にーちゃんと俺 12
「やっと着いたーーーーーー!!!」
人生初めての家出から、今日やっとの事で帰還しました俺、14歳。
ただいま畳の上で生ける屍状態になっております。
いやもう、今すぐ寝れるくらい体力ゲージはエンプティ状態です。
今なら某ネコ型ロボットの居候先の少年並におやすみ3秒出来そうな気がします。
まぁこれは色々ワガママ言った俺自身が悪いんだけど。
でも流石にちょっと疲れた……。
本当はもっと早い時間に城下町に着く予定だったんだけど、途中の村で休憩という名の寄り道をしたり、城下町でも買い物をしたりしてたら、あっという間に時間が経ってしまっていて。
気付いた時には陽が大分傾きかけていて、俺は慌てて躑躅ヶ崎館への道を急いだんだ。
いや確かに今日中には着けたけど流石に暗くなってしまって、途中で別れて先に報告に戻っていた佐助兄に俺と才蔵さんの2人は「何でもっと早く戻らなかったの!」と怒られてしまいました…。
あぅ……ごめんねー才蔵さん。
俺がワガママ言って城下での買い物付き合ってもらっちゃったから、才蔵さんも怒られちゃったんだよね…。
申し訳なくてペコリと頭を下げたら、気にするな――と笑って才蔵さんは消えてしまった。
消える直前、俺の頭を撫でてくれた事が唯一の救いだ。
そんなこんなでぐったりと畳の上で転がっていた俺は、ドドドドドドドド――!という久々の轟音と震動が聞こえて、その場にぴょこりと飛び起きた。
この音は――――
「ッ!!!!!!」
スパーン!という音と共に障子戸が物凄い勢いで開かれる。
そこには俺の想像した通りの姿が――久しぶりに見る幸にーちゃんの姿があった。
「幸にーちゃん!!!」
ただいま――そう言おうとして立ち上がった俺の目の前に。
険しい顔の幸にーちゃんが立ち塞がって。
次の瞬間パァン――という音がして、俺は幸にーちゃんに頬をはたかれた事に気付いた。
「幸………にー……ちゃん?」
じんじんとする左頬を押さえながら呆然と幸にーちゃんの顔を見上げる。
え………俺………叩かれた?
イマイチ状況が良く理解出来なくて、俺はその場に立ち尽くす。
幸にーちゃんが本気で叩いたんじゃないって事は分かる。
だって幸にーちゃんが本気で俺の事叩いたら、俺きっと吹っ飛ばされてるもん。
でも、幸にーちゃんの俺を見る顔は今まで見た事も無い位険しくて。
俺はその時初めて理解した。
幸にーちゃんが怒っているんだって。
「皆にどれだけ心配を掛けたのか分かっておるのか?!?!」
俺を叩いた手をぐっと握りしめて幸にーちゃんが声を荒げる。
その厳しい声に、俺はサーッと血の気が引いていくのを感じていた。
俺、バカだ。
幸にーちゃんなら笑顔でおかえりって言ってくれると思い込んでた。
前みたいに無事で良かったと半泣きで迎えてくれるって勝手に思ってた。
佐助兄には怒られる事覚悟してたけど、幸にーちゃんには怒られるなんてこれっぽっちも思ってなかった。
勝手な事して心配掛けて迷惑掛けたのに。
忘れかけてた……俺、失望されてもおかしくない事したって。
怒られて当然の事したんだって。
――嫌われても何も言えない立場なんだって事を。
「お、俺……………。」
「お館様も佐助も館の者達も、皆心配しておったのだぞ?!俺もどれだけ――!!」
そこまで言ってぐっと何かを堪えるような顔をする幸にーちゃん。
握りしめた手は小刻みに震えていて、それを見た俺はよろりと後ろによろめいた。
怒らせてしまった――。
一番可能性が低いと思っていた人を。
いつも佐助兄に怒られても、お館様に叱られても優しく笑ってくれた幸にーちゃんを。
一番、怒らせちゃいけなかった人を怒らせてしまったんだ俺は。
「………ごめんなさい…………。」
こんな事言う資格無いのに。
でも俺はその言葉しか浮かばなくて。
「ごめんなさい――――!!!!!!!」
それ以上幸にーちゃんの顔を見ていられなくて、俺は素足のまま庭に飛び出した。
だってこれ以上どうしたらいいのか分からない。
どうやって幸にーちゃんに謝ればいいのか分からない。
こんなに迷惑掛けたのに、平気な顔して会おうなんて考えた俺がバカだったんだ。
俺、もう幸にーちゃんに顔向け出来ないよ……。
奥州まで家出して、少しは成長したとか勝手に思ってたけど、やっぱり俺はまだまだダメダメなガキで。
もう泣くもんか――と思っていたのに、いつの間にか俺の頬には涙が流れていた。
あー……結局俺ってハンパなんだ。
泣き虫なヘタレから卒業も出来ず、結局こうやってボロボロ泣いて。
ホント情けない。
部屋を飛び出して何も考えずただひたすらがむしゃらに走って。
息も絶え絶えになった時。
俺は急に飛び出してきた何かに勢いよくぶつかった。
「―――っ!!!」
「これ、止まれと言うておろうに。」
聞こえてきた声に何事かと顔をあげた視線の先。
俺の瞳に映ったのは、俺のここでの父さん代わり――お館様の姿だった。
「お、おや…っ!お館…ッ様…っ!」
「おお、ようやっと儂を見おったか。」
「……ひっく………お館様…っ!」
「何じゃ、そんな顔をしおって。どうした?」
ただいまもごめんなさいも言えない内に。
俺はお館様の大きな身体にしがみ付いていた。
お館様にだってこんな事出来るような立場じゃないのに。
でも、まるで家出してた事なんかまるっきり無かったかのようないつもと変わらないお館様の姿を見ていたら、我慢が出来なくなって俺は大声を上げて泣きついていた。
「無事に戻ったと聞いておったが……何ぞあったか?ほれ、儂に話してみよ。」
「おっ…俺ッ!勝手に……家出…ッ!し…てっ!ごめんなさ…ッ!幸にーちゃ……っ!怒って…………っっ!俺……ッ!!!」
「これ、落ち着かんか。ああ、よしよし。」
しがみ付いていた俺を片手で抱き上げると、お館様は俺の背中をポンポンと叩いてくれる。
まるで赤ちゃんをあやすようなその仕草に安心してしまった俺は、しゃくりあげながらお館様の逞しい胸元に縋り付いた。
「お館様ぁぁぁあああ!……ッく!……うぇ…ッ!」
「儂はここにおる。安心せい。」
大きくて逞しいお館様。
あったかくて優しい手。
俺がえぐえぐと泣き続けても、お館様は笑って俺をなだめてくれる。
その暖かさと心地良さに、俺は思う存分声をあげて泣いた。
「うむ……少しは落ち着いたか?」
「………はい。」
ひたすら泣き続けて涙も枯れ、声も掠れ始めた頃。
ようやっと落ち着きを取り戻した俺は、腰を下ろしたお館様の膝の上に座るように抱きかかえられていた。
俺の背中を擦ってくれる手はそのままに、もう一方で涙の跡を拭ってくれるお館様。
その優しくも力強い声に促されて、俺はコクリと小さく頷いた。
「俺………お館様にも謝らなきゃ………。」
「謝る?如何致した?」
「勝手に家出して迷惑掛けて……ごめんなさい。」
そう言って俯くと、一瞬だけ驚いたような顔をしてから、お館様はどこかやれやれといったように表情を緩めた。
「………奥州はどうであった?」
「え?」
「日ノ本は広い。甲斐に居っては経験出来ぬ事も数多あろう?旅も貴重な経験よ。人との出会いもまた然り。此度の事で得るものはあったか――よ?」
「―――ッ?!はいっ!!!」
「ならば良い!」
本当は叱られてもおかしくないのに。
何でこんな事したんだって問い詰められると思っていたのに。
キツイお仕置きがあって当然なのに。
でも何事も無かったかのようにそう言ってお館様は豪快に笑う。
まるで家出した事や迷惑掛けた事、全部が何でもない事だって言ってくれてるみたいで。
俺は涙を拭ってくれるお館様の大きな手をぎゅっと握りしめた。
「けど……俺、お館様や皆に迷惑しか掛けてないのに……。」
そんな自分が何の責も負わず赦されていいんだろうか?
本当にこのまま何もなかった事にしていいんだろうか?
「そなたは奥州にて双竜と深き絆を結んだと聞く。それが我が甲斐にとってどれだけの『幸』をもたらすか……分かるか?」
「さ……ち……??」
「如何にも。確かに奥州とは以前より同盟を結んではおった。されど、それはいつ破られてたとて不思議の無い紙の上での事。それを、そなたが真の契りとしたのじゃ。そなたがあの竜の小倅を救うた事でと伊達との間に縁が生まれ、そのを通して儂らと奥州は真の繋がりを得る事が出来た。これはどれだけ価値のある事か……。」
そう言ってお館様はポン――と俺の頭の上にその大きな手を載せる。
けど、俺は政にーちゃんを助けた事と、それが甲斐の国にとって利益になるって事が全然結びつかない。
お館様は価値がある事だって言ってくれたけど、俺には何でそれが価値ある事なのかサッパリ理解出来なかった。
「やれやれ…さっぱりだって顔してるねぇ?」
苦笑を滲ませた声。
それがすぐ近くで聞こえて、俺はビクンと飛び上がる。
確認するまでも無い。
いつの間にか佐助兄が俺とお館様のすぐ傍で俺の顔を覗き込んでいた。
「佐助兄ッ?!」
「大将、猿飛佐助…御前に。」
「おお、ご苦労であった。」
「はっ!」
佐助兄はお館様に頭を垂れると、次に俺の方へ視線を向けると眉尻を下げる。
「、大将の言ってる事分かんない?」
「うん………。」
そうだよ!急に佐助兄が現れた事でビックリしちゃって忘れそうになったけど、俺…お館様が言った事が分からなくて困ってたんだ。
向けられた問いにこっくりと頷いてみせると、佐助兄は小さく笑うと俺に両手を差し伸べる。
まるで……教えてあげるからおいで――そう言われてるみたいで。
俺はどうしていいか分からず、膝の上に抱き上げてくれているお館様へ視線を向ける。
それにお館様は無言で大きく頷くと、その力強い腕で俺をもう一度抱き上げるとそのまま佐助兄の方へと腕を伸ばした。
「おいで……。」
誘われるまま佐助兄の腕の中に身を投げ出すと、ぽふ――という感触と共に佐助兄の肩口に引き寄せられる。
「佐助兄?どうして俺が政にーちゃんを助けた事が甲斐の為になるの??」
「そうだねー…奥州との同盟はいつ破られてもおかしくないものだったってのはさっき大将に聞いただろ?」
「うん。」
「それは書状や盟約書のような紙の上の形だけで、それを拘束するような他の何らかの形の柵が無いからなんだよ。本来同盟やら協定を結ぶ際には娘や姉妹なんかの血縁の女性を政略結婚で相手に輿入れさせるか、嫡子以外の男子を人質に出したりして結び付きを強くし、お互いに相手が裏切ったりしないようにするんだけどね。でも奥州とは対織田の共闘の為に同盟を結んだだけだから、そういった人的な結び付きや柵が一切無かったんだよ。だからいつ同盟破棄されてもおかしくは無かった。」
「でもそれと俺の事とどう繋がるの?」
「独眼竜がの事、何て言ってたか覚えてるかい?」
「恩人で弟分だって言ってくれた……。」
「そ。奥州の伊達にとっては大事な弟分、そして国主の命を守った功績の大きな人間。つまり政略結婚や人質と同じだけの価値のある存在になったって事。でもそれは俺様達も同じでね。真田の旦那の弟分だし、大将もの事を息子の様に可愛がって下さってるだろう?俺様も才蔵も忍隊の奴らも皆、を大切に思ってる。だから伊達と同じで、甲斐にとっては人質と同じだけの価値を持つ人間って事になるんだよ。」
「俺……が……?」
「どっちもが大切で守ろうとするなら、お互いいい関係で居なきゃいけないだろ?そうしたらお互い助け合う事が事が多くなる。つまり、奥州と甲斐はを通して繋がる事でお互い結びつきが強くなって、益々良い関係を築けるって寸法。は俺様達を繋いでくれる生きた絆なのさ。」
分かったかい――?そう言って佐助兄は静かに髪を撫でてくれる。
それに頷いて、俺はすぐ傍で俺達を見守ってくれていたお館様を見上げた。
「お館様?……お館様が言ってた『幸』ってそういう事……ですか?」
「如何にも。、そなたは儂らに奥州との真なる縁をもたらしてくれた。それは何にも代え難き幸となろう。」
「そういう事。だから何も心配しなくていいんだよ、。」
でも――俺はそのまま頷く事は出来なかった。
だって俺、幸にーちゃんを怒らせちゃった。
たとえ本当に俺が政にーちゃん達との絆を作れたのだとしても、それと俺が勝手をした事は全然別の事だ。
迷惑を掛けて怒らせてしまった事は消しようもない。
俺は佐助兄の胸元に手をついて佐助兄を押し遣ると、ぶんぶんと大きく首を振ってみせた。
「何?まだ心配?」
「………。」
「何を憂いておる??」
「………俺、幸にーちゃん…怒らせちゃった……。」
「ほぅ?あの幸村がのぅ…?」
「叩かれ…た……きっと許してもらえない……俺、嫌われちゃった……。」
「なるほどのぅ……それ故、あれ程に取り乱しておったのじゃな??」
合点がいった――そう言ってお館様は顎髭を擦る。
「真田の旦那ね、俺様がひと足先に報告に戻った時も『はまだか?』って、ずーっとの戻りを首を長くして待ってたんだぜ。けど、なかなかが帰って来なかったもんだから、心配で心配で居てもたっても居られなくなっちまっただけなんだよ。だから、の事嫌ったりなんてする訳ないって。今もの戻りを待ってるぜ、きっと。」
優しい佐助兄はそう言ってくれるけど、俺はそうは思えない。
俺を殴った幸にーちゃんの手が震えてたのを俺はこの目で見ているから。
「信じられないって顔してるけど、これは事実だぜー?ほら!とにかく騙されたと思って一度部屋に戻ろう?俺様もついててあげるからさ…ね?」
そう言って佐助兄はニッと強気な笑みを浮かべる。
何でそんなに自信たっぷりなのか俺には全然分からないよ佐助兄。
けど、あまりに熱心に佐助兄が戻る事を勧めるもんだから。
俺は釈然としないまま、佐助兄に促されてとぼとぼと廊下を歩き始めた。
そういえばいつの間にか、泥まみれだった筈の俺の足は廊下を歩いても問題の無い程綺麗になっている。
きっと佐助兄かお館様が、俺が泣き喚いていた間に拭ってくれたんだろう。
そうしてお館様の所を後にした俺は、足取りも重く部屋への道を歩き始めた。
佐助兄に連れられて暫くして。
自分の部屋の前まで戻ってきた俺は、俺の部屋の真ん中で正座したまま項垂れている幸にーちゃんの後ろ姿が目に飛び込んで来て、その予想もしなかった姿に己の目を疑う。
何で幸にーちゃん、そんな落ち込んでんの?
何で俺よりも苦しそうな顔してんの?
まるで幸にーちゃんの方が怒られたみたいな顔をしていて、俺は驚きに目を見開いた。
「―――?!ッ?!」
呆然と立ち尽くしていると、不意に幸にーちゃんがこちらへと視線を向ける。
その目に俺の姿を映すと、幸にーちゃんは驚いたようにその場に立ち上がった。
「すまぬ!お主の気持ちを考えもせず俺は――!」
そこまで言うと、幸にーちゃんは切なそうに眉を寄せる。
そしてそのまま俺の前まで来ると、そっと俺の肩を抱き寄せた。
「幸……にーちゃ……。」
「才蔵に聞いた。俺の為に城下で沢山の土産を探してくれたのだと。その為に戻りが遅くなったのだとも。俺の為にと道中でも薬や干菓子・酒や織紐を見つけては忍隊の者に持たせてくれていたのだな。そうとも知らず俺は………。」
耳元で零れる申し訳なさそうなその声音に、俺は小さく首を振る事で答える。
「?」
「俺、いっぱい迷惑掛けたんだもん…怒られるのも嫌われるのも当然…だし…。俺、迷惑な奴で……ごめんなさい……。」
「迷惑だなどと!そのような事、少しも思っておらぬ!」
「でも……怒ってる………俺が迷惑掛けた…から。」
「俺は心配を掛けた事を怒ったのだ!決しての事を迷惑だなどと思ってはおらぬ!」
「しんぱい……?」
思いもしなかった言葉に、俺は目を瞬かせる。
だって迷惑を掛けて怒られたんだと思ってたのに、幸にーちゃんは違うって言うんだ。
怒ったのは心配を掛けたからだって。
「、勘違いしてはおらぬか?俺が怒ったのは迷惑だからではない。お主の身を案じていたが故、二度とこのような事はして欲しくないと、を危険に晒したくないと思うが故に、お主に厳しくあたってしまった。だが勘違いしないで欲しいのだ。俺はの事を迷惑だなどと思った事は無い。まして嫌いになど……。」
そう言って幸にーちゃんは俺をギュッと抱き締めてくれる。
それに応えるように幸にーちゃんの背中に手を回すと、ほぅ――と小さな溜息が耳元で零れた。
「本当に無事で良かった………。俺は……生きた心地がしなかったぞ。」
「幸にーちゃん………ごめんなさい、心配掛けて。」
少し苦しい位に――決して俺を離すまいとするかのように俺を抱きしめてくれる幸にーちゃん。
それだけ俺は幸にーちゃんに心配を掛けてしまったんだ。
いつも明るく笑ってくれる幸にーちゃんの顔を曇らせる事をしてしまったんだ。
だから、俺はもう2度と幸にーちゃんを、俺を心配してくれた人達を悲しませるような事、心配させるような事はしちゃいけないんだ。
改めて俺は俺の未熟さを反省しつつ、優しく俺を迎え入れてくれた俺にとっての大事な人達の事を想った。
「良かったね旦那。が戻って来てくれて。」
「うむ。色々とご苦労だったな佐助。」
「ほーんと!これで俺様も旦那の泣き言に付き合わなくても済むよ。日の本一の兵と誉れ高い真田幸村ともあろう者が『を泣かせてしまった!どうすれば良いのだ?!』『を叩いてしまった!に嫌われはしまいか?!』って右往左往……。」
「佐助―――!!!!!」
え?幸にーちゃんがそんな事を?
だから幸にーちゃん、俺の部屋であんな凹んだ顔してたの?
「幸にーちゃんも俺と同じ不安だった?」
「………むぅ、仕方なかろう。」
「……んと、あのね、幸にーちゃん?俺ね、幸にーちゃん大好きだよ?だから嫌われたと思って凄く悲しかったんだもん。」
だから俺が幸にーちゃんを嫌う事なんて無いんだ――そう言うと、幸にーちゃんは大きく目を見開いてから、ふわりと笑みを浮かべた。
「………………………?」
「なぁに?幸にーちゃん?」
「大分遅くなってしまったが………………………よく無事で戻ってくれた。」
静かなその声は、いつもの幸にーちゃんよりずーっと落ち着いていて。
やっぱり幸にーちゃんは俺より大人なんだなーと思う。
俺、やっぱりにーちゃん達みたいな男になりたいな。
大好きなにーちゃん達みたいな大人に。
「……………………………ただいま、幸にーちゃん。」
こうして俺の人生初の家出は無事に終了したのでした。