My favorite classic numbers その12

No.73 Hilary Hahn plays Bach
    演奏:Hilary Hahn (Vn)
    録音:1996-97  レーベル:Sony

a)  b)
  a) 1.Partita 2
    2.Partita 3
    3.Sonata 3  
きょうはソニーから1997年に発売されたヒラリー・ハーン17歳のデビューアルバムついてお話ししたい。
バッハのパルティータ、いったい何人の演奏を聴いてきたであろうか、だからこそかもしれないが、初めて
聴いたハーンの演奏の1曲目から、私はその新鮮さに心が震えるほどの感動を覚えた。決して技巧に優れて
いるわけではない。しかしながら、これほど清らかに混じりけもない透明なパルティータがかつてあったで
あろうか。野球でいうなら、ストレートしか投げない投手のそのストレートが極めて魅力的であるといえば
分かっていただけるであろうか。多分、もう少し技巧を凝らすことも、速く弾くことも、自分の色を出す
こともできるであろうに、その全てを封じ込め、ただ清らかにひたすら清らかにバッハを弾ききる。バッハの
美しさを極限までに前面に押し出せば、聴く側は評価をするのではなく、その音の中で清められ、神の前に
跪く心持ちに至る。そんな心持ちにさせる演奏というのは、そうあるものではない。17歳にして・・・である。
いや17歳だからこそなし得る業(わざ)かもしれない。邪心なく、ひたすらバッハの曲の美しさを信じ、
それを描ききることだけに全神経を注いだ天才少女の奇跡の1枚というところか。
尊敬するGクレーメルのソナタ・パルティータのアルバムとは真逆の演奏、ハーンのソナタ・パルティータが
ボヘミアンカットグラスにたとえるなら、クレーメルのそれはさながら備前焼きというところか
その究極のパルティータは真逆の味を持つにもかかわらず、どちらも 限りなく素晴らしいから不思議だ
その後のハーンの活躍ぶりは みなさんの知るところであり、そのテクニックの確かさも確立してゆくので
あるが、この1枚はその後の 素晴らしい数々のアルバムとは次元の異なるものとして、永遠に語り継がれて
ゆくにちがいない。

b) Hilary Hahn plays Bach
    演奏:Hilary Hahn (Vn)
    録音:2012-17  レーベル:Decca

  1.Sonata 1
  2.
Sonata 2
  3.
Partita 1

20年の歳月を経て、ハーンの信者たちが待ちに待ったバッハのパルティータとソナタの残された半分の曲を
録音したアルバムがデッカから発売された。しかし、時は経ち過ぎていた。私はこの残りの3曲を聴いて、
技術的にも精神的にも成長した女性のこれまた美しい演奏を歓迎する。前のアルバムより色がつき陰が付き、
複雑さが増し、味のある演奏に進化している。にもかかわらず万人を感動させないのは、無垢の清らかさが
失われたように感じられるからだ。歳が経てば、どうしても「私はこう弾きたい」がでてくるに決まっている。
ハーン節が出てこないわけがない。20年前に弾いた純真無垢な演奏は稀有なものであり、同質なものを
20年後のプロとしての彼女に期待することは逆に難しい。ずっと成熟した演奏がそこにあり、聴くに値する
構成と色彩と陰影が存在する。それ以上何を望もう。彼女の20年の歩みを、演奏を通 じて楽しもうではないか。
Gグールドがゴールドベルク変奏曲を2回録音し、その2枚がそれぞれに魅了的であるように、20年という
時代を経た2枚の違いを極上のワインでも飲みながら楽しむのが贅沢というものではないか。

 

No.72 Rachmaninov, Chopin: Cello Sonatas
    演奏:Alisa Weilerstein & Inon Barnatan
    録音:2014.11  レーベル:Decca

1-4:ラフマニノフ チェロソナタ Op.19
5 :ラフマニノフ ボーカリーズ Op34-14
6-9: ショパン   チェロソナタ Op.65
10 :ショパン   
練習曲 Op25-7
11 :ショパン 序奏と華麗なるポロネーズ Op.3  


大好きなラフマニノフのチェロソナタ。それゆえ何度も聴いている曲なのに、
このアルバムを聴き始めた途端に「何だ、これは!」まずはデッカの音質の
良さが飛び込んでくる。細部までライブを感じさせるリアルな響き、しびれる
ようなチェロの振動、宙にばらまかれたピアノの音の粒つぶ。次に目を見張るのは、
テンポの自在さ。伸びる伸びる、何としなやかな高音。それにぴったりと寄り添う
ピアノ。しなやかに宙を舞いながらも、自由闊達に弾いているようで、ワクを
外さないチェロの緻密さ。寸分のズレなく呼応するピアノの技術的な凄さも
見過ごせない。この曲のピアノパートの難しさは半端ではない。第一楽章を
聴くだけで、それらは全て集約されているのだが、第4楽章ではそれが一気に
弾けて宙を舞う。舞い上がった花火の競演が終焉を迎えた最後の静けさの中から、
ふっとボーカリーズのメロディーが中央に灯る。たまらない美しさ。2010年、
40年間の禁を破ってエルガーのチェロコンを振ったバレンボイムが世に放ったのが、
このチェリスト:ワイラーシュタイン。このデビューアルバムのお話は次回に。
本日紹介のアルバムはCDデビューから3年目、ワイラーシュタイン4枚目となる。
同じユダヤ系ながらWSが絶大な信頼を置くバルナタンとの共演。あまり有名でない
彼だが、先日その東京公演に運良く立ち会うことができた。その時の感動は忘れ
られない。大きなコンクールでの賞もないゆえ、知名度で劣る彼だが、聴いて
びっくりのテクニック。これはこのアルバムを聴いていただければわかることだが、
是非ソロコンサートをお勧めしたい。あの小柄な体格のどこからパワーが出る
のかと思うほどに緻密でかつダイナミックな演奏を聴かせてくれる。現時点での
うまさは、世界でも指折り(片手)、もっと評価されてもいいと思う。彼が見事に
支えてくれて、ワイラーシュタインは本当にその上でのびのびと弾く。歌がある。
その歌が本当にうまい。そして、ずっと一緒にやってきたかと思えるほどの阿吽の
呼吸! 聴いているだけでハッピーになるのだが、いやーこんなことができたら
いいなあと聴くたびに思えてしまう、2つのソナタの終楽章を聴き終えた時に
いつも抱く私の感想である。この2つのチェロソナタが好きな方には是非! 
これを聴くと他の演奏は聴かなくなるかもね。
これほど褒めたら聴いてみたくなったでしょ!    R2.10.8記載

 

No.71 Violin Encores Mayuko Kamio(初回生産限定盤)
    演奏:
Mayuko Kamio (Vn), Miroslav Kultyshev (Pf)
    録音 2014年  レーベル: Sony RCA

1:剣の舞 ハチャトリアン(ハイフェッツ編)
2:夢のあとに フォーレ(バッハマン編)
3:妖精の踊り バッジーニ
4:青春は遠く過ぎ去り チャイコフスキー(Lアウアー編)
5:熊蜂の飛行 R-コルサコフ(ハイフェッツ編)
6:愛のあいさつ エルガー
7:ヴォーカリーズ ラフマニノフ(Mブレス編)
・・・・
26:官兵衛紀行 菅野祐悟

 神尾の弓裁きは驚くほど力強い。素早く弾かなければならないところでも、
決して弦を上滑りしていくような弾き方をしない。彼女ほど絶えず切れた蔓の断端を
引きちぎっているヴァイオリニストを見たことがない。それだけ蔓と弦の接触が強く、そのため
音が太く、深い。それでもって超絶技巧をやっちゃう所がすごい。超絶技巧を凝らした選曲を
涼しい顔で弾く。難しさが表情に出なくなるまで、とことん練習しているのだろうと思う。
平気な顔で弾くという意味では、まだまだ上がいるが、技巧も表現力も兼ね備えた演奏を、
これでもかと魅せてくれるのがこのアルバムである。1曲目の「剣の舞」からいきなり
パワー全開、と思えば次の「夢のあとに」は森の奥に誘われるように深く静かに弾く。
そして最高難度の「妖精の踊り」でこれでもかとうならせる。「妖精の踊り」を彼女より
速くかつ正確に弾いたのはレーピンくらいしか知らない。そんな感じで緩急交互の演奏が
なんと26曲も。こんなに詰め込まなくてもと思うほど、そしてどの一曲も聴き流せないので、
本当にお腹いっぱいの76分。最後はNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」のエンディングで
演奏した「官兵衛紀行」。神尾の魅力満載のアルバムになっています。
演奏のパートナーは、実生活の旦那様でもあるM.Kultyshev、息のあった優しい援護が憎らしい。
初回生産限定板にはDVDも付いているので、手に入れならこちらがお勧め。 CDが気に入ったら、
ライブもぜひ。日本人ヴァイオリニストの中では、ぶっちぎりの満足度です(衣装を除いて)。
                            R2.7.26記載

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