〜Fate GoldenMoon〜 

〜暮れなずむ、雨の日に〜



「あ〜、さっぱりしたな」

用意した浴衣に着替え、俺とイリヤは居間に戻る。
居間に戻ると、イリヤは浴衣のすそを翻し、台所に向かった。

「シロウ、牛乳もらうからね」

お風呂上りの場合、飲み物が欲しくなるのは、誰しも一緒のようだ。
イリヤの背中を見送りつつ、相変わらずテレビを見ているギルガメッシュに近寄った。

「どれどれ……おや、逆転してるみたいだな」
「うむ、珍妙な事ではあるがな」

俺の言葉に、ギルガメッシュは感心したように画面に見入っていた。
回は終盤、乱打戦を要している試合は、11−8……あれから11点もの点を3回であげ、後半に逆転したようだ。

「それにしても解せぬ……卿はまるで、逆転するのを確信したような口調であった。なにやらその兆しでもあったのか?」
「いや、そんなものは無かったけど、野球は3アウト取るまで分からないって言うしな。それに……」

テレビのブラウン管を見つめる。逆転した高校のピッチャーが、なおも決死のピッチングを続けていた。
実力はさほどではないのだろう。またヒットを打たれるが、それでも全力で投げ続けていた。

「野球ってのは、相手との戦いの前に、自分との戦いってのもあるらしいからな」
「ふむ」
「滅多打ちにあっても、必死に投げ続けてるだろ? 相手がどうあれ、最後の最後まで諦めないのが、戦いを生き抜く基本だと思ってな」

9回裏、11−10、2アウト満塁の場面、抜けるかという会心の当たりは、思い切って飛んだライトのグラブへと吸い込まれた。
歓声が沸き起こる――――結局、逆転をしたまま、その高校は勝利を収めたのだった。

「なるほど、つまりは似た者同士ということか」

勝利を喜ぶ選手達と、俺を交互に見比べ、面白そうな表情で頷くギルガメッシュ。

「何だよ、それは」
「いや、如何なる競技、戦といえど、今の心構えは重要であると思っただけだ」

などと、したり顔で頷いた英雄王。ひょっとしたら、褒められているのかもしれない。
なんとも言えず、俺は肩をすくめて、台所に向かう事にした。

その時、背後から雨音が再び響きだす。すぐにそれは、地面を叩く騒音へと変化した。
これは、本格的に振り出してくるな……そんな内心の予想通り、雨はその後、止むことも無く降り続けていたのだった。



日が暮れ、夕方を過ぎても、相変わらず雨が降り続けていた。
夕食の準備をしながら、俺はなかなか来ない遠坂達のことを考えていた。

前回の聖杯戦争、遠坂はイリヤのバーサーカーと戦い、その時に自らの英霊を失って聖杯戦争を脱落した。
そうして、俺のサポートに回ってくれたのだが、今回はどうなのだろう。

再び、英霊を持った遠坂は、当然、今回の聖杯戦争も勝ち残るために動くだろう。
ひょっとしたら、もう、この家には来ないのでは、という危惧があった。

「そんなわけ無いだろう……昨日だって、ちゃんと言っていた」

また、明日と言った俺の言葉に、笑って頷いたのだ。その笑顔を、信じたかった。



その時、玄関のチャイムが鳴った。
どうやら、取り越し苦労だったようだ……遠坂が、もし俺と敵対するとしても、その前に一言あるだろう。
俺の惹かれた、遠坂凛という少女は、そういう女の子なのだから。


「リンが来たみたいね。私、出迎えに行きましょうか?」
「いや、俺が行くからイリヤたちは、くつろいでいてくれ」

居間にいたイリヤを制し、俺は廊下に出て、玄関へと向かった。
玄関に行くまでに、何度かチャイムが鳴る。どうやら早く中に入りたいらしい。
まぁ、外は相変わらずの豪雨だし、当然と言えば当然だろう。

「はいはい、ちょっと待っててくれよ」

そう呟きながら、俺は玄関の鍵を開け、引き戸をガラガラと開けた。

「お待たせ、遅かったな遠さ――――」

か、と言う口のままで、俺は硬直した。
玄関に佇んでいたのは、見知ったツインテールの少女ではなかった。

奇妙な眼帯、黒色のスーツに身を包んだ妖艶な美女は、確かに見覚えのある相手だった。
彼女は確か、慎二のサーヴァントだった――――

「ライダー!?」
「エミヤ、シロウ。協力を求めに来ました」

後ずさる俺の足を止めるように、ライダーは静かな口調でそう言い放つ。
その時、俺は、彼女が両腕で抱きかかえていた人影にようやく気づいた。見知ったその顔は――――

「桜!? 何で――――」
「ともかく、玄関では詳しい話も出来ません、サクラを休ませられる部屋はありますか?」
「あ、ああ」

その言葉に毒気を抜かれ、俺はどうしたものかという表情で頷いた。
いつの間にか、外の雨は止んでいた。まるで、ライダーが雨を連れてきたような……そんな錯覚を感じるような出来事であった。


幕間・槍兵再来
幕間・最狂の敵

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