(2)勘所(ポジション)の押さえ方( 左手の構え

   三味線がどうにか膝の上に落ち着いたところで、早くバチを 持って弾きた
いところであるが、演奏のフォームとしてこの時期 に身につけてしまいたいの
が、左手での勘所の押さえ方であ  る。指先の肉の部分と爪と両方で勘所を
直角以上の鋭さで押さ えるこの方法は「音締め」といわれ、バチ使いと並び音
色の善し 悪しを決定する重要な技術である。
   私的な体験であるが、私は手ほどきの際の師匠からこのこと を指導され
なかったために、「プスパス」といった味気ない音で  稽古を続けねばならなか
った。努力しても改善されない音に疑 問を持ち、演奏家の舞台を双眼鏡で観
察し、どうやら糸の押さ  え方に問題があるようだと気づくまでに随分長い間
かかってし  まった。現在の師匠につき、正しい方法を指導され、今までより 
良い音が出た時には目の前に新しい世界が開けたような気が したものであ
る。
   このような無駄な回り道は避けさせたいと、いろいろ工夫を巡 らす内にと
ても良い方法が見つかった。「ハジキ」である。「ハジ キ」ではっきりとした音を
出させるには指を立てしっかりと勘所  を押さえなければならない。いつでも
「ハジキ」が出来る状態こ そが、理想的な指のスタイルなのである。
   また、このスタイルは勘所の下の方で行う方が正しく保ちや  すいと思わ
れる。初めて三味線を構えたときに、リラックスして、 遊びのような感覚で「リン
リンリンリン」と高い音で練習させれ  ば、楽しく無理なく自然に良いフォーム
に導いていけるのではな いかと考え、次のような指導を試みている。

理想的な左手(指)の構え=「ハジキ」のできる体勢

・肩はリラックスして自然に下げる。
・親指と人差し指の股(水かきの部分)、指すりの布の部分のみ  で棹を支え
る。
・手のひらで棹を握り込んだり、受け止めたりしない。
・指は解放しておき、特に親指は棹の裏にくっつけたりせず外を  向けておく。
・手のひらを胴の方(右下)に向け、指すりで棹を軽くこすりながら 左手を上下
させる。
・他の指は爪を短くまっすぐに切り、指全体はふんわりと丸くし、  ピアノの鍵
盤に対するように指先の爪と肉と両方で直角に押え る
その1 第1指(人差し指)と第3指(薬指)によるハジキ

・人差し指を立てさせるには高い音の勘所から順に低い音の勘  所へ移って
ハジキを試みる。
・人差し指をしっかり立て三の糸の勘所をを強く押さえる。
・薬指(第3指)の小指側の先で、棹を引っ掻くような感じではじ  く。
人差し指(第1指)の押さえが効いていれば、しっかりとした澄ん だ音が出
る。
・音を聞きながら良い押さえ方を試行錯誤させる。
・勘所を上下させながら連続してハジキをさせる。このとき棹を握 り込んでいる
と勘所の移動がスムーズにいかない。準備運動と して、前述のように手のひ
らを胴の方に向け、指スリで棹を磨く ようなつもりで左手を軽く上下させると良
い。

 その2 第1指(人差し指)のみのハジキ

・どの勘所位置でも行うのであるが、演奏時には一番上の勘所で 行うことが
多い。
・勘所が上になる程手のひらで棹を支えたくなるのだが、親指の 付け根の
スリの部分のみが棹に触れ、決して親指の腹や手 のひらでは支えない。
・指先と爪で糸をしっかりと押さえつけ、棹を引っ掻くぐらいの気  持ちではじ
く。
・一の糸と二の糸は「ロン」三の糸は「レン」という口三味線を唱え させる。

 その3 第1指(人差し指)第2指(中指)とによるハジキ

・実際の演奏では、いきなり第U指(中指)ではじくことはまず無  い。第U指
(中指)をバチで弾き、その続きではじく場合のみで  ある。
・ハジキを連続して行うのは@の薬指によるハジキで人差し指を しっかり立て
させるのが目的なので、第2指(中指)によるハジ  キはバチ使いの学習の後
に扱うこととし、ここでは触れないでお く。
 常にリラックスした状態を保つ
  ここまでの教程は、受講生を疲れさせないように手早く行う。三味線の構え
の場合と同様に、すこし力が入ってきたら、「棹を磨きましょう」と言って左手を
上下させ、常に余分な肩の力を抜かせるようにしたいものである。

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