〜Fate Silver Knight〜 

〜Spirit of the war Hero〜



「――――え?」

その時、自分の身体の中に、ぞくりとした怖気のようなものが走った。
シグルドが言ったその言葉――――その、意味するところは一体……?

「無論、英霊というわけではない。君には実体があるし、今もこうして対話している分には、普通の人間そのものだ」
「…………」
「だが、実際の所、その身体能力は異常だ。子供一人を背負い、森を踏破し、英霊と互角に戦える四肢の力……それは、意識してのことではないのだろう?」

その言葉に、しばし考えて……俺は頷きを返す。正直、自分の身体が、これほどまでに動くとは思っていなかった。
ほんの少し休んだだけなのに、もう息が整い始めている。まるで、身体の奥から力が沸きあがってくるようだった。

「俺にも、何がなんだか……気づいたら、こうなっていたんですけど」
「――――……」

俺の言葉に、シグルドは黙り込む。その時……気まずい沈黙を破ったのは、事の次第を傍らで傍観していた、もう一人の英霊だった。

「さて、用は済んだのだろう? 事の次第はさておき、ともかく城内に入ろうではないか」
「あのなぁ、ギルガメッシュ……そうは言ったって――――」
「愚者の考察、休むに似たり。むさ苦しい顔をつき合わせて考えた所で、答えなど出よう筈も無かろう」

ピシャリ、と言い切るギルガメッシュ。シグルドはその言葉を聴いて、苦笑したようである。
確かに、ここで考えても答えが出るはずも無い。心の奥に、薄気味悪いものを感じながらも、ともあれ、予想外に身体が好調なのは、喜ぶべきことなのかもしれなかった。



――――城内の一室に通され、しばしの時が過ぎた。
あの後、一度、他の個室に備え付けてあるバスルームで、軽く汗を流すと、用意された真新しい服に着替え、気分的にもだいぶ楽になった。
交互にそれらを使い――――もっとも、ギルガメッシュは自分専用の部屋を用意させ、そこでシャワーを浴びたが――――そうして、広めの部屋に俺達は待機していた。

用意された部屋は、大きなテーブルと豪華なソファ。座ると、腰が沈むような柔らかさの一品である。
高級そうな調度品に囲まれた室内。シグルドは興味なさ気に壁に寄りかかって目を瞑っている。
ギルガメッシュはというと、対面にあるソファに踏ん反り返り、興味深げに部屋の調度品を見渡していた。

なんにせよ、三人ともにあまり口数が多いほうではないので、自然、部屋の中はしんと静まり返っていた。
ただ、ギスギスした空気を感じないためか、それほど不快にも思えなかった。そうして、半時くらい過ぎた頃だろうか。

「失礼します、イリヤ様、どうぞ」
「うん、ありがと、セラ――――おまたせ、シロウっ」

セラという、侍女の先導で、イリヤと、ヒルダさん。そして、リズという侍女が部屋に入ってきた。
イリヤは、ちゃっかりと俺の膝の上に乗っかると、甘えるように身体を摺り寄せてきた。
なんと言うか、確かにお互い好意を持っていることは自覚しているけど、改めてこういう事をすると、気恥ずかしい。

「……あれ、そういえば、ライダーは?」
「ライダーなら、私を浴室まで連れてった後、どこかにふらっと行っちゃったわ。多分、森の中を見回ってるんでしょ」

場を取り繕うように行った俺の言葉に、イリヤはそっけなくそう言うと、頬を膨らます。
どうやら、ライダーに置いてけぼりにされて、拗ねているようである。と、座った俺たちを覗き込むように見つめてきた人がいた。
イリヤと同じ、シルバーブロンドの髪の、年上の女性……銀色の騎士のマスターであるその女性は――――、

「こんにちわ――――ええっと、肉まんの人」
「士郎、だ。ヒルダ……この前、自己紹介しただろう?」
「あはは……私、名前を覚えるのが苦手なものですから、ごめんなさいね」

シグルドに、たしなめられて笑みを浮かべながら頭をかく。どこか、奔放そうな性格の人だった。
と、何を思ったのか、イリヤがギュッと俺に抱きついてきたのである。その時、ドアの付近に控えていたセラという人の眉がぴくりと動いたのを、視認できた。

「イ、イリヤ……何を?」
「――――だめ、シロウは私のなのっ」

戸惑う俺の膝の上で、俺の首にすがりつきながら、イリヤは平然とそんな事をのたまったのである。
その言葉に、ヒルダさんは興味深そうに目を輝かせ、シグルドは疲れたように額を押さえた。
少し向こうでは、どす黒いオーラのような殺気を発するセラと、その横で、平然とこっちを見るリズ。
ただ一人、その場の雰囲気に流されず、俺を見ていたのはギルガメッシュだった。その口が、わずかに動く。



――――愚者。



身もふたもない物言いに、どっと疲れ、俺はわずかにため息を漏らす。

「ふぅん……それって、どういうことですか? 説明してほしいなぁ」
「だから、士郎と私は、深く結びついてるんだからっ、横から手を伸ばさないでっ」
「余計なことを言うな、ヒルダ。ムキになってるぞ、相手は子供なんだし」
「何ですってっ、この仏頂面騎士! 人を子供扱いしないでよね!」
「ああ……嘆かわしい。イリヤお嬢様が、あのような物言いをするなんて……」
「そう? いつものイリヤだと思うけど」
「リズ、あなたは黙ってなさい」

わいわい、がやがやと騒がしい室内。どうやらしばらくは、この喧騒は収まりそうもなかった。
耳元で響く、歌声のようなイリヤの声を聞きながら、俺はソファに深々と身を沈めたのである。


〜幕間・獣の姫〜
〜幕間・ある主婦の話〜

戻る