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咎人たちは風と詠いて(8)

 シティ・ワンからシティ・スリーまで、砂上列車の咎人たちは、仕事の合間を使い、町の仲間たちに作戦を伝えて回った。
 伝える情報の内容は、シェザースが考えた情報網分断作戦の手順だった。作戦の決行は、砂上列車が次にシティ・ワンに停車したときと決まっている。
 だが、表面上はいつも通り、咎人たちは黙々と仕事を続ける。幸い、いつでも思い通りに命を奪うことができるという安心からか、政府の監視員などがこの惑星を訪れることは極まれだ。惑星アレツから近いとは言えないので、開発は、機械と咎人という労力に任されている。
「あと二時間か」
 車両点検を終えたナユトは、一号車に置かれた木箱の上に腰掛けた。周囲には、主だったメンバーたちが顔をそろえている。
「本当にやる気なんだね。みんな、二年前の失敗を繰り返したい?」
 オーリスがいつものようにネガティヴなことばを口にして、あきれたように片目を開ける。
「けっ、臆病者が。気に入らねえアレツの機械をぶち壊せるんだぜ? このチャンスを逃せるかよ」
 グレスが獰猛に笑う。その横で、イシュタがうなずいた。
「一度でいいから、自分の好きなときに好きな場所を歩いてみたい」
 イシュタもグレス同様、仲間の間では余りいい印象を持たれていない。それでも今は、彼の本心からのことばに、全員がうなずいた。 
「絶対、成功させてやる」
 ナユトのことばと、ほぼ同時に。
 少年たちは、同じことばを心に抱いていた。
 そしてまた、機関車内の唯一の大人の内心も、ドアを挟んだとなりの車両の咎人たちと同調している。
「いつかは、こういう日が来ると思ったさ」
 刃が歪んだナイフを鞘から少し抜いて片目で見下ろし、彼は、ふっと笑った。
「今度は、お前たちのところに行けるかもしれん。ちょっと遅れたけどな。……しかし、その前にやることがある。オレたち大人が未来にあてたツケを、子どもたちに回る前に払わないといけないんだ」
 シュッ、と、小さな摩擦音が鳴った。
 ナイフを上着のポケットに入れながら視線をやると、黒髪の少女が歩み寄ってくる。
 ずいぶんしっかりした少女だ、とシェザースは思う。ホナミは妹を失って間もないというのに、他人を安心させる落ち着きとほほ笑みを欠かさなかった。
「リーダー……作戦によると、リーダーが一人でメインベースに乗り込むことになっていますが……」
「ああ。人が多いほど目立つし、注意は町の情報網を沈黙させ、列車から偽情報を流すことで充分引けるだろう。うまくメインベースの端末に辿り着ければ、そこから中枢をクラックして兵装を無力化できるかもしれない」
「しかし……お一人で基地のすべてを相手にされるのは危険です。センサーに発見された時点で攻撃を受けるでしょう」
「センサーとレーザーの位置は、二年前に把握してある。そのときから変化はない。死角もきちんと計算し、割り出してある。心配は要らないさ」
 初めて、シェザースは笑みを見せた。なだめるような笑顔。
 それも、次の瞬間には一変する。どこか悲壮な、真剣な顔に。
「それより……作戦が失敗したら、後は頼むぞ。システムの復帰の仕方は、ナユトに教えてある。どうやったのかがバレさえしなければ、第二、第三のチャンスが巡ってくるかもしれない」
「今回が、第二、ですね」
 少女はうなずき、希望を込めて、相手の目を正視する。
「でも、第三、はいりません。これで最後にしましょう」
「ああ……これが、終わりだ」
 力強く、首を縦に振る。
 呼応するかのように鳴り響いた汽笛も、いつもよりたくましく聞こえた。


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