ぱすてるチャイムContinue Lu Monde
たいせつなともだち
カリカリ…………机に向かい、広げたノートにシャーペンを走らせる。
肩越しに振り向くと、ナツミは大人しくベッドの上に座って、部屋に置いてあった雑誌を読みふけっていた。
また飽きたら騒ぎ出すだろうけど、今のところは大人しくしてくれているようなので、俺は机に向き直り勉強を進めることにする。
光綾に編入してけっこうな月日が経過したが、いまだ、授業には慣れないでいた。
これは、ファルネーゼの授業が光綾より劣っているとか、そういうことではない。
根幹的な授業の進み具合が違うせいで、予習や復習をしないと、とても授業についていけそうにもなかったからである。
そんなわけで、今は勉強に集中集中…………、
「ナギー、ちょっといいのさ?」
「ん、なんだよ?」
勉強する傍ら、後ろからはナツミの声が聞こえてきた。俺は振り向かずに、声を掛けてきたナツミに先を促す。
「ナギーは赤と青、どっちがすきなのさ?」
「赤と青? そうだな……」
俺が答えると、ナツミは次々と質問を続けてくる。そうして、俺が勉強を続けている間に十数回、ナツミは意味のなさそうな質問をしてきた。
俺はナツミのそんな質問に答えつつ、授業の予習を続けた。そして、一時間が過ぎたころだろうか。
「ん、こんなもんか……」
勉強を一通り終え、俺は一つ伸びをする。そのとき、背後から楽しそうなナツミの声が聞こえてきた。
「あなたの性格は直情的な傾向が目立ちます。恋人にするなら、自分の直感を感じた、相手にしましょう……なるほど、ナギーはそういうタイプなのさ?」
「? なんの――――……」
ことを言ってるんだ、と聞こうとし、俺は硬直した。いつの間にか、ナツミの手に持っていた雑誌がすりかわっている。
今、ナツミが手に持っているのは、ベッドの下に隠してある、俺の秘密の本の一つだった。
エロチックな本の中に混じっていたそれは、女性がよく好んで読むような、恋愛のススメのような本だった。
「お前、いったいその本をどこから――――」
「ベッドの下に決まってるのさ。本の隠し場所としては、お粗末さね」
クスクス……本を片手に、ナツミは笑う。顔が赤くなるのが自分でも分かった。
椅子から腰を上げると、ベッドに座ったナツミから本を取り上げようと、俺は腕を伸ばした。
「それをよこせっ」
「あはは……照れることないのさ。パパが言うには、男には隠し事の一つや二つはあって当然ってことなのさ」
「お前は、その隠し事を公にするんだろうがっ! いいから、本をわたせっ」
「や、なのさよ」
俺の手をひょいひょいと避けながら、ナツミは俺の手を払う。なおもムキになって手を伸ばしたその時だった。
俺の手がナツミにつかまれたかと思うと、くるりと視界が反転する。
「!?」
気が付いたら、目の先には天井。背中にはベッドの感触。一瞬で身体を入れ替えられ、俺はナツミに組み伏せられる格好になっていた。
猫のような光彩の瞳。奔放なクラスメートの彼女は、いたずらっぽい表情で、顔を近づけてきた。
「ん…………」
声が出ない。触れ合った唇は一瞬、猫が身体を擦り付けるようなそんな印象の口付けの後、ナツミは顔を離す。
ひどく卑猥に見えて、どこかそれが自然に見える、シャツと下着を着けた、半裸の少女。
俺の腹部にお尻を乗せたまま、ナツミは人懐っこい微笑で、俺を見つめていた…………。
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