流星物質の質量計算


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1.難問なのです

わずかな量の流星物質でも、高速で大気に突入するために明るく光ることは「流星はなぜ光る」のページで説明しました。
では、もう少し厳密に、どのくらいの質量の物質が実際に大気に突入しているのでしょう。
それを確かめるためには、同じ条件で実験をやってみればわかるはずです。
つまり、隕石のかけらを、秒速何十kmという高速で、ごく薄い大気に打ち込んでやれば良いことです。
・・・と、書けば簡単ですが、わずか1gの流星物質さえ「秒速何十km」まで地上で加速をすることはあまりに困難です。
ならば、流星物質を固定し、薄い空気を高速で衝突させて、と考えても同じ技術的問題に阻まれます。
このため、流星物質の質量計算は、遠回りに推定した係数を使い、あまり良くない精度でしか決定することができません。
ただ、航空宇宙工学の一分野、「再突入」の研究の中で、やや近い速度条件のデータがあり、参考にできる時があります。
そんなわけで、残念ながら流星の質量計算は、(期待も込めて)一桁も違っていないだろうという精度水準がほとんどです。
それでもがっかりしないで下さい。我々のできない実験を、宇宙がやって見せてくれているのです。
そう考えて流星を見れば、また違った感激もありませんか。

さて、流星の具体的な質量推定手段はつぎのとおりです。
その特徴に応じ、用いやすいものを使ったり、複数の手段から精度を上げるなどの努力をしながら利用しています。

2.力学的質量

動いている物体に力を加えれば、質量に反比例した加速度が生じ、速度が変化します。
流星の場合にも、速度の変化が観測できる場合があります。
多くは、明るく光り、なおかつ速度の遅い「火球」が、大気密度の高い低い空まで燃え尽きずに落下してきた場合です。
この時、作用した力がわかれば、流星物質の質量が決まります。
作用した力は、空気抵抗と地球の重力です。
このうち、後者の重力の影響は、相対的に小さく、無視できます。
正確に言うなら、重力の影響がはっきりわかるほど精度の高い速度変化の観測に成功した例は無いと言うべきでしょうか。
それ故、空気抵抗で、流星物質が減速する事だけを考えます。
空気抵抗は、流星物質の断面積、大気密度、速度の2乗に比例します。
ここでちょっと数学に覚えのある方ならわかるでしょう。
流星物質の密度と形を仮定すると、断面積が質量の関数で表され、一方、大気密度は地上高度でほぼ決まり、
速度は既に観測されているので、最初の運動方程式が解けることになります。
このようにして計算されるのが流星の「力学的質量」です。
しかし、流星経路の最初の部分は、空気抵抗による減速が小さすぎて普通は観測不能で、
最初の質量が決まらず、かなり蒸発した後の質量しか決まらないという問題があります。
また、密度はどうでしょうか。隕鉄と石質隕石では2倍以上違いますし、高い空で回収される宇宙由来のダストのように
もっとスカスカした物質もあります。どれが流星物質に近いのでしょう。
更に、仮定した「形」は正しいでしょうか?
実のところ、1970年代頃までの多くの研究は、形についてあまり正確ではなかったようです。
その後、流星物質が破砕し、細かく砕ける場合が少なくないとわかってきました。
破砕は、流星物質の表面積を劇的に増加させ、空気抵抗を増加させます。
しかし、破砕の影響を正確に扱うことはたいへん困難で、現在でもこの点をごまかしながら扱う場合が少なくありません。

3.測光質量

もう一つの方法は、観測された流星の明るさを元に、その質量を求めようというものです。
これは、流星の持っていた運動エネルギーの一部が、光となって観測できるという前提で、
その「一部」がどれだけの割合かがわかれば、その質量が明るさから求められるという考えです。
ただし、一般に、エネルギーという概念を飛ばして、単に《光度→質量》の関係として計算することが多く
その算出における係数を「光力係数(luminocity efficiency)」と呼びます。
興味深い点は、一般に光力係数自身が流星の速度の一時関数で表される点です。
すなわち、流星の速度が速くなればなるほど、そのエネルギーの中で、光に配分される割合が多くなる、
ということを意味します。これは物理的にどういったことを意味するのでしょうか。
幾つかの解釈が成り立ちます。
一つは、速度が遅い流星では、温度上昇が少なく、赤外線発光など、エネルギーの低い電磁波が多く放射され、
観測可能な光の放射が少なくなるのでは、という考えです。
しかし、一般には高速流星の方が近赤外線の放射は多いようで、必ずしも正しいとは言えないようです。
また、流星の速度によって発光高度が違っています。これは、大気密度による発光機構の違いと関連があり、
発光高度が光へのエネルギー配分に大きな影響を与えている可能性があります(これはありそう)。
さらに、同じ光度の流星を比較すると、速度の速い流星の方が質量が小さいはずです。
流星物質の大きさの違いが何らかの影響を与えてはいないでしょうか。

さて、このような問題を含む光力係数ですが、1960年代にアメリカで行われた人工流星による実験が、
遅い流星の数値に対して大きな示唆を与えました。
ただ、実験に使われた物質が金属であり、火薬を使って打ち出されたため、その形は正確にはわからないこと、
流星としては、遅すぎる速度であること、また、数回の実験で、結果はかなりばらついたものになっていること、
といった問題はあります。
その後、高速流星についても、破砕理論を使い、力学質量との比較などから光力係数の精度向上が図られています。

4.衝撃波による質量

隕石落下など、低空まで落下する明るい火球に対して最近実用化が見られるようになった方法です。
火球が大気を通過する際に発生する衝撃波が地表に到達したとき、そのエネルギーを観測することで、
火球経路のある点を通過したときの流星物質の断面積を求める方法です。