My favorite classic numbers その12
76:Johannes Brahms
演奏:Alexandre Kantorow (Pf)
録音: 2021 レーベル:BISA B
A:Johannes Brahms 録音:2021 SACD レーベル:BIS
1-4:Four Ballades
5-7:Piano Sonata No.3
8:Chaconne(Bach) ( for left hand)B:Saint-Saens 録音:2019 SACD レーベル:BIS
1-3:Piano Concert No.3
4-5:Piano Concert No.4
6-8:Piano Concert No.5 L'Egyptien最初の曲 バラード1番が始まった途端の驚き、異様にゆっくり始まるテンポ・音の間にある
闇のような緊迫感・ブラームス特有の重音の美しさ。いきなりカントロフの世界にのめり込む。
2019年のチャイコフスキーC ピアノ部門で、藤田真央を退けての優勝がどれほどのものであるのか
興味があった。そしてその答えはこの曲の始まりだけで十分理解した、というより打ちのめされた。
これが若干24歳の演奏か? 父ジャン・ジャック・カントロフ、仏の名バイオリニスト兼指揮者の血と
教えを受けたとはいえ、そんな奴は山ほどいる。アシュケナージの息子もやはりピアニストだが、
父を越えるとは到底思えない。テクニックだけでいうのなら、最近の20歳は皆うまい。ショパンCの
覇者B.Liuも、クライバーンCを制したY.Limも、日本の亀井聖矢もすでに指折りのテクニックを
持っている、けれどもやっぱり20歳の演奏なのである。一生懸命ピアノを弾いている。
カントロフはピアノを弾いていない、楽譜を弾いていない。曲を弾いている、ブラームスがそこに
居る様に(そういう所は藤田も似ている)。もっというなら、彼はブラームスの楽譜から
インスパイアーされ、それを自分の中に一度取り込んで成熟したものが湧いてきた、そんな自然の
発露を、最高のテクニックで表現している。故に、聞き慣れた曲でも新鮮な驚きを持つ。
「ああこの曲はこんな色を持っていたんだ」とか。特に奇抜な演奏をしているわけではない、
しかし彼の演奏にはいつも新しい発見がある。人はそれを天才と呼ぶ。 そのカントロフが再び
日本に来るということで、無理を承知でチケットを買った。どうしても生カントロフをこの耳で
確認しないではいられなかった。その日の大阪シンフォニーHは70%の入りだった。アンコールの
最後までいることは叶わないと踏んでいたが、最終列車で帰途に着くためには致し方ない。
結局アンコールの最初の1曲を聴いて席を立ったが、アンコール全5曲の最後2曲が、この
バラード(2番・1番)であったと知って、残念な思いを深めた。それにしてもこの日の演奏曲の並びは
「これはないな」と思うほどに暗い曲の連続。もっと派手な曲を並べれば、客の入りも増えるであろうに、
そうしないところが只者ではない。 このCDの前年に出たCD「ブラームス1」もいいけれど、次なるお薦めは、
父と共に演奏している自国サンサーンスの「Pコンチェルト3-5」。同曲を聴き慣れている人には、
3番ってこんなに素敵だった?と思うのでは、そういうところが天才たるところ。 2022.7.3175:レスピーギ ピアノ曲
演奏:Konstantin Scherbakov(Pf)
録音: 1998 レーベル:NaxosA B
A:レスピーギ ピアノ曲 Pf:Konstantin Scherbakov Naxos 1998
リュートのための古風な舞曲とアリアより
1.オルランド伯爵からの小舞踏曲 2.ヴィラネッラ
3.ガリアルダ 4.イタリアーナ 5.シチリアーナ
6.パッサカリア 7.パリの鐘 8.ベルガマスカ
ソロピアノのための6つの小品
1.優しいワルツ 2.カノン 3.夜想曲
4.メヌエット 5.練習曲 6.間奏曲・セレナータ
ソナタ
グレゴリオ聖歌による3つの前奏曲B:レスピーギ:ボッティチェリの3枚の絵 ERATO 1987
指揮:クラウディオ・シモーネ イ・ソリスティ・ヴェネッティ
1:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
2:組曲「鳥」
3:ボッティチェリの3枚の絵
4:リュートのための古風な舞曲とアリア 第1組曲「ローマの松」で知られるレスピーギだが、個人的には「リュートのための・・」が
気にいっている。この曲は普通、オケまたは弦楽で演奏される。クラウディオ・シモーネ
指揮のCD「B」が艶っぽい演奏として評価が高いので、並べて試聴されてみてはどうだろう。
中でも切ない調べを持つ「シチリアーナ」はいろいろなジャンルの演奏でカバーされ、どこかで
聴いたことがある(いや実はそうでなくても知っている気分に浸れる)ノスタルジックな曲である。
ここで聴くのは、そのピアノバージョンなのだが、ピアノver.はどんなものか、
「リュートのための・・」をよく知る人ほど、逆にピアノver.のイメージが湧かないかも
しれない。私はピアノver.もアリかなと思えるが、聴き比べて思うことは、弦楽では音が
繋がっており、ピアノは1音1音が切れているということ。えっ、今更??と言われかね
ないが、リュートのための・・・は音の繋がりが優美さの底辺にある曲だから、その違いが
一層強く感じられるのかもしれない。なのにあえてピアノ?となるのだが、前口上は置いて、
まずはご試聴あれ。K.シチェルバコフのタッチが美しく響き、艶っぽくはないが、優しく
そばで寄り添ってくれる、聴くほどにクセになる癒しの楽曲である。
このアルバムを先に聴けば、えっ本来は管弦楽曲なの?と思えるほどに馴染んでくる。
タッチも雰囲気も異なるが、後に続く「6つの小品」も「ソナタ」も同様に優しく美しい。
「グレゴリオ聖歌・・・」に至っては、これまたピアノで?と思うかもしれないが、
ダイアモンドダストを音で表現したような透明な輝きに包まれる。このCD2枚とも
極めて安価なので、騙されたと思って手にしてみてはいかがか。なお、参考までに
「リュートのための・・」はレスピーギが「管弦楽」のために書き直した曲であって、
「リュート」のために書かれた楽曲ではない。 全曲を聴きたければ、我らが小沢・ボストン
交響楽団による演奏があるが、残念ながらあまり評判が高いとは言えない。 2022.3.10
74:Domenico Scarlatti Sonaten
演奏:Ivo Pogorelich (Pf)
録音:1992 レーベル:GrammophonA) B) C)
A) Domenico Scarlatti Sonaten
演奏:Ivo Pogorelich (Pf)
録音:1992 レーベル:Grammophon
K1.8.9.11.13.20.87.98.119.135.159.380.450.487.529何度聴いても美しい。何枚ものスカルラッティを聴きつないで、もう一度ポゴに戻ってきて思う。
いつものことながらかなりゆっくりなのだが、メリハリと躍動感があるので、全く退屈しない。
スローな分、1音1音の粒立ちがくっきりと浮き上がって音の表情が鮮やかにそして豊かに伝わって
くる。実に軽快で、彼の演奏だけを聴けば遅い感じは全くしないが、同じ曲を他の人(特に最近)の
演奏で聴き慣れていると遅さが際立つ。速さというのは慣れもあるのだが、もうそれだけで絶対に
受け入れられなくなってしまう要素を持っている。Gグールドのモーツァルトを聞けば、速度の
大切さがわかる。同じように弾いても、速さによってそれだけで別の曲になってしまう。
ラフマニノフのPコン3をアシュケナージとZコチシュで聞き比べれば誰でも同じ印象を持つ。
一般にゆっくりだと情感がこもるが重くなり、速いとドライであっさりした印象に変わる。
しかしながらポゴのCマイナー(K11)を聴いてみよう。こんなに遅いのにとても軽やかで爽やか
である。それはひとえに彼のタッチの鋭さとしなやかさに起因している。1992年の演奏だが
いささかも古びた感じはない。録音もとても秀逸で、彼の鮮やかなタッチを克明に伝えてくれる。
何度聴いても聴き惚れてしまう病みつきのスカルラッティがここにある。ホロヴィッツがなんだ。
聴き比べるとその差は歴然としている。B) Scarlatti Piano Sonatas
演奏:Aldo Ciccolini (Pf)
録音:1962 レーベル:EMI classics
K1.9.64.87.159.239.259.268.377.380.406.432.492スカルラッティは生涯で555曲ものキーボードソナタ(元々はチェンバロのために創られたもの)を 作曲し、
スコット・ロスをはじめとした多くのチェンバリストによる優秀な録音があるが、私個人は現代ピアノで
弾いてくれたものの方が好きである。3-4分で終わる比較的短くシンプルな曲がほとんどだが、その
メロディーの多彩さからか、シンプルゆえの応用幅の広さからか、名だたるピアニストたちが競って
弾いている。そのため、様々なスカルラッティを聴くとができるが、その味付けは千差万別 である。
ホロヴィッツのスカルラッティ好きはつと有名で、大曲の合間やアンコールによく彼のソナタを用いた。
彼の演奏はどこか哀しみを含む、対してミケランジェリの演奏はよりデリケートで淡彩 である。
チッコリーニの演奏はゆっくりだが、明るくリズミカルで情緒的と言っていい。スカルラッティのソナタを
初めて聴く方に薦めるとすれば、このチッコリーニ盤がいいのではないか。録音は古い、なんと1962年である。
しかし今購入できるCDはリマスターされたもので、雑音もなくクリアーな美色は1962年の録音とは思えない。
購入に際し録音年代を気にする必要は全くない。むしろ本当に原音なのか?と訝しんでしまうほどに現代の
再生機器に対応できている。曲の選択もポゴ、チッコリーニともにとても良い。最後の曲(K1)は珠玉 が
掌からポロポロとこぼれるような素敵な音色で、チッコリーニの音色の美しさを端的に示している。
このCDの1番の問題点は、全555曲あるナンバリングが他のCDがK表示であるのに対してL表示であることである。
対照表が欲しい人には以下のHpを参照いただくと良い。
https://www.ne.jp/asahi/music/marinkyo/scarlatti/referenco.html.jaC) Scarlatti Keyboard Sonatas
演奏:Mikhail Pletnev (Pf)
録音:1995 レーベル:EMI/Virgin Classics
CD1: K1.3.9.17.24.27.213.214.247.283.284.380.404.443.519
CD2: K8.11.25.29.87.96.113.141.146.173.259.268.386.387.520.523そして以前紹介したプレトニョフの演奏を再びお話ししたい。例えばK24、彼の演奏は上手いし、とても
速く正確だ、強弱も緩急もくっきりしている。その解釈が独特であるので好き嫌いが分かれるかもしれないが、
音色も打鍵も本当に多彩で、スカルラッティの書いた音符を通して、ピアノという楽器はこんな音が出せるんだよ、
こんな表現ができるんだよという事を教えてくれる、そんな教科書のような演奏である。ドライな演奏が多く、
ポゴを聴いていて感じる陶酔感は持ち得ないが、1曲ごとに表現される彼独特のアプローチが面 白く、
BGMにはなりにくい。こちらも録音は秀逸で、彼の表現がダイレクトに伝わって来る。1995年の録音(2枚組)
である。できればこれらの曲を、彼の愛するピアノ「カワイ・シゲル」で弾き直してもらえたら、ありがたい。
彼の浜松での「カワイ・シゲル」によるリサイタル、唯一曲のアンコール曲K9を聴きながら思った。
彼はスカルラッティのソナタを納得のいく音色で弾くことができるピアノを探していたのではないかと。スカルラッティ 次回も続きます
No.73 Hilary Hahn plays Bach
演奏:Hilary Hahn (Vn)
録音:1996-97 レーベル:Sonya) b)
a) Hilary Hahn plays Bach
演奏:Hilary Hahn (Vn)
録音:1996-97 レーベル:Sony
1.Partita 2
2.Partita 3
3.Sonata 3
きょうはソニーから1997年に発売されたヒラリー・ハーン17歳のデビューアルバムついてお話ししたい。
バッハのパルティータ、いったい何人の演奏を聴いてきたであろうか、だからこそかもしれないが、初めて
聴いたハーンの演奏の1曲目から、私はその新鮮さに心が震えるほどの感動を覚えた。決して技巧に優れて
いるわけではない。しかしながら、これほど清らかに混じりけもない透明なパルティータがかつてあったで
あろうか。野球でいうなら、ストレートしか投げない投手のそのストレートが極めて魅力的であるといえば
分かっていただけるであろうか。多分、もう少し技巧を凝らすことも、速く弾くことも、自分の色を出す
こともできるであろうに、その全てを封じ込め、ただ清らかにひたすら清らかにバッハを弾ききる。バッハの
美しさを極限までに前面に押し出せば、聴く側は評価をするのではなく、その音の中で清められ、神の前に
跪く心持ちに至る。そんな心持ちにさせる演奏というのは、そうあるものではない。17歳にして・・・である。
いや17歳だからこそなし得る業(わざ)かもしれない。邪心なく、ひたすらバッハの曲の美しさを信じ、
それを描ききることだけに全神経を注いだ天才少女の奇跡の1枚というところか。
尊敬するGクレーメルのソナタ・パルティータのアルバムとは真逆の演奏、ハーンのソナタ・パルティータが
ボヘミアンカットグラスにたとえるなら、クレーメルのそれはさながら備前焼きというところか
その究極のパルティータは真逆の味を持つにもかかわらず、どちらも 限りなく素晴らしいから不思議だ
その後のハーンの活躍ぶりは みなさんの知るところであり、そのテクニックの確かさも確立してゆくので
あるが、この1枚はその後の 素晴らしい数々のアルバムとは次元の異なるものとして、永遠に語り継がれて
ゆくにちがいない。b) Hilary Hahn plays Bach
演奏:Hilary Hahn (Vn)
録音:2012-17 レーベル:Decca1.Sonata 1
2.Sonata 2
3.Partita 1
20年の歳月を経て、ハーンの信者たちが待ちに待ったバッハのパルティータとソナタの残された半分の曲を
録音したアルバムがデッカから発売された。しかし、時は経ち過ぎていた。私はこの残りの3曲を聴いて、
技術的にも精神的にも成長した女性のこれまた美しい演奏を歓迎する。前のアルバムより色がつき陰が付き、
複雑さが増し、味のある演奏に進化している。にもかかわらず万人を感動させないのは、無垢の清らかさが
失われたように感じられるからだ。歳が経てば、どうしても「私はこう弾きたい」がでてくるに決まっている。
ハーン節が出てこないわけがない。20年前に弾いた純真無垢な演奏は稀有なものであり、同質なものを
20年後のプロとしての彼女に期待することは逆に難しい。ずっと成熟した演奏がそこにあり、聴くに値する
構成と色彩と陰影が存在する。それ以上何を望もう。彼女の20年の歩みを、演奏を通 じて楽しもうではないか。
Gグールドがゴールドベルク変奏曲を2回録音し、その2枚がそれぞれに魅了的であるように、20年という
時代を経た2枚の違いを極上のワインでも飲みながら楽しむのが贅沢というものではないか。
No.72 Rachmaninov, Chopin: Cello Sonatas
演奏:Alisa Weilerstein & Inon Barnatan
録音:2014.11 レーベル:Decca
1-4:ラフマニノフ チェロソナタ Op.19
5 :ラフマニノフ ボーカリーズ Op34-14
6-9: ショパン チェロソナタ Op.65
10 :ショパン 練習曲 Op25-7
11 :ショパン 序奏と華麗なるポロネーズ Op.3
大好きなラフマニノフのチェロソナタ。それゆえ何度も聴いている曲なのに、
このアルバムを聴き始めた途端に「何だ、これは!」まずはデッカの音質の
良さが飛び込んでくる。細部までライブを感じさせるリアルな響き、しびれる
ようなチェロの振動、宙にばらまかれたピアノの音の粒つぶ。次に目を見張るのは、
テンポの自在さ。伸びる伸びる、何としなやかな高音。それにぴったりと寄り添う
ピアノ。しなやかに宙を舞いながらも、自由闊達に弾いているようで、ワクを
外さないチェロの緻密さ。寸分のズレなく呼応するピアノの技術的な凄さも
見過ごせない。この曲のピアノパートの難しさは半端ではない。第一楽章を
聴くだけで、それらは全て集約されているのだが、第4楽章ではそれが一気に
弾けて宙を舞う。舞い上がった花火の競演が終焉を迎えた最後の静けさの中から、
ふっとボーカリーズのメロディーが中央に灯る。たまらない美しさ。2010年、
40年間の禁を破ってエルガーのチェロコンを振ったバレンボイムが世に放ったのが、
このチェリスト:ワイラーシュタイン。このデビューアルバムのお話は次回に。
本日紹介のアルバムはCDデビューから3年目、ワイラーシュタイン4枚目となる。
同じユダヤ系ながらWSが絶大な信頼を置くバルナタンとの共演。あまり有名でない
彼だが、先日その東京公演に運良く立ち会うことができた。その時の感動は忘れ
られない。大きなコンクールでの賞もないゆえ、知名度で劣る彼だが、聴いて
びっくりのテクニック。これはこのアルバムを聴いていただければわかることだが、
是非ソロコンサートをお勧めしたい。あの小柄な体格のどこからパワーが出る
のかと思うほどに緻密でかつダイナミックな演奏を聴かせてくれる。現時点での
うまさは、世界でも指折り(片手)、もっと評価されてもいいと思う。彼が見事に
支えてくれて、ワイラーシュタインは本当にその上でのびのびと弾く。歌がある。
その歌が本当にうまい。そして、ずっと一緒にやってきたかと思えるほどの阿吽の
呼吸! 聴いているだけでハッピーになるのだが、いやーこんなことができたら
いいなあと聴くたびに思えてしまう、2つのソナタの終楽章を聴き終えた時に
いつも抱く私の感想である。この2つのチェロソナタが好きな方には是非!
これを聴くと他の演奏は聴かなくなるかもね。
これほど褒めたら聴いてみたくなったでしょ! R2.10.8記載
No.71 Violin Encores Mayuko Kamio(初回生産限定盤)
演奏:Mayuko Kamio (Vn), Miroslav Kultyshev (Pf)
録音 2014年 レーベル: Sony RCA1:剣の舞 ハチャトリアン(ハイフェッツ編)
2:夢のあとに フォーレ(バッハマン編)
3:妖精の踊り バッジーニ
4:青春は遠く過ぎ去り チャイコフスキー(Lアウアー編)
5:熊蜂の飛行 R-コルサコフ(ハイフェッツ編)
6:愛のあいさつ エルガー
7:ヴォーカリーズ ラフマニノフ(Mブレス編)
・・・・
26:官兵衛紀行 菅野祐悟神尾の弓裁きは驚くほど力強い。素早く弾かなければならないところでも、
決して弦を上滑りしていくような弾き方をしない。彼女ほど絶えず切れた蔓の断端を
引きちぎっているヴァイオリニストを見たことがない。それだけ蔓と弦の接触が強く、そのため
音が太く、深い。それでもって超絶技巧をやっちゃう所がすごい。超絶技巧を凝らした選曲を
涼しい顔で弾く。難しさが表情に出なくなるまで、とことん練習しているのだろうと思う。
平気な顔で弾くという意味では、まだまだ上がいるが、技巧も表現力も兼ね備えた演奏を、
これでもかと魅せてくれるのがこのアルバムである。1曲目の「剣の舞」からいきなり
パワー全開、と思えば次の「夢のあとに」は森の奥に誘われるように深く静かに弾く。
そして最高難度の「妖精の踊り」でこれでもかとうならせる。「妖精の踊り」を彼女より
速くかつ正確に弾いたのはレーピンくらいしか知らない。そんな感じで緩急交互の演奏が
なんと26曲も。こんなに詰め込まなくてもと思うほど、そしてどの一曲も聴き流せないので、
本当にお腹いっぱいの76分。最後はNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」のエンディングで
演奏した「官兵衛紀行」。神尾の魅力満載のアルバムになっています。
演奏のパートナーは、実生活の旦那様でもあるM.Kultyshev、息のあった優しい援護が憎らしい。
初回生産限定板にはDVDも付いているので、手に入れならこちらがお勧め。 CDが気に入ったら、
ライブもぜひ。日本人ヴァイオリニストの中では、ぶっちぎりの満足度です(衣装を除いて)。
R2.7.26記載
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