#23「鋼のこころ」-#24「思い出の定着」
21-22話のあの重い重い展開を受けて、さらにエドとアルに試練が訪れ
ます。前回までに彼らはありとあらゆるところからアイデンティティを切り崩されまし
た。エドはエドで生き方を否定され、アルの方は自分が何者であるか、人間である
のかどうか、そして兄への信頼すら失ってしまいます。 23-24話ははじめてお互いの信頼を失った兄弟の、衝突と和解の過程のはずで す。 それは原作でもアニメでも同じことなのですが、前にも言いましたが私原作のここ のところの描き方に不満を持っていました。 エドは、アルの疑問に回答を与えられたのか? 結論から言うと彼らの間に回答は得られませんでした。それでも、問いのない答え を抱えたままでも信頼は取り戻せる。ということを描いているのだなと、私は(勝手 に)読みました。 アニメではもうすこし違う描き方がされるのではないかと思っていました。なんせ第 五研究所でのエドの壊れ方は、原作の比ではありません。どう収拾するのかはも のすごく期待していましたが、正直なところ、期待が過ぎたようです。 やっぱりエドはアルに回答していません。それでもいいとはやはり思えないのです。 それをさぞ何もかも解決したように見せていいのだろうかと思ってしまいます。 というわけで今回の感想はとっても辛口です。でもいわれのない批判をしたくはあり ません。きちんと批判するつもりですので、うちの文章に対するご批判がありました らどうかご指摘ください。よろしくお願いします。 ちなみに、ターニングポイントになりそうな25話を見ないまま今回かいています。そ ういう意味で読み違いとかがあったらすみません。そのばあい25話感想でフォロ ーします。 * 《1》エド:「罪」の自認 冒頭憎まれ口をきいてロスに張り倒されるエド。 なんだねぜーんぜんわかっていないじゃないか! きみは第五研究所で何を学んだのかね…! 強がったりロスたちに事実を隠したいにしても 「あと一歩で真実ってのがつかめそうだったのに。次はこんな下手なことは…」 はいろんな意味であり得ない。あり得ないですよ。 エドが「つかめそうだったのに」という「真実」とは、賢者の石が材料として、精製法 としてどのような過程を経て作られていたかということです。そして原作とアニメの 違いは、そこでエドのすべてが否定されたという事です。22話までを見る限りエド はそれに無自覚ではありません。 だとしたら、彼は「真実」のことを思い出すたびに、自分というものが崩壊したあの 悪夢を思い出すと思うのですがそうじゃないんでしょうか? ヒューズに事実を告白するシーンも、ひじょうに無自覚的な感じがしてたいへん気 持ちが悪いです。 「あいつらが俺に賢者の石を作らせた」のではないでしょう? 君はアルが人質にならなくても賢者の石を精製するつもりだったでしょう? なにその自分は悪くありませんみたいな言い方! アルに「そうだよな」と相槌を求めるのもとても自分の罪に無防備な感じがします。 あまつさえウィンリイとの会話。 「あいつをもとに戻すチャンスがあったのに、ためらった」 第五研究所でエドがした後悔の結論がそれだとしたら考えが浅すぎます。 「たとえ自分が元の体に戻れるとしたって、それで誰かが犠牲になるんだったら、 そんなのアルは喜ばないよ」 「アルは一度でも人を犠牲にしようとしたエドを、怒ってるんじゃないかなあ」 ウィンリイの指摘はドンピシャそのとおりです。 しかしアルはあのときずっとそう叫び続けていたじゃん…! ほんとうにまったく耳に届いていなかったのだね兄さん。あたしゃ悲しいよ。 第五研究所で自分がしようとしたことの罪、そしてその罰(「錬成反応の無限錬成」 は私にはエドへの罰に見えました)。 前回までの苦悩をある意味チャラにするような、自分の罪に対してあまりにも無自 覚な態度に戸惑いを禁じ得ません。 だからというかなんというか、Aパート冒頭ではロスにひじょうに共感できました。 《2》アル:問いと答え アルが発した問いは、端的にいえば 「僕は本当に存在した人間なの? 兄さんに作られたニセモノではないの?」 ということです。 「この空っぽの体で、何を信じろって言うんだ。みんなして僕をだましていることだってありうるじゃないか」 「リゼンブールで言いかけたことって、僕の魂も記憶もニセモノだっていう事じゃないの?」 この問いは口にすることでアル自身を傷つける問いでもあり、同時に、エドに多大なショックを与えます。 兄を信じられなくなることは、アルの生のよりどころほとんどを一度に失うことだといえます。 弟からの信頼を失うことは、エドの生から最後の意味を奪うことになります。 エドはこの問いに、できるだけ誠実に答える必要があるはずです。 しかし24話で切羽詰った中エドが答えたのは、 「怖くて聞けなかった。おまえが俺を恨んでいるんじゃないかって」 ということでした。それだけでした。 まって! 待ってよ兄さん! それでは、アルの疑問はまったく解決しないよ! それは「リゼンブールで言いかけたことはなんだったの?」という疑問に答えているだけです。 「僕は兄さんが作ったニセモノのアルフォンスではないの?」という肝心な問いに対しては何の答えも出していません。 ましてやアニメでは、アルはタッカーのニーナ再生計画を聞いています。 「ホムンクルス(=作りものの身体)のニーナに、タッカーの記憶から抽出したニーナの情報を植えつける」 それで「完璧なニーナ」ができるとタッカーはいいました。 この鎧に定着しているのは、自分のではなくエドの記憶なのではないか。それこそアルが本当に恐れていることのはずです。 エドは(もし否定するのであれば)はっきりとこれを否定する必要があります。 えーと否定じゃない可能性もあるって思ってたんですけど…。だって17話のあれはなんだったんですか。アルの記憶の 不確かな部分をどう説明するんですか。ねえ。 「おまえは俺を恨んでいるか?」アルは叫びます、「恨んでなんかいるもんかー!」。 これで元通りですか。ううむ。それでいいのかアルフォンス・エルリック。君がホンモノのアルフォンス・エルリックかどうか、 君の兄さんは何も言明していないよ。 あえて言うとすれば、アルはエドが心配して彼を追いかけてくれた、そしてピンチを助けてくれた、ということで 信頼を回復しているということかもしれません。兄さんに気にかけてもらえさえすればアルは満足なんでしょうか。 原作でもそういう面はあるのですが、お互いを信頼することと事実を共有することは別なのではないでしょうか? 「アルは本当にアルフォンス・エルリックなのか?」という問いが、仮にエドにも答えを出せない問いなのだとしても、 答えのない問いがお互いの間にあるということを抱えながらそれでも信頼しあっていくことはできると思います。 アルはエドが自分に隠していることがあると思うから不信を強めるわけで。 「証明できないけどお前はホンモノだ。それに関しては俺を信用してもらうほかない」 かりにアルの魂の定着に何もやましいところがないのなら、エドははっきりそういうべきです。それでアルに信を問うべきです。 何か含むところがあるのならそれを打ち明けなければならない。まあ「恨んでるんじゃないか」ということも怖くて聞けないエドに対しては重すぎる要求かもしれませんが、 それができなければアルは不信感をこんなにあっさりとぬぐうことはできないと思うのですがどうか。 えーと、実はエドのアルへの端的な答えだと思う箇所が、本編ではなく24話への予告にあります。 「他の誰が忘れても、俺が覚えてる。お前の声、お前のぬくもり、お前の笑顔」 エドがアルをどう見ているかがものすごくよくわかるフレーズです。 これもアルの疑問に答えているわけではないですが、アルの不安を大幅に軽減することはできると思われます。 なぜならアルはエドに認めてもらえさえすればだいたいのところは自分を保っていられるからです(それも歪んでると思うが)。 しかしアルは、本当はエドに認めてもらっても自分の証明は出来ないです。だってエドがアルを定着させた本人なんですから。 「お前のアニキも、まわりの奴らも、みんなしてお前を騙しているかもしれないぜ」 66がつきつけた疑問には、エドやウィンリイが「自分は覚えている」と言い張っても答えられるものではありません。 ではどうなるか。24話ラスト、ひょっとしたらと思っていた人物が意外な役割を果たしました。 《3》スカー:「人間」の定義 「あのとき俺には見えた、お前の目に見えぬ涙が。人間だ、お前は」 なるほどね。アルはスカーに人間であることを認めてもらったようです。 これをやりたいがために、14話当たりからずっとスカーとアルを絡ませて (追記:人間関係を密にして)いたのかな。周到。 アルの定着をおこなったエド自身は、それゆえアルが人間であると証明することはできません。 スカーはエドとは違う位相にあるけれども、エドと同じ方向へ向かうベクトルを持つ、エドの影です。 だからスカーがアルの人間証明を代行したのです。 アルはエドだけに認められてもホントは認められたことにはなりません。でも同時に、エドに認められなければ 他の誰に認められてもアルはダメなのです。 だから、(追記:エドではなくむしろ) 影の存在であるスカーが認めることで、アルの自我は保たれたのではないかと思います。 もうひとつ確認。「涙を見せること」が人間の証明だ、とスカーが考えていることがわかります。 結構ロマンチストですよねこの人。いや驚きませんが。 追記:彼の考える「人間の証明」は原作のイメージとも違和感ありませんでした。というのも、 原作では、スカーに殺されたタッカーに取りすがってニーナが涙を流すのを見、 「哀れな」といって彼はニーナを殺します。 スカーは人間でありながら人間ならざるものへのせめてもの安寧として死を与えたのだと思われますが、 アニメのスカー的に見れば、ニーナの涙は「人間の証明」です。そう考えるとさらにスカーの行為の意味がはっきりします。 また、スカーが「この体じゃ泣くに泣けない(原作)」アルの涙を見ることができるというのも、 いままでスカーとアルがそれなりのコミュニケーションをとってきたゆえの言葉だと思います。作り手としてはそこが周到だと。 《4》レオとリック:過去の記憶 24話ではまた兄弟が出て来ました。兄弟出しすぎだよ。いうまでもなくこれもエドとアルの姿と重ねられます。 あえて言えばこの幼い兄弟のエピソードが、回り回ってアルを立ち直らせています。えーと説明しますね。 レオは「母親に見捨てられた」と言う辛い記憶から、弟を守ろうとしています。そしてリックは その記憶にすがりつき、母親のロケットを手放そうとしません。 兄レオは辛い過去から弟を守ろうとしているという点でエドと重ねられています。失ったロケットを探す弟リックは 今まさに自分のほんとうの過去を取り戻したいと思っているアルと重ねられます。 そしてレオとリックの過去は、ほんとうは母親に愛されていたという事が判明して昇華されています。 「僕も、この思い出を、本当にほんとうに思い出として…」 アルの過去はまだなにも明らかになっていませんが、アルにはなんとなくその昇華の可能性が見えたような感じです。 追記:上の説明。アルはエドが助けに来てくれたことを通じて、 「自分の思い出はにせものかもしれないが、ともかくぼくは愛されていた」ことを思い出します。そしてあらためて 今もっている思い出を大切にするという昇華のしかたを、レオとリックから学んだといえます。 ただレオとリック兄弟が過去の真実を知ったのに対してアルはそれを結局知らされないままです。 何がにせもので何が本物なのか、もしくはにせものか本物かなんて重要ではないのか、それがはっきりしないと 本当はアルの思い出に昇華なんてありえないと思うのです。 アルとエドの昔の兄弟げんかのことが最後に話題に出され、「あーあ、俺、勝ったことないや」と 二人のポジションが元に戻ったことが示されます。 * あとはいろいろとまとめて箇条書きで。 ●23話セリフ回しむちゃくちゃテンポ悪い。 中盤エドとアルの関係がギクシャクするあたりとウィンリイとの絡みとか、 とくに「言いたいことはそれでぜんぶか」がわけ分からなくなってしまってます。 あのー原作と同じセリフを無理矢理使わなくていいですから…! ●ヒューズ中佐 彼はエドとアルに対して一貫して「おとな」の役割を果たそうとしています。ほとんど父親状態です。 「少し休め、後は俺に預けてくれ」 そして大佐に対しても黙って庇護的な態度を取るつもりの中佐。 「いいんだ、いまのところ、あいつは何も知らなくって」 原作でもそうですが、エリシアちゃんのパーティで言った 「苦しいことはなるべくなら自分以外の人に背負わせたくない。心配もかけたくない。だから言わない」 を一番実践しているのは彼です。 それが彼を死地に追いやりいっぽうで大佐をそこから回避させるポイントになります。ふー(鬱) ちなみに、ヒューズはウィンリイにはプレゼントを強要しておいて自分からはエドに何もあげてません(笑) ●スカーとイシュヴァール また拾ってもらったらしいですスカー。迷惑この上ない…!(笑) 「神よ…!」 神にそむいて生きる覚悟だったと思うのに再び神の名を唱えるスカー。ほんとおまえ神へのスタンスどうなの。 ●66“死亡” へえ。もっと粘るかと思ってました。 ちょっと引っかかるのは「国家錬金術師のエドに、こんな体にしてくれた礼をする」と口走ったことです。 66とか48を鎧の体にしたのはラストたちではないの? こんな体ってそういう意味だよね? んー。 ●アル 今回はエドよりアルが主人公でしたね。特に24話。はぐれ傭兵と戦うアルはすごいカッコよかった! 「僕なんか、生きてる意味ないんだ!」 「僕のこと、こんな体で人間だって思う?」 すねたり、弱い自分の疑問をさらけ出したりするアルはものすごくかわいいです。 もういっこいうと、 「お前が俺を恨んでるんじゃないかって」 エド、そりゃそういう大事な話はもうちょっと落ち着いてからしようや。めっちゃ戦闘中やぜ。 ●リックとレオ、の母 目が見えないことをいっしょに暮らしている子どもに悟られなかったって、そりゃ無理がないかい。 そして開かないロケットを薬入れにしてても使えないと思うんですがどうですか。 (追記:ロケットは母がなくなったときの爆風で壊れて開かなくなったのでは、というご意見いただきました。 なるほどきっとそうだと思います;ありがとうございました西江さん。) ●大統領秘書 正体あらわしたな。…っていうかなにあれ。スライムですか。 * 次回予告「別れの儀式」 ああ覚悟します(まだ見ていません)。 誰の、誰(何)に対する別れの儀式であるかがポイント。 (2004.03.29記…25話未見) (2004.04.21追記) |