〜Fate Silver Knight〜 

〜純白の絆夜〜



朽ちた建物は、そこに住んでいた者の名残を感じさせない。
青白い月の光、それをスポットライトのように身に浴びながら、イリヤは身を翻す。
かつて、寝室であったところ……俺と遠坂、セイバーが一夜を過ごしたその部屋で、俺はイリヤと対峙する。

「イリヤ――――どうしたんだ、いったい」
「シロウ……貴方も見たでしょ、バーサーカーのこと」
「ん、ああ……」

先ほどの中央公園――――バーサーカーを伴って現れた少年……あれはいったい何者なのだろうか?
だが、イリヤにとって重要なのは、かつての自分の英霊のことだった。

「あの子は、もう私の英霊じゃないわ……あの子を倒すのに、シロウの力を借りたいの」
「倒す……って、いいのか、イリヤ。あいつは、イリヤの……」

俺の言葉に、イリヤは無言。月明かりを背に、その表情はうかがい知れない。
短くも、深刻な沈黙の後、イリヤは絞り出すように、言葉を吐き出した。

「いいの。もともと、私は一人だったもの……また一人になったって、かまわないわ」
「一人って……イリヤは一人じゃないだろ。ライダーもいるし、俺だって」

イリヤは、純白の髪を振る。左右に振られた髪は、月明かりを浴びて、万華の煌きを残した。
言葉の続かない俺に、イリヤは静かに、視線を向け、拒絶するように言葉を描く。

「一人なの……たとえ今は一時繋がっても、永遠に共に存ることはできないわ」
「そんなことは……」
「わかってるでしょ、シロウ――――貴方だって、今は一人なのだから」

その言葉は冷たく、俺の肺腑を抉る。共にありたいと思った少女。叶わなかった想いは未だ、胸の中にあった。
誰かと共に在りたい、そう思うことは罪なのだろうか……。

「だから、いいの。あの子は私の英霊だった――――、一人でも平気なんだから、私はあの子を殺すのよ」
「イリヤ…………」

その覚悟を、否定する言葉を持たず、俺はどうしようもなく立ち尽くす。
そんな俺に向かって、イリヤは緩やかに歩み寄ってくる。そうして、小さな手が俺の腕をつかんだ。
振りほどくこともできず、硬直する俺に、イリヤは縋る様な視線を向けてきた。

「手伝って、くれるわよね……シロウ。貴方は私と同じ、私は貴方と同じ――――同じなんだから」
「……そうだな」

自嘲気味に、俺は笑みを浮かべた。セイバーと別れ、遠坂と敵対する。
もう、助け合うことができるのは、イリヤだけ……俺も、孤独に苛まれる事に、耐えられなかったかも知れなかった。

「イリヤ。俺の力なら、幾らでも貸すよ。一緒に、戦おう」
「うん――――シロウが一緒なら、怖くないわ」

きゅ……と、イリヤが抱きついてくる。俺は腕を回して、その小柄な体を抱き返した。
更紗の髪を、そっと梳き、小さな頭を優しくなでた。イリヤは顔を上げず、ポツリと静かに言葉を投げかけてきた。

「一緒に、居てくれる……? ずっと、命枯れる最後のその時まで」

それは、上辺だけの問いではない。魂すら束縛するかもしれぬ、契約の呪歌。
それを承知で、俺はイリヤの言葉にうなづいた。白い少女を、俺は孤独にすることはできなかったのだ。

「ああ…………イリヤが願うなら、それもいい。今後こそ、イリヤの英霊になるよ」
「――――ありがとう、シロウ」

顔を上げたその表情は、泣き笑い――――いつもの気丈な表情はなく、小さな女子がそこに居た。
そっと、イリヤは背伸びをする。誘われるままに、俺は身をかがめた。

月明かりの中、俺とイリヤは、厳かに、結婚式の誓いの場面のように、口付けをかわしたのだった。

〜契〜(18X)
〜幕間・英雄王と征服王〜

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