My favorite classic numbers その11

No.70 Schubert: The Late Piano Sonatas
     演奏:Paul Lewis
(Pf)
    録音 2002&2013年  レーベル: Harmonia Mundi

 

写真左
【CD1】 2013年録音
  1) Pソナタ 14番 イ短調 D.784 2) Pソナタ 19番 ハ短調 D.958
【CD2】 2002年録音
  3) Pソナタ 20番 イ短調 D.959 4) Pソナタ 21番 変ロ長調 D.960

しばらくこのエッセイをおさぼりしていたが、決してサボっていたわけでも、忘れて
いたわけでもない。ましてや聴くのをやめてしまったわけでもない。この書いて
いなかった月日の中で、新しいシューベルトをたくさん聴かせていただいた。
今日はポールルイス。若手シューベルト弾きとして聴き飛ばすことのできない一人である。
2002年録音のCD2から聴いて見る。まずは20番、緩徐楽章では、どうすると同じ
ピアノからこれほど哀しい音色が生まれるのかと思うほどに、変わって第3楽章は
軽快なステップを踏みながら、終楽章の主旋律はシューベルトにしか書けないキャッチーで
メロディアスな曲を、どれもPルイスは張りつめた美しい音色で清流の如く弾いていく。
どこまでも正鵠に、ぶれることなく、よどみない演奏、強いて我儘を言うなら、もう
少し溜めが欲しいとか、速度の抑揚がもう少しあってもいいかなあと思う箇所もあるが、
聴けば聴くほどに、そこに演奏者の存在を感じさせない自然体の演奏で、メロディーが
すーっと心の中心を流れてゆく。激しいところは激しく、穏やかなところは心に沁みる
ほどに、そして哀しい旋律は心をえぐるほどに。Pソナタ19-21番は2つの即興曲集と並んで、
シューベルトの中で最も多く演奏されている楽曲。こと21番となれば、腐るほど多くの
録音が残されており、それだけに歴史上名だたる演奏のトップであることは難しい。
21番第1楽章半ばからの心憎いまでに澄んだピアニッシモ、緩徐楽章のこれまた切なく
澄んだ響き、第3楽章冒頭の透明感のある粒だった音符たちの流れ、そして鮮烈な
最終楽章へこの清流は引き継がれてゆく。この21番は間違いなく 最上位の音楽である。
  CD1はこの演奏から9年後の14番と19番の再録音。15番レリークと並んでこれも
シューベルトにしか書けない音符の並びで始まる14番第1楽章、名曲の誉れ高い緩徐楽章、
一転して白露が弾けて広がるような印象を持つカノン様式の第3楽章、この終楽章は隠れた
名曲の1つと個人的に評価している難曲だが、ルイスは、激しくも哀しげなこの曲を透明感
あふれる音色と凛としたたたずまいの演奏で魅せてくれる。心が洗われるようだ。
そして私の好きな19番、最初から嵐のような激しい始まりの第1楽章、一転のどかな緩徐楽章、
美しい旋律の第3楽章から引き継ぐ形で始まる終楽章はシューベルトの全楽曲の中でも最も
激しく美しい大曲。いかに弾くかで演奏者の見せ所とも言えるこの曲をルイスはダイナミックに
感情を込めつつも流れるように弾いていく、素晴らしい。Pルイスと言う男、CDジャケットの
顔写真と名前から(勝手に)察するに、やんちゃな性格かと思いきや、コンサートで見る
ルイスは作務衣を着た修行僧を思わせるシャイで寡黙な男であった。 つらつら書いてみたが、
まずは何も考えず、夜更け誰にも邪魔されないひと時を選んで、(昔風に言うなら)そっと
レコード盤に針を落とし、静かに始まりの時を待つ。日中の出来事は遠くに消え、ただ
シューベルトの音が広がる空間に身を沈める。聴こえてくるのはポールの演奏ではない、
シューベルト自身の世界である。この瞬間を幸福と呼ばず、何と表現しよう。体験あれ。

もし興味があれば 下記もどうぞ、これまた激しく、しっとりと、詩的な色をより濃く・・・

写真右
Schubert: Piano Sonatas  演奏:P. Lewis (Pf)  
録音2011年 レーベル: Harmonia Mundi
【CD1】  1) Pソナタ 17番 D.850 2) Pソナタ 18番 幻想 D.894
【CD2】  3) 即興曲 D.899 4) Pソナタ 15番 レリーク D.940 5) 3つの小品 D.946

                                 R2.3.25 記載

 

No.69  Schuman・Liszt・Janacek・Brahms
     Haochen Zhang
(Pf)
     録音
  2016.2 レーベル:BIS



  
1) こどもの情景 シューマン Op.15
   2) バラードNo.2 リスト S.171
   3) Pソナタ 1905年10月1日 街頭にて ヤナーチェク  
   4) 3つの間奏曲 ブラームス Op.117

老練なクンウーパイクから、今回は一転して新生代の旗手になるであろう
中国出身のハオチェン・チャン。2009年あの盲目ピアニスト辻井さんと
ともに2009年クライバーン国際コンクールで19歳史上最年少優勝したピアニスト。
CDで聴いても、生で聴いても皆さんが言うほどに感動しない辻井さんのピアノに
比べて、わたしはこの人の演奏は一目も二目も置く。辻井さん、よく並びの優勝に
してもらえたなあとこのアルバムを聴くと思う。この年にしてこの優しいこどもの情景は
なに?? とろけるような、ホロビッツが晩年モスクワ凱旋公演で弾いた時以上に
柔らかな トロイメライ。一転して美しいが緊迫したリストのバラード、そして切なさが
頂点に達するヤナーチェクのPソナタ「街頭にて」。このヤナーチェクを聴くため
だけでも(余り演奏されない楽曲なので)このアルバムを買う価値があるほどのもの。
死の淵を彷徨するような、死者と秘密の語らいをするような所に追い込まれていく。
そして最後のブラームス、すでにここまで来るとあの世に翔んでしまっている感がある。
全体を通じて賑やかさなどみじんもない、暗いといえば暗いが、美しさ満載の演奏。
決して大勢でポップコーンを食べながら聴くようなものではなく、その対極の
ひとりでどっぷりとその世界に包まれてしまい、そのままあちらの世界に連れていって
くれるような神秘的な演奏、 26歳にして・・・
残念なことにクライバーンコンクールの演奏とこのアルバムを除いて手に入れることが
できるアルバムはないが、ユーチューブではいくつかの演奏を見聞きできる。この人の
演奏時の自己陶酔感は(ランランとは真逆ではあるが)ビジュアル的には好き嫌いがあるが、
ことマイナーな曲(少数派ではなく短調という意味) の美しさ、作品の完成度は
演奏者同様目をつむって聴いてみれば伝わってくる。これだけの演奏ができるのなら、
たくさんとは言わないものの、2年に1枚ずつくらいは新しいCDを出してほしいもの。
レコード会社ももう少しお尻を押してくれるといいと思うのだが、出さないのは
本人が完璧主義だから??? 
コンサートに行けていない、ぜひ行きたい演奏家のひとり 注目です! H31.1.4記載

No.68 Kun Woo Paik plays Gabriel Faure
     Kun Woo Paik
(Pf)
     録音
  2001.7 レーベル:DECCA

   1) 3つの無言歌から 第3番 変イ長調 op.17-3
   2) 夜想曲 第1番 変ホ短調 op.33-1
   3) 夜想曲 第3番 変イ長調 op.33-3
   4) 即興曲 第2番 ヘ短調 op.31
   5) 夜想曲 第6番 変ニ長調 op.63
  
6) 舟歌 第1番 イ短調 op.26
   7) 夜想曲 第11番 嬰ヘ短調 op.104-1
   8) 夜想曲 第13番 変ロ短調 op.119
   9) 8つの小品から 即興嬰 ハ短調 op.84-5
   10) 3つの無言歌から 第1番 変イ長調 op.17-1
   11) 9つの前奏曲から 第2番 嬰ハ短調 op.103-2
   12) 9つの前奏曲から 第7番 イ長調 op103-7
   13) ピアノと管弦楽のためのバラード 嬰ヘ長調(ピアノ独奏版) op.19

クンウーパイク:パリ在住の韓国人「白建宇」今年で71歳、ブゾーニで入選こそしたが、
名だたる冠はない。しかしながら、レコーディングは数多く、一番のオススメはこれ、
フォーレのロマンス・ノクターン・舟歌・即興曲などピアノ小品集。穏やかに弾いて
枯山水の境地に達している。この人の演奏はみんなこんななのかといえば、全く違う。
ベートーベンのピアノソナタ全集も出しているので、一聴していただければわかることだが、
速いパッセージ・激しいリズムなど、時に他のピアニストをしのぐ凄まじい演奏を見せる。
その演奏を知った上でもう一度このCDに立ち返ってみると、この人への印象はガラリと変わる。
この柔らかな演奏の裏に、強い恣意を感じる。優しい演奏家だから、こう弾く・・・ではなく、
フォーレの曲だからこう弾く。ベートーヴェンならこう弾く。老獪な術師の(悪い意味ではない)
狙い澄ました演奏であることが分かる。冒頭の「無言歌」は優しい曲調で、フォーレの曲に
不慣れな聴衆でも自然に引き込まれる、序章としては最適の1曲である。第2曲のノクターン
1番からが本文の始まりで、ここでも抑揚を落とし、スピードも殺し、色すら消して、水墨画の
ような美しいフォーレを表現する。見事な表現力である。アルバム全体のコンセプトが明確で、
選曲、曲順、演奏どれを取っても非常に完成度の高いアルバムに仕上がっており、フォーレの
ピアノ曲を楽しむなら、この1枚!と言ってもいいレベルまで仕上げている。個人的には
ノクターン1番の後半とか、もう少し速くてもいいんじゃないかと思うところはあるものの、
間違いなく玉髄の一枚ではある。最後を飾る曲、バラード Op19はこのアルバムの「トリ」に
抜擢しただけあって、おとなしめながら非常に美しい曲、甘さ控えめのデザートでフルコースを
締めてくれる憎らしいまでの配慮、クンウーパイク、ただものでない。   H30.2.17 記載


No.67 シューベルト:ピアノ作品集成 5枚組
     田部 京子(Pf)
     録音
 1993-2000年 レーベル:DENON

 

  1:ピアノソナタ18番幻想   ピアノソナタ13番
  2:ピアノソナタ19番   4つの即興曲 作品142
  3:ピアノソナタ20番   4つの即興曲 作品90
  4:ピアノソナタ21番   3つの小品
  5:さすらい人幻想曲    楽興の時

   日常、あまりにもその演奏の中に埋もれてしまうと、こうやってコメントを書く
  ことすら恐れ多い。美しいトーンが響く、意表をつくような音は一つもない。
  吟味された、神経の行き届いた、調和のとれた音色の中で、安心して私は眠りにつく。
  いや、この曲を聴くと退屈で眠くなるという意味ではない。眠りに誘われたい時に
  選ぶアルバムは二つ、1つはアムランの弾くメトネルのピアノソナタ、そしてもうひとつが
  この田部さんが弾くシューベルト。シューベルトの有名演奏どころを全部聴取してきても、
  いつも手にするのは田部さんのこのCD。13番/18番(幻想)/19番/20番/21番/
  さすらい人幻想曲、そして2群の即興曲と続くこのセット、買ってからいったい何回
  聴いただろうか。今まで21番は聴く機会こそ多かったが、どの演奏もこれぞと思った事が
  なかった。自分としては19番/20番のほうが好きだし、長くて重い感じの21番は敬遠
  していたのだが、田部さんの演奏をきくにつけやっぱりすばらしい曲なんだと聞き慣れた
  メロディーに驚きを重ねる。この21番の演奏はブラインドによるこの曲のベスト演奏に
  選ばれたこともあるらしい。弾かれる事の多い21番の、歴代の大ピアニストを押しのけての
  名誉だが、そうだろうと納得の話でもある。13番/18番(幻想)のCDもこの上なく美しい。
  19番/20番の緩徐楽章は言うにもがな、他の演奏家とどこが違うのだろう、この演奏は
   「猫にまたたび」ではないが、麻薬中毒のように引き寄せられる何かを持っている。
   以前、離島に一つ持っていくなら「ケンプのシューベルト集」と書いた事があるが、
   今なら迷わず「田部さんのシューベルト集」を選ぶ。枚数の違いはあるけれど・・・
   聴かれていない方は一度だまされたと思って、ぜひ聴いてみてください。
   中毒仲間が増えたら、してやったりです。 H29.10.23 記載

No.66 A:「Mendelssohn Songs wothout Words」 
     Andras Schiff(Pf)
     録音 1986年 レーベル:LONDON  

    B:「Mendelssohn Lieder ohne Worte」
     Daniel Barenboim
(Pf)
     録音 1973年 レーベル: Grammophon

     C:「メンデルスゾーン 無言歌集」
     田部 京子
(Pf)
     録音 1993年 レーベル:DENON

A B C

 聴き覚えのある優しい曲が、星を散りばめたように並ぶ小曲集ですが、48曲全曲が揃
うアルバムは案外少ない。ここにあげたCD中でも全曲演奏はバレンボエムのみで、シフ
と田部さんのアルバムは、およそ半分の抜粋になっています。「無言歌集」と銘うつ以上は、
できれば全曲演奏がいいのにと思うのですが・・・ 
メンデルスゾーンの小曲は、自然な優しさ・憧憬・安らぎを特徴としており、その点シフの
おおらかで恣意的なところが全くない演奏は、図らずも作曲者のイメージするような遠き
日の思い出を演出するのに向いています。シフの演奏は昔からよく聴き込んだものなので、
うまいヘタを超えた「標準」となる演奏でした。バレンボイムは尾崎紀世彦ばりの風貌から
予想されるイメージとかけ離れた可愛い音色を出すのに驚愕。こんなに優しい音出すんだ!
じっくり聴き込んで見ると、甘い音色の裏に恣意的な演出が潜んでいるのですが、あまりそ
んな事は考えずに聴くのが良いでしょう。無言歌全曲が欲しいという人には一押しです。
田部さんを聴くまでは、無言歌はバレンボイムで決まり!と思ったほどです。録音の質も
お薦めできます。そして田部さん・・・何という繊細な演奏でしょう。初めて聴いた時は
こまやか過ぎる気遣いが、ファーストクラスに慣れていない一般客に過剰なサービスが与
えられた時のように疲弊してしまいましたが、一度細やかな気遣いに慣れてしまうと、その
サービスは天上の心地良さに変わり、その中にずっと佇みたい。ずっと浸っていたいという
思いに変わっていきます。他は何もいらない。あなたの作る音の中に包まれていたい。
深く深く音の森の中に沈んでいくのです。特に個人的に好きな曲は、19.3 狩の歌、30.1
瞑想、30.6 ゴンドラの歌・嬰ハ短調。ちなみにこのアルバムは、田部さんが一躍トップ
ピアニストとして評価されるようになった記念碑的アルバムでもあります。この体験を
皆様と共有できたら幸いです。   2017.6.26 記載

 

No.65 A:「ブラームス ハンガリー舞曲集」 
     Labeque 姉妹(Pf)
     録音 1981年 レーベル:DECCA  

    B:「ブラームス ワルツ集9「愛の歌」、ハンガリー舞曲より」
     B.Engerer & B.Berezovsky
(Pf) Live
     録音 2011年 レーベル:MIRARE  

A B

A:「ブラームス ハンガリー舞曲集」 
     1-21.ハンガリー舞曲集(4手のための) 全曲 1-21

B:「ブラームス ワルツ集「愛の歌」、ハンガリー舞曲より」
     
1-18. ワルツ集「愛の歌」 Op52a(4手のための)
     19-28. ハンガリー舞曲集(4手のための)1,2,4,5,6,8,11,16,17,21

 ブラームスのハンガリー舞曲集には、一般にオケバージョンが知られていますが、原曲はこれ
ピアノ連弾です。両方を聴き比べてみましたが、オケ盤は仰々しく、重い感じがして好感がもてません。
ピアノ連弾の方が快活で疾走感があって、ずっと素敵だと個人的には思っています。曲は全21番まで
ありますが、有名な5番を筆頭に聞き覚えのある曲は前半に固まっています。全曲揃っている演奏で
文句無しの定盤がなく、色々聴いてみましたが一押しがこれ、ラベック姉妹でしょうか。一昔まえに
これを選択したらミーハーと思われたかもしれません。ラベック姉妹は意外にも
今回初聴きでしたが、
20世紀末には人気を博したデュオで、ルックスとポップス感が受けてコンサートひっぱりだこでした。
この曲も2人の息が ぴたっとあって、全曲飽きずに楽しく聴くことができます。この曲の連弾では
有名どころではMベロフ&JPコラール盤、我らがデュオ・クロムランクなどがありますが、前者は
情緒不足の感が
あり、後者は情緒はいいのですが技術的にすこしもたつきが見受けられます。次の
CDを聴かなければ、ラベック姉妹の演奏はその両方を満たす十分満足のいく一枚で、決して
ブームだけでない素敵な一枚に仕上がっています。

 全曲演奏に拘らなければ、一番のお薦めはエンゲラー&ベレゾフスキー盤です。実にいい。この
上手さはほとんどベレゾフスキーの演奏能力の高さに因るものですが、ふたりの弾き方が全く違うのに
それがプラスに働いている希有な演奏 ライブときいてなおビックリです。互いに違う個性を尊重し
あって初めて成り立つことです。 エンゲラーの多彩で豊かな音色に、ベレゾフスキーのテクニカルな
演奏が乗っかって、それがぴたりとあっている。ハイテクベレゾフスキーが、先輩エンゲラーの楽想に
ぴたりと寄り添って曲を作り上げているのが成功の秘訣であろうと思います。残念なことに全曲でなく、
半分にあたる10曲収録なのですが、でも十分この曲の色気を楽しむことができます。演奏の一部を
ユーチューブで見ることができますが、(年齢を超えた)恋人同士のような仲の良さが伺えます。
こんな相性もいい、テクニックもある連弾のコンサート、生で見たかったなと思います。残念ながら
エンゲラー2012年に他界してしまいましたので、もはやその夢はかないませんが、このアルバムは
2011年録音ですから本当に最後に近い物となります。この盤にくわえて、ぜひユーチューブで
画像でもご堪能いただければと思います。  2017.5.12 記載

No.64 「Ravel」 
     Roger Muraro(Pf)
     録音 2003年 レーベル:Musiques

CD1
01:前奏曲
02-07:クープランの墓
08-10:ソナチネ
11-13:夜のガスパール
14-18:マ・メール・ロワ

CD2
01:亡き王女のためのパヴァーヌ
02:水の戯れ
03-07:鏡
08:グロテスクなセレナーデ
09:古風なメヌエット
10:ハイドンの名によるメヌエット 
11:ボロディン風に  シャブリエ風に
12-19:高雅にして感傷的な円舞曲
20:ラ・ヴァルス

 前項デュモンやロルティのラヴェルはこの上ない素晴らしいものだと思いきや、このムラロの
CDを聞いてびっくり、まず驚くのは音色の持つ色気。パリのお洒落な空気が漂うこの演奏は、
他の人と何が違うのだろう。ピアノの音はどちらかというと細く、ショパンやベートーヴェンには
向いていない。ラベル・リストにピッタリな感じだが、この人の18番はメシアンらしい。
ラヴェルの1群の曲の中でいつも評価に使われるのが、スカルボとラ・ヴァルスであろう。
ムラロのスカルボはもちろん上手いのだが、ポゴレリッチのそれに比べて繊細すぎてオドロ
オドロしさが足りないかもしれない。びっくりするのはパヴァーヌ、もちろんいい曲なのだが、
一群のピアノ曲の中では一番簡単な一つで、こんなの誰が弾いても差が出ないだろうと思っていた
自分に反省。マ・メール・ロワも同様、箸休め的に思っていたこれらの曲が驚くほどの色香に
染まって、うっとりさせられる。タッチの違いでこんなにも変わるものだと感心至極。
クープランしかり、ソナチネしかり、ラヴェルの描いたスコアを最も素敵な形で表現してくれる、
我々はそこに居合わせるだけでいい。そのほとばしる音の泉を全身で享受できる。その音の中に
佇むだけで幸せを感じることのできる音楽はそう多くない。フランス人の作った歌をフランス人が
奏でた香り満載のアルバムと言っていい。この香りを表現してくれたピアニストは過去において
フランソワぐらいではないだろうか。無論、演奏の正確さはムラロの方が格段に上だが・・・
                           2017.3.15 記載

 

No.63 「Ravel Complete Piano Music」 
     Frncois Dumont(Pf)
     録音 2012年 レーベル:Piano Classics

 CD1  1-5: Miroirs 鏡
     6-8: Sonatine ソナチネ
     9:
Menuet en ut diese
     10:Menuet antique 古風なメヌエット
     11: ハイドンの名によるメヌエット
     12-17
: Le Tombeau de Couperin クープランの墓
     18: Prelude 前奏曲

 CD2  1-3: Gaspard 夜のガスパール
     4: A la mainere de ...Chabrier シャブリエ風に
     5: A la mainere de ...Borodine ボロディン風に Menuet sur le nom d'Hydn 
     6: Jeux d'eau 水の戯れ
     7: Serenade grotesque グロテスクなセレナーデ
     8: La Parade パレード
     9-16: Valses nobles et senntimentales 優雅で感傷的なワルツ
     17: La Valse ラ・ヴァルス
     18: Pavane 亡き王女のためのパヴァーヌ

もう少しラヴェルでおつきあい下さい。Lortie盤についで、ラヴェル全曲演奏シリーズです。
見事な演奏・見事な録音・そして見事な並び順、完璧です。Lortie盤に満足していると、こういう
新しい素晴らしい演奏を聞き逃してしまうかも。演奏者はフランス出身のフランソワ・デュモン、
優秀な演奏者が揃ったと言われる前々回のショパンコンクール入賞者である。 それにしても
優勝者ではないし、これを聴く前は良い評価をされている人が居ても 、どうしてもたかをくくって
しまいますが、若いのにどうしてどうして、この進化ぶり・完璧ぶりはすごいです。ラベルピアノ盤
1枚選べといわれるとこれでしょう。Lortieの演奏と比較すると、華やか繊細で、聴くものを魅了する。
良い意味での線の細さは最高級、色気もいっぱいだが、決して色気に溺れているような演奏ではない。
ガスパールのスカルボ4分過ぎ位の演奏がいまいち引っかかることを除けば、演奏はほぼ文句無く、
しなやかに弾いているので 、BGMとしてもうるさくない。近年の録音技術はますます向上している
ので、音きちにとってもいいアルバムだと思います。 鏡で幕をあけ、ラ・ヴァルスで幕を閉じる。
いいですね、そして眠りにつく前にお休みのアンコール曲がパヴァーヌ としゃれている。
                               2016.12.28記


No.62 「Ravel's Complete Works for Solo Piano
」 
     Louis Lortie(Pf)
     録音 1988年 レーベル:Chandos



 CD1  1: Pavane 亡き王女のためのパバーヌ
     2-7: Le Tombeau de Couperin クープランの墓
     8
: Serenade grotesque グロテスクなセレナーデ
     9: Jeux d'eau 水の戯れ
     10-17: Valses nobles et senntimentales 優雅で感傷的なワルツ
     18: La Valse ラ・ヴァルス

 CD2  1-3: Gaspard 夜のガスパール
     4: Menuet antique 古風なメヌエット
     5: Menuet sur le nom d'Hydn ハイドンの名によるメヌエット
     6: A la mainere de ...Borodine ボロディン風に
     7: A la mainere de ...Chabrier シャブリエ風に
     8: Prelude 前奏曲
     9-13: Miroirs 鏡
     14-16: Sonatine ソナチネ


ラベルのピアノ独奏全曲録音は、CDの2枚組でちょうど収まるという、発売元にとっても、
弾く側にとっても好都合の事情もあって、歴代のピアニストもよく録音されている。
その全部を聴いた訳ではないが、その中でも傑出したものと言えば、このロルティ盤であろう。
ファツオリという、結構きらびやかな音が出るピアノにしては、決してきらびやかではない。
本当に渋く、基本に忠実に、(いい意味での)音の教科書があるとすれば、こうでしょうという
感じ。でも音は研ぎすまされて美しい。 早さも、間隔も、強弱も、タッチもこれしかないでしょう
と思える王者の演奏。その上に録音も良い。最近、またいくつかラベルのピアノ独奏全曲の
素晴らしい演奏がいくつかできてきていますが、ポリーニが練習曲(ショパン)の礎となった
演奏を残してくれたように、このCDが最近の演奏の礎になったことは間違いありません。
なんと予想外にパバーヌから始まります。1枚目の最後が、圧巻のヴァルス 。2枚目の頭が
ガスパールで、ラストが鏡〜ソナチネという変わった布陣。
パバーヌ・・もっと可愛くっても
いいんじゃない? 鏡ももっときらきらしてもいいんじゃない? ヴァルスもっと激しくても
いいかも。でもヴァルスの大切なことは、ワルツのリズムが底辺に崩れずに流れ続けること。
けばいヴァルスはいっぱいあるけれども、ワルツのリズムが一貫して聞こえてくる演奏はそう
多くない。何回も聴いていると、どの曲も本当に基礎が安定していて、耳応えがいい。不要な
きらきら音すぎる鏡も、感情過多のパバーヌも、おどろおどろ過ぎのスカルボも無い変わりに
ぶれない美しい品のいい薄化粧のラベルがそこにある。ラベルのピアノ演奏の範としても
お薦めです。ただひとついただけないのは、ジャケットの写真くらいかな。本人の顔に
クレームをつけているわけではありませんが、 ちょっとSerenade grotesqueでしょ。
この写真 普通選ばないですよね。
ひきつづき ラベル ピアノ独奏全曲 行きますね。いくつかお気に入りを紹介する前に
どうしても抜けないアルバムがこれです。

                                2016.9.20記

 

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