〜Fate GoldenMoon〜
〜アーチャー対アーチャー〜
虚空に浮かぶ月の照らす中、庭でのギルガメッシュとアーチャーの戦いは、俺の予想よりもさらに規格外な戦いになった。
ギルガメッシュの取り出す武器の量は、前に見たとおり、その量は無尽蔵であり、反則じみていた。
しかし、それに対抗するアーチャーの、あの武器の量は一体なんだろう。
それが投影魔術だというのは分かっていた。だが、俺では一本生み出すのがやっとのそれを、アーチャーは一度に十数本も具現化していた。
ハイペースでの投影を繰りかえし、半刻もの間、英雄王と拮抗して戦い続けているのだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
豪雨のような武器の雨が、降り注ぎ、砕けていく。
ギルガメッシュの放つ武器の豪雨。それを、周囲に展開した最小限の武器と、自ら持つ双剣により、アーチャーは防ぎきっていた。
その表情には、焦りの色は無い。周囲に展開した十数本の剣のうち、使い物にならなくなった剣を投影しなおし、防御を固める。
ギルガメッシュのほうも、悠然と佇み、狙撃での攻撃に専念していた。
「どうした? まさかその程度で終わりというわけではあるまい」
「――――さて、どうしたものかな」
ギルガメッシュの挑発をアーチャーは軽く受け流していた。その表情には微塵の焦りも無い。
その様子に、ギルガメッシュのほうが表情を険しくした。
「いささか、買いかぶっていたかもな。この程度の攻撃を凌げぬようでは、我と戦う資格も無い」
「――――ふ」
「何が可笑しいのか知らぬが、分不相応な相手と長く付き合う気は無い――――!」
ギルガメッシュの言葉と共に、さらに英雄王の背後には、先ほどの数倍の武器が浮かび上がる――――!
さすがに、これだけの量を防ぐすべは無い。端から見ている俺も、アーチャーの勝ちは無いと思っていた。
しかし、その時、脳裏に妙な考えが浮かびあがった。
――――もし、俺ならどうするだろうか。アーチャーがいる場面のようなとき、俺がする行動は……。
「カラドボルク――――!」
「ぬっ!?」
アーチャーの手に持った双刀が消え、その左手に弓が、右手に矢がつがえられる。
初めて見る、あれが、アーチャーの宝具なのだろうか……?
身構えるギルガメッシュに、アーチャーは弓を引き絞り、放つ!
それは、当たることを想定して放たれた矢。間違いない、あれはギルガメッシュに命中する――――!
「笑止」
しかし、ただ一言。ギルガメッシュの言葉と共に、十数本の剣が、アーチャーの矢に殺到、衝突する!
カッ! ボフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
虚空の一部、中空で互いの武具がぶつかり、爆発する。アーチャーの矢には、爆発する仕掛けがしてあったんだろう。
確かに、それならギルガメッシュを倒すことが出来る。だけど、ギルガメッシュの身体に届かなかった以上、アーチャーの勝ちは――――、
「あ――――」
その時、爆風を塗って、赤い外套が金色の影に駆け寄るのが見えた。
俺はとっさに、ギルガメッシュのほうに向かって駆ける。アーチャーの意図が、何故かこの時、俺にはハッキリと理解できた。
しかし、間に合うか?
「ほぅ、まだ戦るつもりか?」
無手のまま、ギルガメッシュに駆け寄るアーチャーの姿を見て取り、英雄王は余裕の笑みを浮かべる。
相手の必殺の一撃をしのぎ、破れかぶれで突進してきたと思うだろう。
しかし、それは今までに無い絶好の機会。すなわち、慢心から生み出される、隙が出来る一瞬。
ギルガメッシュはアーチャーを切り伏せようと、背後から一本の剣を取り出す。
無制限な輝きを放つ、太陽剣――――グラム。
それを躊躇いもなく、アーチャーに向かって振るう。
「投影、開始――――」
その瞬間、アーチャーも剣を振るう。その手に持つは――――太陽剣、グラム!
ビュウッ! ビュウッ! バキィィィィィィィィィィンッ!!!
太陽剣の名に恥じない硬度。双方全く同じ武器がぶつかった結果、互いに剣は折れることもなく、衝撃で双方はじけ飛ぶ。
その瞬間が、一瞬の空白。背後より、剣を取り出さなければならない英雄王と――――、
「投影、開始――――」
瞬時に武器を生み出せるアーチャーでは……アーチャーの方が早い!!!
その手に持つは、王の剣、かつて、グラムに砕かれた剣を持って、英雄王に一撃を――――!
「下がれ、ギルガメッシュ――――!」
「!」
「!」
振るわれたアーチャーの剣を止めたのは、同じ剣を持った、俺の腕。
ギリギリで間に合ったその剣は、剣に秘めた力のせいか、互いの身体を弾き飛ばす!
「くうっ!」
「ぬっ!」
互いに、吹き飛ばされ、倒れないように、しっかりと地面に足を踏ん張る。
しかし、投影したのが同じ剣でよかった。もし、違う剣だったら、根本的な筋力や勢いで、俺の剣は押し切られていただろう。
ギルガメッシュは、無事だった。信じられないものを見たかのように、俺とアーチャーを交互に見比べている。
アーチャーと俺は、同じ剣――――カリバーンを持ったまま、睨みあった。
しかし、集中が継続できない。俺の剣は、震える腕を滑り落ち――――地面に落ちて砕け散った。
それを見て、アーチャーがため息をつく。どこか感心したような、呆れたような表情があった。
「退くぞ、アサシン」
アーチャーは踵を返す、その背中はとても大きく、また、不意打ちなど通じないように見えた。
アーチャーの進む先には、長い刀を持った剣士。少し離れて、地面にうずくまるライダーの姿があった。
「何? どういうことだ?」
「どうもこうもない。勝機のなくなった状況では、退くのも正しい判断ということだ。お前と英雄王では、相性が悪すぎる」
かといって、俺では最早、仕留めることは出来ないだろうよ。と、アーチャーは飄々とした表情でそんな事をいう。
その言葉にアサシンは黙り込んでいたが、ややあって、軽く肩をすくめた。
「まあ、それも是非もないか。もともと、俺が意趣返ししたいのは、魔術師(キャスター)の女だけだ。無用の殺生もする必要もない」
アサシンを納得させると、アーチャーは俺達の方を向く。その姿は、雄雄しく、巨大に見えた。
月明かりの下に佇む、赤い外套の騎士と、蒼い姿の侍…………、
「ここは退こう、だが、後の再戦もある。せいぜいその時までに、腕を磨いておくことだ」
そう言うと、屋敷の塀を飛び越え、二つの影はその姿を消したのだった。
周囲に静寂が戻る。英霊達が消えたほうを向き、呆然と立ち尽くす俺。
視線の先には、怪我を負ったのか、地面にうずくまるライダー。そして……、
「くっ……おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
アーチャーに手玉に取られ、屈辱に身を振るわせるギルガメッシュの叫びが、静かな庭へと響き渡ったのだった。
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