が真田の旦那の為に薬を求めて豊臣領へと発ってから数日後。
それは思いもしない――そして最悪の形でもたらされた。









にーちゃんと俺 16.5







「豊臣領でが捕まった?!」


目の前で報告の為に膝を折っているのはの護衛に着けていた部下の内の1人。
3人の内で最も足の速いこの男がこれ程までに疲弊しきっているって事は、恐らくが捕らえられてそう時間は経っていないんだろう。
休む事も無くここまで報せに戻った…って、そんな感じだ。


「長、すぐに向かわれますか?」

俺のすぐ傍で共に報告を聞いていた才蔵に、そう問われる。
けど俺はその問いに応える事が出来なかった。
そりゃあすぐにでもを助けに行ってやりたいさ。
けど真田の旦那は今も原因不明の病で生死の境を彷徨ってる。
今俺がここを離れて何か――旦那の身を狙って敵襲でもあったら……その想いが俺をここから動く事を躊躇わせている。
俺は忍だ。
そして俺の主は真田の旦那。
今、主を置いての元へ向かうなんて事は、主に仕える忍としてはありえない行動だ。


――ッ!」


握りしめた拳が小さく震える。
何が『迷子になっても攫われても俺様が必ず見つける』だ。
こうして今、捕らえられているを助けに行く事も出来ないってのに!

「………長………。」
「…………。」

「何を迷うておる佐助!!お主の他に誰がを助けられるというのだ?!」

「―――ッ?!」

「………………そう、幸村様なら仰るのでは?」
「才蔵………。」


不意に浴びせ掛けられた叱咤とも取れるような言葉。
才蔵の口から出たものだったけど、確かにそれは真田の旦那の言葉だった。
あーあ……こんな風に部下にまで叱咤されちまうなんて、俺様忍としてどうなわけ?
まったく、猿飛佐助ともあろう者がいつの間にこんな温くなっちまったんだか。


「長とが戻られるまで、幸村様の御身は我等が命に代えてもお守り致します。」
「けど……。」
「幸村様が臥せっておられる事は、最早隠しようも無いかと。恐らくは既に周辺諸国へも広まっておるでしょう。」
「だからこそ、この機に乗じて…って輩が攻め込んで来ないとも限らないだろ?」

「その点は心配ないわ!」


不意に聞こえたその声に、ピクリと肩が震える。
確かにこちらに近付いている気配はしていたけど、まさかここに来られるとは思ってなかった。
俺と才蔵は急いでその場で跪く。

「大将……。」

真田の旦那の主にして、の後見人…いや、父親代わりを自負しているお館様。
そのいつもと変わらぬ堂々とした立ち姿に、俺達は跪いたまま頭を垂れた。

「万が一にもそのような事あらば、儂自ら迎え討てば良い事よ!」
「………ですが……。」
「儂では心許ないと申すか?」
「いえ!ですが、俺は真田の旦那の部下……旦那の大事に、私事で旦那の傍を離れる訳には…。」
「ふむ……ならば言葉を変えるとするかのぅ。佐助!急ぎ豊臣領へ向かい、を敵の手より奪還せぃ!!」

「――――ッ?!」

「これは儂の命じゃ!よってこれは佐助の私的な行動などでは無い――分かるな佐助?」


そう言って笑うお館様を、俺は無礼にもポカンと見上げてしまった。
その顔は一国の主と言うよりも、1人の父親のようで。
俺は唖然とその柔らかに細められた瞳を見詰めてしまった。
本来なら俺達のような忍が主の顔をハッキリと見上げたり、目を合わせるなんてありえない事なんだけど。
でもそんな事すらどうでもいいというように笑うお館様の姿に、俺はただ呆然とするしかなかった。
だってさ、俺の私的な我が儘を、この人は任務という形に変えて送り出そうとしてくれている。
たった1人の忍の為に…だぜ?
いや…………もしかしたらこれは俺というより、の為なのかもしれないけど。
でもそれだって、たった1人の子供の為に――って事になる。
それも何処から来たのかも分からない、後ろ盾も権力も何もない…ただの子供の為に。

「…………大将……。」
「良いな佐助!見事を取り戻してみせぃ!!!」

「―――承知!!!」

お館様の命を受けた俺は急いで支度を整えると、後の事を才蔵に託してすぐに躑躅ヶ崎館を発った。
が攫われたのは達が向かう目的地だったから、場所は分かってる。
途中何事も無ければ、俺の足と忍鳥・忍具を駆使すれば半日足らずで着ける距離だ。
それに向こうには残りの2人の部下も待機している筈だし。
上手くすれば、の足取りを常に追っているかもしれない。
そうすればの奪還もしやすくなるってもんだ。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、今持てる全ての力を以って、知らせに戻った部下から聞いた合流先へと急いだ。
そして、ようやっと目的地付近に辿り着いた頃には、既に陽は西に傾きかけていた。




「長!!!」


合流地点で俺の事を待っていた部下の1人が俺を呼ぶ。
それに気付いて俺は集落近くの大木の上で足を止めた。

「状況は?」
「は――っ!は豊臣の内紛に巻き込まれたようです。」
「豊臣の内紛?」
「はい。目的の村には豊臣に従うを良しとせぬ叛乱勢力が立て籠もっていたようで、その者共に捕らえられる形に………申し訳ございません。」
「ああ、分かってるって。が制止を振り切って飛び出したんだろ?」
「は…………ですがそれを止める事も出来ず……。」

申し訳なさそうに頭を垂れる部下に苦笑してみせる。
報告に戻った部下からも簡単に事情は聞いてるし、この事態だってならまぁ理解出来なくもない。
あの子はそういう子だから。
頭じゃ分かってるのに、咄嗟に身体が動いちまう…そんな所のある子だから、部下達の制止を端から聞く耳持たないとかそういうんじゃないってのはすぐに分かった。
もし端からそんな素振りを見せてたら、部下達だってそう簡単にを村には近付けなかっただろうし、縛り付けてでもの行動を阻止してた筈だ。
どうせ突発的に起こった何かに耐えかねたが咄嗟に飛び出しちまったって所だろう。
やれやれ…まったく世話の焼ける子なんだからは。


「それで今は?」

そういえばもう一人の部下の姿も見えない。
もしかしてこっちでも別行動しての動きを追ってるのか?

「それが………先刻豊臣の鎮圧部隊の一隊が件の村へ向かいまして……。」
「豊臣が?!」
「はっ!どうやらそこでは豊臣に保護されたようです。」
「豊臣に保護って………連れ去られたの間違いだろ?!」

「いえ、それがどうもそうではなさそうなのです。鎮圧部隊の指揮官は、あの島左近だったのですが、反乱勢力を鎮圧した際、拘束されていたを見付け開放したようなのです。そのまま拘束されて連行されたというよりも、叛乱勢力から解放し保護したといった様子で…。」


おいおい!以前を織田の仕業に見せかけて攫おうとしたかもしれない疑惑のある豊臣がを保護だって?!
そんなの、信じろって方が無理があるでしょうが!
俄かには信じられない部下の話に、俺は頭を抱えるしかなかった。
けど、その話が事実なら、今の所の身は切迫した状況に置かれている訳じゃないって事になる。
の身の安全を第一に考えるなら、今はその言葉が真実である事を祈るしかないか…。
どちらにしても今出来るのはより確かな情報を集める事だけだ。
俺はすぐに残りの部下が偵察に向かったという豊臣軍の駐屯場所へと走り、目的の部下と合流すると、の今の状況を確認する為に動いた。
その結果得られた現状は、確かに思っていたよりは良かったんだけど……。



「よりにもよって大谷吉継の元へ連れていかれるとはね…。」



島や石田といった連中ならいいって訳じゃないけど、一癖も二癖もある大谷が相手じゃ、迂闊な事は出来ないじゃないのさ。
こうなったら仕方ない。
一刻も早くを助け出そうと思ったけど、下手な動きが出来ない以上今は時間を掛けて機会を伺うしかない…ってね。
今は豊臣兵の1人にでも成りすまして、その機会を待つとしますか。

そして俺は豊臣の一般兵の1人に成りすまし、豊臣軍に潜入した。
本当は出来るだけ大谷の傍には近付きたくない所だけど、の状況を常時確認するには嫌とは言ってられないしね。
とにかく豊臣兵として極力大谷の目には触れないように立ち回りつつ、時に潜みながらの様子を伺ってたんだけど……。
ちょっとー……………、何で豊臣の連中までタラシこんでんのさ?!
だってあの大谷相手に平気で近付くってだけでも驚愕ものだってのに、それにとどまらずべったりと大谷にくっつくわ、大谷の為に涙を流したかと思えば、その潤んだ瞳のままで愛想振りまくわ。
挙げ句の果てには、腹を鳴らして饅頭をもらうとか…!
いくら命の危険が無さそうったって、ここは他国なんだぜ?!
ちょっと緊張感無さ過ぎでしょうが!
思わず頭を抱えてしまった俺様、間違ってないよね?!
ああもう!あんなへにゃりとした表情(かお)なんか見せちゃって。
いくら何でも無防備すぎでしょーが!
こっちの気も知らないでまったく!

その後もはまるで俺や真田の旦那に向けるのと同じ笑みを大谷に向け続けて。
とうとう大谷までをも兄貴分として呼ぶようになっちまった。
当の大谷も満更じゃなさそうってのが……………ちょっと………ねぇ?


「どうでも良さそうに装っちゃいるけど、ありゃあ悪い気はしてないって感じだよ…。」


まあ、大谷の気持ちも分かんないでもないけどさ?
だっては忍である俺様達や、病を持つが故に周囲から距離を置かれがちな大谷相手でも変わる事無く笑顔を向けて、平気な顔して触れてくるんだから。
そりゃ絆されもするだろうし、兄貴分として慕われて悪い気はしないだろうさ。

「とはいえ……恐らく最初は大谷も、上手い事を利用しようって魂胆だったんだろうけどねぇ……。」

だからこそ、白々しい演技で少なからずに対して優しく接してみせたんだ。
世間知らずの甘ったれな子供一人、上手く掌の上で転がして操って、信頼を勝ち取り籠絡させちまえばこちらのもの。
上手い事武田の情報でも引き出せれば万々歳…ってな所だった筈だ。
けど、は大谷の想像を遥かに超えた反応を返した。
流石の大谷といえども、思いもよらない…そして戸惑わずにはいられない反応だったんだろうさ。
だって常日頃一緒に居る俺様達ですら、の反応には時折驚かされる事もある位だぜ?
大谷がの反応に戸惑うのも、まあ分からないでもないよねぇ。
結果、絆されちまうってのも……ね。

でも…………ねえ?

いくら何でもこの状況はちょっと……流石に………ちょっとどうなのさ?
いや、百歩譲ってに新しく兄貴分が増えるってのはいいさ。
奥州の独眼竜や右目の旦那もの事可愛がってたし、それが今更一人二人増えた所でまぁ…大した事は無い。
けどね!饅頭や握り飯を分けあうだけにとどまらず、まるで前田ん所の夫婦みたいに大谷の口元についた米粒を取ってやって、挙げ句それを嘗め取ったりまでするなんざ……いくら何でもやりすぎでしょー?!
のあまりに大胆な行動に、流石の大谷も面食らってるじゃないのさ。あの大谷が!
いやまぁ…けど、のあの顔……ありゃあ何で大谷が面食らってるのか、さっぱり理解してない顔だわ。
大谷に『お前は誰にでもこんな事するのか?』って聞かれたのも、どうせ握り飯を分けあう事だとでも思ってるんだろうし。
どう考えたって『自分についてた飯粒を嘗め取るなんて、そんな特殊な事が出来る程自分はお前にとって特別なのか?』って聞かれてるんだけど。
なのに、好きな人とする…とか言っちゃって………もう……。
あの子、前から思ってたんだけど、無意識に人をタラシこむ子だよね。
俺様、ちょっと将来が心配になってきたよ……



















「やれ、誰ぞ居らぬか?」

が大谷の元に預けられた次の日、当の大谷が陣幕から顔を出して声をあげているのを見て、周辺警護の振りをしていた俺は急いでその場に駆け付けた。
何となく関係の事じゃないかなーって気がしたんだよね。
そうでもなけりゃ、あの大谷が自ら部下を呼ぶなんて事、そうそうあるもんじゃないし。


「――は。如何なされましたか大谷様。」

「フム…ぬし、見慣れぬ顔だが……。」
「此度の出兵が初めてでございまして……。」
「…………まあ、よかろ。ぬし、国元に弟御は居るか?」

「……は、はぁ……血は繋がっておりませんが、歳の離れた義弟がおります。」

思いもしなかった大谷の問いに気の抜けた返事を返してしまう。
いや、咄嗟にの事が頭をよぎってそう答えちまったんだけど…一体何の意図があってそんな事聞いてくんだか。


「ヒヒヒッ!これはまさに勿怪の幸いよ。ならばぬしに任せるとしよ。」
「は?大谷様、一体何を……。」
「こちらに来やれ。」

不思議に思っていれば大谷に陣幕の中へと誘われる。
まさかとは思うけど、俺様の正体が割れちまった……って訳じゃないよね。
まだと接触すら出来てないってのに、こんな所でひと悶着起こす訳にはいかないってのに。
こんな事なら昨日の内に無理してでもと接触しとくべきだったか…。
とはいっても今更嘆いた所でどうなるもんでもないし。
兎に角今は、いつでも動けるように身構えとくしかないってね。
予想外の展開に緊張感を漂わせながら大谷の後を着いて歩くと、まるでそれを見越していたかのようにくつくつと笑う声が聞こえてくる。


「そう身構えずとも良い。ぬしにひとつ任せたい者が居るのよ。」
「任せたい者…でございますか?」
「如何にも。………やれ、こちらに来やれ。」

「え?なーに?吉にーちゃん??」


な?!っっ?!
ちょっとちょっと!いきなりが目の前って………一体どうなってんの?!
いや確かに絡みで呼ばれたんじゃないかとは思ってたけど。
大谷の陰からひょっこりと姿を覗かせたのは間違いなく、俺達の可愛い弟分であるで。
俺は思わず目の前の状況も忘れて、驚きに目を見開いてしまった。
ああ…良かった。
豊臣の叛乱勢力に捕らえられてたって話だったから、どこかしら傷でも負ってたらって心配してたけど、この様子だとどうやら大きな傷は負わされていなかったらしい。
大谷の向こうから、きょとりとした瞳で俺を見上げてくるその姿に、俺は湧き上がる衝動をぐっと押さえ込む。
ああもう!出来る事ならこのまま抱きしめて、思う存分あの柔らかな髪を撫でてやりたい所だけど、流石に今はそんな事出来るような状況じゃないし。
甲斐を出た時と変わりなく、相変わらず元気そうなその姿に、俺は内心でホッと胸を撫で下ろしながら大谷に気付かれないよう小さく息を吐いた。


「こ奴は甲斐・武田の秘蔵っ子よ。左近が先頃の村で拾うてきた故、われがこうして預かっておる。」
「武田の……。」
「ぬしにはこ奴の世話を任せたいのよ。こう見えて、このは未だ元服前の童である故な。」

そう言って大谷は俺に簡単に事情を説明する。
なるほど、石田にの事を任された大谷といえども、流石にの全ての面倒をみられる訳じゃない。
当然の事ながら仕事もあれば、の飯の支度やら何やらといった身の回りの世話などしてやれる訳も無い。
となれば、専属の世話係兼監視役を付けるしかないって訳か。
まあ、こっちにとっちゃ渡りに船だ。


「はっ!畏まりました!」


大谷の言葉に膝をついて首を垂れると、俺はそのまま上目遣いにすぐ傍のの様子を伺う。
その次の瞬間、バチンと音がしそうな程ハッキリとと目が合う。
驚いて目を瞬かせると、照れくさそうにはにかみながらが目を細めた。

、これからこ奴がぬしの身の回りの世話を致す故、何ぞあればこ奴に言うがよかろ。良いな?」

「はーい!えと…俺、です。よろしくお願いします!!」

膝を折っている俺と同じ目線まで屈み込み、ぺこりと頭を下げる
へにゃりと笑うその姿に、俺は思わず釣られて笑みを浮かべてしまう。
ああもう!心配してたってのに、呑気な顔してくれちゃって全く!
でもこれで暫くの間はの傍についていてやれる。
それも周りの目を気にする事無く堂々とね。
ただ……俺の素性を明かすのはもう少し様子を見た方が良さそうだ。
世話係の豊臣の兵士が俺だって分かったら、それを隠し通せるとは思えないんだよねぇ。
無事に助け出せる手筈が整うまでは、にも俺の事は豊臣の兵だと思っててもらうとしようか。
そんなこんなで豊臣内での俺との奇妙な関係が幕を開けた。



















の身の回りの世話係についてから数日。
しっかし………改めてを見てて思った事だけど…ホントは子供とはいえ人タラシだよねぇ…。
あの子何か人をタラシこむ為の術でも持ってんじゃないの?
いや確かに武田でも皆に可愛がられてたけど、まさかそれが他国である豊臣でまで発揮されるなんざ、流石に俺様も予想外だったわ。
いやだって豊臣の人間である筈の俺にも、武田の人間に対するのと同じようによく笑い掛けてくるんだぜ。
そのせいで、ついつい素に戻ってを撫でちまったのは1度や2度じゃない。
そんなこんなで……とうとう大谷に引き続きあの石田三成までをもタラシこんで、兄と呼ぶ事を認めさせちまったよ!
あの豊臣至上と噂の頭の固そうな石田がを撫でるとか……一体誰が想像出来るってのさ。
いやいやいや!?!ちょっと!何、石田に抱き着いたりとかしちゃってんの?!
大谷にまで擦り寄って!
ああもう!こんなの見せられ続けてたら俺様、心の臓おかしくなっちまうでしょーがぁぁぁ!
陣幕の片隅で控えたまま様子を伺っていた俺が、の一挙手一投足にガックリと項垂れていると、不意に当の本人が俺の方へ駆けてきた。


「どうした?」

「うん、あのね……俺、お願いがあって…。」
「お願い?何だ?大谷様と違って俺は饅頭なんか持ってねぇぞ?」

冗談交じりにそう言えば、はぷくりと頬を膨らませる。

「違うよ!そうじゃなくて!えとね、吉にーちゃんが幻の薬作りの人を探してくれる事になったんだ!」
「幻の薬??」
「俺の大事なにーちゃんの1人がずっと具合悪くて。その薬を買いに来たんだ俺。」
「ああ、それで叛乱勢力の残党共に捕まってたんだったなお前は。島様に助けられたんだったか?」
「うん、そう。それでね、俺まだ薬買えてなかったんだけど、吉にーちゃんがさっきの三成兄の所にお使いしたご褒美にって、その薬を作ってる人を探して連れていってくれる事になったんだ。」
「そうか、良かったじゃねぇか。」

「うん!!それでね………その薬を作ってる人の所に行く時は、兵士さんにも一緒に行ってもらいたいなーって思って……。」


そう言って俺を見詰める
まあ、流石に1人で行かせるなんて事ぁ無いだろうけど、護衛と監視の名目で誰かしら一緒に行かせるだろうに。
先刻からの話から察するに島左近は確実に案内係としてつけられる筈だしねぇ。
の意図が理解出来ずに不思議そうな表情を作って、俺を見詰めてくるを見返す。

「俺が……か?」
「うん。吉にーちゃんと三成兄はいいって言ってくれたから……。」
「大谷様や三成様の許可があるんなら構わねぇが…何で又俺なんか……?」

「だって俺………ここでは吉にーちゃんと三成兄以外には、兵士さんしか頼れる人……居ないから……。お願いします。一緒に来てもらえませんか?」


そう言ってへにゃりと眉尻を下げたがぺこりと頭を下げる。
他国の――そして、どうみても自分より身分が低い筈の豊臣の一般兵に向かって。
流石の状況に俺だけでなく、向こうで様子を伺っていた大谷や石田が目を見開いているのが見える。
まったく………ホントは驚かせてくれるよねぇ。


「……………分かったよ。一緒に行ってやるから心配すんな。」
「ありがとう!」


俺の言葉に一気にぱぁっ――と表情を明るくする
まったくもう可愛い顔しちゃって…。
そんな顔されたら嬉しくない訳ないっての。
俺は又しても素での頭に手を伸ばして、わしわしとその柔らかな髪を撫でてしまった。
たとえ俺が普通の豊臣の一般兵だったとしても、他国の自分より身分の高い武家の庇護下にある人間が頭下げてきたら断れる訳ないっての。
それにこんな顔されちまったら、たとえお偉いさんの命が無くったって放っちゃおけないだろうしねぇ。
何ていうか放っておけないっていうか、ついつい構いたくなるっていうか……。
他人からの寵愛を受けやすいって点において考えれば、ホントって小姓向きだよね。
歳の割に背が高くて外見上なかなか子供っぽく見えないからどうも忘れがちだけど、歳から言えばって寺院の稚児や武将に仕える小姓って言われてもおかしくない訳だし。
………………………………………………稚児趣味の奴にとっては、こういうみたいな存在ってどうなんの?!
歳の割に発育しているとはいえ、肉体的にも未だ完全には育ちきらず幼さや愛嬌を持ちながら、衆道的には男を受け入れるだけの体勢をも併せ持つなんて……何というか凄く都合良すぎない?!
だって実際、奥州では未成熟ではあるものの男を誘ってもおかしくないような表情を浮かべたりして、俺様心の臓止まりそうになった事もあったんだぜ?!
今までは周囲に稚児趣味的な奴や、の色に気付くような奴が居なかったから良かったものの……。
………ちょっと俺様、本格的に心配になってきたんだけど!




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