My favorite classic numbers 4

No.24 アルカン / グランドソナタ ほか 
    演奏:マルク-アンドレ・アムラン(Pf)
    1994年演奏 
レーベル:Hyperion (写 真左)

  

シャルル-ヴァランタン・アルカン  
 1-4:グランドソナタ Op.33 
 5-8:ソナチネ Op.61  
 9:舟歌 Op.65.6  
 10:イソップの饗宴 Op.39.12  

先月に引き続きアムランである。彼の演奏技術は素晴らしいが、もう一つの彼の
特徴は、知られざる名曲の紹介にある。超絶技巧故に誰も弾けずに眠っている
名曲を白日の下に晒す。それも素晴らしく味付けをして・・
皆さんアルカンという作曲者をご存じか? ショパンの友達でもあり、リストの
ライバルでもあった作曲家兼ピアニスト。ちょっと変人で、難曲の作家というと
曲もオタクで、それだけでひいてしまいそういなるが、なかなか名曲が揃う。
アルカンの人となりや曲の紹介はピアニスト森下唯氏のHP(下記)といい。
http://www.morishitayui.jp/alkan/
アルカンの代表作はこのアルバム10の「イソップの饗宴」を含む「すべての短調
による12の練習曲」と思うが、その練習曲の4-7番が「ソロピアノのための交響曲」
4楽章で、8-10番が「ソロピアノのための協奏曲」3楽章という長大な練習曲集で、
つまり、協奏曲では独りで独奏パートとオケパートを交互に弾かされる楽譜が存在
する恐ろしいもの。しかし、これらの楽曲もただ難しいだけでなく、十分美しさを保った
楽曲であり、スーパーヴィルトゥーソ、アムランの 代表楽曲となっている。
が、今日は アルカン入門と言うことであり、より聴きやすく、美しいメロディーも
ふんだんに含み、 そしてアムランのうまさが際だって分かるこのアルバムを
取り上げてみた。グランドソナタ第1楽章はのっけからすごい勢いで弾き始める。
第2楽章ではダイナミックさと美しいメロディーが交叉。第三楽章ではゆったりと
美しいメロディーも聴かせてくれる。ソナチネも聴きやすい綺麗な曲であり、
舟歌は極めてメロディアスで叙情的な曲である。もどってイソップは超絶技巧が
大爆発、ど迫力でありながらクリアーな音を崩さないのはアムランならでは。
アムランの良さもアルカン入門にもベストのアルバムとなっている。

次にアルカンを聴きたい方は
アルカン ソロピアノのための協奏曲 2006年演奏  レーベル:Hyperion

がお薦め。はまる人はとことんはまります(私のことです)。
紹介ついでに、きわめつけのアルバムを一枚
ゴドフスキー編曲 ショパンエチュード 全2枚 48曲 Hyperion(写 真右) 
これは ゴドフスキーという人が、難曲の誉れ高いエチュードをより難しく編曲した
知る人ぞ知るとんでも曲集で、左手だけの「革命」なんていうのもある。
ただし、聴く人にはショパンのエチュードより素敵な曲を期待してはいけない。
あくまでも技術屋さんに興味のあるオタク楽曲であることを念頭に、興味のある方は
一度視聴してみて下さい。アルカン同様、楽譜を見ると目が点になるそうです。  

                            2008.6.7 記

No.23 リスト / パガニーニ大練習曲、
        シューベルトによる3つの行進曲(写真左) 
    演奏:マルク-アンドレ・アムラン(Pf)
    2002年演奏 
レーベル:Hyperion

  

パガニーニによる大練習曲 S.141  
 1:第1番ト短調「トレモロ」  
 2:第2番変ホ長調「オクターヴ」  
 3:第3番嬰ト短調「ラ・カンパネッラ」  
 4:第4番ホ長調「アルペッジョ」  
 5:第5番ホ長調「狩り」  
 6:第6番イ短調「主題と変奏」
シューベルトによる3つの行進曲 S.426  
 7:葬送行進曲  
 8:アレグレット・フオコーソ  
 9:騎兵隊行進曲

Hamelin と書いてアムランと読む。多分、当代きってのヴィルトゥオーゾである
このカナダ人ピアニストを知る人はあまり多くない。それもそのはず、日本では
彼のCDを現在発売していないからである。にもかかわらず、日本も含め、
絶大な(おたく)ファン層を持つ。どんなに恐ろしい速い難しい曲でも、確実に
そして美しくさらっと弾きこなしてしまう技術は間違いなく現役ナンバーワンで、
歴史的にもトップクラスにある。それを確認するためには試しにこのリストを
聴いてみて。こんなに美しく粒だった「カンパネッラ」を聴くだけで、誰の演奏?
とチェックを入れたくなること確実。どの作曲者のをきいても同様に感服するが、
ことリストとの相性がいいと僕個人は思う。 同じリスト編曲の2曲だが、超絶技巧の
パガニーニのほうが、美しいメロディーのシューベルトより際だつのも同様。

カンパネッラ」で惚れ込んでいただいたあとのお薦めは、
プレイズ・リスト  1996年演奏 Hyperion (写真右) 
1:幻影第1番 S.155-1        2:森のささやき (2つの練習曲) S.145-1
3:ため息 (3つの練習曲) S.144-3   4:ハンガリー狂詩曲第10番 S.244
5:ハンガリー狂詩曲第13番 S.244  6:ハンガリー狂詩曲第2番 S.244
7:灰色の雲 S.199          8:夢の中に S.207
9:「ドン・ジョヴァンニ」の回想 S.418
 
個人的には、こちらのアルバムのほうが、すごさが際だっており、アムランを知って
いただけるが、前のアルバム以上に手に入らない。前者はアマゾンなどでも手に
入れることが可能だが、 後者はYahoo! 市場でなんとか見つけ出せるにすぎない。
ハンガリー狂詩曲第2番などはホロヴィッツの十八番(本人編曲)でもあったが、
此処にあるハンガリー狂詩曲の3曲や難曲「ドン・ジョヴァンニ」の回想
聴くと 口があんぐりと開いたまま塞がらなくなる。彼の手が「千手観音」と
噂されるのも納得できる。一度自分の耳で聴いてみていただきたい。ちなみにこの
アルバムは、リスト協会大賞受賞盤である。
ただ、彼にもすらすら弾ける人に共通の欠点である、あっさり味になりすぎる傾向
がある。シューベルトやブラームスみたいな味付が効果的な曲には、彼の魅力が発揮
されにくいかもしれない。もちろん下手ではないのだが、薄付けの味になりがち
なのが一部のリスナーの好みから外れるらしい。 実際ホロヴィッツやアシュケナージ
やツィメルマンのような 色々な音色を出す技術がやや不足しているためか、ゆっくり
な曲になると途端に退屈になる可能性がある。
とはいえ、当代No.1の腕前をまず体験してみて下さい。100%驚愕です!!
                            2008.5.10 記


 

No.22 グルダ ノンストップ
    演奏:F・グルダ (Pf) 
    1990年演奏 
レーベル:Sony Classical

A  B

A. Gluda Non-stop
1. フォー・リコ(グルダ)
2. チェロ協奏曲~メヌエット(グルダ)
3. 幻想曲ニ短調K.397(モーツァルト)
4. アリア(グルダ)
5. プレリュードとフーガ(グルダ)
6. 前奏曲集第2巻第3曲ビーニョの門(ドビュッシー)
7. 前奏曲集第1巻第8曲「亜麻色の髪の乙女」(ドビュッシー)
8. 練習曲嬰ハ短調op.25-7(ショパン)
9. 舟歌嬰ヘ長調op.60(ショパン)
10. 夜想曲嬰ヘ長調op.15-2(ショパン)
11. 即興曲変ト長調D.899,op.90-3(シューベルト)
12. 喜歌劇「こうもり」~お客を呼ぶのは私の趣味で(J.シュトラウス2世)
13. 喜歌劇「こうもり」~親しい仲間よ(J.シュトラウス2世)
14. 辻馬車の歌(グルダ編)

ジャズからクラシックまで幅広くこなすおしゃれな音楽家グルダの
真骨頂を聴きたければ間違いなくこの1枚。彼の才能がほとばしる
1990年グルダ60歳のライブ盤です。
自作のジャズナンバー「フォー・リコ」から始まり、自作の叙情的
クラシック「メヌエット」から自然の流れのうちにモーツァルトの
幻想曲に移っていく。 次に自作の美しい「アリア」からふたたび
激しいジャズナンバー「プレリュードとフーガ」へ、次に前曲同様に
前衛的風貌のドビッシー「ビーニョの門」へと移り、一転、同じ作者の
究極に優雅な曲「亜麻色の髪の乙女」へと導く。
ショパンの夜想曲とシューベルトの即興曲は同じ音で繋がった
あたかもひとつの曲のような印象をもたせ、最後はウイーンの世界に
引き連れて行って、自作「辻馬車の歌」でフィナーレを迎える、実に
凝った構成の1枚。こんなおしゃれなコンサートに酔いしれてみたい
と思わせるお見事のライブアルバムです。このライブ当時、彼の事を
知っていたら、何をおいても駆けつけたであろう、そして幸せと
満足をもらって手が痛くなるまで拍手をしていたに違いない。
音楽の素敵さ、楽しさを最も上手に表現できる希有な天才ミュージ
シャン;グルダをこのアルバムで体験してみて下さい。

もし彼のベートーヴェンに興味があるなら、まずはピアコン「皇帝」は
いかがでしょうか。歴史的名演と評価が高いとっておきの一枚です。

B.ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第5番 皇帝、
        ピアノソナタ 第17番 テンペスト
演奏:F・グルダ (Pf)  ホルストシュタイン指揮
   
ウィーンフィル 1957年演奏  レーベル:DECCA

                        2008.4.15記

No.21 モーツァルト ピアノ協奏曲第20番・第21番 グルダ
    演奏:F・グルダ (Pf) C・アバド/ウィーンフィル
    1974年演奏 
レーベル:グラモフォン

A 
A)P協奏曲20&21  B)P協奏曲23&26

1-3. ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466  モーツァルト
4-6. ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467  モーツァルト

いよいよグルダの登場です。彼は、前出アルゲリッチの初期の師匠でもあり、
このタイミングでの登場は遅すぎるほどの大御所です。彼の録音は数多く、
その華麗なタッチはどのアルバムも甲乙つけがたいのですが、皆様にお勧めする
べくは、やはり定番のモーツァルト、それも20番&21番のカップリングで
しょうか。彼はモーツァルトを師と仰ぎ、そして彼の誕生日に天に召された。
ベートーベンも得意とし、ソナタ全曲の録音を果 たしていますが、やはり彼の
真骨頂であるリズミカルな軽さは、モーツァルトに最もマッチしているように
思われます。個人的にはアーノンクール・コンセルトヘボウと弾いた23番&26番
の方が、彼の軽やかなピアノが印象的で好きなのですが(それに1000円!)、
楽曲の知名度と華やかさで、まず最初に選ぶとすれば、この20番&21番でしょう。
どちらも特に第2楽章はすごくチャーミングなメロディーを、グルダが最高に
上手に引き出しています。彼ほど「音楽」というものを知っている人はいない
と思いますし、音の美しさや楽しさを最も良く理解しているミュージシャンだと
思います。写真で分かるように服装にもこだわらず、ジャンルにも拘らない
(ジャズも手がけた)ため、一部の人たちには受け入れられなかったようですが、
この演奏を聴けば----現にこれらのアルバムでも、よく聴くと、本来オケのみの
演奏部で勝手にピアノを合わせてみたり、独奏部で鼻歌を唱ったりしているのが
分かります---- 彼の才能の前に、そんなことはどーでもよいことに思えてしまい
ます。というより、彼の生き様が納得できる気がします。テクニックも相当の
ものがありますが(機会があったら、彼の神業のようなワルトシュタインや、目が
点になるほど目まぐるしく動く小犬のワルツを聴いてみて下さい)、なにより
生き生きとしたリズムと、曲への生命の吹き込み(曲の命を理解している)に
才能を感じます。ピアノソロも聴いてみたいという人には、やはりモーツァルトの
ピアノソナタ(下記)をお薦めします。彼のもっとジャズっぽいのも聴きたい
というあなた。それはまたいつかのお楽しみにしましょう。
モーツァルト ピアノソナタ 第11番、13番、15番、ロンド
演奏:F・グルダ (Pf) 
1961年演奏  レーベル:AMADEO

                          2008.3.16記

 

No.20 アルゲリッチ デビューリサイタル
    演奏:M・アルゲリッチ (Pf) 1960/71年演奏 
   
レーベル:グラモフォン

A 


A. アルゲリッチ デビューリサイタル
1. スケルツォ第3番嬰ハ短調 op.39    ショパン
2. 2つのラプソディ op.79        ブラームス
3. トッカータ op.11          プロコフィエフ
4. 水の戯れ              ラヴェル
5. 舟歌嬰ヘ長調 op.60         ショパン
6. ハンガリー狂詩曲第6番変ニ長調    リスト
7. ピアノ・ソナタ ロ短調         リスト

1-6は1960年ショパンコンクールに優勝する前さかのぼること5年
19歳の時の演奏である。アルゲリッチの良さはほとばしる情熱と言われ
ているが、名盤と言われるライブなど(例えばチャイコの1番など)も
必ずしも抜群のタッチとテクニックで弾き切れているとは思えない。
激しさと勢いには圧倒されるが、当日その会場に居れば感動するかも
しれないが、醒めた心と耳で何度も聴きたい演奏にはなっていない。
彼女のうまさが最も端的に示されているのは、むしろショパンC前後の
頃ではなかろうか。このアルバムもデビューアルバムに後でリストの
Pソナタをカップリングしたものであるが、選曲も素晴らしく、どの
曲も速く勢いがある上に、正確な粒立ちがあって、曲が生き生きと輝い
ている。この演奏を聴いて、同じ曲を他の演奏者で聴くとどうしても
スローで冴えない曲に聞こえる。特にリストのPソナタの出来は素晴らしい。
ツィメルマンの同曲も悪くないが、動と静の違いがあり、甲乙つけがたい。
ブラームスのラプソディープロコのトッカータも他の追随を許さない。
アルゲリッチのアルバムもたくさん出ており、どのアルバムを推薦しよう
かといろいろ聴いてみたが、これが一番アルゲリッチの良さが出ている。

ちょっと変わったところでは、ただの1枚バッハを演奏しているのが
あって、これが案外評判がいい。ピュアなバッハファンにはどうかと
いわれるが、こんなバッハもあってもいい(グールドのバッハが評価
されるなら、対局のアルゲリッチのこれも評価されてもいい)。
アルゲリッチのぴちぴち撥ねる若鮎のような演奏が気に入ったなら、
このバッハのアルバムもきっと気に入るハズ。

B. バッハ トッカータ ハ短調 演奏:M・アルゲリッチ (Pf) 
1979年演奏 レーベル:グラモフォン
                         2008.1.30記


No.19 ハイフェッツ・ヴィルトゥオーゾ・イオリン
    演奏:Y・ハイフェツ(Vn)  
   
19??年演奏 レーベル:BMG JAPAN

A 

A:ハイフェッツ・ヴィルトゥオーゾ・イオリン 
B:バイオリン協奏曲 ベートーベン   

1-4;ツィゴイネルワイゼン   サラサーテ 
5-7;ハバネラ         サンサーンス
8-10; 序奏とロンドカプリチオーソ   サンサーンス
11;
詩曲 作品25       ショーソン
12;ロマンス 作品40      ベートーベン
13;ロマンス 作品50      ベートーベン
14;ハンガリー舞曲 第7番    ブラームス
15;「カルメン」幻想曲      ワックスマン

ホロヴィッツの演奏を大道芸と表した方がいましたが、それを言うなら
ハイフェッツのこのアルバムは大道芸そのものかもしれません。
曲の選択がジプシー的で、演奏があまりに超絶技巧を誇るからです。
聞き易く、庶民的なメロディーが並ぶうえに、ハイフェッツのすごさが
端的に示される意味では、ハイフェッツを知る最短距離のアルバムとして
語り継がれるアルバムであることに間違いありません。
特にツィゴイネルワイゼン第4楽章に至っては空前絶後、悪魔に身を
売ったといわれたパガニーニの再来を思わせる演奏と言えましょう。
そのほか、ハバネラの第2〜3楽章しかり、ロンドカプリチオーソの第3楽章しかり、
「カルメン」幻想曲しかりです。いずれも初めて聴くと眼が点になるほど
今までに聴いた事のないかみそりのような鋭い切れ味の演奏です。
このアルバムを聴いて、ハイフェッツに興味を持たれた方で、もう少し
格調高い曲
を聴いてみたいという方にお薦めなのは、このアルバムでも
ロマンスをせつなく聴かせてくれるベートーベンのバイオリン協奏曲と
クロイツェルソナタをカップリングしたアルバム(右)です。
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲&クロイツェル・ソナタ
レーベル:BMG JAPAN

他のどの演奏よりも切れ味の良いベートーベンのVn協奏曲とクロイツェル
が楽しめます。この2曲は切れ味が良いタイプの曲なので、彼の演奏が
生きていると思われます。逆に、バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ
などは、早すぎてさらっと流れてしまっている気がします。
前回お示ししたGシャハムの音色と究極的に反対のバイオリンの演奏を
お楽しみいただけると思います。  
                        2007.12.25 記

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