そろそろ歌の紹介をしませんとね(笑)。
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事
(あらた) (し)(よごと)
すみません。ちょっと早い正月気分(笑)。
年賀状にこの歌を書く方もいらっしゃるそうですね。
家持さんが国府に赴任して間もなくの新年祝賀会で歌った「新春のごあいさ
つ」みたいな歌です。確かに歌だけ見ればまことにおめでたい歌なんです
が……。
家持さんといえば、今では歌人とか万葉集を編纂した中心人物として評価され
ていますけど、生前の政治家としての彼はかなりあぶなっかしい坂道をのぼっ
たりおりたりしながら生きたという感じです。それを名門貴族の藤原氏に対す
る反発とみるか、日和見的で奈良朝の複雑な政治抗争に巻き込まれて翻弄され
たと見るかはともかくとして。
越中に赴任した若いころは勢いがあっていい歌もいっぱい残していますが、41
歳での因幡への赴任は、多分のその前年の奈良麻呂の乱にかかわる左遷でしょ
う。
すごく遠い国ではないし、大陸に近い日本海側に対する認識も今とは全然違う
と思いますけど、本人としては不本意だったはず。だから気分としては「あん
まりいいことないけど、ま、ボチボチがんばろうか」という感じかな、と私は
思っているんですけど。
家持さんはこのあと20年以上生きるのに、なぜかこの歌を最後に歌を残してい
ないようです。
そして、これが万葉集最後の歌になります。
★この歌が万葉集最後の歌。。。というのは有名な話ですが、家持さん作とし
てみえる歌の最後でもあったんですねー。
この歌を万葉集の最後にもってきたのも家持さん自身だとすれば、自分の未来
に対するかすかな希望みたいなものを込めたのかもしれませんよね。
死んじゃってまで罪に落とされるとは知らずに。
★先に書きました通り、私は家持さんに関してはまったくの無勉強でして。
かなり波乱に満ちた生涯だったのですね。因幡だけでなく、この後は薩摩に
も赴任して行ったとか。大伴の家や自分の将来について悩むことも多かった
のかもしれませんね。
薩摩のあと、私の住む相模の守にもなっているらしいですよ。転勤族みたいで
すね。 どうせなら相模の歌、詠んでほしかったですー。
ところで、この藤原京に似た感じの因幡国府跡なんですけど、家持さんは平城
京に遷ってからの生まれですから、この土地をどう思ったかはわかりません。
でも、この地方の有力豪族伊福吉部(いふきべ)氏の徳足比売(とこたりひめ)と
いう人が文武朝に采女として出仕しているんです。故郷に帰ることなく亡くな
って火葬された遺骨だけが帰郷して墓誌も残っているのですが、私が今因幡三
山を見て藤原京を思うように、彼女は大和三山を見て故郷に似てると思ったの
かなあ、なんて考えると時空をボーンと超えたような気がします。
★呉女さんが言われるような、「時空」の中で遊べるヒントをくれる万葉集っ
てすごい。。。そのロマンにたくさんの人が魅了されているのですから。
因幡三山がよく見える場所に「因幡万葉歴史館」という家持さんと徳足比売の
ことなどを展示した施設もありますので、機会があったら訪ねてみてくださ
い。
徳足比売さんが歌を残してくれていないのは残念ですが、作者不明の歌の中に
彼女の歌もあるかもしれない。
そこで作者不明ですが、私の好きな歌をひとつ。
「うち日さす宮路を人は満ちいけどわが思ふ人はただ一人のみ」
★ほー。。。この歌を私は知りません。どんな歌なのでしょう??
私も万葉集をスミズミまで読んでいる人間ではありませんので、この歌もある
方から教えていただいて知ったものなんです。巻十一にあります。
「人麻呂歌集」にあった歌のようですから、ここで言う「宮路」は、藤原京の
宮路なんでしょうね。
これもわかりやすい歌でしょう?
今でいえば、オフィス街で信号が青に変わってたくさんの人が一斉に横断歩道
を渡ってくる。そんな群集の中にいると、ふとミョーに客観的になっちゃっ
て、「ああこんなにたくさんの人のそれぞれに人生があるんだなあ」なんて思
うこと、ありません? そんな中で自分は一番大切な人はただ一人と選んだわ
けだし、自分を選んでくれた人もいる。それって神秘的なほど不思議なことで
すよね。もし「別れようかしら」なんて考えているときなら「星の数ほど男は
いる!」なんて思いそうですけど、自分の気持ちに自信があれば、片思いであ
れ両思いであれ、こんなにたくさんいる人の中でも「ただ一人のみ」と言い切
れてしまう。そういう感じが「わかるなー」って。
★うわぁぁ、いい歌!!それこそ星の数ほどいる人間。そのたくさんの人の中
から、運命的な出会いをするって、凄く不思議なこと。それが男女であった
り、大切な友人だったり・・・私もそういう思いにふけるときありますよ。
「わかるなー」、ホントに(笑)。
わかっていただけます?
こういう歌でふっと古代の人と気持ちが重なったような気になれるのは、万葉
集が「時を旅させてくれる」ものだということでしょうか?
横断歩道の向こうに朱雀門があるような気がしてしまったりして……。
★おっしゃるとおり、万葉集は古代へと旅をさせてくれますね。そんな魅力が
あるからこそ、長い時を経て愛され続けているのだと思います。
二回も連続してゲストになってくださり、ありがとうございました♪
またステキな旅の話と万葉歌を聞かせてください。
*************************************************************
◆ゲスト大大大募集〜♪ あなたのお好きな万葉歌を教えてください!!◆
お好きな万葉歌を、あなたのこだわりと共に語ってみましょう♪
インタビュー形式で、ご紹介していきます。
************************************************************** |
万葉集最後の歌の歌碑
2002年7月
因幡三山の甑山と
上の歌碑のある集落
右は因幡万葉歴史館の展望台
2002年7月
藤原京跡
2002年3月
平城京跡朱雀門
1998年5月
|