〜Fate Silver Knight〜
〜Approves of Promot〜
「イリヤ……俺の身体なんだけど、なんか変なんだ。妙に調子がいいと言うか、なんと言うか……ひょっとして、イリヤが何かしたのか?」
自分の身体の変調――――関係があるかは分からないが、イリヤは何か知っているんじゃないか。思い当たった俺は、イリヤにたずねる事にした。
俺の膝の上に腰掛けた彼女は、二度、瞬きをしたあと、特に気にした風も無くあっさりと――――、
「うん、したけど……それがどうしたの?」
「どうしたの、って――――」
やっぱり、イリヤの仕業だったらしい。よくよく考えれば、昨夜から今朝まで一緒に居たのは、イリヤだけである。
何かしらの影響を受けたのであれば、イリヤが原因であるのが筋だろう。
「いったい何をしたんだ?」
「――――知りたい?」
いや、そんな何気に邪悪な顔で微笑まれても、困るんだが。そういえば――――
『……いじるか?』
『いじろっか?』
ぎゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん、がががががが!
「…………魔改造か、ひょっとして」
「?」
いつぞやの臨死体験の記憶を思い出し、思わず呟いたが、イリヤの反応からすると、違うようだ。
まぁ、あれはたぶん夢だし。藤ねえそっくりの科学者と、イリヤそっくりの助手一号も、想像の産物だったんだろう。
「それで、結局……俺の身体はどうなったんだ?」
「ん――――単純に言うと、わたしというサブタンクから、常に魔力を受け続けているのが、今のシロウなの」
「魔力?」
「そう、シロウは無意識に、常に魔力を放出している状態にあるわ。多分、身体に留めきれない魔力が、溢れちゃってるんでしょ」
それから、ざっとあらましをイリヤに聞いたが、簡単に要約すると、原因は昨夜のイリヤとの行為にあったらしい。
性的行為により、つながりを持った俺とイリヤの身体は、互いに魔力を通じ合う状態となったのであった。
それだけなら、俺の魔力もイリヤに行くはずなのだが……どうやら、魔術師としての格が問題だったらしい。
純度の高く、量も多いイリヤの魔力が、俺の魔力を押し切り、飲み込む形で、俺の身体のほうに押し寄せてきたのだ。
そんなわけで、現在、俺の身体は、イリヤの魔力が99%を占めており、さらに、体外にも放出するほどに溢れていたのである。
――――考えてみると、魔力を使わない状態のセイバーは、筋力や腕力は普通の女の子であった。魔力のサポートで、あれほどの怪力を有していたのである。
つまり、今の俺の状態は、さっきシグルドが言っていたように、英霊のように魔力が体内外に溢れているような状態になっていたのだ。
「でも、これでシロウはわたしと一心同体ね。魔力を貸している分、その身体は私の延長線のようなものだし」
「……そうなのか?」
「そうよっ。えへへ、私の英霊になってくれるんだね、シロウっ」
なんとなく釈然としないものを感じたが、笑顔でイリヤが抱きついてきたため、俺はその考えを放棄せざるを得なかった。
今の状態がどうであれ、利用できるものは利用するしかない。おそらくは、いずれ起こるであろう戦いのために。
そんな結論に達したとき、コンコンと、ドアがノックされた。
「……失礼します」
部屋に入ってきたのは、たしかリズと言う名前の、侍女だった。彼女は、ソファに座って抱き合う俺達を見て、なにやら黙り込むと……
「…………ぽ」
と、顔は赤くはならなかったが、どうやら照れているようであった。
俺に抱きついていたイリヤは、首だけ器用にひねると、リズに視線を向けた。
「どうしたの、リズ? 何か問題でもあった?」
「ううん、別に。ご飯の用意ができたから、セラがイリヤを読んできてくれって」
「あ、そうか。もうお昼だしね」
ようやく思い至ったのか、イリヤは納得したように頷いた。
だが、その話を聞いても、イリヤは俺から離れようとはしなかった。むしろ、ますます俺に抱きついてきたのである。
「おーい、イリヤ?」
「うふふっ、だっこして、シロウ☆」
それはもう、にこやかに、お嬢様はのたまったのでございます。
抱っこは今、している。イリヤの言いたいことは、つまり――――
「なんていうんだっけ……そう、お姫様だっこね」
「はぁ…………やっぱりそれか」
「むっ――――いいじゃないのっ、やってよ、シロウっ」
ため息交じりの俺の言葉に、気分を害したのか、首に回した腕の力を強め、さらに抱きついてくるイリヤ。
とはいえ、非力な女の子の細腕……俺を窒息させるには至っていない。むしろ、密着した分、柔らかいのが身体に押し付けられているのだが。
「……らぶらぶ?」
「らぶらぶ? じゃなくて、らぶらぶなのっ。ね、いいでしょ、シロウ」
リズに言い返し、イリヤは俺を見る…………さて、どうしたものか。リズと言う人の目も気になるが、それ以前にさすがに気恥ずかしいと思うんだが。
でも、イリヤがせっかく、おねだりしているんだし……聞いてあげたほうがいいんだろうな。
「よっ、と」
俺はソファから立ち上がりながら、抱きかかえたイリヤをお姫様抱っこで抱き上げる。
腕の中のお嬢様は、どうやらご満悦のようである。ニコニコ笑顔で俺を見上げてきた。それにしても……
「イリヤ」
「なに?」
「お前、軽いなぁ……もっと食べたほうがいいんじゃないか?」
腕にかかる重さは、想像したほどではなかった。むしろ軽いくらいである。
と、俺の言葉を聴き、イリヤの表情がますますキラキラと嬉しそうに輝いた。
「え、そう、わたしって、そんなに軽いんだ――――」
「大丈夫、イリヤはちゃんと成長している。この半年で、体重だってさ――――」
「ちょっ、リズっ! 余計なこと言わないでよっ!」
イリヤは真っ赤になって、リズの言葉を遮った。しかし、体重だってさ――――の続きは何だろう。
聞いてみようかとも思ったが、イリヤの逆鱗に触れそうだったし、自重することにした。
「そろそろ、いかないと。セラは待たせると、秒刻みで機嫌が悪くなるから」
「あ、そうね……行きましょ、シロウ」
イリヤに促され、俺は部屋の外へと向かう。気を利かせたのか、リズはドアを開いたままで、俺を通してくれる。
廊下に出た俺は、イリヤのナビゲーションのもと、食事の用意されている部屋へと歩を進めたのであった。
〜幕間・揺りかごの詩〜
〜幕間・ある主婦の午後……紫金の少女〜
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