(3) バチの持ち方・使い方(右手)

バチの持ち方は長唄にあっても流儀により様々である。私は長唄独特の力強く
歯切れの良い、カリッとした裏に抜ける音を求めて次のような指導を試みてい
る。

 バチを持つ
・三味線は持たずにバチだけを持たせる。
・右手の第一関節は全て外に向け、中に向けて折り曲げない。
・薬指と小指で握りを上から挟み、親指の腹はバチの側面ではな く表に乗せ
る。
・親指と三本の指(人差し指・中指・薬指)でバチをしっかりはさ  む。この時、
人差し指が浮き上がらないようにする。

 手首の動き(その1)
・手首を返して、バチの裏を見る。
・うちわを持って、顔に風がくるようにあおいでいるような気持ち  で、手首の回
る感覚をつかませる
・手首を柔らかくして、バチを振り上げ、膝をペタペタとたたく。
・バチの動きは、バチを宙に振り上げたときに始まり、糸をはじい て皮に触れ
た瞬間に終わることを知らせ、弾いてるときをイメー ジさせる。

 手首の動き(その2)
・三味線を構え、開放弦のみで弾かせる。
・動きをコマ送りのスローモーションで行わせるために、押しバチ で弾かせる。
・皮の上にバチ先の通り道を直線で描いておき、それをなぞらせ ると良い。
・親指と三本の指(人差し指・中指・薬指)でバチをしっかりはさ  み、一の糸を
おさえ込む。
・一・二・三の糸の順に続けて押しつけるようにはじく。
・ひき終わったら手首の力を抜く。
・手首を返してバチを振り上げ、押しバチを繰り返す。
・「イヤ」「ハッ」等のかけ声でバチを上げると出だしを揃えること  が出来る。
バチ先の軌跡が三本の糸の上で滑らかに円を描く。
・バチ先は身体に対して直角ではなく、糸に対して直角に移動する。そのため、
手首の回転は、やや内側に向けねばならない。
・手首の回転の感触を覚える。

 押しバチで弾く「越天楽」は、初めて三味線で弾く教材曲として  最適!
    本来「押しバチ」は特殊なバチ使いであるが、初歩のバチ使  いを丁寧に
指導するのに最適ではないかと思われる。
    後になって、一音ずつのバチ使いを学んでからも、バチの方  向などが乱
れてきたとき、この押しバチによるバチ先の通り道   を再確認することによっ
て、より良いバチ捌きを習得できるもの  と考える。
   この教材は雅楽「越天楽」の楽琵琶の部分を真似てつくった   もので、全
て押しバチで演奏される。1小節4拍毎にポジション   がかわるが、先に人差し
指の押さえ方を学習しており、ゆっくり  なのですぐにこなせるようになる。
   また、講習も時間的にもこのあたりで一区切りする頃になる    ので、リコ
ーダー等と合奏すれば、第一教程のまとめとして、   受講生に充分達成感を
与えることが出来ると思わる。
 
  開放弦の練習
これまでのことを踏まえて、いよいよ三味線本来のバチ使いに入る。特に開放
弦では長唄独特のバチの打ち込みを学ばせたい。
一般に三味線の手ほどきを受けることをことを「テンテンテンから習う」と言われ
ている。これは、三の糸の開放弦を弾くことを表している。
しかし、バチを振り上げ、バチ先が居合い切りの如く糸を鋭く切るような感じで弾
いた後、次の糸を押さえて弾き終わるという動作を学ばせるためには、押さえ
込むべき次の糸が無い三の糸からではなく、一の糸を弾くことから始めるのが
妥当ではないかと考える。

一の糸
・「イヤ」「ハッ」等のかけ声でバチを上げる。
口三味線で「ドン」と唱えながら、二の糸を押さえ込んで終わる。

二の糸
 口三味線で「トン」と唱えながら、三の糸を押さえ込んで終る。

三の糸
 口三味線で「テン」と唱えながら、もう一本糸があるつもりでひき 終る。

・ひき終わったら手首の力を抜く。
・押しバチで学んだバチの方向や手首の動きを大切にさせる。
・手元を見ないで正面を向いたまま、三本の糸を引き分けられるように練習す
る。
・初めのうちはバチが糸に当たらなかったり(スカばち)、一本の  糸だけに当
たらずガシャンと2本以上の音がでたりするが、肩  の力を抜いて、基本的な
手首やバチの動きを崩さないようにす る。
バチを上げる方に重点を置き、萎縮せずおおらかな気持ちで弾く。
・正確に音を鳴らそうとするあまり、バチを振り上げず、糸にバチ 先を当ててか
ら低くことの無いようにさせる。正直にバチを上げ させ、徐々に命中率を上げ
ていくようにさせる。

スクイの練習
   力強い音が出るようになったところで、スクイの練習もさせて  しまいたい。
   耳障りの良い音でスクイを連続して行うためには、手首をリラ  ックスさせて
いなければならない。スクイで良い音を作り出す   工夫をさせることによって、
否が応でも手首が柔らかくなってい  くと考える。

開放弦で行う。
・最初はすくわずに普通にひく。
・バチを上げるとき、力を抜いて、わずかに糸に触れてみる。
・初めは時々、音が鳴る程度でよい。
・手首をリラックスさせてすくう時に決して力を込めない
・だんだんと早間でひいてみるようにする。
・後にハジキの記号と見分けができるように、譜面のスクイの記  号にも慣れ
させる。

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