My favorite classic numbers 6
No.36 F Schubert;The Piano Sonatas
演奏:Wilhelm Kempff ;ウイルヘルム・ケンプ(Pf)
1965〜1970 演奏 レーベル: GrammophonCD7枚 Sonata 1-21 全18曲(8.10.11番を除く)Box 版
全集物というものはどれもあまり好きにはなれない。まとめ買いしても、全部を
平等に聴く(読む・見る)ことがないからである。しかしながら最近のBox 版の
値段の安さには本当にびくりさせられる。安い物では1枚あたり100円近いのである。
10枚セットでも1000円だったりすれば、いくら全集物が好きでなくともつい
手が出てしまう。その中で聴くのが2-3枚有ればいいや、ということで・・そう言う意味では
この全集はそんなには安くない(5890円/7枚)が、お薦めである。現代の名だたる
テクニシャンたちと聴き比べると、有名ではあるけれども、技術だけを競うならはっきり
言って下手くそといってもいい。でも、この人のシューベルトが聴きたくなるのは
なぜだろう。シューベルトの音楽は飾り立てられた(リストのような)音と異なり、
素朴で、木綿のような肌触りで、そっと添ってくれる音楽、静かにそこに居てくれる
押しつけのないたたずまい。そんなメロディーに最も似合う弾き手がケンプその人である。
いわばシューベルトの詩情を最も理解している体現者なのではないかと思う。
もっと上手い人が弾いたとしても、なぜかケンプのようには心に沁みてこない。
ケンプは同様にベートーベンの全集も出ており、こちらの方が値段もお安く(3869円/8枚)、
こちらをバイブルにしてみえる方もいっぱい居るが、私個人はケンプの音色は
シューベルトに最も似つかわしいと思っている。自分にとって最も心に残るメロディー12番第1楽章、こんなにチャーミングなメロディーが
書けるかと思わせるような13番全曲、特に前期モーツァルトをしのぐ可愛いメロディーが魅力
の 第3楽章、あり得ない世界に連れて行かれそうな誰も書けない儚いメロディーが最高に美しい
15番レリーク第1楽章、 哀しさが漂う同第2楽章、のだめが奏でた16番第1楽章、長閑な
同第2楽章、切ない印象的なメロディーの同第4楽章、村上春樹が海辺のカフカの中で
「天国的に長い」と書いた17番第2楽章、 「幻想」の名にふさわしい雰囲気を持つ18番、
特に第3楽章第2主題のかわいらしさは13番第3楽章ともども、筆舌に尽くしがたい。
晩年の傑作3部作として名高い19番・20番・21番、特に21番の枯れた演奏の評価は高い。
気高い雰囲気の19番第1楽章、香り高き同第2楽章、ピアニスティックな同第4楽章、
もの哀しさ満載の20番第2楽章、これも天国的に優しい同第4楽章、そして我々を向こうの
世界に導いてくれる21番第1楽章、往ってしまった静かな第2楽章と美しい第3楽章・・・
どれもケンプでないと出せない詩情豊かな演奏で、ずっと側に置いて聴いていたいものばかり
である。無人島にこれ1つというにはすこしセンチメンタルになりそうな楽曲ばかりだが、
ひとりずっと聴いていたい我が心のメロディー&演奏であることには違いない。
19番・20番・21番だけいえば演奏者も多く、素晴らしいアルバム目白押しだが、ソナタ全曲を
まとめて聴けるという意味では、シューベルトが好きな方には必聴の1枚(7枚)として
超推薦のアルバムです。御試聴あれ。 H22.3.28記載
No.35 The Piano Album
演奏:Stephen Hough ;スティーヴン・ハフ(Pf)
1986&1991 演奏 レーベル: Virgin Classics
DISC1
1. 2つの幻想的小曲2番 魔女の舞踏 Op.17-2 E.マクダウェル
2. 6つのポーランドの歌1番 乙女の願い F.ショパン=リスト
3. 深紅の花びらは眠り R.クィルター=S.ハフ
4. フクシアの木 Op.25-2 R.クィルター=S.ハフ
5. 奇想曲 Op.28-6 E.V.ドホナーニ
6. メヌエット ト短調 Op.14-1 I.J.パデレフスキ
7. ノクターン Op.16-4 I.J.パデレフスキ
8. 練習曲 Op.1-2 P.D.シュレーザー
9. ホ調のメロディ O.ガブリロヴィッチ
10. おどけた奇想曲 O.ガブリロヴィッチ
11. 私のお気に入り R.ロジャース
12. カシミールの歌 A.W.フィンデン
13. オルゴール I.フリードマン
14. 白鳥 サン・サーンス=L.ゴドフスキ
15. 蝶々 M.ローゼンタール
16. ジャワ組曲3巻 ポイテンゾルグの庭園 L.ゴドフスキ
17. ワルツ Op.42 M.レヴィツキ
18. 旅路で Op.9 S.パルムグレン
19. シチリアーナ Op.42-2 M.モシュコフスキ
20. スペイン奇想曲 Op.37 M.モシュコフスキ
DISC2
1. 華麗な変奏曲 Op.14 C.チェルニー
2. 魅せられた妖精 M.レヴィツキ
3. スペイン歌曲集 Op.74-10 密輸入者 R.シューマン=C.タウジッヒ
4. ヘ長のメロディー Op.3-1 A.ルビンシュテイン
5-8. ガーゴイル Op.29 L.リーバーマン
9. 音の玉手箱 V.I.レビコフ
10. 音の玉手箱 A.リャードフ
11. 形式的練習曲 Op.40-1 アジリテ J.H.ラヴィーナ
12. 私が目覚めるまで A.W.フィンデン=S.ハフ
13. 泣かないで R.クィルター=S.ハフ
14. シャムの子供たちのマーチ R.ロジャース=S.ハフ
15. 可愛いワルツ M.モシュコフスキ
16. セレナータ Op.15-1 M.モシュコフスキ
17. ブーレ(無伴奏ヴァイオリン パルティータ1-4) J.S.バッハ=サン・サーンス
18. トリアコンタメロン25番 思い出 L.ゴドフスキ
19. アダージェット G.ビゼー=L.ゴドフスキ
20. ハンガリー風チゴイネルワイゼン C.タウジッヒ演奏会のアンコールピースと思われる小品(美しいのだが有名でない曲を含む)を
主体とした2枚組のアルバムだが、それにしても広いレパートリーの作品群である。
バッハ〜ショパン〜シューマン〜ビゼー〜サンサーンスはともかく、リストの師匠
チェルニー、リストの弟子のC.タウジッヒ(編曲家と思ったら作曲もするんだ)、
名編曲家のL.ゴドフスキ、あげくにサウンド・オブ・ミュージックや王様と私の
R.ロジャースまで登場する多彩さ。こんなにばらばらな物をひとつに統一しても
全く違和感がないのは、この人ハフの演奏のうまさが超絶で際だっているから。
この演奏はすごい!!! と言い切れる本当に数少ないアルバムです。
知られざる名曲なのか、ハフが弾くとみんな名曲になるのか? 知られざる曲だから
アレンジしても抵抗無く受け入れられるのかも知れません。J.S.バッハのパルティータ
とか、サン・サーンスの白鳥などの超優名曲ではアレンジが過ぎると抵抗される方も、
知らない曲がずらりと並ぶレパートリーなので、何も考えずに聴いて下さい。
1曲目魔女の舞踏から、彼の弾くパッセージのすごさに驚かされます。
時折挿入された美しいメロディーの曲達(もっと永く聴いていたいと思う切ないほどに
哀しく美しいフクシアの木、音の玉 手箱、泣かないでなど)が効果的に配置され、
それらを挟んで、これでもかのテクニックを見せつけるドホナーニの奇想曲や、
P.D.シュレーザーの練習曲、C.タウジッヒのハンガリー風チゴイネルワイゼンなど
すごいハイテク演奏を、重くならずにさらさらと風のように弾いてくれる。だから、
BGMとしても聴くことができるし(もったいない)、 講釈抜きで楽しむことができる。
(BGMとして聴くには、L.リーバーマンのガーゴイルだけが少し重いかも)。
隠れた超絶美技 の走りのアルバム:2枚組で1700円(HMV)とお買い得かと
思うので、ぜひ聴いてみて下さい。 H22.1.23記載
No.34 チゴイネルワイゼン
演奏:前橋汀子 (Vn) 東京交響楽団
1982演奏 レーベル: Sony classicalA B
A: チゴイネルワイゼン
1. 序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28 サン=サーンス
2. ハバネラ 作品83 サン=サーンス
3. タイスの瞑想曲 マスネ
4. ロマンス 第2番 作品50 ベートーヴェン
5. チゴイネルワイゼン 作品20 サラサーテ
昔から名前を存じ上げていたが、CDを聴く機会もコンサートに巡り会うこともなく、
勝手に「昔取った杵塚的なおばさんヴァイオリニスト」のひとりかと思っていた
ところへ八ヶ岳リサイタルの機会。 なぜか前半にモーツァルトとベートーヴェンのVnソナタ
と思ったのだが、後半にまとめたジプシー系の曲、サンサーンスのロンド・カプリチオーソ
から、ハンガリー舞曲に至っては、進むに連れて魔物がのり移ったのではと思うほどの
入り込みようで、知らず前橋ワールドに引きずり込まれていった。
この人の得意な世界はこちら系であることが分かって曲順に合点がいった。
そしてこのアルバム。やはりお薦めは第1曲と最終曲。演奏は27年前のものだが、
すすり泣くジプシー音楽は今も変わらない。特に最終曲最後に近いところのヴァイオリンの
音色はソプラノ歌手が謡っているの?と耳を疑うすごさ、こんな音色聴いたことがない。
御一聴の価値ありです。B: チャイコフスキー&メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲
演奏:前橋汀子 (Vn) チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
こちらの演奏も情熱的で個性的という意味ではやはり際だっている。日本にもこんなに
個性的で感情的な表現のできる演奏家が居るのかと嬉しくなる。もっと国際的にも
評価されてもいいのではないか? メンデルスゾーンも中途半端な演奏ではない。
メンコンの憂いのあるメロディーが存分に披露されて際だっている。
チャイコも前述の美しさを極めた諏訪内のそれと聴き比べていただきたい。
そしてもう一人の感情派、チョン・キョンファとも聴き比べていただくとおもしろいかも。
2009.10.24記載No.33 Rachmaninov The Piano Concertos
演奏:Stephen Hough (Pf) ダラス交響楽団
2004演奏 レーベル:Hyperion(直輸入のみ)A B C
【A 】 スティーヴン・ハフ(Pf) ダラス交響楽団 2004年 ライブ
ディスク:1 1-3. ピアノ協奏曲第1番 4-6. ピアノ協奏曲第4番
7. パガニーニの主題による狂詩曲
ディスク:2 1-3. ピアノ協奏曲第2番 4-6. ピアノ協奏曲第3番
【B 】 アルカディ・ヴォロドス(Pf) ベルリンP管弦楽団 1999年 ライブ
1-3. ピアノ協奏曲第3番
4-9. その他ラフマニノフピアノソロ【C 】 ゾルターン・コチシュ(Pf) サンフランシスコ交響楽団 1982-84年
1-3. ピアノ協奏曲第2番 4-6. ピアノ協奏曲第3番
7. ヴォーカリーズ (コチシュ編)
この2ヶ月の間、これを書くためにラフマニノフ3番を聴きまくっていました(笑)
前出ホロヴィッツの神業は別格として、この曲の主流はやはりアシュケナージの演奏に
見られるような、ゆったりとしたダイナミックな演奏でしょう。その中で最も
ピアノとオケのバランスがいいのは、L.ジルベルシュタイン/ベルリンフィル
(グラモフォン.1991)の演奏でしょうか。 ジルベルシュタインの音は相変わらず
やや硬めのクリスタルな輝き、バックはさすがベルリンフィルとうならさせて
くれるすごい重厚なオケ(C.アバド指揮)で、劇的なダイナミック演奏を望む方には、
2番とセットでの販売であるこのCDをお薦めします。ライブと記載されているの
ですが、なぜか拍手も咳も全くの無雑音で、不思議なCDです。
同じベルリンPのオケで A.ヴォロドスの演奏【CD-B】は、より完璧な演奏で、
音質良し、ミスタッチなし、濃淡強弱もお見事で全く文句のつけようのないものです。
残念ながら2番はカップリングしていないのですが、万人を納得させる最高の3番では
ないでしょうか。もちろんベルリンPのオケも前作に負けないほどに素晴らしい
演奏(こちらはJ.レヴァイン指揮)になっています。 これがライブであるという
から、なおびっくりです。3番でいずれか1枚をと言われたときの一押しCDです。
最も美しく奏でているものをお望みならE.キーシン/小澤/ボストンSO(RCA.1993
ライブ)も忘れてはなりません。出だし部分があまりに遅いのが気にかかりますが、
聴き進むうちにうっとりと聴き惚れてしまいます。 録音がやや小さいなどCDとしては
満点はつけられませんが、手元に置いておきたい一枚です。
ではラフマニノフ本人の演奏(RCA. U.オーマンディ指揮/フィラデルフィア管
1939)はどうであったかといえば、非常にクールでダイナミックでかっこよく、
男っぽさがにじみ出てくる演奏で、かなり速いです。(CDで聴くことはできますが、
1939年の演奏ですから録音は全く期待できません。ご購入の際にはそのつもりで)
近年作曲者の残された録音から、その様式を再評価した演奏者がいます。ここでは
その演奏に焦点をあててみましょう 。 1982-84年演奏のゾルターン・コチシュ(Pf)
【CD- C 】(このCDは2番3番カップルですが、全曲物もあり)3番の冒頭など
何もそんなに急がなくとも・・と聴くものに思わせてしまうほど速い(多分今でも
これが最速)演奏で、アシュケやジルベルの演奏に慣れているとついていけない。
でも慣れるとこのスピードが切れ味の良さを感じて、ゆっくりとしたものは逆に
聴けなくなります。速いのに決してもつれることもなく、ビッグネームではありませんが、
ぜひ一度耳にしてみて下さい。実は、このCDのお薦めはもう一つ、おまけに附いて
いるヴォーカリーズ・コチシュ編。この世で最も美しい曲の1つであるこの曲を
コチシュ本人が最高の編曲を施してくれたものを聴くことができるのはここだけ。
この数分の小品1曲を聴くためにだけでも買いです。
もうひとり、ラフマニノフ本人の弾き方を極めたと言いきっていいのは、本日
トップに提示したハフ/ダラスSOの全曲盤 (2004)【CD- A 】です。アムランと
並んで現在最も指の動くピアニスト・ハフの真骨頂を示してくれるこのCDは、今までの
演奏と全く格の違う明確で独特の運指術を披露してくれます。ホロヴィッツの後に誰も
この曲を弾かなくなったのと同様、もう彼の後には、誰も弾こうとしたくなくなるような、
そんな次元の違う演奏を聴くことができます。彼の演奏を速くてあっさりタイプと評価
する方もおりますが、決してそうではありません。より細かく刻まれ、ミクロまで
見通すことができる美しいイスラムの細密画のような演奏で、聴く側の耳と心があれば
むしろ濃密(でもくどくない)といってもいい演奏だと評価します。このハフのすごい
演奏にダラスSOは一歩も遅れることなくタイトに寄り添っていて、これまたお見事。
ベルリンPのすごさに圧倒されながらも、そのくどさに食傷気味になり、なにか違うぞ
と感じていた所にこの演奏。あ、自分はオケが出過ぎた演奏は好きではないんだなと実感
させらた1枚でもあります。もう一つ言えばこれら4曲ともライブ、これもヴォロドスの
演奏同様おったまげです。Hyperionという会社、日本盤がなく、直輸入を求めなければ
ならない欠点はありますが、ぜひ聴いてみて下さい。ラフマニノフ本人が望んだ完成型を
そこに見ることができます。 H21.7.28 記載
No.32 The Best of Horowitz
超絶技巧名演集
演奏:Vladimir.Horowitz(Pf)
1945-1951年演奏 レーベル:RCA【ディスク:1 】
1. 組曲「展覧会の絵」(ムソルグスキー/ホロヴィッツ編)
2. ピアノ協奏曲第3番 op.30 (ラフマニノフ)
【ディスク:2 】
1. ピアノ・ソナタ第7番 op.83「戦争ソナタ」(プロコフィエフ)
2. ピアノ・ソナタ第3番 op.46 (カバレフスキー)
3. ピアノ・ソナタ op.26 (バーバー)
4. 練習曲 op.72-11、 5. 練習曲 op.72-6 (モシュコフスキ)
6. 火花op.36-6 (モシュコフスキ) 7. プレスト変ロ長調 (プーランク)
8. トッカータ op.11 (プロコフィエフ)
9. カルメン変奏曲 (ビゼー/ホロヴィッツ)
10. ハンガリー狂詩曲第15番 「ラコッツィ行進曲」(リスト/ホロヴィッツ)
11. 星条旗よ永遠なれ (スーザ/ホロヴィッツ)ついにこの恐ろしいアルバムを紹介する時が来ました。ホロヴィッツの
悪魔的な演奏がたっぷりとお楽しみいただけるこのアルバムは、残念ながら
古い録音(1945-1951年演奏)のため、モノラルでテンプラ音いっぱいでは
ありますが、それでもなお、彼の凄さを十分堪能できる代物であります。
本日の目玉はラフマニノフ本人から「この曲は君の物だ」と御墨付きをもらった
Pコン3番です。この曲とモシュコフスキの3曲とラコッツィ行進曲はこのアルバム
群のなかでも、音質が保たれており評価に耐えられます。のっけの独奏部から
これはと思わせる演奏ですが、圧巻な指まわしを披露してくれるのは第二楽章終盤
から第三楽章の頭にかけてです。フリッツ・ライナー率いるRCAビクター響との
相性も良く、名演めじろ押しの3番の中でも金字塔と評される歴史的演奏です。
「展覧会の絵」もホロヴィッツ編というだけあってやりたい放題、ここまで許され
ていいのかと思われる大胆奔放な演奏で、ホロヴィッツだけが許されるといっても
過言ではありません。もう少し音質が良かったらと悔やまれるところです。
ディスク2は、プロコフィエフ・ハーバーと私の評価し難い作曲家が続きますが、
モシュコフスキ以降は、 ホロヴィッツ十八番のアンコールピースの連続で、特に
音質のまずまずな「ラコッツィ行進曲」とモシュコフスキの3曲では、ホロヴィッツ
初期の悪魔的な指使いと心に残る演奏を堪能できるのではないかと思います。
もう50年くらい後に生まれておれば、優れた録音を数多く残せたでしょうに・・・
恐ろしく人を惹き付ける魔力のある演奏家でした。こんなカリスマピアニストは
今後2度と現れないでしょう。
次回は、その後のPコン3番の名演奏を取り上げてみましょう。 H21.5.16記載
No.31 ショパンコンクール ライブ2005
ラファウ・ブレハッチ 1 (写 真左)
演奏:Rafal Blechacz(Pf)
2005年演奏 レーベル:ビクターエンタテイメントccChopin PC Piano Recital
1-6. プレリュード op.28-7〜12
7. ノクターン第17番 op.62-1
8-9. エチュード op.10-8, 10
10. 舟歌 op.60
11-13. ワルツ第6番「小犬」, 第7番, 第8番
14. スケルツォ第4番
15. ポロネーズ第6番「英雄」
16-18. マズルカ op.56-1〜3日本語はなぜか「コンクール」と言いますが、英語では Competition と言います。
日本語でも「コンペティション」と言ってもいい時代になったと思うのですが・・・
何の話かといえば、来年の秋はもう5年に一度の開催であるショパンコンクールの
行われる年になったというお話です。前回、第15回優勝者がこの人ブレハッチ、
ツィメルマン(第9回優勝者)以来実に30年ぶりのショパンの地元ポーランドからの
優勝者でした。それも、2位なし、ポロネーズ賞、マズルカ賞、コンチェルト賞の
3賞 総なめというぶっちぎりのものでした。
彼は2003年11月に我が浜松国際ピアノコンクール優勝者でもあり、無名な彼を檜舞台に
引っぱり出した立役者(と自負している)中村紘子女史 ご自慢の快挙でもありました。
2006年11月の浜松国際ピアノコンクール開催にあたり凱旋講演(オールショパン)が
あったので、偶然彼の生演奏を聴く機会を得たのですが、彼の演奏は、一言で言うと
しなやかで清廉潔白、美しくデリケートな少し影のある(神経質な)音色と表しましょうか・・
プレリュードやワルツなどの優しい曲では、静岡方言でいうと、みるい音色とでも
申しましょうか、そういう繊細な音色で勝負するタイプです。現代の主流である
ポリーニを祖とするデジタル系ではなく、むしろケンプのような詩的な雰囲気を醸し出す
アナログ系奏者に属す、今時のピアニストにあまり見かけない資質ではないかと思います。
前回優勝者とは対照的な憂いを含む音色はプレリュードOp28-11のような、43秒の曲にも
凝縮されており、ノクターン第17番やスケルツォ第4番などの大曲ではその美しい音色が
いかんなく発揮されています。マズルカでは、ポーランド国民ならではの独特の陰りを
演出し、詩人ショパンの後継者として、先輩ツィメルマンよりも彼の方がふさわしいかも
知れない、と思うほどです。もちろん技術の上では比較になりませんが・・
人が誰の演奏を聴きたいと思うかはテクニックばかりではありません。いかに作曲家の
思いを載せ、曲の魅力を引き出せるかが最も大切なことだと思います。
彼が今後、どちらに向かい、どんなピアニストになっていくか、楽しみでもあり、
また、不安でもあります。
ショパン以外の曲も彼の音色を聴いてみたい人に、右のアルバムをお薦めします。
ブレハッチ 英雄ポロネーズ〜ピアノリサイタル
1. ピアノ・ソナタ第2番ト短調op.22(シューマン)
2. 3つの演奏会用練習曲(リスト)
3. ベルガマスク組曲(ドビュッシー)
4. 主題と変奏曲変ロ短調op.3(シマノフスキ)
5. ポロネーズ第6番変イ長調op.53「英雄」(ショパン)
2005年演奏 レーベル:ビクターエンタテイメントcc
どれも素敵ですが、これも祖国の先輩シマノフスキの演奏がブレハッチの優しく繊細な
ピアノの音色にぴったりでお薦めです。リストもシューマンもショパン同様、今後十分
レパートリーに入ってくるであろう演奏で、ぼくは好きです。
俗にまみれず、ケンプの様に独自の進化をとげてくれればと思います。
2008.4.2記載
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