〜Fate Silver Knight〜 

〜状況推移・アインツベルン城内〜



城内の一室――――そこに全員が集まり、状況を見守っている。
もっとも、見守っているといっても、イリヤとライダーの通信と、セラという侍女からの、報告を聴いての状況判断をするに留まるのだが。

「南東方面の魔力が一つ消失しました。どうやら争いの末、決着がついたようです」
「そう……注意すべきは、残った魔力の相手がどう出るか、ね。監視を引き続き行ってちょうだい」
「分かりました」

イリヤの言葉に頷くと、侍女は部屋から退出する。その後姿を目で追ったあと、俺は部屋を見渡した。
部屋には、先ほど出たいった侍女以外、全員がそろっている。ギルガメッシュは古めかしい棚の調度品を、調味深げにあれこれを見定めていた。
何やら物の収集に興味があるらしく、いかにも古めかしいものを見ては、目を細めている。

どこかポウッとした表情の侍女は、所在無げに部屋の隅に佇んでいた。時折、イリヤに話しかけられて答える以外は、口を開くこともなく、そこに立っていた。

「…………」

俺の隣の席に座ったヒルダさんは、無言で手に持ったメモにペンを走らせている。
何を書いているのか分からないが、集中しているようなので、邪魔をしては悪いと思い、声をかけてはいない。
サラサラと流れるように淀みなく動くペン先は、何かの物語を書き撫でているようだった。

「うん、ともかく足を止めて。できるだけ、城から引き離した場所で戦ってちょうだい」

俺の膝の上に乗ったイリヤはというと、定期的にライダーと話しているようだった。
令呪によって、通信のできるようになったイリヤとライダー。本来は、脳裏に念じるだけで、相手に言葉を送れるらしい。
ただ、どうもしっくりこないのか、イリヤは声に出して、ライダーに語りかけているようであった。

「どうだ? ライダーの方は」
「うん、なんだか……てこずっているみたい」

話が一段落したのか、イリヤは一つ息をつくと、身体の力を抜く。
イリヤの背中をもたれかかせながら、俺は、イリヤの父親のことを考えた。

イリヤの父親……俺の養父である切嗣。優しく好きだった父親は、時を経て、新しい絆を俺に与えてくれた。
だが、もう一つの新しい絆のほうは、一体どういうことなのだろうか……ヒルダさんと切嗣の関係。

「まさか、隠し子とか言うんじゃないだろうな……」
「?」

俺の呟きが聞こえたのか、目をパチクリさせて俺を見上げてくるイリヤ。
イリヤとヒルダさん。確かに、髪の色は似通っているし、似てると言えなくもないのだけれども――――、

「ふぅ……喉が渇いちゃったわ。リズ、飲み物を持ってきて」
「うん、わかった」

そんなことを俺が考えているとは露知らず、イリヤは部屋の隅に立つ侍女に命令をしていた。
侍女はイリヤの言葉に頷くと、部屋から出て行く。それからしばらくは、サラサラとヒルダさんがペンを走らせる音だけが部屋に響いていた。



「――――よし、終わった」

パタン、とヒルダさんが手に持ったメモを閉じたのは、それから数分がたってのことだった。
よっぽど集中していたのか、顔を上げたヒルダさんは、部屋を見渡すと困惑したように小首をかしげた。

「あれ、メイドの人はどうしたんですか?」
「リズもセラも、今は出払っているわ。そんな事にも気づかなかったの?」
「いやぁ……私って集中すると、周りが見えなくなるタイプですから」

呆れた様子のイリヤに、ヒルダさんは笑いながら頭をかく。これっぽっちも物怖じしないタイプのようである。
どうも、イリヤはヒルダさんの事が苦手なようであった。嫌いとか、そういうのではなく、純粋に苦手そうである。

「一体、何を書いてたんですか?」

ぐ、と言葉に詰まったイリヤ。俺は代わりに、ヒルダさんに対して声をかけた。
単純に、彼女が先ほどまで、一心不乱に書いていた、メモのことが気になっていたからでもあるが。

「ああ、たいしたものじゃありませんよ、今後の予定というか、何と言うか……見ます?」
「見ないわよっ!」

答えたのは、イリヤ。彼女は俺にぎゅーっと抱きついてヒルダさんに向けて舌を出した。思いっきり挑発している。
ただ、された方はあまり気にしていないらしく、むしろ微笑ましげに、俺達を見ていたのだが。

「おや、残念。シグも、そうなんですよね。そんなことをしてる暇があったら、身体を動かせだの、もうちょっと身体的に成長しろだの……」

と、今は出撃している騎士の英霊をこき下ろすヒルダさん。
ただ、悪口を言っているというより――――なんだか仲のいい相手への、軽口に聞こえるのは気のせいではないだろう。

そういえば、ヒルダさんとシグルドは、どうやって知り合ったんだろうな。
まぁ、基本的には召還をして、契約を結んだんだろうけど。聞いてみようか?

そんなことを考えていたときである。ふと、妙な気配を感じ、俺はそちらを見た。
部屋の中央、先ほどまで何もなかったそこには――――いつの間に展開したのか、無数の武具が宙に浮いていたのである。

「!?」

何が起こったのか、考える間もない、それは次の瞬間――――、


どすどすどすどすどすどすっ!!!


部屋の扉へと直進し、扉を串刺しにする。一瞬呆け、俺は部屋の隅に佇むギルガメッシュに顔を向けた。
棚の前にいたギルガメッシュは、どこか不遜な表情で、ドアの方を見ている。

「おい、ギルガメッシュ、何を――――!?」
「なにやら、鼠の気配がしたのでな、念のためだ」
「ねずみ……?」

俺は、ドアへと視線を向けなおす。無数の武器の刺さったドア。不意に、嫌な予感が背筋を走った。
それは、死線を潜り抜けたせいで、鍛え上げられたもの――――、

「伏せろっ!」
「わっ?」
「きゃっ!」

ヒルダさんとイリヤを抱え、俺は円卓を蹴倒す。そして、円卓を盾にするように屈むと、即座にそれに魔力を通わせた。
迷いもなく、俺がそう動いた、次の瞬間――――!

どすどすどすどすどすどすっ!!!

何が起こったのかは、円卓の陰に潜んだ俺達にはわからない。だが、何が起こっているのかは、予測がついた。
ギルガメッシュと同じように、何者かがドアを通して、こっちへと攻撃を仕掛けてきたのだろう。
部屋が砕ける。壁が、床が、天井が、飛び来るものにより、破砕される。俺の傍に突きたたったのは見たことのない剣。それは、次の瞬間――――霞のように掻き消えた。
幸い、繰り返される攻撃は、円卓の盾を貫通することは無かったが……そうして、攻撃が終わることには、部屋は燦々たる有様になっていた。

絨毯は切り裂かれ、棚は粉砕され、椅子はバラバラにされていた。
棚のあった所には、ギルガメッシュ。ギルガメッシュとその背後の棚だけが、嵐の直撃を免れたように無傷であった。
どうやら、どうにかして、先ほどの攻撃を耐え切ったらしい。

「ふっ――――さすがに、この程度の攻撃ではしとめられないか」
「!」

声と共に、粉砕された扉のあった場所に、3つの人影が現れた。
その姿、その声は間違うはずもない。それは、赤い外套の騎士。アーチャー。
その傍らには……完全装備に剣を構えるジャネットと、赤い服装にツインテール……見知った彼女、遠坂の姿もあった。

「遠坂……」
「こんばんわ、衛宮君。おじゃましてるわよ」

円卓より顔を出して言う俺に……まるで、夕食の席につくように、遠坂はそっけない口調で、そう声をかけてきたのだった。

〜幕間・古の騎馬、虚空の天馬〜
〜幕間・戦いの裏側で〜

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