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  プロローグ


 少年は、圧し寄せてくる違和感から意識を逸らそうとしていた。
 彼を守っていた見えない盾は、最初の衝撃で異常をきたし、すでに失われている。もともと、彼を包む密閉空間は、強力なバリアを必要とする目的のために造られていない。
 盾を失ってから何度目かの衝撃で、彼は一瞬気を失い、我に返ると同時に、五感に違和感を感じた。手のひらであちこちを触ってみても出血はどこにも見当らなかったものの、本能が告げている。終わりの時を。
 その予感を抱いてから、彼は今まで以上に速く、遠くをめざした。
 この命が尽きるまでに、せめてより多くのものを見たい。多くの景色を見たい。少しでも、この先の景色を。
 さまよう星々が、行く手を阻む。その小惑星群の衝突が、衝撃の原因に違いなかった。危険な小惑星の舞いに、少年は場違いだと苦笑しながらも、冬によく見上げた空の、その視界に舞い落ちる雪に似ている、と思う。
 思い出の中にいるうちに、彼はいつの間にか小惑星の嵐を抜け、新しく周囲を取り巻いた景色に目を奪われた。
 目の前には、飲み込まれそうな暗闇と、それを押し退けて広がる光の海があった。
 ひとつひとつは、広過ぎる闇に対してあまりに頼りない光の点である。それが、目の前の光景では、完全に闇を圧倒していた。
 まるで、とうとうと流れ続ける川のように。
 まるで、終着点のない道のように。
 そして、月光を浴びて舞う氷の結晶がつくり上げる柱ームーンピラーのように。
 その柱は、一体どんな世界を支えているのか。
 ぼやけていく視界の光景に好奇心をくすぐられ、その好奇心が満たされないことを悔いながら、彼は最後に家族の笑顔を思い浮べ、逝った。






  NO/01 郷愁 ―居場所を求めて― 001


 人通りの無い入り組んだ小路を、小柄な姿が早足で歩いていた。角にさしかかると素早く周囲を見回し、建物と建物の間に滑り込む。
 その人物は、個性的な格好をしていた。襟元にリボンのついたシャツに、べージュのベストとパンツ。一見芸術家志望の美少年のようにも見えるが、注意深く見ると、ベレー帽のなかに長い黒髪をまとめているらしい様子と体格から、女性であることがわかる。
「まだ連中は近くにいるかい?」
 彼女は足を止めないまま、誰にともなく声をかけた。
 そのことばに、彼女の耳に装着されたイヤリング型スピーカーから、人問のそれとは異なる響きを帯びた、透明感のある美しい声がことばを返す。
『ええ、接近しています。そこを出たら右に曲ってください。その先をしばらく行くと、住宅街を抜けます』
「抜けたら、工場や研究所の敷地のはずだな」
『ええ。キイ、気をつけて。障害物がなくなりますから』
 襟の裏に仕込んだ超小型マイクに向かって答えて、キイ、と名を呼ばれた彼女――何でも屋のキイ・マスターは先を急ぐ。
 狭い壁と壁の問を抜けると、少し広い道に出る。相変わらず人通りはなく、静かな道に変わりはないが。
 彼女は、言われた通りに右に向かった。脇に建ち並ぶ住宅からは、人の気配がない。昼食前という時間帯なので、どの家の住人も外出中なのだろう。バルトルは農耕業が盛んなのどかな惑星だが、近年発展のめざましい首都バルシェシュトルフの中心部ともなれば、工場や研究所などに勤めている者が多い。
「アイアの親戚に、工場に勤めている人はいなかったな」
『ええ。それに、この先にあるのはアステン財団の施設ですよ』
 独り言のようなことばに、即座に応答があった。
「アステン……〈果て〉への遠征隊をいくつも送ってるな」
『ええ、有名な話ですね。戻ってきた探査隊はないですが……』
 宇宙図に表記されている宇宙域の端、〈ミラージュベール〉と呼ばれる小惑星帯の向こう、〈果て〉に至った者は存在しない。いや、仮に存在したとしても、誰一人、それをこちら側に伝えた者はいなかった。
「そのアステン財団がねえ」
 バルシェシュトルフは〈ミラージュベール〉からそう離れておらず、自然豊かで海にも近い。研究所などにとって悪い立地条件ではないが、より〈ミラージュベール〉に近い、もっと物資が豊富な惑星はいくつもある。
 バルトルにない器材を惑星外から運び入れる費用も馬鹿にならないはずだ。なぜあえてこの惑星を選んだのか。
 疑問を抱きながら、キイは住宅の並びが途切れる端で足を止める。建物の影からそっと顔を出して見回すと、彼女は右手側に、見覚えのある一団を見つける。
 作業服を着た三人の男と、それに囲まれたスーツ姿の男が、研究所らしい建物に続く道を歩いていた。
「問違いないか?」
 言って、彼女は右の耳たぶに触れた。イヤリング型スピーカーには、水晶球にも見える超小型カメラが仕込まれている。
『はい、ティアーノ博士に問違いありません。彼は本当なら、今頃セントラルホテルで講演会のはずです』
「喜んでついていってるようには見えないしね……とりあえず、警察に通報」
『了解。それで、あなたはどうするつもりです?』
「聞くまでもない」
 唇の端をつり上げると、何でも屋は四人の男たちが建物の入り口に辿り着いたのを確認して、音もなく住宅の影から踏み出した。
 〈ミラージュベール〉の、不規則に移動する小惑星やチリから宇宙船を守る手段を研究する施設、というのが、その建物の表向きの役目らしかった。研究目的に見合った高度なセキュリティ・システムに管理されているが、キイがマイクの向こうの相手に指示して間もなく、それは彼女の味方となる。
 彼女は警報にも監視カメラにも煩わされることなく、易々と建物に入り、自動的に閉じたドアに職員が足止めされている間に、研究所の奥へ奥へと侵入していった。
『次の角を右に折れた突き当たりのドアです。その先に地下への階段があります』
「その先に連中が?」
『五人の人間が捕われています。アイア・フォッグもティアーノ博士も、同じ部屋に閉じ込められていますよ』
「依頼達成か」
 答えながら、彼女は狭い通路の先、横にスライドした白いドアを抜けた。急な階段が下に続いている。それをのぞき込んだとき、控えめな警告が耳をかすめる。
『気をつけて。作業服の三人が登って来ます』
 キイは周囲を見回した。そして、一旦階段の前からさがる。その意志を汲んだかのように、ドアが閉じた。
「下にいるのは捕えられてる五人だけか?」
『はい……登ってくる三人の他に、職員はいません』
 それを聞くと、彼女は息をひそめ、壁に手をのばした。
 問もなく、ドアの向こうから、かすかな話し声と足音が響いてきた。厚そうな生地で作られた作業服は壁や天井と同じ白で、ところどころにある汚れが目立つ。ドアが開くと、くぐもって小さく聞こえていた声がはっきりと侵入者の耳に届く。
「まったくどうかしてるよ、あんなバケモノを預かるなんて」
「ああ、ラヴァの連中に売っちまえば……」
 仲間に答えた男のことばは、鈍い衝突音とともに途切れた。頭上から作業服の男たちを急襲したキイは、鉄板入りのブーツの爪先でみぞおちを蹴られて仰け反った男に、次いで体当たりをくらわせた。吹き飛んだ男に巻き込まれ、残りの二人も、声を上げて階段を転がる。
 キイも急いでそれを追った。
 団子になって落ちていった男たちは、重なり合って地下室の冷たい床に倒れていた。どうやら、上のもう一人と同じく、二人とも気絶したらしい。丈夫な作業服のおかげか、大きな怪我もないようだ。
 地下室は暗く、壁も上とは正反対の黒である。並んだ三つのドアは金属性で、まるで牢屋のようだった。
『右のドアです、キイ』
 言われて、キイは左手をベストの内側に入れながら、右のドアに駆けつけた。問もなくロツクが解除され、ドアは、ずずず、と重々しい音をたててスライドする。
 内部は、質素ではあるが、一応調度品などはそろっているようだった。とはいえベッドは二つしかなく、毛布をかぶって床にうずくまっている姿もある。
 ドアが開くなり、全員がキイに注目した。ティアーノ博士や床にうずくまっていた二人が、弾かれたように立ち上がる。
 立ち上がった一方は、見覚えのある、十代半ばくらいの少女だ。
「アイア・フォッグさん?」
 とりあえず危険はないと判断して、キイが歩み寄ると、少女は目を丸くしたままうなずいた。
「わたしは、キイ・マスター。何でも屋です。ご両親の依頼を受けてあなたの行方を捜していました。他の皆さんも、ご自分の意志でここにいらしたのではないようですね」
 言いながら、室内を見回す。アイアと博士の他に見当るのは、疲弊しきった様子の老人と、作業服を着た、赤毛の若い男だ。
 もう一人いるはずだと気づいて視線を動かすと、ベッドのひとつに誰かが横たわっている様子だった。
「病気?」
「わからない……その子が起きると、ライトが消えたりして、騒ぎになるの。そうすると、上から人が来て、注射を射って眠らせてた」
 大きな碧眼をかげらせてアイアが説明する間に、キイはベッドに歩み寄っていく。
 横たわっていたのは、銀髪の少年だった。歳の頃は、一二、三歳ほどか。まだあどけなさを残した色白な顔は、少女のように整っている。
『キイ、今警察が突入を開始しています』
「ああ」
 小声で答えたとき、彼女は少年が目を開けるのを見た。
 何か、奇妙な予感が湧き上がる。その予感のなかで、目をそらしてはいけない気がして、彼女は少年を凝視した。視線の先、重そうに持ち上げられたまぶたの下の瞳は、空のように淡い水色だった。
 少年はまず、視界のなかにキイの姿を捉える。
「あ……」
 刹那、澄んだ声が、その唇から洩れた。
「ああぁぁぁぁ!」
 悲痛な、獣の咆哮のような声が室内に響く。
 天井から淡い光を放っていた照明が明滅し、やがて消える。室内は闇に包まれた。ドアが勝手に閉じたり開いたりしているらしく、ガタンガタンという音が連続して響く。それに重なるように、悲鳴も響き続けている。
 無機質に一定のリズムで響く乱暴な物音。薬品のにおい。闇。そして悲鳴――
 五感に伝わるすべての情報が不安を煽る。表情は見えないが、アイアたちも恐怖を感じているだろう。キイは内心当惑しながら、少年に手を伸ばした。
「大丈夫だ、落ち着け! 誰もきみに危害を加えられない」
 上体を起こして頭を抱えている少年に「落ち着け」を繰り返しながら、どうすればいいかわからず、彼女はマイクにささやいた。
「ゼクロス、何がどうなってる?」
 問いかけて、しばらく待つ。だが、スピーカーからは、かすかなノイズが洩れてくるだけだ。
 今は他人をあてにできない。首を振ると、キイは少年の肩に手を回し、抱きしめた。とっさの、何の計算もない行動。
 そのぬくもりに、我に返ったのか。
 悲鳴が途切れ、同時に照明が戻った。今までの混乱が嘘のように、戻ってきた秩序が辺りを支配する。
 少年は今目が覚めたかのように、茫然と辺りを見回した。
 階段を降りてくる複数の足音が聞こえたのは、その時だった。

 警察が突入して問もなく、監禁されていた五人は救出された。アイアは両親との再会を終え、依頼を果たしたキイの口座への依頼料の振込みが約束される。ティアーノ博士は急いでセントラルホテルに向かい、青年と老人も地元の者らしく、尋問もそこそこに、それぞれ家と病院に送られた。
 ただ一人、あの少年だけは、帰るべきところを言えずにいた。
「きみは、バルトルの人じゃないのかい?」
 少年のことが気になって待っていたキイが、狭い部屋の端から問う。
 少年は、名をセスタといった。彼は、この閉ざされた空問の雰囲気に緊張しているようだった。警官のはからいで、一応、少しは気を許しているらしいキイが部屋に入ることを許可されている。
「ぼくは、たぶん……どこか、別の星から連れてこられたと思う。二年くらい前までは、そこにいました。確か、大きな湖が家の近くにあって、街の周りも海で囲まれていたような…」
「街や星の名前は、思い出せないのかい?」
 警官が優しく尋ねると、セスタは少しの問考え込んで、首を振る。
 記憶が抜け落ちているのは、薬のせいか。人体実験が行なわれていた可能性があり、彼は尋問の後、病院で検査を受けることになっていた。
 不意に、セスタはキイを振り返った。首を傾げる相手に、彼は勢い込んで言う。
「あの、何でも屋って、人以外も捜してくれるんですよね?」
「ああ……そういう依頼も受けるけど」
 何でも屋、という名の通り、彼女が引き受ける仕事はさまざまだ。ヒトやモノの捜索には、捜し屋や探偵のような専門職もあるが、犯罪に関わらない捜し物では、何でも屋に依頼される傾向が大きい。
「それじやあ、ぼくの故郷を一緒に捜してくれませんか? お礼は、その……今はないけど、絶対払いますから!」
 彼の必死な様子に、キイは警官と顔を見合わせた。
「ぼくの故郷には、家族がいるはずなんです。それはちゃんと覚えてます! ぼくはお父さんとお母さんと、妹と一緒に暮らしてました!」
 懸命な彼のことばに、キイは答えない。その様子から、少年は何か、否定的な空気を感じ取ったらしい。
「あの……駄目ですか?」
 不安げに見上げる。キイは、子犬のような目というのはこのことだな、と思っていた。
「いや、わたしはかまわないけど……病院できちんと検査してからね」
「ありがとうございます!」
 セスタは勢いよく、頭を下げた。
 尋問はこれ以上続けても成果はないだろうということで、キイも付き添って、セスタはポリス・エアカーで病院に運ばれた。検査は、それほど時間のかかるものではない。当人の様子から、それほど重大な異常が無いことはわかっている。
 検査の結果、やはり異常は認められ無かった。彼に射たれていた注射の中身も、どうやら鎮静剤だったのだろう。
 バルトル警察は、セスタのことばを元に、彼の故郷の候補を選び出した。候補となった惑星は二六。この数では余り参考にならず、とりあえずネットワークに情報を流し、家族や知人からの連絡を待つことにする。連絡があればすぐに報せると約束して、警官はキイとセスタに別れを告げる。キイがそこそこ有名な何でも屋であり、連絡先も知れているので、信頼して少年を預けることにしたらしい。
 警官に宇宙港の前まで送ってもらったので、二人はそのまま、港内のワープゲートに入る。
『ゲート番号を言ってください』
 抑揚のない、女性らしい合成音声が告げた。
「二一」
 キイが答えると、周囲が優しい光に包まれた。それはすぐに薄れ、変化した視界から引いていく。
「宇宙に出た時の記憶は無いのかい?」
 後ろを歩きながら、不安げに辺りを見回しているセスタを振り返る。声をかけられた瞬間彼はびくっとなるが、キイの目を見ると少しほっとしたらしい。
「はい……宇宙船に乗った記憶もないんです」
 通路の先に、淡い灰色のドアがあった。キイがIDカードをドアの横のカードリーダーに通すと、ドアは横に滑る。
 楕円形のゲートルームに踏み込んで、セスタは目を丸くした。
 そこには、紺の翼を備えた、小型宇宙船がたたずんでいた。白を基調とした胴体には、XEXの文字が刻まれている。羽飾りのような安定翼が淡い光を放ち、闇に映える。宇宙船についての記憶が少ないセスタにも、その船が一般的な宇宙船のデザインとは異なる個性を持っていることがわかった。
「科学の最先端をいく惑星オリヴンのラボ、〈リグニオン〉により製作された人工知能搭載船、ゼクロスだ。わたしのパートナーだよ。研究所のシステムに侵入し、きみを助ける手伝いもしてくれたのだけど」
 キイは、意味ありげに船を見る。
 それを待っていたように、船の外部スピーカーから声が流れた。キイは聞き馴れた、中性的な男性音声だ。
 しかし、そのことばは、キイが予想していたものとは違っていた。
『その少年を近づけないで』
 キイは、耳を疑った。
 彼女のパートナーは、どちらかと言えば人懐っこい性格のはずだった。しかし、冗談ではありえない。何か、重大な理由があるに違いない。
 事実、キイは異変を感じ取っていた。綺麗な、感情を抑えた声にかすかににじむ、恐れ。それも、何の敵意もない、武器も持たない少年に向けられた――。
「ゼクロス……?」
『キイ……その少年は、わたしを傷つけるかも知れません。サイバーシンクロニシティ。演算システムに干渉する能力……しかも、彼はその力を制御しきれていない』
 彼のことばの通りのことを、キイも頭の片隅で考えてはいた。セスタが目覚めたときの異常や、アイアから聞いた話を総合すると、照明や研究所の管理システムに影響を及ぼしたのはこの少年に違いない。地下から階段を上ってきた作業員が口にした、『バケモノ』ということば――それも、この、一見何の危険もなさそうな少年に向けられたものだろう。
 何度もセスタの能力により研究に支障をきたしていたはずだが、なぜその原因となる者を研究所内に置いていたのか。それとも、研究対象自体がセスタであり、そのために他の惑星に比べ電子機器の少ないバルトルを選んだのか。
 疑問がキイの脳裏をかすめるが、それを調べるのは警察の役目である。今目の前にある問題は別のことだ。
 彼女が口を開きかけたとき、その後ろにいたセスタが慎重に後退った。
「それじゃあ、ぼく、さっき目が覚めた時あなたを傷つけたの……? 今も、近くにいないほうがいい……?」
 不安げな、消え入りそうな声に、少しの問、ゼクロスは沈黙を返した。だが、少年の声が聞こえなかったわけではないらしい。
『いいえ……わたしには被害はありませんよ』
 少し張り詰めていた声が和らいだ。その耳に心地よい声は、セスタの心も安心させる。
「ゼクロス。セスタの力が暴走するのは、感情が高ぶったときだけだろう。普段はこの通り、至って平静だよ」
『しかし……』
 戸惑ったような声に、もう一押しだ、と思いながら、キイはことばを続ける。
「いざとなれば、ASがあるだろう。ASまでは干渉できない。それとも、故郷を捜したいという少年を、他人ばかりのこの惑星に放っていこうと言うのかい?」
 少々卑怯な気がしながらのキイのことばに、ゼクロスはまた、少し黙ってから答えた。
『……いいでしょう。セスタさんに罪はありませんから』
 相棒の了承を取りつけると、キイは手招きして、セスタをプラットフォームに先導する。     
 ゼクロスはプラットフォームにラダーを降ろした。少年は少し不安げな表情のまま、しっかりとキイの後についていく。
 キイはとりあえず、真っすぐブリッジに向かう。
 白を基調としたブリッジには十の席があり、それぞれの席の前にモニター画面つきのコンソールがあった。
 正面には巨大なメインモニターと、その左右には二面ずつ、サブモニターがはめこまれている。
 彼女が艦長席に座ると、黒一色だった画面に灯が入る。
「いいよ、適当に座って」
 キイが興味津々で見回しているセスタに言うと、少年はとなりの席に腰を下ろす。
『それで、これからどうします? 警察が割り出した惑星のなかで最も近いのは、ティルムスですが』
「じゃ、そこへ行こうかな。その間に、セスタが何か思い出すかもしれないし」
『了解。目的地、ティルムスの都市クルク。補助ドライヴ起動』
 ゼクロスは航宙センターに離陸許可を申請し、予定針路に危険性が無いことを瞬時に確認した管理システムから、自動的に許可を受ける。すると、アリの巣型の宇宙港の一室であるゲートは地上近くまで移動し、やがて、天井が二つに割れる。サブモニターのひとつが、晴れ渡った空を映し出していた。



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