にーちゃんと俺 14







とある村で落ち武者の集団に拘束されていた所を運良く(?)拾われた俺――、14歳。
ただ今朝餉の最中です。
とは言っても、握り飯と漬け物と山菜が少しの簡単なものだけど。
俺を拾ってくれた豊臣軍の人達は、領内の反乱の平定の為にこの近くの村に出兵してきてたらしいので、こーゆー食事なのは仕方ないんだけど。
でも俺としてはご飯をくれるってだけで充分ありがたい。
だって一昨日俺を捕まえた落ち武者達は、ほぼ1日何も食べ物をくれなかったんだ。
それに比べたらここは天国だと思う。
縛られたりしないし、ご飯はくれるし……それに、美味しいお饅頭をもらえたりもしたし。
本当の事を言えば、佐助(にぃ)の作ってくれたご飯やお団子が食べたい所だけど。
でも今はおにぎり食べれるだけで充分幸せだ。
俺用にと渡された大きなおにぎりをぱくついていると、目の前から小さく笑う声がする。


「ヒヒッ…ぬしは、ほんに美味そうに食すものよなァ。」


マジシャンさん改め大谷吉継さんにそう言われて、俺はもごもごしながら首を傾げる。
そう、マジシャンも真っ青な不思議なこの人は、名前を大谷吉継と言うらしい。
昨日俺を大谷さんに預けた目つきの鋭いおにーさんと、俺をここに連れてきた明るくてノリの軽いおにーさんは、大谷さんの事を『刑部』って呼んでたから、てっきりそれがこの人の名前なんだろうって思ってたんだけど。
刑部っていうのは官職なんだって大谷さんは教えてくれて。
それで自分の名前は大谷吉継って言うんだって自己紹介してくれたんだ。

「ほぇ?美味しそう??」
「マコトぬしが食べる様は、握り飯一つとて美味な一品に見えてくるわ。」

え?俺ってそんな風に見えるような食べ方してんの??
確かにおにぎり美味しい~って思ってたのは確かだけど。
あ!もしかして大谷さんもお腹すいてるのかな?
お腹減ってる時って他の人が食べてるの、すっごく美味しそうに見えるもん。
俺は昨日の饅頭の時と同じく手元のおにぎりを半分に割って、片方を大谷さんに差し出した。


「はい!半分あげる!!美味しいですよ!!」
「これは、ぬしの分であろうが?」
「そう!だから半分!!」

「………………半分こ……とやらか?」

「うん!」


大谷さんの口元近くまでおにぎりを持って行くと、一瞬躊躇った後にどこか戸惑いがちに口を開いてくれる。
そして俺の差し出したおにぎりに大谷さんは一口齧り付いた。
それが嬉しくて俺も反対側の手に持っていた半分を自分の口の中に放り込む。
一気に半分を放り込んだらハムスターみたいに口の中いっぱいになっちゃって、超もごもごしていたらそれを見ていた大谷さんに口元を押さえて顔を背けられてしまった。
ブフッ――って吹き出す音と、上下する肩を見るに……もしかして俺、笑われてる??
え?そんな吹き出す程、俺変な顔になってた??
いや、確かに頬袋いっぱいのハムスターみたいな状態だったと思うけどさ。
でも大谷さんも俺の事笑えないよ?
だっておにぎり食べた時に唇の端にご飯粒ついてるもん。
俺もよく気付かなくて佐助兄に笑われながら取ってもらう事あるけどさ。
俺は差し出していたおにぎりの残りを大谷さんの口の中に放り込んで、大谷さんの口の端に付いていたご飯粒を取ると、手についた米粒と一緒にそれをペロリと嘗め取った。
だって農民の皆さんが大変な思いして作ったお米だもん、一粒だって無駄にしちゃいけないよね?
お館様や幸にーちゃんがそう言ってたもん。
綺麗に全部嘗め取って目の前を見上げれば、又しても大谷さんがピキン――とその場で固まっている。
え?何か驚くような事でもあったの??


「――――ッ?!………ぬしは誰にでもこのような事を致すのか?」

「このような事?んと……好きな人とはするかもしれないけど………全然知らない人とかはしないと思う…。」


このような事…って『半分こする』って事だよね?
今までだって佐助兄や幸にーちゃんとは半分こして食べたりしたけど…。
けど初めて来たお客さんとか、どこの誰だか知らない人とは…半分こしようって思えないかも。
だって美味しい物は好きな人達と一緒に食べたいって思うから。

「好きな……人……と?」

「だって自分の物あげたいって思うのって、自分にとって大事だったり好きだって思う範囲の人でしょ?父さんとか母さんとか兄弟や祖父ちゃん・祖母ちゃん、それに友達や恋人とか。」

だから誰とでもじゃない――そう言うと、大谷さんはちょっと困ったように目を細めた。


「では、ぬしにとってわれは何になる?」
「うーん……やっぱり、にーちゃん……かなぁ?」

「兄……?」


だって大谷さんは父さんでもないし、祖父ちゃんって訳でも無いし。
友達って言うには大谷さんは年上だし。
だからやっぱり佐助兄や幸にーちゃん・政にーちゃん・こじゅ(にぃ)みたいに俺のにーちゃん達みたいなものだと思うんだ。

「われが……兄…か。面白き事を言うものよな。」
「俺ね、一人っ子だから昔からにーちゃんが欲しかったんだ。」
「ほう?」
「だから今は俺の事、弟分だって言ってくれるにーちゃん達がいっぱい出来て凄く嬉しいんだ!」
「…………われもその内の1人という訳か?」
「……大谷さんが嫌じゃなかったら……。」

だって俺が勝手にそう思っただけだから。
そうだよ、大谷さんは他国の人で、たまたま俺を拾ってくれただけなんだから。
あの目つきの鋭い銀色の髪のカッコイイおにーさんに頼まれたから、俺の面倒見てくれてるだけなんだから。
でも美味しいお饅頭を分けてくれたり、俺の事撫でてくれたり、俺と嫌な顔せず半分こしてくれたり、俺とお話ししてくれたり…そーゆーの凄く嬉しかったから。
だから大谷さんも俺のにーちゃんになってくれたら嬉しいなって思うんだ。


………ぬしの好きなようにするが良かろ。」


そう言って大谷さんは俺のほっぺたに手を伸ばす。
何かと思ってたら、ひょい――って俺のほっぺたから米粒を取ってパクリとそれを食べてしまった。
うおおおおおおおぉぉぉおぉおぉ?!
俺もほっぺにおべんとつけてたのーーーーー?!?!?!
ぎゃーーー!俺ってば、自分もこんな恥ずかしい状態だったのに、大谷さんのご飯粒取ってドヤってた訳?!
超はーずーかーしーい~~~~~~~~!!!!!!
大谷さん、俺の顔見てそんな爆笑しないでーーーーー!!!


こうして……俺は豊臣での初にーちゃん、吉にーちゃんをゲットしたのでした。























吉にーちゃんこと、大谷吉継さんにお世話になるようになって数日。
今日も今日とて俺は吉にーちゃんの傍でまったりモードです。
吉にーちゃんはお仕事で忙しそうに巻物を広げたり、書状に目を通したり、沢山の紙に筆を走らせたりと凄く忙しそう。
でも俺が傍に居るのを許してくれたのは嬉しかった。
だって、俺にとって普通にお話出来るのは吉にーちゃんか、吉にーちゃんから俺のお世話を専属で任された兵士さん位で、他の人とはあまり会う事もお話する事も出来ないんだもん。
だから、1人でポツンとしてるより、吉にーちゃんのお仕事してる所を見てる方が1人で暇を持て余してるよりずっといい。
だからお仕事の邪魔しないから傍に居てもいい?ってお願いしたんだ。
そんなこんなで俺はずっとお仕事してる吉にーちゃんを見てたんだけど。
さらさらと筆を走らせていた吉にーちゃんが、ふと手を止めて俺を見た。


、近う来やれ。ぬしに頼みがある。」

「なぁに?吉にーちゃん??」
「ぬしは読み書き・計算は出来るであろ?」
「う、うん…少しなら。」

計算はまあ問題無いと思うけど、問題は読み書きの方だ。
未だに時々書き方がおかしいって幸にーちゃんや佐助兄に直される時があるし。
でも大分こっちの字にも慣れてきたから、よく見れば読むだけなら何とかなるかも。

「なれば、これらを纏めてはくれぬか?」

そう言って俺をちょいちょいと手招いた吉にーちゃんが差し出してきたのは、何十枚もの紙の束。
よく見ると、何か食料の一覧表みたいなものみたい。
だって米だの麦だの粟だの稗だのって書いてあるもん。
あ、こっちは弓とか火縄とか槍とか書いてある。
こっちは軍備関係かな??
とにかく色んな種類の書類がごちゃ混ぜになってるみたいだ。

「それぞれに数が書かれておるであろ?それを分かりやすく同じものを纏めてほしいのよ。」
「分かった!俺やるよ!」

だって、どうせ俺ここに居ても何もする事無いし。
暇を持て余してボーッとしてるだけなら、吉にーちゃんの役に立った方がいいしね。
俺は吉にーちゃんから紙の束を受け取ると、紙と筆を貸してもらって早速作業に取り掛かった。
んで分かった事だけど、これって行軍の為に用意された物資のリストみたい。
いつ、何を、どれ位、いくら分買ったのかが書かれてるっぽいの。
一種のレシートみたいな感じ??
それか購入履歴みたいな?
とりあえず簡単な表を作ってまとめていく事にして、俺は束になった紙から必要なデータを手元の表に書き出していった。

それから暫くは黙々と作業してたんだけど。
気付いたら、いつの間にか処理前の箱の中にいっぱいあった紙の束が全部処理済みの箱の中に入ってて。
俺は表に書き出したデータを計算してまとめると、見やすいように一覧表を作って吉にーちゃんに声を掛けた。


「出来たよー吉にーちゃん!!」

「?!何と?!もう終えたと申すか?」
「うん。見直したから間違ってないと思うけど…。」


俺が終わった事を伝えると、吉にーちゃんの黒い目が驚いたように見開かれる。
ホントはもっと早く終わってたけど、書き出しミスとか計算ミスとか無いように見直し作業してたから、思ったより時間掛かっちゃったんだよね。

「確認作業も含めてこの短期間で済ませるとは……。」

何か信じられないものでも見るみたいに吉にーちゃんが俺と、俺の手元の紙を見やる。
んー……そんなに早くも無いと思うんだけど?
そこまで驚かれるとちょっと照れくさいよー。
俺はへにゃりと笑って手にしていた一覧表を吉にーちゃんに差し出した。


「はいコレ。」
「……………………これは……。」

「んとね、こっちが食料を全部まとめたやつ。んで、こっちが武器や防具とかの分。それからこっちが火薬とか燃料とかで、こっちが人足さんとかに掛かった人件費。で、こっちが縄や木材とかの資材類で、こっちが軍馬や鳥とかの餌代とか医薬品とかその他の色々をまとめたやつ。」

「何とまァ詳細に分かりやすく纏められたものよ…。」
「あ、うん。種類ごとに分けたんだ。」

食料も主食から野菜から干し肉まで色々と種類があるから、それも全部種類ごとに分けて集計して。
武器や防具・燃料や火薬・資材もそれぞれ種類ごとに一覧にしたんだ。
そう言ったら吉にーちゃんは更に目を丸くした。
え?何でそんなにビックリしてるわけ?
同じものをまとめろって言ったのは吉にーちゃんなのに。


「ここまで分かりやすく纏められるとは思わなんだ。まさか分類までされようとは…。」


ああ!吉にーちゃんは俺がカテゴリ別にまとめると思わなかったのか。
だって食べ物と武器と資材とがごっちゃになってたら、どの分類の物にどれだけ掛かったかなんて分からないじゃん?
これってきっと何かの書類を作る為の資料だと思うんだよね。
だったら何がどれ位掛かったのかって分かりやすい方がいいじゃん?
だからそれぞれジャンル別けして、ジャンル内の種類別・項目別に集計して、最後にジャンルごとの掛かった費用をトータル集計して…って一覧表にまとめてみたんだけど。

「はぅ…そんなに驚かれると……。」

「いやはや…掛かった金子の額まで記されておるとは……。、ぬしはこれだけの事を一刻に満たぬ時間で済ませたのよ。いや驚きよオドロキ。」

そう言って吉にーちゃんは、俺の手渡した紙をめくりながらふるふると首を振ってみせる。
んー…これって褒められてる…んだよねぇ?
つーか俺、どんだけバカだと思われてたんだろ……。


「しかし参ったわ。暇を持て余しているであろうぬしに、時間を潰すものをと思うたが…このように早に済まされては何にもならぬな……。」

「え?そうだったの??ごめんなさい…。」
「良い、ヨイ。、ぬしの力を読み違えたわれが悪いのよ。とはいえ、どうしたものか…。」


そう言って吉にーちゃんが顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。
あ……今気付いたけど、吉にーちゃん何か少し疲れてるみたい。
そーだよね、俺が吉にーちゃんの所に来た時にはもう既にお仕事してたし、昨日は夜遅くまでお仕事してたらしいってお世話係の兵士さんが言ってたし。
なのにこうして俺の事も考えてくれて…。
吉にーちゃんの横顔を見ていた俺は、何だかいつも忙しそうにしてるのに俺の事をいつも考えてくれる佐助兄の――今は傍に居ない俺のにーちゃんの事を思い出して眉を寄せた。
だってね、佐助兄もいつも忙しく働いてて、本当に大変そうだなって思ってたんだ。
お仕事だから仕方ないって分かってるけど、もっと休んでほしいなって思う事が沢山あって。
だから少なくとも吉にーちゃんには無理せず少しでも休んでほしくて、俺は挙手するみたいに勢いよく手を上げて声をあげた。


「はいっ!吉にーちゃん!!」

「ん?如何致した?」
「吉にーちゃん疲れてない?俺、兵士さんにお願いしてお茶淹れてもらってくるよ!そしたら俺もお仕事出来るし。ね?いいでしょ??」

……。」
「1人でうろうろしたりしないから。お世話係の兵士さんと一緒に動くから。ダメ??」


勿論、俺も何かやる事がある方がいいけど、そうすれば吉にーちゃんもちょっとは休んでくれるかもしれないし。
それに忙しそうな吉にーちゃんに、これ以上俺の事で余計な心配させたくない。
だって俺が傍に居るだけで吉にーちゃんの気が散って邪魔になってるかもしれないし。
俺の言葉に考え込む素振りの吉にーちゃんをじっと見上げる。
暫く黙りこんでいた吉にーちゃんは、ふぅ――と一つ大きく息を吐くと、手を伸ばしてポン――と俺の頭に軽く触れた。


「………………よかろ。その代わりぬしに一つ仕事を任せよ。」
「お仕事??」
「われに茶を持ってきた後は、三成の元へも茶を持って行ってやってもらいたいのよ。」
「みつなり………さん?」
「初日にぬしをわれに預けた男が居ったであろ?あやつが三成よ。」
「あ、あの綺麗な銀色の髪のおにーさん?」
「綺麗…か………。ヒヒッ!ぬしもあれが美しいと見えるか。」
「ほぇ?吉にーちゃん???」
「いやいや、何でも無いわ。如何にも、ぬしの言う通り白銀の髪の男…それが三成よ。」
「その三成さんにもお茶を持って行けばいいの?」


そう吉にーちゃんに問い掛ければ、その通りだと吉にーちゃんが頷く。
そして机の上に置かれていた籠をふわりと浮かせると、俺の目の前にそれをふよふよと移動させてくる。
その籠の中には拳くらいの大きさのみかんが山のように積まれていた。

「三成は、われ以上に休むという事を知らぬ男ゆえな。、この蜜柑と茶とぬしの纏めたこの書類と…そしてわれの言伝(ことづて)を書いたこの紙を持って三成の元へ行き、三成を暫しの間休ませてほしいのよ。これはぬしにしか頼めぬ。」
「そうなの?」
「三成は碌に食事も摂らぬ故、せめて身体だけでも休ませたいのよ。頼まれてはくれぬか。」
「俺、吉にーちゃんの役に立てる?」
「そうよなァ。これ以上なく役立つ事よ。」

そう言って吉にーちゃんは俺のまとめた書類の上に文のような物を乗せて俺に差し出してくる。
それを受け取って、俺はコクリと大きく頷いてみせた。


「分かった!んじゃ俺、お茶淹れてもらってくるね!」


目の前でふよふよしてる籠の中からみかんを5・6個取り出して書類の上に乗せる。
後はお世話係の兵士さんと一緒にお茶を淹れて、吉にーちゃんと三成さんって人の所にお茶と書類を届ければミッションコンプリート!だ。
俺は両手に抱えた書類とみかんが落ちないように気を付けながら、陣幕の端に控えていたお世話係の兵士さんに駆け寄った。
陣幕の隅で俺達の話を聞いていたらしい兵士さんは、苦笑いを浮かべながらもすぐに俺を目的の場所に連れていってくれて。
煮炊き担当の兵士さんに事情を説明してくれて、お茶の用意が出来るまで俺が暇にならないようにって色んな話をしてくれた。
故郷には血の繋がってない弟がいるんだって事や、仕事が忙しくて大変だって事や、今の時期はどんな果物が採れるのかとか…。
俺の頭を撫でながら沢山お話してくれて。
おかげで、お湯が沸くまでの待ち時間があっという間だった。
何か――すっごく話しやすいんだよね、この兵士さん。
俺のお世話担当の兵士さんがこの人でホントに良かったって思う位。
だって怖い人だったら嫌じゃん?
そんなこんなで煮炊き担当の兵士さんから無事に吉にーちゃんと三成さんの分のお茶を受け取って、俺はお世話係の兵士さんと一緒に吉にーちゃんの居る陣幕へ戻った。



「ただいま!吉にーちゃん!お茶淹れてもらってきたよ。それとコレも貰ったー。」

「ほう?これは?」
「俺がこの間吉にーちゃんのお饅頭食べちゃったって話をしたら、代わりにって言って酒まんじゅうくれたの。」
「それは、ぬしが貰ったのであろ?」
「違うよーコレは吉にーちゃんにって。それと三成さんにもって。」


吉にーちゃんが三成さんって人の事を心配してるみたいだって言ったら、煮炊き担当の兵士さんが凄く納得したように頷いて。
それで、三成さんの所にもお茶を持って行くのならって、三成さんの分の酒まんじゅうも持たせてくれたんだ。
ついでにって、俺の分もお駄賃だって笑って1個オマケしてくれたけどね。
でも包みの中のはあくまでも吉にーちゃんと三成さんの物だし。
俺は持っていた盆の上から吉にーちゃん用の湯飲みと酒まんじゅうを机の上に置くと、後ろで待っててくれたお世話係の兵士さんの傍に駆け寄った。
俺がお茶一式を持ってるから、書類と吉にーちゃんの文とみかんは兵士さんがずっと持っててくれたんだ。
出来たら籠とかあったら1人で持てて兵士さんに迷惑掛けなくて済んだのになー。
兵士さんからみかんを受け取って盆の上に乗せると、俺は吉にーちゃんを振り返ってにへらって笑ってみせた。


「んじゃ、三成さんの所に行ってくるね。」
「やれ任せたぞ、よ。」

「はぁい!」


目を細めて俺を見送ってくれる吉にーちゃんに大きな声で応えて。
俺はもう一度お世話係の兵士さんと吉にーちゃんの居る陣幕を出た。


この時の俺はまだ分かってなかったんだ。
吉にーちゃんの言う『三成さん』って人がどんな人なのかって。


そして俺は兵士さんに連れられて、三成さんの居る陣幕へと足を踏み入れる事になったのでした。




↑ PAGE TOP