労災医療の特徴


労災保険における療養補償給付又は療養給付は、原則として労災病院及び指定医療機関等における現物給付方式をとっているが
これが現物給付でなければ労働災害を被った傷病労働者は療養の給付を自分で前払いするか、 あるいは事業主に
一時立替払いをしてもらい、しかるのちにその費用を当該傷病労働者の所属する事業場の所轄労働基準監督署長に

請求して支払いを受けなければならないので、一時的にせよ経済的な負担を蒙ることになる。

また療養を担当した病院又は診療所としても、個々の傷病労働者から直接費用を徴収することになるため、
勢い種々の不便や煩雑を招き、まれには料金の支払いを受けられない事態も生じかねない。

そこで労災保険では、傷病労働者が、労災病院や都道府県労働局長が指定した病院又は診療所で療養を受けたときは、
その療養に要した費用をこれらの病院等から直接所轄労働基準監督署長を経由して所轄労働局長に直接請求できる方法を講じている。
これはちょうど健康保険法によって定められている保険医療機関制度と同様の制度であり、傷病労働者や病院等がこの制度を利用する
ことによって前記の不便や不都合を免れるばかりでなく、この制度によって労災医療という公的な医療制度を統一的に運用していくことも
できるようになる。

この労災保険指定医療機関の制度は、健康保険のような保険医療機関および保険医という両者の併用方式ではなく、
病院又は診療所そのものを指定する制度になっている。
すなわち、労災保険指定医療機関とは「労働局長が指定した病院または診療所のこと」で労災保険の療養保証給付の96%は
この指定医療機関や労災病院によって行われている。


H13.6月 東京都産業労働局公開資料より
仕事でケガをしたり、病気になるようなことがあると、労働者は生活に困ることになる。
労働基準法は、労働者がもし仕事でケガをしたり病気になった場合は、会社に労働者の療養費を負担すること(労働基準法第75条)
働くことができなくて賃金がもらえないときには、その間の生活を保障するために平均賃金の60%を支払う(同法第76条)などの
補償を行うことを義務づけている。
会社にこのような補償が義務づけられるのは、労働者のケガや病気が、仕事のうえで起こったものに限られるわけであるが、
それが仕事の上のものかどうかの判断が困難な場合も多い。
判断の基準は「会社の仕事をしているときに起こったものであるかどうか」、もう1つは「仕事が原因で発症したものであるかどうか」
ということである。

労働基準法は、仕事によって起こるものとして職業病をあらかじめ特定し、それ以外のものでも仕事に起因することが明らかな病気は
仕事のうえの病気として取り扱うことにしている。(同法第75条第2項、同法施行規則第35条)。
このように、労働者が仕事のうえで災害を受けたときは、会社はその労働者本人に重大な過失がない限り(同法第78条)、
たとえ会社に過失がなくても補償の責任を負わなければならない。
しかし、会社に充分な支払い能力がなかったり、大きな事故で補償額が多額にのぼり、支払いが困難になることもある。
そこで日ごろから会社が保険料を払っておいて、災害が発生したときはそこから補償を行う、というしくみを定めた「労働者災害補償保険法」が
つくられている。


1.労働者災害補償保険(労災保険)の仕組み
労災保険は、業務上の事由または通勤による労働者のケガ・病気、障害または死亡について保険給付を行い、併せて被災労働者の
社会復帰の促進、被災労働者や遺族の援護、適正な労働条件等の確保を図り、労働者の福祉の増進に役立てることを目的としている。
この労災保険の適用を受ける労働者は、労働基準法にいう労働者と同じで、使用従属関係にある人のことをいう。
すなわち労働者であれば正社員に限らず臨時雇、日雇、アルバイト、パートタイマー、嘱託など、雇用形態に関係なく適用対象となる。
但し個人経営の農林水産業で、その使用する労働者が5人未満である事業の一部については、暫定的に任意適用事業とされている。
なお、国の直営事業、非現業の官公庁および船員保険の被保険者については労災保険は適用されない。

このように、労災保険では、農林水産省の一部を除き、1人以上の労働者を使用する全ての事業が当然(強制)適用事業となる。
これら当然適用事業は、事業開始の日、またそれに該当することになった日に、自動的に労災保険の保険関係が成立し、
加入脱退の自由は認められない。
例えば、家族経営だった個人商店が店員を1名採用した場合、事業主が届け出をしなくても、その日に保険関係が成立する。
この保険関係成立後に、労働者が被災した場合には、その事業主がそれまでに労災保険の手続きを行っていなくても、
その労働者は労災保険の法定給付をすべて受けられる。
この保険関係の成立を確認するため、事業主は保険関係が成立した日から10日以内に「保険関係成立」の届け出を行わなければならない。
また、事業主が故意または重大な過失により「保険関係成立」の届け出をしなかった期間中に発生した事故に保険給付がなされた場合は、
その費用の全部または一部の金額を事業主から徴収することになっている。


2.通勤災害について
通勤災害とは労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡をいう。
この場合「通勤」とは、就業するために、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法で往復することをいう。
往復の経路を逸脱し、または往復を中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の往復は「通勤」とはならない。
ただし、逸脱または中断が日常生活上必要な行為であって、やむを得ない理由(例えば、日用品の購入や病院・診療所で
診療や治療を受ける場合など)で行う最小限のものである場合は、逸脱または中断の部分を除き「通勤」となる。

3 給付の内容
@ 療養(補償)給付−業務災害または通勤災害によるケガや病気が治るまで、無料で治療が受けらる。
  治療は原則として労災病院、、労災指定病院で受けることになる。ほかの病院で治療を受けた時は治療費の全額が払い戻される。

A 休業(補償)給付−業務災害または通勤災害による傷病の療養のために働けず賃金がもらえないときに、
  働けなくなった日の4日目から、給付基礎日額の60%が支給される。そのほかに、休業特別支給金として同じ4日目から、
  1日につき20%に相当する額が支給される。なお、業務災害による休業では、最初の日から3日間の分は労働基準法に基づいて
  会社が60%分を補償する。

B 傷病(補償)年金−療養を開始してから1年6か月を経過しても、業務災害または通勤災害によるケガや病気が治らず、
  その傷病が労働省令で定める傷病等級に該当し、なお引き続き相当の期間療養を必要とするときに支給される。

C 障害(補償)給付−業務災害または通勤災害によるケガや病気が治っても障害が残った場合は、その程度に応じ
  障害補償年金あるいは障害補償一時金、また障害特別支給金が支給される。

D 遺族(補償)給付−業務災害または通勤災害により死亡した場合は、遺族補償年金、あるいは遺族補償一時金が支給される。
  そのほかに遺族特別支給金が支給される。

E 葬祭料−業務災害または通勤災害により死亡した労働者の葬祭を行うときに支給される。

F 介護(補償)給付−一定の障害により傷病(補償)年金または(補償)年金を受給し、現に介護を受けている場合に支給される。






「何となく労災保険」に戻る