熱が下がらないんだ…。」
「幸にーちゃん…だと?誰だそれは?」
「フム……察するに真田の事であろ?」
「うん、そう。ずっと熱が続いてて苦しそうなんだ。そしたらこの近くの村に良く効く薬があるって聞いて。それで俺、薬を買う為に来たんだ。」
最初は佐助兄にダメだって止められたけど。
でも俺が、どんなに止められても絶対に行くんだって、前に家出した時みたいにこっそり躑躅ヶ崎館を抜け出してでも幸にーちゃんの薬を買いに行くんだって言ったら、佐助兄に諦めたように大きな溜息を吐かれて。
そしたらお館様は盛大に笑って『その心意気、天晴じゃ!』って、髪がくしゃくしゃになる位撫でてくれた。
最終的に佐助兄も俺が絶対諦めないって分かってくれたのか折れてくれて。
幸にーちゃんが具合悪い以上、佐助兄が傍を離れる訳にはいかないから――って事で忍さん3人を付ける事を条件に俺が薬を買いに行くのを許してくれたんだ。
「成程……これでぬしがこの豊臣領に居った訳も得心がいくわ。」
「、貴様は主の病を治したい一心で1人国を出たという事か?」
「1人じゃなかったけど……。」
「そうよな…忍の2・3人はつけられていたであろ?であれば、何故ぬしは叛逆者どもなぞに捉えられておった?」
鋭い吉にーちゃんのツッコミに、俺はぐっと声を詰まらせる。
そーだよね。普通護衛がついてるのに何で?って思うよね……。
「あー……っと………俺が悪いんだ……。飛び出しちゃダメだって忍さん達に言われてたんだけど、目の前で女の子が襲われそうになってたから俺、我慢出来なくて……。」
「それで飛び出し、彼奴らにおめおめと捕まったという訳か?」
「う……はい………。」
容赦のない三成兄の言葉にガックリと項垂れる。
いや、でも確かに俺が自分で招いた事だし間違ってもいないから、返す言葉も無い。
俺がもしも佐助兄や幸にーちゃん、政にーちゃんやこじゅ兄達みたいに強かったら、捕まる事も無く女の子をカッコよく助けられたのかもしれないけど。
でも俺はやっぱりダメダメなヘタレでしか無くて。
何とか襲われてた女の子は忍さんの1人が逃がしてくれたけど、俺はそのまま捕まえられて気絶させられて。
気付いた時には落ち武者達が根城にしている村の名主の家の土間に、両手足を縛られた状態で無造作に転がされていたんだ。
そういえば…俺についててくれた忍さん達どうしたかな?
それなりの数が居た落ち武者達相手に、忍さん達は3人しか居なかったんだし……無事だといいんだけど。
怪我とかしてないかな?
もしかして俺の事探してたりするのかな?
皆、無事に甲斐に帰れてればいいけど……。
「フム……確かあの辺りの村には幻の薬と噂の薬を煎じる者がおるとか…恐らくぬしが探しておるのはそれであろ。」
「、貴様を捕らえたという、愚かにも豊臣に刃向かいし蒙昧なる叛逆者どもは左近が一人残らず残滅した。今ならばその薬を手に入れる事も容易いだろう。」
「さこん……さん??」
「貴様をここへ連れてきた男だ。」
ああ!あの明るくてちょっと軽いノリのおにーさんか。
身のこなしがシャープでカッコイイ所とか、ちょっとノリが軽くて明るい感じとか、あの雰囲気はほんの少しだけ佐助兄に似てるかもって思ったんだよね。
助けてくれた時に少し喋った位だけど、何か凄く話しやすいカッコイイおにーさんだった。
何ていうか…普通にゲーセンとかクラブとかに居そうなカンジだったし。
でも俺を助けてくれた時のあの強さはやっぱり全然普通じゃなかったけど。
そういえば、あのおにーさんは幸にーちゃんや佐助兄達と同じ婆娑羅者って言われる人っぽかったけど、吉にーちゃんや三成兄はどうなんだろ?
吉にーちゃんは何か不思議な力でフワフワ飛んでるから、もしかしたら吉にーちゃんも同じ婆娑羅者なのかもしれない。
「左近ならば、あの村の事にも詳しかろ。どれ、明日にでも買いに行かせるとしよ。」
「え?ホントに??」
「何を驚く?ぬしは幻の薬とやらが欲しいのであろ?」
「でも………にーちゃん達にそこまでしてもらうなんて…これは俺のワガママだし……。」
「言うたであろ?これはぬしへの褒美よ、ホウビ。素直に受けやれ。」
「………けど………。」
「やれ……ぬしは存外、遠慮深い童よな。饅頭や握り飯は強請るが、ほんに必要とするものには気兼ねするとは…。」
そう言って笑う吉にーちゃんは、何というか…やれやれって感じで首を振るとひょいっと肩を竦めてみせる。
だってこれはホントに俺の個人的なワガママなんだし。
それにこーゆーのって、他国の吉にーちゃんや三成兄におねだりしてもいいような事じゃないと思うんだ。
だって幸にーちゃんは甲斐の国の偉い人だし、吉にーちゃん達にそのつもりがなくても、借りが出来ちゃうとか、色々後々問題が起きちゃうかもしれないし。
それにね、落ち武者達から助けてもらって、その後もそんな俺を拾ってくれて。
その上ご飯やお菓子とかまで食べさせてもらったりしてるのに、更に甘えるなんて…これ以上吉にーちゃんや三成兄達に迷惑掛けられないよ。
それに俺……何にも出来ないヘタレな俺だけど、せめてこれ位の事は幸にーちゃんの為に自分の力でしたいんだ。
佐助兄みたいに幸にーちゃんのお仕事の代わりをしたり、お館様みたいに幸にーちゃんを元気付けたり出来ないし。
精がつく食べ物を作ってあげられる訳でも、身の回りのお世話をしてあげられる訳でもない。
苦しんでる幸にーちゃんに俺がしてあげられるのは、薬を見つけて届ける事位だから。
「ならば、薬の代金は貴様が支払え。刑部、貴様の褒美は目的の薬を得る為の手段としろ。それならば問題無かろう?」
「三成兄??」
「………貴様は自らの手で主を助けたいのだろう?だからこそ、刑部の言葉に甘えようとはしない…違うか?」
「――――っ?!」
三成兄から向けられた言葉に俺は小さく息を飲んだ。
何で三成兄は分かったんだろう?
俺、一言もそんな事言ってないのに。
「主への忠義、未だ元服前とはいえその心掛け…忘れるな。」
「成程なァ……であれば三成の申す通り、われはその幻の薬作りの者を見付け出し、ぬしをその者の元へ送り届けるまでを褒美としよ。」
それならばぬしも納得するであろ?――そう言って吉にーちゃんはニッと笑う。
………もー………吉にーちゃん、俺の事甘やかしすぎだよ?
何が何でも俺にご褒美やる…みたいな感じ。
でもそこまでしてくれる吉にーちゃんの気持ちが嬉しくて。
そして俺の本心に気付いて、俺の想いを尊重させようとしてくれた三成兄の優しさが嬉しくて。
俺は無言のままこっくりと頷くしか出来なかった。
だって口を開いたら又いつもみたいに号泣しちゃいそうだったんだ。
俺は俯いたままトコトコと歩くと、目の前に立つ三成兄の、俺よりも高い位置にある肩にぎゅっと抱き着いた。
俺も図体だけはデカい方だけど、やっぱりこうしてみると三成兄は俺よりずっとおにーさんで、俺なんかよりずっと強くておっきいんだ。
「な――ッ?!、貴様何をっ?!」
「………ありがと………三成兄…………。」
「………………。」
「俺の気持ち分かってくれて………ありがと………三成兄……。」
三成兄の肩口に顔を埋めてそう言うと、強張っていた三成兄の身体から僅かに力が抜けた感じがした。
三成兄はホント凄い。
だって俺の事も見た目だけで判断しないで、ちゃんとに本当の俺を見てくれたし。
それにこうして俺の思ってる事理解してくれて。
三成兄は人をまっすぐに見る人だなって思ったけど、それはホントのその人をきちんと見ようとしてるからなのかもしれない。
俺も三成兄みたいな人になりたいな。
見た目に惑わされずにその人の本当の姿を見てあげられるような、そんな人に。
俺はもう一度、三成兄の思った以上に大きくて逞しい肩に回した腕に力を込めた。
「……。」
俺を呼ぶ声と共に微かに笑うような気配がすぐ傍でして。
次の瞬間、俺の後頭部に何かが触れる。
ポンポンと俺の頭に優しく触れていく三成兄の手。
まるであやすようなその仕草に、俺はすぐ傍の三成兄の顔をそっと見上げた。
「三成兄ぃ?」
「礼ならば刑部に言え。褒美は…貴様の願いを叶えるのは刑部なのだからな。」
俺を見下ろしそう言う三成兄。
その口元はやっぱりほんの少しだけ笑んでいるように見える。
そうだよね。三成兄の言う通りだ。
吉にーちゃんにもありがとうを言わないと。
俺は三成兄を見上げてこっくりと頷くと、すぐ隣で俺達をどこか眩しそうに見ていた吉にーちゃんの方へ向き直る。
ホントは三成兄にしたみたいに、吉にーちゃんにもぎゅってしたいんだけど、俺が飛び付いたら吉にーちゃん倒れちゃうかもしれないし。
なんたって吉にーちゃんは未確認飛行物体もビックリな不思議な輿に乗ってるんだから。
図体のデカい俺が三成兄にしたみたいに勢い良く飛び付いたら、きっとバランス崩して倒れちゃう。
仕方なく俺は輿の上に座っている吉にーちゃんの腰元にそっと腕を回して抱き着いた。
「―――っ?!」
自分はされないと思ってたのか、ちょっと驚いた感じの声で吉にーちゃんが俺を呼ぶ。
そんな吉にーちゃんの腰元に俺はすりすりと頬を擦りつける。
だって吉にーちゃんに力任せにぎゅって出来ないでしょ?
吉にーちゃん、全身包帯してるみたいだし。
痛くさせちゃったら大変だもん。
「……………やれ……ぬしは、ほんにわれを驚かせる……。」
予想外に小さな声でそう呟いて、吉にーちゃんはいつものように俺の髪を優しく撫でてくれる。
するすると何度も髪の上を流れる、包帯越しの吉にーちゃんの手。
その心地良い感触に浸りながら、俺は口を開いた。
「ありがと…吉にーちゃん………俺のワガママ聞いてくれて。」
「ヒヒッ!ぬしの我が儘など可愛いものよ。」
「吉にーちゃん……。」
擦り寄った吉にーちゃんからは、微かに薬のような匂いがしてくる。
このカンジ、きっと漢方薬みたいなものなんだろうと思うんだけど。
でもこんなにハッキリ匂いを感じるって事は、もしかして軟膏みたいなものを使ってるのかな?
俺はどうして吉にーちゃんが全身包帯巻いてるのか知らないから、どういったお薬を使っているのかも全然分からないけど。
だって吉にーちゃんは自分が業病なんだって事しか俺には教えてくれないから…。
でもどっちにしても、吉にーちゃんだってお薬を必要としている立場の人なんだよね。
なのに吉にーちゃんは、俺が薬を買えるように助けてくれるって言ってくれた。
もしかしたら吉にーちゃん自身がその薬を必要としているかもしれないのに。
「………俺の探してる薬、吉にーちゃんも使えない??」
そうだよ!探してる薬、幻の薬って言われてるんなら、もしかしたら吉にーちゃんにもあげられないかな?!
どんなお薬なのかも、吉にーちゃんがどんなお薬必要なのかも分かんないけど、もしかしたら?!
「さてなァ?我のこの身は業病ゆえ、幻の薬とやらが効くかは分からぬしなァ…。」
「又そんな事言う!業病なんて無いって言ったのに!!」
「分かった分かった。幻の薬とやらの効能が、われのこの身に効くのか…と思うただけよ。そう目くじらを立てるでないわ。」
ぷくっと頬を膨らませた俺に、吉にーちゃんが宥めるみたいにひらひらと手を振り苦笑いする。
もー!どうして吉にーちゃんはいつもこんな言い方すんだよー?!
「三成兄、三成兄も怒って!!吉にーちゃん、いつもこんな事言ってるの!こんな風に言って俺を怖がらせて近付けさせないようにすんだよ!俺、怖くも何ともないって何回も言ってるのに!」
「…貴様、刑部の身がどのようなものか聞かされているのか?」
「聞いたよ。だから何回も業病ってのは無いんだって言ったのに。病気は大変だけど、それは治療すればいいんだもん、それと吉にーちゃんの言う業病は全然関係ないんだって。でも全然俺の言う事聞いてくんないんだよー!」
ムキー!って地団駄を踏む勢いで怒る俺に、三成兄が驚いたみたいに僅かに目を見開く。
「貴様は病を得る事が恐ろしくは無いのか?」
「病そのものは怖いものだけど、病にかかるかも…って怖くはならないよ?だって『病は正しい知識を持ち、正しい対応をすれば必要以上に恐れるものじゃない』んだよ。」
これは看護師の母さんがよく言ってる事なんだけど。
俺もそうだなーって思うから。
確かに俺みたいに何も考えなしなのは良くないのかもしれないけど、でも吉にーちゃんの本当の病気はきっと、人食いウィルスみたいなすっごく怖いものじゃないと思うんだ。
だってもしもそんなのだったら、今までずっと一緒な三成兄がとっくに同じ病気になっててもおかしくない。
今はスマホが手元に無くて色んな事調べられないけど、もしかしたらきちんと治療すれば良くなるかもしれないし。
問題なのはそれを吉にーちゃんも他の周りの人達も業病だって言って決めつけて、きちんと対応してない事だと思うんだ。
だから俺は業病だって言う吉にーちゃんも、吉にーちゃんに近付く事も怖いって思えないんだ。
それなら、母さんや佐助兄に怒られる時の方がもっと怖いよ?
そう言ったら三成兄が満足そうに頷いた。
「無責任にも口先だけ『自分は怖れない』とでも言おうものなら、唾棄すべき所だったが……刑部、貴様の負けだな。潔くの言葉を受け入れろ。」
「やれやれ…三成までをも丸め込み味方に付けるか。末恐ろしい童よなァ、?」
何だか楽しそうにそう言って、吉にーちゃんは肩をすくめる。
「違うよ。俺の言ってるのが間違いじゃないから三成兄も分かってくれたんだよ。ね?」
「ふん…。」
「だから、俺は吉にーちゃんの事、怖くも何ともないんだからね?怖がらせようとしたりしても全然意味無いんだからね!」
「ヒヒヒッ…そうであったな。それ故、ぬしは平気でわれに触れるのよ。」
「俺、全然平気とかじゃないよ。」
「――ほう…?では如何に思うておる?」
「ホントはおもいっきりぎゅってしたいけど、そしたら吉にーちゃん痛くさせちゃいそうだから我慢してる。」
「………………。」
「…貴様はこれだけ刑部に触れておきながら、まだ足りないと言うのか?」
「うー……だって…………。」
「………三成、考えるだけ無駄よムダ。はこういう童よ。」
そう言って顔を見合わせて溜息を吐く吉にーちゃんと三成兄。
あれ?何かすっげー呆れられてるような気がするのは俺だけ??
そんなこんなで俺、14歳。
豊臣でもにーちゃん達に恵まれてます。