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1.流星のエネルギー
高速で大気に突入する流星の運動エネルギーを考えてみます。
わずか1グラムのしし座流星群(71km/s)ならば、大気内に突入するエネルギーは、
100g程度の石炭を燃やしたくらい(たいしたこと無さそう?)、
しかし、1kWの電子レンジならば40分も使える消費電力に相当します。(結構大きいかな?)
同じ運動エネルギーで比較すると、1トンの重さの自動車なら、なんと時速250kmで走っている時のエネルギーに相当します。
これを1秒程度で止めてしまうのですから、その瞬間がすごい現象だと容易に想像できると思います。
そのエネルギーの一部、0.?%〜数%といった割合が、光となって放射され、地上からも観測できるのです。
2.流星の光はプラズマの発光による輝線スペクトル
流星の光をプリズムなどで分光観測すると、特定の波長の幾つかの光から成ることがわかります。
近赤外線も含めて、それらはナトリウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、珪素など、流星物質自身に含まれていたであろう元素の他、
酸素や窒素のように地球大気に含まれている元素の光が観測できます。
これらの特徴は、流星の速度や流星群によって特徴が有ったり、個々の流星での違いも見られます。
それらの光は、原子核から電子がはぎ取られた「プラズマ」の放射する光で、温度は3000〜4000K程度と推定されています。
3.流星と大気との激突
流星と大気との激しい衝突を考えるとき、大気密度がどのくらいであるかが重要な問題です。
3-1.希薄大気領域(=自由分子流領域)
地球の上空高い所では大気密度がたいへん薄くなっています。
おおむね90km以上のそのような所では、大気分子同士の間隔がたいへん広く、大気が連続体としての性質を示さないため、
流星物質との衝突は、個々の分子との衝突として考えるのが適当で、このとき衝突した大気分子は鏡面反射に近い運動をします。
これら衝突エネルギーの一部が、流星物質と大気を加熱し、プラズマとなった物質が発光します。
この領域では、はめ返された大気粒子に、連続流領域と比べ、より多くの運動エネルギーが持ち出されるため、
大気が流星物質より効率よく加熱され、流星物質の発光より、酸素や窒素などの大気由来の原子の光がより強く観測される傾向が見られます。
3-2.連続流領域
流星がより低い高度、80km程度以下になると、大気が濃くなり、連続体である「流体」としての性質を示すようになります。
ただし、自由分子流領域との境界は鮮明でなく連続的で、また状態が変化する高度は主に流星物質の大きさによって影響を受けます。
さて、この領域では、流星物質と衝突した大気は、直ちに跳ね返されて、遠くに飛んで行くことができず、
後から後から押し寄せる大気との間にはさまれて、流星物質の前面に蓄えられてしまいます。
この場所は、「ガスキャップ」と呼ばれ、大気と共にそこに含まれる内部エネルギーが圧縮されるため、数千度という高温になります。
いわゆる「断熱圧縮」という現象です。自転車の空気を入れた後、注入プラグが暖まっている、そのもっと激しいものと考えてください。
もちろん、ガスキャップの高温大気は、横へ、後へと逃げて行きますが、その速度と比べ、
押し寄せてくる大気の量が圧倒的に大きいので、狭い領域に圧縮されているのです。
なぜ、圧縮されている大気が逃げる速度より、押し寄せる速度が速いのでしょうか。
それは、逃げる速度は、音速(=圧力の伝達速度)によって制限されているからです。
その場所の圧力が高くなった、という情報が伝わらないことには、その圧力を逃がすことができません。
その圧力情報を伝える速度が、「音速」で、流星速度(=押し寄せる大気の速度)の何十分の1か、百何十分の1くらいしかありません。
高温大気のガスキャップの放射熱にあぶられ、流星物質前面は、直ちに溶融、蒸発を行います。
そして、ガスキャップに取り込まれて、数千度のプラズマとなって発光します。
4.摩擦で光るのですか?
昔からよく「流星は大気との摩擦で加熱され発光する」と表現されてきましたが、
発光原理について詳しく検討すると、あまり正確な表現ではないことがわかります。
ます、自由分子流領域では、大気を連続体と見なせず「摩擦」という概念が入り込む余地がありません。
よって、この領域では「摩擦」を使って流星発光を説明することは誤りです。
一方、連続流領域で流星発光を説明するには、「大気の断熱圧縮」について理解することが重要です。
ただ、高温のガスキャップと外部を隔てる「境界層」の内側は、大気が激しく渦巻く「乱流」と呼ばれる状態になっており
その乱流の中で熱がどのように伝達するのか、詳細な検討するときには、乱流大気内部の摩擦を考慮しなければならなりません。
それでも加熱を考えるときに「摩擦」は脇役的存在で、「・・摩擦で光る・・」と言うと、ちょっと言い過ぎでしょう。