〜Fate GoldenMoon〜 

〜聖杯の使い道・Dr凛に聴いてみよう〜



「なるほど……その事で悩んでたのね、士郎は」
「ああ、桜の体調のことは詳しく分からないんだが……これってかなり、マズイ兆候なんだろ?」
「そう、おそらく根本は、魔力の枯渇と……無理な体質改善のせいで、身体の方にガタがきてるんでしょ」

臓硯って爺さんに聞けば詳しい事も分かるんだけど、と、遠坂は考え込みながら呟く。
しかし、ライダーの話を聞く限り、その臓硯って爺さんの生きてる確率は五分五分だろう。

なんでも、臓硯って爺さんは何百年も生きていて、体を蟲に移す術を得ていたらしい。
桜の身体をあんなふうにした張本人だが、今は手がかりになるなら何でも利用すべきだと思った。

「じゃあ、ともかく臓硯って爺さんを探してみるか? 見つけれれば治療の方法も分かるかもしれないし……」
「ああ、そのこと? たぶん無駄だろうから、止めといた方がいいわよ」
「え……だってさっき、遠坂が言ってたじゃないか。臓硯の爺さんに聞けば、詳しい事が分かるって」

俺の質問に、遠坂はどこか言いづらそうに、視線をそらした。
まるでそれは、患者に不治の病を宣告するような、医者の表情に似ていた。



「詳しいことを知っても意味はないわ。魔力の枯渇は、さほど問題じゃない。問題は、間桐の継承方法で桜の身体にかかった負担なのよ」
「それって、さっきも言ってた、体質改善のことか?」
「そう、もともと、魔術にたいして向いているかどうかは、生まれ持って決まっている事。それを強制的に変更するんだから負担は当然よ」

……じゃあ、なにか。桜は無理やり身体をいじられた挙句、あんな身体になっていたってことか。
話を聞く限り、随分前からそんな事があったんだろう。それに気づかない俺は……馬鹿野郎だ。

「ダイエットと一緒よ。理想の体系を目指す反面、肥満になったり、拒食症になったりする。リスクの部分が今回はもろに出たって事ね」
「それじゃあ、桜は治りはしないのか……」
「そうでもないわよ」



いともあっさりと、遠坂はそんな事を言う。一瞬、何を言ったのか理解できないほどであった。
なんか、口ぶりからすると、不治の病でごめんなさい、もう治りませんのでゴメンネ、と言ってると思われてたんだが。

「あ、何よその呆けた顔は。そもそも、私達が何のために戦っているのか忘れてない?」
「何のために、って、それは――――聖杯戦争」
「そう、聖杯の魔力量を持ってすれば、桜の身体の治療ないし復元は、容易に行えるはずよ」

つまり、聖杯の力を使って、桜の身体を治すって事だな。色々難しいこともあるだろうけど、遠坂なら分かってるんだろう。

「私、士郎、イリヤ、もしくは桜でも構わないわ。誰が聖杯を手にしたとしても、桜の身体の治療に魔力を使えば問題ないでしょ」
「ああ、そうだな。あ、でも、俺じゃあ……桜の身体を治療する方法なんて分からないぞ」
「ま、もしそうなったら……私がやるわよ。士郎には魔力の供給だけしてもらえば良いから」
「魔力の供給、って――――」

森の廃墟の、あの場面を思い起こして、心拍数が上がった。
いや、あの時は非常時だったし、緊迫した状況じゃ、ムードもへったくれもなかったんだが……。

今だって、尊敬して、あこがれている遠坂と――――もっとも身近な存在で、親しみを抱いている桜。
そんな二人を相手に、そんな場面になったら……非常に困る。

「ちょっ……何考えてるのよっ。この前みたいに三人でやる必要はないのっ、まぁ……魔力を繋げるから、私とはちゃんとしないといけないけど」
「そ、そうなのか」

いや、それでも充分にアレなわけだけど。さっきの唇の感触がまだ残ってるんだし。
今だって慣れてはいるが、すらりと伸びきった四肢とか、サラサラの髪とか、細いうなじとか、意識してしまう部分だらけなのだ。

「別にそこまで深刻にならなくても、聖杯を手に入れる時に、私が手に入れればすむことよ。そうすれば、わざわざ結合する手間も省けるし」
「そ、そうだな……俺は聖杯の使い道なんて考えて無いし、遠坂に任せる方が良いよな、うん」
「――――なんか、妙に癪なんだけど。衛宮君、そんなに私とするの、いやだった?」
「そ、そんな事あるわけないだろっ! だいたい、結合ってその、アレだろ? 俺はなれてないし、遠坂のほうこそ、どうなんだよ」

俺の言葉に、遠坂はキョトンとし、う〜ん、と考え込んでしまった。
そうして、ニヤリ、と人の悪そうな笑みを浮かべる、あかいあくま。

「私は別に構わないわよ。心構えは出来てるつもりだし、ま、おねーさんに任せなさい」
「…………」

思いっきり自爆。正直、この人に勝てる気はしません。
それでも、それを恥だとは思えなかった。だって、目の前の少女は尊敬するに足りる実力の持ち主だったし、

「ありがとう、遠坂。何だかんだ言って、桜の事を気にかけてくれてたんだな」
「――――ま、まぁ、知らない仲じゃないからね……ちょっと、なによ、その温かい瞳は」
「うん、安心した。遠坂はやっぱり、良いやつだったってな」
「だから、時折さらりと……恥ずかしいセリフを言わないように!」

そうやって恥ずかしがる遠坂のことは、決して嫌いじゃなかったからだ。


〜幕間・彼女の決意〜
〜幕間・激突? 魔術師 対 虎〜

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